家族のチームワークで和菓子の未来を切り拓く!「越乃雪本舗大和屋」の挑戦

大和屋
2019/2/5

羊羹、饅頭、餅菓子、練り切り、落雁……。茶道と共に発展し、四季折々の花鳥風月を映した雅な佇まいで日本の美意識を伝える和菓子たち。そんな古式ゆかしい世界にも時代の波が押し寄せ、趣向を凝らした“ネオ和菓子”が各地で生まれています。新潟県長岡市で安永7年(1778年)に創業した「越乃雪本舗 大和屋」も、そんなチャレンジを続ける老舗のひとつ。文具やおもちゃをモチーフにしたシリーズ「おさとうのまほう」を展開し、2018年12月に東京流通センターで開催された「文具女子博2018」でも大きな話題になりました。240年余の伝統をしっかりと継承しながら新しいプロジェクトにも果敢に挑む、老舗和菓子店の心意気を伺いました。

 

長岡藩主の病を癒して御用菓子司に
戦中・戦後も守られた越後銘菓「越乃雪」

安永7年、長岡藩の御用金物商だった岸庄左衛門が、病に伏せっていた9代藩主・牧野忠精(ただきよ)にお菓子を作って献上。快癒した忠精公が「実に天下比類なき銘菓なり、吾一人の賞味は勿体なし、これを当国の名産として売り拡むべし」と絶賛。そのお菓子に「越乃雪(こしのゆき)」の銘が与えられ、庄左衛門は御用菓子司となりました。これが、和菓子店としての大和屋の歴史の始まりです。

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長岡駅から徒歩15分ほどの閑静な界隈にある「越乃雪本舗 大和屋」本店。1945年の長岡空襲で被災した建物は翌々年に空襲前の店舗を模して再建され、2017年に店舗兼主屋が国の登録有形文化財に。

第二次世界大戦下の空襲で長岡の市街地が焼け野原となり、大和屋も蔵の中にあった看板や長岡藩にお菓子を納めるための御用箱など、わずかなものを除いてすべてを焼失。しかし、1941年に商工省指定技術保存商品に認定されていた「越乃雪」は時の政府に守られ、原材料の配給を受けることができました。1940年に砂糖配給統制規則が施行され、1944年には業務用砂糖が配給停止になるなど、戦中・戦後の物資が乏しい中でも伝統菓子の火が消えることはなかったのです。

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いまでは珍しい「座売り」に商家の風情が漂います。左端にある「越乃雪」の看板、その奥のガラス戸棚に入った御用箱と大福帳は空襲を生き延びた貴重な財産。

看板商品「越乃雪」の原材料は、長岡産もち米で作った寒晒粉(かんざらしこ)と徳島県の阿波和三盆糖。それらを混ぜて寝かせ、しっとりさせたものを木枠に入れて押し固め、専用の包丁で縦横に切る。「越乃雪」の箱を開けて紙をめくると、表面を覆う砕いた氷砂糖が陽射しを浴びた雪原のようにキラキラと光を放ちます。

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広辞苑にも掲載されている「越乃雪」は、石川県金沢市の「長生殿」、島根県松江市の「山川」と並ぶ日本三大銘菓のひとつ。16個入り1296円、24個入り1944円、32個入り2592円、48個入り3780円。

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つまんで口に入れると舌の上でホロッと溶ける、繊細で儚い口溶けが職人の技の見せどころ。上品な香りと奥深い甘みをじっくり味わいたい逸品です。

小林虎三郎、河井継之助、山本五十六といった長岡の偉人たちはもちろん、高杉晋作、岩倉具視、大隈重信らも「越乃雪」を愛好していたとか。創業時から変わらない原材料と製法で守り続け、多くの人々に愛されてきた歴史が、このひと粒に脈々と息づいています。

 

物語性と遊び心で女子のハートを鷲掴み!
SNSで話題沸騰の新シリーズ

さて、そんな伝統ある和菓子店が、“SNSで映える”新商品の開発にも積極的に取り組んでいると聞き、お話を伺いました。対応してくださったのは専務取締役の岸佳也さん。大和屋10代目の取締役社長・岸洋助さんの右腕として老舗に新しい風を送り込む岸専務は、看板娘だった次女・容子さんと結婚して大和屋に加わりました。入社後は夫婦で京都に住み、和菓子店で3年ほど修業。長岡に戻って5年ほどになるそうです。

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専務取締役の岸佳也さんは秋田県出身。秋田工業高等専門学校から長岡技術科学大学と大学院を経て朝日酒造に入社、同社の茶道部を通じて大和屋の次女・容子さんと縁が生まれ、日本酒から和菓子の世界へ。

「外部から入った人間なので、京都では単にお菓子作りを学ぶだけでなく、美意識を磨くために寺社仏閣を訪ねたり、京都らしい食事をしたり。和菓子の世界でなにが良いとされているのか、まずは感覚を掴みたいと思いました。技術は2、3年でどうにかなるほど簡単ではありませんが、とてもいい勉強になったと感じています。

冬なら霜をイメージしたものとか、和菓子はお茶席の邪魔にならない抽象的な意匠が多いですが、若い人たちにも伝わるような具体的な形や物語性を提示し、和菓子の魅力をもっと知っていただきたい。そんな想いで作ったのが『おさとうのまほう』というシリーズです。2017年に日本橋三越本店での全国銘菓展に合わせて『こはくのつみき』を作り、2018年の春に『あまいおはじき』と『おいしいおえかき』、秋に『万華鏡のかけら』という順番で発売しましたが、予想以上に広く受け入れられ、お店にも若いお客さまが足を運んでくださるようになりました」(岸専務)

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左は寒天をカラフルな砂糖でコーティングした干菓子「こはくのつみき」1296円、右は伝統的な飴細工の有平糖「あまいおはじき」864円。

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左は和三盆糖に季節ごとのフレーバーを取り入れ、クレヨンの形を模した「おいしいおえかき」1782円、右は寒天と砂糖で作った錦玉に色彩を散らした干菓子「万華鏡のかけら」1242円

「おさとうのまほう」シリーズは2018年12月開催の「文具女子博2018」でも話題になり、SNSでは写真と共に「かわいい!」「もったいなくて食べられない!」「ずっと飾っておきた〜い」といった声が躍りました。

「プレゼント需要もあるかと思っていましたが、ふたを開けてみたら圧倒的に女性が自分用にと購入されています。日持ちさせるためのお干菓子で、どれも2ヶ月ほど持ちますから、写真を撮ったり、しばらく眺めたり、たっぷり楽しんでいただければと思います」(岸専務)

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「『こはくのつみき』をシリーズが持つ物語性の象徴にしようと、パッケージを絵本のような形状にリニューアルしました」

前職は銘酒「久保田」で知られる朝日酒造のブレンダーというユニークな経歴をお持ちの岸専務は、お酒が大好き。以前はほとんどお菓子を食べなかったそうです。

「食に関することが好きで朝日酒造に入社し、前会長に誘っていただいて茶道部に入りました。断りきれず(笑)。初めて大和屋のお干菓子を食べたとき、『イメージと違う!おいしい!』と驚いて。京都でも意識的にいろいろ食べて『甘いものもいいな』と思うようになりました。新商品の意匠はキャッチーですが、中身は基本に忠実。これまで培ってきたお干菓子の技術を活かした、お茶席に出しても恥ずかしくないものです」(岸専務)

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お店に並ぶ「おさとうのまほう」シリーズ。4点フルセットで購入する人も多いとか。これは自分用に、これは友達に……と思わず大人買いしたくなるのもうなずけます。

 

企画も撮影もこなす辣腕デザイナー
その正体は長女・智子さん

「おさとうのまほう」シリーズは、岸専務と現在は育児休業中の妻・容子さん、そして容子さんの姉の高波智子さんの3人でワイワイと意見を交わして大枠を決め、工場のスタッフと共に試行錯誤を重ねて作り上げていきました。最初は少々戸惑っていた職人さんも、パッケージに入った完成形を見て「おお!」と感激したそうですが、気になるデザインワークは誰が手がけているのでしょう。

「すべて義姉がやってくれています。大和屋のテイストが共有できているので、打ち合わせが済んだらお任せ。大和屋を知らない人にも手に取ってもらえる、それはデザインの力ですね。商品の写真撮影も義姉です。プロが使うような機材もない中、あれこれ工夫を凝らしながら撮っていますが、社内で作業が完結するのでスピーディーで助かっています」(岸専務)

パッケージや化粧箱の掛け紙、季節ごとの「おしらせ」など、たくさんのデザインをこなしてきた高波さんに、お客さんの目を楽しませる作品群の写真をお借りしました。お話を交えながら紹介します。

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限定品として販売された「ふきよせ」。箱の掛け紙は和紙に直接プリントゴッコで刷ったそうで、紅葉や銀杏など葉の色の混ざり具合が1枚1枚違うのだとか。

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新潟県立歴史博物館とお茶の先生とのコラボレーションで誕生した「悠かなる縄文」。上は火焔土器のかけらから実際に型取りし、下は縄文人も食べたというドングリの粉を入れて土偶を模した干菓子で、パッケージはプリントゴッコで刷って印刷。

高波さんは武蔵野美術大学映像学科で学び、TBSテレビの美術センターでドラマのセットを手がけた後、1年ほど製菓学校に通ってから長岡に戻りました。やはり東京で働いていた妹の容子さんも、たまたま同時期に会社を辞め「一緒に大和屋の仕事をがんばろう!」と誓い合ったそうです。

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シックな色合いと図案が魅力の「なめらかぷりん」シリーズ。お店の看板とそれぞれの素材である洋梨、和三盆糖、小豆をモチーフに。

 

姉と妹、ふたりの個性を活かして
老舗の伝統と未来を担う

「先に実家に戻った妹が母を手伝い、看板娘としてお店を切り盛りしてくれましたが、心の機微がよくわかり、話好きな妹と話し込んで帰られるお客さまもいらっしゃいました。育休中のいまは人事部長のよう。家族の気持ちをよく把握し、みんなの気持ちにすれ違いがあれば上手にフォローして。どっしり構えて緩衝材となってくれています。いずれ母のように茶席菓子のことを担ってくれたらというのが家族みんなの願い。女店主は妹の天職ですね」(高波さん)

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掛け紙を使い始める前にサービスで付けていたハガキも、プリントゴッコで手刷りしたもの。

2児の母でもある高波さんも、また育児に奮闘中。「おさとうのまほう」シリーズのパッケージに描かれた愛らしい少女の絵は、娘と姪っ子をイメージしたものと教えてくれました。

「10年ほど前も大和屋の仕事を2、3年やっていましたが、結婚・出産を経てしばらくはホームページの更新をするくらいで、3年前に下の子の入園に先駆けて復職しました。プリントゴッコとPhotoshopで手作り感のあるデザインをしていて、高校同窓会のポスターを頼まれたのを機にIllustratorを覚えて。ビジョンをビジュアル化することの重要性とおもしろさを感じて、グラフィックデザインをライフワークにしようと思ったんです」(高波さん)

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贈答用の化粧箱に巻く四季折々の掛け紙は、消しゴムハンコを押してPhotoshopで編集。

テレビ局で働いている自分に違和感を覚えていたという高波さん。実家で夜遅くまで楽しそうに仕事の話をしている両親の姿を羨ましいと感じ、幸せな仕事とはなにかと考えたそうです。

「仕事を通じて家族がつながっていて、仕事の先に家族の幸せと笑顔がある。私が戻る場所は大和屋だと。たまにはケンカもしますが、戻ってみて幸せだなと感じます。オフでも頭から仕事が離れないことに苦痛も違和感もなくて、それこそが一生の仕事なのだと」(高波さん)

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周囲の木版を彫るのに苦労したという、瓦版をイメージした「おしらせ」。にじみを防ぐためにドーサ引きした和紙に日本画の岩絵の具で絵を描き、Photoshopで編集。上生菓子と干菓子の和綴じの見本帳を作るために描きためているのだとか。見事NADC(新潟アートディレクターズクラブ)審査員特別賞・上西祐理賞を受賞しました!

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2017年11月に東京・青山の国連大学前で開催された「TOKYO CRAFT MARKET with YOKAN Collection」。このポスターも高波さんの作品です。

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現地での岸専務と高波さん。和菓子の老舗・虎屋から声がかかり、専務の古巣・朝日酒造と共に出店、「羊羹と日本酒のマリアージュ」と題したトークも。

このご時世に人手不足とは無縁!
人が集まる職場をつくる「家族の力」

義弟である岸専務の活躍ぶりについて、高波さんはこう語ります。

「研究職だったこともあって食材へのアプローチが科学的で、これまで大和屋になかった発想でデパートの催事やイベントを活用し、新しいことに意欲的。活力の中心になってくれていて頼もしいです。東京出身で大和屋に婿に入り、和菓子屋として会社をまとめ上げた父のように、きっと義弟がこの会社を変えていくのでしょう」(高波さん)

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お店で対応をするお母さん。「定番があり、新商品がある。お客さまに楽しんでいただくためには、なにか新しいものもないとね」

お茶席とのつながりを築いた功労者は社長夫人で姉妹の母、岸範子さん。お茶と和菓子の勉強に余念がなく、研究熱心なお母さんが季節を映し出す上生菓子や干菓子を担当しています。

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右手前から時計まわりに、外郎製・黄味餡の「春告鳥」、大納言鹿の子・小豆こし餡の「薄氷」、練り切り・小豆こし餡の「梅一輪」、薯蕷饅頭・小豆皮剥き餡の「天神」。中央はきんとん・小豆粒餡の「東風」。お母さんが名前を考えてイメージを伝え、職人さんと一緒に作り上げていきます。

どの業界も深刻な人手不足の時代に、大和屋では次々に門を叩く人がいるのだとか。岸家のみなさんの豊かなアイデアに技術で応える職人さんは現在8人、20代の若手も2人いるそうです。

「募集するとすぐに応募があり、みなさん長く働いてくれるので、人手不足感はないですね。それは会社の雰囲気を育て、環境を整えてきた義父と義母、ふたりのがんばりにほかなりません。『越乃雪』があってのことですが、みんな新しい試みに乗り気でチャレンジングなんです。新商品で大和屋を知った方が定番の上生菓子やお干菓子などにも目を向けてくださり、和菓子の魅力に触れていただけたらいいですね」(岸専務)

「守っていきたいのは暖簾ではなく、家族と社員さんの幸せや充実」と高波さん。この店を切り盛りする家族とスタッフの仕事への情熱と幸福感、お互いへの敬意が、越乃雪本舗 大和屋のお菓子をこの先も輝かせていくことでしょう。

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Text: Akiko Matsumaru
Photos: Hirokuni Iketo
*商品写真と催事のスナップ写真は高波智子さんにお借りしました。

 

●Information
越乃雪本舗 大和屋(こしのゆきほんぽ やまとや)本店
[住所]新潟県長岡市柳原町3-3
[電話]0258-35-3533
[営業時間]9:00〜17:30
[定休日]日曜 ※水曜は不定休
[URL]http://www.koshinoyuki-yamatoya.co.jp
https://www.facebook.com/koshinoyukihonpoyamatoya/(Facebook)

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