「距離の近さ」を強みに!TWOOLが目指す「地方ならでは」のものづくり

2018.9.8

機能的で美しく、日々の暮らしを心豊かにしてくれる日常使いのものたち。それらをメーカーと共に企画開発し、実用に足るものとしてデザインするのがプロダクトデザイナーの仕事だ。新潟県は日本有数の金物の町、燕三条に代表されるように製造業が盛んだが、地方在住のデザイナーたちはどのように道を切り拓いているのだろう。

小学生のときに家族と共に長岡市に移住し、山形、東京、福島を経てUターン。2016年にデザイン事務所TWOOL(ツール)とTWOOL GALLERYをオープンし、長岡市を拠点に活動する和田紘典(ひろのり)さんを訪ねた。

 

「ここにはもう戻らない」
6年余を過ごした長岡を去る

長岡駅から車で20分ほどのニュータウン、その一角にTWOOLはある。代表の和田さんは1984年神奈川県生まれ。父親の転職に伴って長岡市に引っ越したのは小学校6年生のときだった。

「神奈川もけっこう田舎のほうだったから違和感はそんなになかったけど、雪にはびっくりでした。スキー授業ってなんだ?って(笑)」(和田さん)

高校卒業まで過ごした長岡を大学進学で去る時には、「ここにはもう戻らないだろう」と思っていたという。

「いつか戻ろうなんて、まったく。当時はこの街にあまり魅力を感じていなかったんです。デザインのスター選手になって海外でも活躍したいという気持ちがあり、そのためには小さな世界で内側ばかり見ているのはよくない。もっと広い視野を持たなければと思っていました」(和田さん)

住宅街の一角にあり、「なんのお店だろう?」と行き交う人の目を引くTWOOL GALLERYの外観。手前にさりげないサインがある。

デザイン事務所TWOOLはTWOOL GALLERYを入った奥にある。

和田さんのお父さんもかつて工業デザイナーとしてメーカーで勤務していたことがあるそうだが、10代のころは親子の仲が良くなかったと和田さんは語る。厳格で威圧的に思えた父親への反発心が強かった、と。

長岡を出た和田さんは、山形市にある東北芸術工科大学プロダクトデザイン学科に進学。卒業後は燕市の家電メーカーで3年間デザイナーとして働いた後、東京の家具工房で2年間修業した。

そして2013年1月、ものづくりを追求する場として大学時代の友人と2人で共同事業「TWOOL」を立ち上げ、内装も施工も自分たちで手がけたショールーム兼アトリエ「Tschool(ツクール)」を福島市にオープンした。

2013年から3年にわたり福島市で展開した「Tschool」は、カフェスペースもあるショールーム兼アトリエ。ものづくりの魅力を伝える和田さんの原点となった。

「福島は相方の故郷なのですが、彼の実家が管理しているビルが空くということでそこを使わせてもらって、相方が店をやり、僕がオーダーメイドの家具を作っていました。TWOOLはメンバー2人(TWO)で魅力的な生活用品(TOOL)を作っていこうという思いを込めた造語です。

東日本大震災の2年後で、街のいたるところで除染作業をやっていて、いつも道路の1/3くらいは通行止め。ものづくりが復興につながればという思いもあり、デザインの力で復興に協力を、と市から補助金もいただきました」(和田さん)

 

転機が訪れコンビ解消、長岡へUターン

デザイン事務所TWOOL代表取締役でデザイナーの和田紘典さん。

Tschool運営と並行してプロダクト提案も行うTWOOLは、2012年に東京ビッグサイトで開催された「インテリアライフスタイル2012 Talents」で高く評価され、2013年にはドイツのフランクフルトで開催された世界最大級の国際見本市「ambiente(アンビエンテ)2013 Talents」、東京・青山で開催された若手発掘の「SICF(スパイラル・インディペンデント・クリエーターズ・フェスティバル)13」にも出展。ニューヨークのメーカーがTWOOLのデザインを買い取り、デンマークのショップに製品を卸すことが決まるなど、大きな飛躍を見せた。

しかし3年が経過する中で次第に経営は下り坂となり、ふたりに転機が訪れる。

「売れない芸人コンビみたいな生活をしていたんです。事務所は築60年ほどの古いビルで、住まいもそこ。部屋がないからダンボールで仕切って、トイレに小さな給湯器を付けて、ホースをつないでシャワーにして。若かったからできたんですね(笑)。そんな中、相方が結婚して出て行って。僕はひとりで住み続けましたが切なかった……。

この先どうしようかと思っていたとき、父から電話があったんです。昔に比べて父も丸くなっていたし、僕自身も落ち着いてきて、家を出てから関係は少しずつ改善されていたのですが、『リタイアした後に使おうと思っていた土地があるから、そこでなにかやらないか』と。ちょうどそのころ、長岡の雪上車メーカーとの仕事が始まりつつあり、頻繁に出張するのもきついなと思っていたこともあって、長岡に根を下ろしてやっていこうと決めました」(和田さん)

 

若い世代のものづくりを
ネットワーク化したい

長岡にUターンした和田さんは、2016年7月、デザイン事務所TWOOLとTWOOL GALLERYをオープンした。コンビを解散してひとりになったが、魅力的なツールを作ろうという初心に変わりはないので、TWOOLという名前を使い続けているという。

TWOOL GALLERY内観。作家が手がけた陶器やガラスの器、オブジェ、アクセサリー、キッチン用品など和田さんが選んだ作品が並ぶ。

「TWOOL GALLERYの設計・施工は地元の工務店ですが、内装工事の前に引き渡してもらって、足場板を使って床を貼ったり、壁を塗ったり、やれることは自分でやりました。ギャラリーで展示販売している作品は飾り気のないシンプルなもの、素材の良さを生かしたものをセレクトしています。作家は同世代の30代が多くて、地元に限らず全国の作家を扱っていますが、会ったことのある人ばかりです。あえて市外の作家を紹介することで、外に目を向けてもらおうと。長岡にはギャラリーも少なく、クラフトの文化が根付いていないように思えるので『こんなことをやっている人がいて、こんないいものがありますよ』と紹介したいんです」(和田さん)

長岡のTWOOLは丸2年が経過し、最近少しずつ作品が形になってきている段階とのこと。和田さんは、長岡のものづくりについてこう語る。

「製造業は新潟県全域で盛んですが、出荷額は長岡がトップ。ものづくりが盛んな街です。長岡市内では現在3社と仕事をしていますが、地方でやるからには地場の企業さんに足繁く通ってやっていきたいですね。福島では、こだわりのお店がネットワークを作り、街を元気にしようというプロジェクトがありました。志のある若い経営者がたくさんいて、小さなお店がうまくやっていて、横のつながりで街おこしをする。それを長岡でもやれたらいいなと思っています」(和田さん)

「長岡は新幹線で都心へのアクセスもいいし、恵まれているのは大学があること。長岡造形大学と長岡科学技術大学があり、設計ができてかたちを作れる人たちがいる」と和田さん。

「三条市の企業とも一緒に仕事をしていますが、行政主導で小さな町工場を集めて、僕らみたいなクリエイターを引き合わせる。そういう枠組みを市や商工会が作っていて、プロジェクトに合わせて市が補助金を立ち上げることもある。長岡市にもそういったバックアップがあるといいですね」(和田さん)

高い天井とあふれる自然光が印象的。

開放的な空間でゆっくり作品を手に取って見てみたい。

「僕たちのような若手が企業の扉を叩き、市の活性化の底上げができればいいなと思いますし、少しずつこういった活動をしている人が増えたらいいですね。僕はデザイナーという立場なので、TWOOLという会社としてはエンドユーザーよりも企業と一緒に商品開発をしていきたい。いろんな企業がこんな素敵なものを作っているんだという、企業とエンドユーザーをつなぐ役割ができれば嬉しいです」(和田さん)

下記に、和田さんが手がけた最近のプロジェクトをいくつか紹介したい。いずれも長岡市内で実施されたものだ。

打ち刃物メーカーの自社製品開発でデザインしたチーズ削り鉋「はなかんら」はこの秋に発売したばかり。長岡市ふるさと納税の返礼品にもなっている。

2016年にオープンした美容室「カミカガク」。内外装とロゴのデザイン、施工などを担当。

 

地域の資産を未来につなげる
「ソレナラ工作所」が目指すもの

そして、和田さんは長岡で新しい相棒を得た。建設業を営む大倉貴志さんだ。共通の友人を通じて出会い、同い年と知って意気投合したという。

「去年の秋に、リノベーションの現場で和田さんを紹介されました。『最近、空き家が多いよね』と軽いノリで話をして、『新築を建てる人もいるけど、これからは空き家のリノベーションが主流になって、同じくらいの着工数になるだろう。なにか一緒にやる?』という会話から始まりました」(大倉さん)

築30年の古いマンションをリノベーション。和田さんがデザインを、大倉さんが施工を担当した。

「TWOOL GALLERYに来てくれるお客さんには『この空間もいいね』と言ってくださる方も多くて、『自分の家もこんなふうにできたらな』という話を聞いたりもします。その延長で僕がデザインとコーディネートをして大倉さんが施工する、そんなリノベーションのプロジェクトを秋からスタートしようと『ソレナラ工作所』を立ち上げました」(和田さん)

中学生のときから“かっこいい大工さん”に憧れていたという大倉さんは、長岡市長町で28歳のときに大倉建築を起業して6年目。娘が生まれて父親になったばかりで、新しい仕事にも気合が入る。

図面を覗き込むふたり。「『うちの空き家をどうにかしてほしい』というニーズに応えたい。空き家対策にもなれば」と和田さん。

すでに第一弾は決まっていて、TWOOLと仕事の付き合いがある企業のショールームを、内装や家具もトータルで手がける予定になっている。

「実は僕自身がそういう物件を買ったんです。建築途中で工事が中断し、10年くらい放置されていた小さな家を。結婚してそこに住もうというときに、じゃあ大倉くんに頼もうかなと。ちょっと前に竣工したところです。半分手作りみたいな感じですけど、完全に新しいものにはない良さもあり、きっと、こだわりのある人たちが対象になるでしょう。ソレナラ工作所では、お客さんと僕たちはとても近い位置で、半分友達のような関係になれたらと思います。同世代の、ちょうど家を欲しがる年代の人たちと地域でのつながりの輪を、仕事を通じて作っていきたい。そういう思いもあります」(和田さん)

「長岡の人は家を作るとなるとやはり新築という気持ちが強く、リフォームやリノベーションにはあまり関心がないように感じます。すでにあるいいものを活用していこうという、その価値をわかってもらえるようなものを作りたいですね」(大倉さん)

和田さんの自邸には大倉さんのお父さんが営む建材店から資材を調達した。「大倉さんにお願いして、隠す木をあえて見せるなど経年変化を楽しめるつくりにしてもらい、配管工事や土間打ち、クロスの張替えなどは僕たちふたりでやりました。とりあえず頑張ってみるところがソレナラ工作所の強みです」と和田さん。

「ソレナラ工作所」のセミオーダー家具第一弾、ナラ材のTVボード。納期約3週間で、建物に合わせてサイズもオーダーできる。

TWOOL GALLERYに隣接する「ソレナラ工作所」の前で。週末になると和田さんのお父さんもやってきて、ここで大工仕事をするそうだ。

「TWOOL GALLERYには器が好きな専属のスタッフがいて、大学生のアルバイトが現在2人。週末は会計士の妻にも手伝ってもらっています。僕ひとりでここを回すには広すぎるから、シェアしたい人がいればぜひ。ユニークな人たちがたくさん集まって、それぞれが好きなことをやっているような場所になればいいですね」(和田さん)

スタッフの山田ひかりさんは長岡造形大学の4年生。来春から希望していたメーカーでデザイナーとなる。「楽しいバイトでした」と山田さん。

「工業デザインの仕事はかなりマニアックで、それを専門にするうちのような会社があることすら知らない人も多かったりします。少しずつ実績を積み上げて、ワクワクしてもらえるようなもの、ことを生み出していきたいです」(和田さん)

TWOOL GALLERYはいまのところ土・日曜と祝日のみオープンだが、和田さんが事務所にいれば平日も開けてもらえるので、電話をしてから出かけてみてほしい。この場所をシェアしたり、様々なアイデアで活用したりしてくれる人も募集しているとのこと。秋には展覧会も予定され、3年目に入ったTWOOLとソレナラ工作所が、この街を、ここに暮らす人たちの意識を変えていく日も遠くなさそうだ。

 

Text: Akiko Matsumaru
Photos: Hirokuni Iketo

 

TWOOL GALLERY
[住所]新潟県長岡市青葉台5-22-3
[電話]0258-84-7980
[営業時間]土・日曜と祝日の12:00〜18:00 ※平日は電話で確認を
[URL]http://twoolgallery.twool.jp(TWOOL GALLERY)
https://twool.stores.jp(TWOOL Online Store)
http://itsoak.twool.jp(ソレナラ工作所)
10月20日(土)〜31日(水)、伊保橋匠哉絵画展「カワラナイモノ」を開催。

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