世界レベルの子どもたちin長岡 ~水中ホッケーチーム「長岡ブルーオターズ」〜

2017.1.6

長岡市にあるダイエープロビスフェニックスプール。陽が落ち、辺りがすっかり暗くなる午後7時頃、続々と子どもたちが集まってきます。彼らは水中ホッケーチーム「NAGAOKA BLUE OTTERS(長岡ブルーオターズ)」に所属する選手たち。

水中ホッケー(Underwater Hockey)とは、文字通り水中でプレーするホッケーです。発祥はイングランド。2チームに分かれ、約30㎝のスティックを使い、プールの底にある重さ約1kgのパックをどれだけゴールに入れられるかを競い合う競技です。

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子どもたちは慣れた手つきでフィンを履き、水中マスク、シュノーケルを装着。次々にプールへと入っていきます。

その中心に一際大きな声で指示を出す男性の姿があります。NAGAOKA BLUE OTTERSを率いる佐藤直紀さん。学生時代に打ち込んだ水中ホッケーを生まれ育った地元・長岡市で普及させようと「新潟で水中ホッケーを推進する会」を立ち上げ、NAGAOKA BLUE OTTERSを結成。自身も現役選手としてプレーを続けながら、子どもたちを中心に水中ホッケーの楽しさ、魅力を普及させようと、長岡を拠点に活動を続けています。

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日本国内では大学チームを中心に徐々に競技人口が増えており、千葉大学、海洋大学、広島大学ではとくに盛んに行われています。日本代表も結成され、国際大会に出場しています。もともとはバスケットボールをしていたという佐藤さんは、千葉大学在学中に水中ホッケーと出会い、その魅力にとりつかれました。

「大学の身近な先生が水中ホッケーの日本代表チームの監督をされている方だったんです。思い切って先生に声をかけさせていただいたのがきっかけで、始めるようになりました」

大学のチームに所属するようになり、大会に出場するなど本格的に打ち込むことになりました。

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「NAGAOKA BLUE OTTERS」「新潟で水中ホッケーを推進する会」代表 佐藤直紀さん。

 

水中ホッケーの魅力を長岡から

NAGAOKA BLUE OTTERSが誕生したのは2015年。

就職を期に長岡へ帰郷した佐藤さんは、地元でも水中ホッケーを続けていきたいと考えました。競技人口が徐々に増え始めているとはいえ、まだまだマイナーなスポーツ。長岡はおろか、新潟県内にもチームが存在しませんでした。

「チームが無いどころか、プレイヤーもまったくいない状態。であれば、自分の手でまずは普及させていこうと思ったんです。正直に言えば、最初は単純に一緒に練習してくれる相手を探したかっただけなんですけどね(笑)」

ホームページやブログを立ち上げ、プールにポスターを掲示するなど、地道に普及活動を行う日々。徐々にチームメンバーは増えていき、今では20数名の仲間に囲まれるまでになりました。上は40代から下は小学校低学年までの、多世代チームです。とくに子どもたちが多く参加してくれたのが嬉しかったと佐藤さんは話します。

「うまくなりたいという熱意を持った子たちが集まってくれたので、次第にこの子たちの夢を広げてあげたいと思うようになっていきました」

 

声の届かない世界で必要な
自ら判断し、答えを出す力

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実戦形式の練習。開始の合図とともに、重さ約1kgのパックを両サイドから激しく奪い合い、頑丈なゴールに叩き込んでいく。

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横方向だけでなく縦方向にも激しく動き回る。その姿はまるでカワウソのよう。「BLUE OTTERS」の由来は、練習中の姿をみたプールの館長さんが「カワウソ(Otter)が泳いでいるみたいだ」と発言したことから。

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ホッケーの道具(左から)フィン、水中マスク、シュノーケル、保護用グローブ。

水中ホッケーの魅力は「他のスポーツとの決定的な違いがあること」だと佐藤さんは話します。そもそもプレーするのは、水中という特殊なフィールド。音が伝わらない世界です。

「水中でプレーするということは、当然、声が出せない。そんな中でコミュニケーションをとるのはすごく難しいんです。だからこそ、水の中では普通よりも信頼関係が生まれやすいんです。仲間の息の長さやプレースタイル、タイミングなど、一人一人が考えながらプレーをしなければならない。そこが面白いところですね。」と佐藤さん。

この「自ら考える」というのは、水中ホッケーをプレーするだけでなく、子どもたちを指導する上でも大きなテーマになっているといいます。

 

自ら考える力も育てたい

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佐藤さんが子どもたちに水中ホッケーを教える上で大切にしていることは「支えること」だといいます。大人が教えるとなると、どうしても「上から目線」や「答えの押し付け」になりがちです。

「我々大人がきっぱりと言ってしまうと、どうしても子どもたちは萎縮してしまう。それだと自ら考える力は育たないと思うんですね。水中ホッケーは『自分で考え、自分で判断する』ことが重要なスポーツ。水中ではその場その瞬間で指示が出せません。指導者がいても、試合中はプレイヤーだけで何とかするしかないんです。なので、練習の段階からなるべく自分達で考えさせる機会が多く持てるように心掛けています。

それに、自分も現役のプレイヤーなので、指導するというよりは、実際にプレーを見て色々と盗んでほしいですね。そういう意味でも、大人に混ざって活動していることは子どもたちにとっても貴重な経験になっていると思います。」

佐藤さんは学生時代には教育学部体育学科に在籍し、現在は長岡市スポーツ協会の職員として、コーチング理論などを勉強しています。その成果もチームに還元しています。「コーチング指導の世界では『うまく考えさせる』ことが重要視されています。指導する側としては『教えすぎないこと』を大切にしています」

 

長岡から世界へ

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「NAGAOKA BLUE OTTERS」は、全国的も珍しいジュニアチーム+社会人チームが合同で活動するチームです。社会人チームは2016年大会で見事優勝を果たし、ジュニアチームは結成以来、ふたつの全国大会をどちらも2連覇中。いまだ負けなしの快進撃を続ける強豪チームなのです。

「水中ホッケーは、あくまでもまだまだ普及段階にあるスポーツです。チームを強化し、大会で良い成績を残していくということはもちろんなのですが、それよりもまずはとにかく普及していきたい。楽しさを広げることを最も大事にしています」

生まれ育った長岡の地から、大好きなスポーツを広めていく。佐藤さんのチャレンジは続いていきます。

 

NAGAOKA BLUE OTTERSの志

最後に、NAGAOKA BLUE OTTERSのメンバーから夢を語ってもらいました。

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「目標は5回目の優勝!」

もともと水泳を習っていた隆成くん。プールに貼ってあったポスターを見て参加を決めました。「スイミングでも活かせる体づくりができるし、上手くなるのがとにかく楽しい。チームは連覇中なので、このまま勝ち続けたい! 全国大会で5回目の優勝をすることが目標です」

(NAGAOKA BLUE OTTERS 相﨑隆成くん)

 

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「大人にも勝つこと」

NAGAOKA BLUE OTTERS加入2年目の慎太郎くんは、守備的ポジションを担当。「守備は攻撃よりも頭を使う機会が多いと思います。自分が最後の砦なので、責任感を持ってプレーし続けることを心がけています。チームプレーがはまった時は本当に楽しい!ジュニアだけでなく大人にも勝てるようになるのが目標です」

(NAGAOKA BLUE OTTERS 桑原槙太郎くん)

 

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「日本代表に入ること」

加入して半年の学士くんは攻撃的ポジション。アタッカーとして最前線を駆け回ります。「相手のディフェンスをかいくぐってゴールを決めた時が楽しいです。ずっと続けていき、将来は日本代表に入って活躍したいです!」

(NAGAOKA BLUE OTTERS 粉川学士君)

Texts and Photos: Junpei Takeya

NAGAOKA BLUE OTTERS
[HP]https://blueotters.wordpress.com/
[Facebook]https://www.facebook.com/水中ホッケークラブnagaoka-blue-otters-417589165118305/
[Twitter]https://twitter.com/nagaokablueott1?ref_src=twsrc%5Etfw

 

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