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越後丘陵公園に咲く2400株のばら。“育てる人”が語る、生きることの哲学とは・前編

育てる遊ぶ長岡
育てる遊ぶ長岡
2018年 10月 19日 | な!ナガオカ スタッフ

その美しさと香りで古来から世界中の愛好家を虜にし、日本でも「花の女王」として人気が高いばら。新潟県長岡市にある国営越後丘陵公園には、世界でも珍しい「香り」に特化したばら園があり、5~6月と10月の年2回開催される「香りのばらまつり」は例年多くの人で賑わいます。長岡は夏は蒸し暑く、冬は豪雪に見舞われる土地。このような自然条件のなかで広いばら園を管理し、美しく花を咲かせているのは、どんな方なのでしょう。ばら園を管理するチーフガーデナーの石原久美子さんを訪ね、見どころやガーデナーのお仕事内容について、お聞きしました。前後編にてお届けします。

註・この記事の写真は6月上旬の「香りのばらまつり」に撮影したものです。

越後丘陵公園のウェルカムゲート。5月末~6月開催の春のばらまつりでは、晴天の休日、なんと一日で1万7000人以上が来園した。撮影当日は平日だったが、それでも多くの来園者で賑わっていた。

 

個性豊かな7つのガーデン

国営越後丘陵公園のガーデナー、石原久美子さん。

「香りのばらまつり」の開催中に国営越後丘陵公園を訪れると、甘く豊かなばらの香りの風が吹いてきます。公園の職員と多くのボランティアスタッフとで管理されているばらの数は、なんと715種類、約2400株! そのスタッフたちを率いてすべてのばらの管理を任されているのが、ガーデナーの石原久美子さんです。

丘陵公園には、テーマ別に構成された7種類のガーデンがあります。『原種・オールドローズのエリア』、『日本の野生ばらのエリア』、モダンローズがメインの『香りのエリア』『色彩のエリア』『殿堂入りしたばらのエリア』、さまざまな植物との競演が美しい『ばらと草花のエリア』、そして『国際香りのばら新品種コンクール試作場』。贅沢にも、石原さんに7つの庭園すべてを案内していただきました。

「ウェルカムゲートからすぐ始まるのが『原種・オールドローズのエリア』です。これは春にしか咲かないので、秋には花をお見せできないのですが……。1800年代に生まれた、オールドローズと呼ばれるばらは、香料として扱われていました。とても香りがいいんです」

香るのは花だけではない。「ケイティフォリア・ムスコーサ」は、つぼみの周囲が苔(モス)に似た毛におおわれている。「苔に似た部分をさわって香りをかぐと、スーッと清涼感のある針葉樹のような香りがします。この香りに悪い虫を追い払う役目があるのではないか、と言われているんですよ」

 

「本物の香り」を記憶に刻んでほしい

「香りのエリア」には、ブルーの香り、ダマスク・クラシックの香り、ティーの香り、ダマスク・モダンの香り、フルーティーの香り、スパイシーの香りと、6つの香りの花が場所を分けて植えられている。

続いては『香りのエリア』。ここでは6種の香り別に植え込みがなされていて、ばらの香りを比べながら楽しむことができます。石原さんがばらの香りの嗅ぎ方を教えてくれました。

「ダマスク・クラシック」の香りの代表品種「芳純」で香りの嗅ぎ方の実演。

1. 花は7~8分咲きを選びます。
完全に開ききっていないほうが香りが逃げていないからです。

2. 花の少し下、茎を持って顔を近づけます。
花を傷めないためと、自分の手のにおいと混ざらないようにするためです。

3. くんくんと嗅ぐのではなく、スーッと香りを吸い込みます。
吐く息は花に向けず、横に逃がします。

この3番め、スーッと吸い込むのがポイント。香りが気持ちよく体に入ってきて、本当に味わっているかのような気分になります。

実は、この「香りのエリア」には、石原さんのガーデナーとしてのこだわりがあります。

「春は、ばらをちょうど胸あたりの高さ、ちょっとかがめば香りが嗅げるくらいの高さに剪定しているんです。秋は枝が伸びてくる時期なのですが、それでも視線くらいの高さにはしています。香りがテーマのばら園ですから、背はあまり高くしすぎないように、ばらの表情が見やすいように剪定しています」

「香りのエリア」の「ティーの香り」の花。「今日、この花、きれいだな…」と時折つぶやく石原さん。

フルーティーの香りのばらの花。「甘みのなかに、りんごやもも、すもも、柑橘の香りが感じられますよね。花の色もくだものみたいですね」

石原さんには、最近、気になることがあるといいます。

「ばらの香りを嗅いだお子さんに『トイレの(芳香剤の)香りだ』と言われることがあるんです(苦笑)。香りは記憶。最近は芳香剤のほうが、触れる機会が多いですからね……。ぜひ、本物のばらの香りから覚えてほしい。この頃は、柔軟剤や芳香剤などの強い臭いに悩まされる人も増えてきているそうですが、そうした商品に囲まれて、本物の香りを知らないのは残念なことです」

近年、子どもに向けた「食育」の取り組みが盛んですが、必要なのは食育だけではない、と思わせられます。本物の「香り」を記憶する機会も大事にしたいものです。

 

丘陵公園のバラ園のはじまり

続いては「色彩のエリア」。雪国らしく冬の雪をイメージした白いばらが特に多く植えられています。このエリアで石原さんが、丘陵公園のばら園のなりたちを話してくださいました。

背景となる丘陵公園の緑の山並みと、扇形につくられた白いつるばら、二つのラインがつくりだす美しい景観が見どころのひとつ。

色彩のエリアは、色を楽しむのはもちろん、名前を見ているだけでもおもしろい。ノックアウト、テキーラ、カトリーヌ・ドヌーブ、かがりび、ルンバなどという名前も。

「北陸製作所という鉄工所が長岡市下々条にあるのですが、ここの社長さんが敷地内にばら園を作っていらっしゃったんです。2001年、そのばら園は閉園されたのですが、市民の方から「残してほしい」という声があり、長岡市が仲介して、丘陵公園に移植されることになりました。それがきっかけで2003年、丘陵公園のばら園ができたんです。その歴史をご存じの方は、『北陸製作所のばらはどれ?』ってお聞きになられますね」

北陸製作所のばらで移植に耐えられないような古い株は「芽つぎ」して新しい株を作って移植したという。「見つけにくいですが、株の大きなものは北陸製作所のばらである可能性が高いですね」と石原さん。

市民に愛されていた北陸製作所のばらは、この「色彩のエリア」に主に植えられています。「ルーツとなったばら園を覚えていらっしゃる方がいるかぎり、大事に育てていきたいですね」

写真右奥に見える、壁面に添わせたピンクのばらにも物語がある。「社長さんはマリアカラス、というばらがお好きだったんですって。だから、壁面のところにウェルカムローズとして一番たくさん植えられているのが、この花なんです」

 

新しい「香りのばら」の生まれる場所

広大なばら園のなか、やや奥まったエリアにあるのが「国際香りのばら新品種コンクール『試作場』エリア」です。

このエリアは香りも、そしてもちろん美しさもひと際すばらしい新品種のばらたちと出会える場所です。丘陵公園の「国際香りのばら新品種コンクール」は、日本に3つある国際的なばらのコンクールのひとつ(※)。審査基準で「香り」の質が重視されるのが特徴で、さらに長岡は冬は雪が積もり、夏は湿度が高い土地のため、気温の変化や病気への耐性も重要な審査項目になります。公園では、出品者から新品種の苗を預かり、審査のために2年間育てます。このエリアにあるのは、そうした審査を待つ育成中のばら。そして、過去11年のコンクール上位受賞作のばらたちが植えられているのです。

※東京の神代植物公園(国際ばら新品種コンクール)と岐阜県の花フェスタ記念公園(ぎふ国際ローズコンテスト)と越後丘陵公園の「国際香りのばら新品種コンクール」。

 

記念すべき第一回のコンクールで最高賞を受賞したばらの前に立つと、本当に強く甘い芳香が!

「フルーティーな甘さに、さわやかなグリーンノートのある上品で調和の良い香り」との解説が。審査員にはパフューマ―(調香師)の方もいて、そうした香りのプロによる説明が書かれているのだそう。

「このばらは、受賞後、品種名をフレグラント・ヒル、という名に改名されました。丘陵公園をイメージした名前になったんですよ」

フレグラント(いい香りの)・ヒル(丘)とは、まさに丘陵公園そのものの名前です。

石原さんは、丘陵公園そのものがフレグラント・ヒルだと語ります。

「私は、ここを香りの風を感じられる場所だと思うんです。立っただけで、風に香りがついているような……」

丘陵公園の香りの風、それを体現するような一輪にここでは出会えるのです。

 

素朴な原種から世界的な人気種まで勢ぞろい

『日本の野生ばらのエリア』は、日本古来のばら、原種のばらのコーナーです。信濃川の河川敷でも見られるという「ノイバラ」は日本の原種のばら。また「テリハノイバラ」というつるばらの元祖や、海岸に自生している「ハマナス」も見られます。ばらの種の歴史を辿れるエリアです。

『日本の野生ばらのエリア』のノイバラ。春には、やさしい香りのかわいらしい一重の花を咲かせ、秋には赤い実がなる。

『殿堂入りしたばらのエリア』では、世界39カ国が参加する「世界バラ会議」で三年に一度選ばれる「殿堂入りしたばら」13品種が、見事な鉢植えに仕立てられています。テラス席がしつらえられているエリアなので、一休みしながら世界が愛するばらを愛でる優雅なひとときが過ごせます。

鉢植えのばらが殿堂入りした花たち。さりげなく置かれていますが、いずれおとらぬ世界的名花ばかり。

そして、ここには、ガーデニング好きならおもわずため息がこぼれてしまう、様々なばらと宿根草(※)が調和し、奏で合う美しい夢のようなガーデンがあります。それが「ばらと草花のエリア」です。

※何年も開花と生育を繰り返す多年草の一種。秋から冬に地上部が枯れたように見えても、根は生きていて、春には再び育つ草のこと。

2009年オープンと比較的新しい「ばらと草花のエリア」。

「栽培の難しい草花ではなく、雪国である長岡の風土でも育つような植物をなるべく選んで、ばらと合わせて植えています」と石原さん。見ているだけでも癒されますが、実際に、冬の雪にも、夏の厳しい蒸し暑さにも耐えうる植物が選ばれているので、雪国に住む人にとって、家の庭造りに生かせるアイデアが実は満載なエリア。真似して植えてみたい花が、きっと見つかるはずです。

『ばらと草花のエリア』で見られる様々な花たち。「これ、カップ&ソーサ―っていう咲き方なんですよ。表情があってかわいいでしょう」

青りんごのような香りのスイートブライアー。香っているのはなんと「葉っぱ」。秋はローズヒップティーの原料となるビタミンC豊富な実がなる。

ガーデンめぐりの終わりに、「石原さんにとっての殿堂入りのばらはあるんですか?」とお聞きしてみました。「ひとつだけ、別格の花があるんです」と見せていただいたのは、意外にも一重の素朴で可憐なばらでした。

石原さんが「枝のやわらかさ、葉の動き、トータルで好きですね」と語る特別なばら、ロサ・グラウカ。

「ロサ・グラウカといいます。別名、鈴ばら。色が個性的でしょう。枝が赤くて、葉が銅葉で、春先はシルバーがかったような色なんです。秋になるとチョコボールくらいの実がなるのですが、それを割ると小さな種が入っているんです。まだばら園のボランティアスタッフだったとき、種を預かって、自分で播いて初めて発芽させたばらがこれなんです。芽が出たとき、ふたばのときからこの銅色なのに感動して……」

今では多くのスタッフのリーダーとしてばらの管理をする石原さんの「一番」は、彼女がスタートラインに立ったとき、初めて発芽させたばらでした。

 

国営越後丘陵公園のばらの見どころガイド、いかがでしたか。【後編】では、広大なばら園を管理する石原さんのお仕事内容や、ガーデナーになるまでの歩みに迫ります。

 

 

Text: Chiharu Kawauchi
Photos: Hirokuni Iketo

 

国営越後丘陵公園
[所在地] 新潟県長岡市宮本東方町字三ツ又1950番1(越後公園管理センター)
※公園入口が「ウェルカムゲート」と「里山口」の2つあります。「香りのばら園」へは、「ウェルカムゲート」からお越しください。カーナビではアクアーレ長岡(電話:0258-47-5656)で検索することをおすすめします。
[入園料]大人450円、中学生以下無料、65歳以上210円
[駐車料]普通車310円、大型1030円、二輪車100円
[開園時間] 4・9・10月9:30-17:00/5~8月9:30-18:00/11~3月9:30-16:30
[HP] http://echigo-park.jp/
[イベント]  毎年、春(5月下旬〜6月中旬頃)に『香りのばらまつり』が、秋(10月頃)に『香りのばらまつり・秋』が開催されます。バラのほか、雪割草、チューリップ、コスモスなど四季折々の花のイベントもあります。
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