発酵×食×観光でまちの魅力を発信!「長岡をRe:デザインする」イベント潜入レポ

2019/4/25

新潟県長岡市は、四季折々に旬の食材が豊富にあり、醸造業も盛んで、地産地消がごく日常的になされている、豊かな風土に恵まれた街。しかし、誇るべき食文化はあっても、市外の方には、その魅力はあまり伝わっていないのではないか——ー

そんな思いを抱く人々によって、2019年3月22日、とあるイベントが開催されました。その名も「長岡をRe:デザインする」。個性あふれる3名のスピーカーが、長岡の食文化の特徴でもある「発酵」をキーワードに、長岡の魅力発信について語り合うという内容です。

まちと発酵って、いったいどんな関係があるのでしょう?その謎を探るべく、このイベントに参加してきました。

 

スピーカー3名はどんな人?

長岡の魅力発信について語るのは、3名のスピーカーたちです。

まずは一人目。県外からゲストスピーカーとして迎えたのは、「伝える」をプロデュースする会社、BambooCut代表取締役の竹内順平さんです。全国300種類以上の梅干しを食べ歩き、「にっぽんの梅干し展」「立ち喰い梅干し屋」などのイベントを日本各地やフランスで開催。テレビ番組「マツコの知らない世界」で梅干しの魅力をプレゼンテーションするほどの梅干し伝道師です。

二人目は、長岡技術科学大学教授の小笠原渉先生。糸状菌などの微生物を専門に研究し、大手企業や研究機関と共同研究をするなど、世界を相手に最先端の研究を行っています。モットーは「発酵はハッピーに楽しむ!」とのこと。詳しくは、な!ナガオカの過去記事「まちも人も『発酵で面白くなる』って!? 長岡が誇る『名物博士』の微生物ラボへ潜入」をご覧ください。

三人目は、スノーフード長岡ブランド協議会代表、SUZUグループ代表の鈴木将さん。2007年に新潟県長岡市で「おれっちの炙家 ちぃぼう」をオープン後、食堂、ケータリングカー、グローサリーストアを次々と開店。食文化プロデューサーとして「畑ごはん塾」「やさいの学校」など地域の魅力を伝える取り組みや、地域食材を活かした自社ブランドの商品開発も行っています。

会場のNaDec BASEには60名ほどのお客さんが集まり、にぎやかになってきました。ステージ脇では登壇を間近に控えた3名のスピーカーが談笑し、和やかな雰囲気を醸しています。さあ、まもなくトーク開始です。

 

スペシャルメンバーによる
トークイベント開始!

今回のトークセッションでは、「長岡の可能性」について考えます。長岡の魅力あふれる風土を市外の人に伝えるには?――その答えは見えてくるのでしょうか。

まずは、進行役を務める鈴木さんのあいさつからスタートです。

鈴木「みなさん、今日はよろしくお願いします。長岡で新たな観光資源を作るのではなく、今ある良さを大切にしていきたいですよね。この魅力をどう全国・全世界へ発信するかが課題なので、よそ者目線の竹内さんにぜひアイディアをいただきたいです」

竹内「ハードル高いですね~(笑)」

鈴木「竹内さんはおばあちゃん世代のイメージがある“梅干し”を、若い世代にも魅力的に伝えていますよね。なぜ若者にウケているのでしょうか?」

竹内「誰にどう伝えたいか、商品の方向性を考えているからでしょうね。例えば、『備え梅』『ウメボシカルタ』は、デザイナーは同じですが見せ方が全く違います。若い人に届くかどうかは、アプローチ次第だと思うんです」

災害時における「お守り」代わりの非常食にと考案した「備え梅」。

全国各地の梅干しを1粒ずつカプセルに入れた「ウメボシカルタ」。

 

梅干しへの愛情が
マーケットの新境地を拓く

竹内「ところで梅干しと発酵の共通点は“生き物”ですよね。梅は植物、発酵は微生物として、どちらも生命の営みがある。そんな風に考えると、梅干しってかわいいなあって思えてくるんです。もしかして小笠原先生も、微生物がかわいいって感じますか?」

小笠原「確かに“かわいい”というのも分かりますが……学術的には一個体というより広範囲の環境を調べているんですよ」

竹内「アハハ、そうでしたか。実は僕、自分は本当に梅干し好きなんだろうかと、日に一度は自問自答してるんです。それでも、やっぱり好きだなぁと思いとどまっている理由の一つに“かわいい”があります。梅干しの“かわいさ”という魅力を人に伝えていくのが僕の使命かなと」

鈴木「竹内さんは、新潟市のビルボードプレイスで『立ち食い梅干し屋』を期間限定オープンしているんですよね。ファッションの聖地で梅干しを売るというのは、一見ミスマッチのようだけど若者で盛況とのこと。この結果は、竹内さんが“かわいい”と表現して伝えてきた積み重ねゆえでしょうね」

竹内「新潟で販売してみて意外だったのは、地元特産品の『藤五郎梅』『越の梅』を若い子たちがよく知っていて、普段から食べているということです。実の所、梅の生産地として有名な紀州ではあまり梅干しを食べないので、地元でもっと消費してもらおうと一生懸命なんですよ。一方、新潟では自家消費をして外に出さない、真逆ですね」

鈴木「新潟県の地元産ブランド梅の消費量はかなり多いです。良さではありますが、外に広がっていかない理由の一つでしょうね」

 

“持続可能な暮らし”が
日常的に営まれる豊かさ

鈴木「小笠原先生は、岩手出身でイギリスにも住んでいたことがあるそうですね。長岡のまちはどんな印象ですか?」

小笠原「せっかく財産を持っているのに、寝かせている感じがします。地元の人で良さに気付いていない方は多いですね。教育文化レベルも高いので、この地域で世界に通じる子供たちを十分に育てられると確信していますよ」

鈴木「長岡技術科学大学は、『※SDGs(エスディージーズ)』で東アジア唯一のハブ校に任命されているんですよね。“持続可能な開発”というのが、長岡のまちの暮らしやすさに当てはまっていると思います。この素晴らしさをもっと外にPRできると良いのですが……」
※SDGs…持続可能な開発目標。2016年から2030年までの国際目標でもある。17ゴールのうち、長岡技術科学大学はゴール9「産業と技術革新の基盤を作ろう」を指向している。</font size>

小笠原「遠方からの観光客は目的が複数ないと、わざわざ長岡へピンポイントで来ないでしょうね。研究でお世話になっている南魚沼市の八海醸造は、県外客に人気のスポットですが、観光後は1時間以上かけて長岡へ足を延ばす方が多いんですよ。ホテルや飲食店の豊富さがその理由かなと。観光客の全体としての流れを見れば、外の人に来てもらえる機会は十分にあると思います」

鈴木「長岡は米がとれて日本酒消費量が多く、野菜の自給率も高いですよね。これまでは地産地消という言葉だけで終わっていましたが、“持続可能な暮らしができているまち”というのはすごいことかも。伝統的な食文化を日常的に楽しんでいる魅力も、ぜひ知ってもらいたいですね」

最近注目されている「SDGs」を長岡では当たり前にできている——ーその事実は、意外と見過ごされていました。これから世界のトレンドとなりうる考え方を実行するまちとして、長岡は最先端を歩んでいるのかもしれません。

 

地域の観光資源を
“伝えない”という選択肢

鈴木「僕は料理人なので、お客さんに素材や調理方法のこだわりを伝えたいとよく思うんです。でも、お客さんは料理の味が好みか否かに尽きるようで……。『これは素晴らしい!伝えたい!』という想いは、どうしたら他者の心に刺さるのでしょうか?

竹内「その課題を抱えている地域は多いですね。僕は全国各地でまちのPRをお手伝いする活動もしていますが、どこも必死に観光資源を発信しようとしています。でもね、逆に“伝えない”というのも尖っていておもしろいと思うんです。

例えば、新潟ブランドの『藤五郎梅』を県外に出荷しないという条例を作ったらどうでしょう?希少性があるからこそ、食べに行きたくなりますよね」

小笠原「鹿児島県最北端にある長島の酒造メーカーは興味深いですよ。5つの蔵元の原酒をブレンドした『さつま島美人』という芋焼酎の他、島内限定販売の『さつま島娘』があるんです。ムスメだから島の外には出さない(笑)ウィットに富んでますよね」

鈴木「数年前に仕事で訪れたイタリアでは“スローフード”が根付いていて、地場の食を大切にしていました。市民の食知識が豊富だから、マルシェで地元食材を買うのが当たり前。観光では風土を感じられる郷土料理が人気です。生活レベルで日常的に地場のモノを食べているという点では、新潟と共通しているんじゃないかな。

『名物を食べたきゃ長岡市に来いよ!』と強気でも良いのかもしれません。観光客に長岡の食文化を知ってもらうために、ごく普通の家庭的な日常食、例えば煮菜(体菜の塩漬けと根菜を、味噌や酒粕で煮た料理)を広めてみたいですね」

SNSが普及し、誰もが発信できる現代にありながら、まさかの「発信しない」という選択肢に会場はどよめきました。ですが、それもおもしろい戦略なのかも……?長岡の食文化に誇りがあるからこそ、参加者のみなさんは奇抜なアイディアに納得の表情を浮かべていました。

 

小綺麗すぎるのはつまらない
“しょっぺー”からおもしろい

竹内「最近、東京に集まる美味しいモノの表面的デザインは、どれも似たり寄ったりと感じます。ネーミングもいい感じに聞こえるように仕立てられていますよね。例えば、『おばあちゃんの梅干し』はいかにも素敵だけど、『ババアの梅干し』でも別に良いと思うんです。まちのポイ捨てがなくなるように、商品もだんだん小奇麗になってきた。それではおもしろみに欠けています。汚い言葉でもいいから、ストレートに言った方が響くんじゃないかな」

鈴木「確かに。僕は飲食店視察によく行くのですが、老舗のディープな居酒屋が一番勉強になります。俗に言う“しょっぺー店”です(笑)流行にのったオシャレな店はたくさんあるけど、やっぱり地元人はしょっぺー店へ行きたがるんです」

竹内「昨日、新潟駅前を歩きましたけど、なんだかキレイすぎるなぁという印象で……」

鈴木「今度、しょっぺー店を紹介しますよ!人情味あふれる奥深さで、昔ながらの店が見直されている時代です。若い人たちも興味を持っているからチャンスかと。これは梅干しも同じですね」

竹内「表面的にキレイなだけの希薄さは、皆すでに気付いているでしょうね」

鈴木「長岡は花火が有名ですが、食文化や醸造文化だっておもしろいんです。まずは、僕たち自身がまちを誇りに思いましょう。まるで発酵するように、まち全体でおもしろいことが沸々と起これば、やがて大きな動きになっていく予感がします」

これにてトークセッションは終了です。今回のイベントは長岡の魅力を再認識するための記念すべき小さな第一歩。これから長岡はもっとおもしろく、楽しくなっていくはずです。参加者の皆さんはまちの魅力を改めて感じ、表情がイキイキとしているようでした。

 

長岡の料理と地酒を愉しむ
プレミアムな懇親会

トーク終了後は、長岡の美味しいものを囲んでの懇親会タイムです。

テーブルには、美味しそうな料理がずらり。

今回振る舞われた料理は、2019年10月1日~12月31日に行われる「新潟県・庄内エリアディスティネーションキャンペーン」のプレ期間中に提供されていた特別メニューです。長岡・柏崎エリアでは「里めし浜めし」をテーマに、約100店舗がキャンペーン参加を予定しています。

豪華な料理の数々に興奮気味の参加者たち

江口だんご江口社長が直々に料理の説明をしてくれました。

長岡が誇る3つの飲食店が、腕によりをかけて作った料理がワンプレートに!

「江口だんご」のむかしぼた餅(左上)は、幻の餅米「大正餅」を使用し、ほど良いコシとのびのある食感。摂田屋帆立赤飯(左中)は「星野本店」の醤油、「吉乃川」の地酒を使うなど、長岡産の発酵食品がたっぷり。口いっぱいに帆立のうまみが広がります。

「山古志ごっつぉ多菜田」が提供するのは素朴な郷土料理。神楽南蛮味噌(左下)は、山古志産の神楽南蛮がピリリと後を引きます。煮菜(右下)は、乳酸発酵させた体菜を打ち豆や油揚げなどと共に煮た新潟のソウルフードで、滋養豊かでやさしい味わいです。

「SUZU365」からはおしゃれな洋風メニューが登場。煮菜のキッシュ(右上)は、トロリとした煮菜と生クリームが絶妙にマッチ。麹で仕込んだローストポーク(右中)は、低温でローストした塩麹漬け津南ポークと、醬油、タマネギ、赤ワインなどで仕上げたシャリアピンソースがよく合います。

さらに「ホテル飛鳥 レストラン波止場」の番屋汁も!寺泊ならではの贅沢で豪快な漁師料理はカニ、甘エビ、ゲンゲ、タラ、カマスが入り具沢山。魚介のうまみたっぷりのスープに酒粕を合わせ、食べ応え満点です。

摂田屋の蔵元である「吉乃川」「柏露酒造」「長谷川酒造」の地酒も用意。飲み比べることで、甘み、うまみ、なめらかさなど、それぞれの日本酒がもつ個性を感じられます。

美味しいお酒に、お代わりが止まらない!

長岡開府400年を記念したオリジナルおちょこ。参加者にお土産として配られました。

美味しい料理とお酒を囲めば、自然と会話も弾みます。初めて会った同士でも「長岡が好き」の共通項で自然と打ち解け、つながることによって、笑顔が絶えないハッピーな時間が流れていきました。

お土産に、竹内さんプロデュースの「ウメボシカルタ」をいただきました。

これにてイベント終了です。会場全体がワクワクの雰囲気に包まれた「長岡をRe:デザインする」。食文化に恵まれた長岡だからこそ、発信の仕方によって爆発的に飛躍する可能性を秘めているのかもしれません。来場した皆さんにとって、まちの未来を見つめる良い機会になったのではないでしょうか。

「発酵・醸造のまち」長岡では、これからも発酵関連の様々なイベントを仕掛けていきます。無数の微生物たちが生命活動をすることでおいしい発酵食品になるように、地元愛にあふれた人たちが増えることでまちは変化していくはずです。これからの“発酵する長岡”にぜひご注目ください!

 

Text and Photos: 渡辺まりこ

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