衝撃のふわふわに感動!刃物のまちの町工場が作り上げた「究極のかき氷機」とは!?

2019/8/22

連日、うだるような暑さが続いています。季節はすっかり夏。ジリジリと照りつける太陽で汗が止まらず、思わず冷たいものが恋しくなるという方も多いのではないでしょうか? 夏の風物詩といえば「かき氷」。かき氷を最初に食べた日本人は枕草子の清少納言といわれており、昔から親しまれているスイーツですが、ここ数年は、台湾かき氷が爆発的人気となったり、シロップや氷にこだわった専門店が生まれたりと、SNS映えと相まってかき氷ブームが巻き起こっています。

東京都内のかき氷専門店には順番待ちの大行列ができる一方で、新潟県内では、「氷を削ってシロップをかけただけでしょ?」「屋台のガリガリかき氷とそんなに違うの?」といぶかしんでいる方がまだまだ多いのも事実。そんな既成概念を打ち破ってくれるような、衝撃のふわふわかき氷機を製造する会社が、実は新潟県長岡市に存在するのです。かき氷へ惜しみない情熱を注ぐ、開発ストーリーをご紹介します。

 

サカタ製作所恒例
特製かき氷でおもてなし

訪れたのは、長岡市与板町にあるサカタ製作所。国内トップシェアを誇る屋根用建築金具やソーラーパネル取付金具のメーカーです。金属屋根金具メーカーがなぜかき氷機を!?と疑問を胸に訪問すると、取締役技術開発部長の小林準一さんが出迎えてくれました。

「本日はご来社ありがとうございます。サカタ製作所ではお客様に、お茶代わりのかき氷をふるまうことにしているんですよ。少々お待ちくださいね」

液晶タッチパネルを押すと、薄く削られた氷がふんわりと美しく降り積もる

ミルク練乳のエスプーマを絞り、トッピングを施せば完成!

そう言うやいなや、鮮やかな手つきでかき氷を作り始めた小林さん。機械から雪のように降ってくる薄い氷を器に受け止め、あっという間に完成しました。

賞味期限は3分!なめらかな口どけのかき氷は、これまで食べたことがないような感動の食感

こちらがサカタ製作所自慢のかき氷。今日のメニューは、新潟県産メロン「あきみどり」の自家製シロップ、メロンのコンポート、さらに練乳のエスプーマがたっぷりと絞ってあります。中身には食感違いで味噌風味のクルミが入っているというサプライズも!

驚くのは、まるで新雪を食べているかのようの繊細な氷の食感。口の中でほどけ、ふんわりと優しい余韻を残します。こんもりと盛られたかき氷ですが、あっという間に完食してしまいました。

 

建築金具メーカーが
なぜ「かき氷機を」?

そもそも建築金具メーカーが食品関連の業務用かき氷機を製作したのは、なぜでしょうか? 開発を牽引した小林さんに伺いました。

「始まりは2016年4月、現社長と行った台湾出張でした。日本で一大ブームを巻き起こした台湾かき氷の本店へたまたま寄ることができたんです。それはもう美味しくて感動しましたよ。でも、使用している機械は案外安っぽいなと感じましたね」

そして日本に帰国。当時、創業社長の坂田省司氏が肺がんを患っていたため、小林さんは足繁くお見舞いに通っていました。振り返れば、サカタ製作所はカンナ事業で創業。当初は資金繰りに相当苦労したそうです。時代と共にカンナは電動工具にとって代わられ、現在は建築金具の製造がメインとなり、カンナは全く製造していません。創業社長にはおそらく無念の思いがあったのでしょう。「今度会社を起こすとしたら、人々を笑顔にさせる食の仕事がしたい」とステージ4の肺がんと宣告されている病床で胸の内を語りました。それを聞いた瞬間、小林さんは全身に電流が流れるように、自らの使命を深く感じたそうです。

「カンナの技術を使ったサカタ製かき氷機を作りたい、そして一番に創業社長に食べて元気になってもらいたい」――これが、かき氷機製造プロジェクトの始まりでした。

江戸時代にはカンナを裏返しにした形状の家庭用かき氷機が使われていたそう

流行のかき氷研究も欠かさない。蒼井優さん、浅田真央さんなどの芸能人がブームの火付け役とも言われている

そこからは、徹底的にかき氷機について調べあげる日々を過ごすことに。市販の業務用かき氷機を購入し、バラバラに分解しては独学で構造を理解していきました。さらに、かき氷店を訪ね歩き、店主に困ったことはないかと調査を開始。すると、かき氷機の扱いは意外と難しく、経験を積まないと食感のよい氷を削り出すのが難しいことが分かったそうです。

刃物の知識に関しては素人同然だったため、地元与板や三条の鍛冶屋さん・刃物メーカーにアドバイスをもらおうと通いつめました。与板にはまだカンナ専門の現役職人が健在で、適切な材質や刃角、刃の強さ、やわらかさ、太さ、研ぎなど多くのことを学んだそうです。

小林さんの探究心はとどまらず、県外にも赴き、かき氷の名店と呼ばれるお店で片っ端から食べ歩きをしました。東京では、1杯2,000円以上もするかき氷に行列ができている光景に、ド肝を抜かれたとか。驚くことに、このプロジェクトが軌道に乗るまでは、小林さんは自腹を切り、たった一人でこうしたリサーチを進めていたそうです。

そうして試行錯誤を重ね、2016年11月にプロトタイプが完成。さっそく病室へ持ち込み、創業社長のためにかき氷を作りました。涙ながらに「美味しい」とつぶやくその姿を、小林さんは今でも忘れられないと言います。その翌月、創業社長は帰らぬ人となりました。

創業社長の坂田氏は、サカタ製かき氷機の完成を誰よりも喜んでくれた(写真提供:サカタ製作所)

 

職人達の英知が結集!
サカタのかき氷機の特徴とは

ICE FLAKE(アイスフレーク)(写真提供:サカタ製作所)

小林さんが熱意と執念の末に完成させた業務用かき氷機、その名も「ICE FLAKE(以下、アイスフレーク)」。その最大の特徴は、鋭く耐久性がある「刃」にあります。

刃を付けたターンテーブルは、取り外して水洗いできるため衛生的(写真提供:サカタ製作所)

左が一般的な刃で、右側三点が自社開発の刃。青紙や特殊ステンレス鋼など、用途に合わせた素材で作られている

地元与板や三条の打刃物職人たち10社と連携しながら、材質や鍛造方法、角度などを研究した刃は、氷を削るのに最適な6種類。切れ味を追求した刃、耐久性のある刃、手入れがしやすい刃など、利用者が好みに応じて付け替えることが可能です。

市販されている既存メーカーの刃は、かき氷約1,000杯分で切れ味が悪くなるため、専門店で使用すると3日~1週間に1度は付け替えが必要でした。アイスフレークの刃は「切れ味が良く長切れ」するのが特徴。薄く削ることで刃が傷みにくくなるため切れ味が持続し、付け替えコストと手間を削減できます。さらに職人による刃の研ぎ直しという嬉しいサービスも。

鍛冶職人たちと共に作り上げた刃のこだわりは、こちらの動画をご覧ください。

また、機械本体は、回転速度、圧力、氷を抑える位置をプログラミングし、液晶タッチパネルで調整できる機能を搭載。削り手の技量を問わず、誰でも簡単にふわふわの氷が作れます。本体カバーは頑丈なカーボンファイバーを採用。大きく脚をえぐる構造で、盛り付け皿を回しやすく、SNS映えする大盛りのかき氷も作れます。お店に設置しておくと様になる高級感あふれるデザインも好評です。

現在は業務用かき氷機としてレンタルで提供をしており、十日町「大地の芸術祭」、新潟市「新潟まつり」など各種イベントで使用されてきました。阿賀野市「ヤスダヨーグルト」では、アイスフレークで作ったかき氷が常時販売されています。

ヤスダヨーグルト2019年夏商品の「けずり越後姫のミルクヨーグルトかき氷」(提供:ヤスダヨーグルト)

 

業界を震撼させた
職人による刃の研ぎ直し

「新潟県の刃物の産地が“本気のかき氷機”を作った」という噂は瞬く間に広まり、今や全国から問い合わせが殺到するようになったサカタ製作所。神奈川県「埜庵(のあん)」や奈良県「ほうせき箱」「日乃出製氷」などのかき氷の名店も、その鋭い切れ味に魅せられて研ぎ直しを依頼しているそうです。

支持される理由はもう一つ。実は既存のかき氷機メーカーは、刃が切れなくなると割高な替刃の購入を勧めるのみでしたが、サカタ製作所は「刃の研ぎ直し」を行い、業界に革命を起こしたのです。

「私たちの研ぎ直しは徹底していて、まず電子顕微鏡で依頼された刃の構造を調べます。すると、刃の中でもよく使う部分や傷み方が分かるので、その店それぞれの“使い方の癖”が分かるんです。その癖を踏まえて、どんな研ぎ直しが良いかご提案しています」

「新品の刃先はよく見るとザラザラして波打っていて、この引っ掛かりが氷を削っているんです。ところが、使用する度に摩耗されてフラットになると、切れ味が悪くなります。解析データで見ていただくと一目瞭然ですよね。『ここまでしてくれるのか!』とお客様に感激してもらえると嬉しいものです」

また、必ずしも新品の刃が最も良く切れるわけではなく、ある程度使い込んだ方が切れ味は良くなる場合もあるそう。これは、包丁やカンナなど他の刃物も同様で、刃の世界は奥深いことが分かります。

 

県産食材をPR!
「新潟かき氷プロジェクト」

新潟発の業務用かき氷機を通じて、ものづくりの魅力を発信しようと、オール県産にこだわった「新潟かき氷プロジェクト」も始動しています。

例えば、村上のお茶、三条市のル・レクチェや桃、西蒲区の柿やレモン、阿賀野市のバターナッツかぼちゃ、南魚沼市「八海醸造」の甘酒など、県内産にこだわった材料でシロップを試作。かき氷を盛り付ける容器は、新潟市秋葉区の「秋葉硝子」のガラス、阿賀野市の「丸三瓦工業」の安田瓦で、オリジナル容器を制作しました。カトラリーにもこだわり、三条市「マルナオ」の木製スプーン、燕市のステンレススプーンを使用します。

サカタ製作所は、繊細に削れる刃を求めて訪れる県外客が多く、新潟県産の食材や器を紹介すると喜ばれるとのこと。ぜひ生産現場を見てみたいというお客には、実際に会社見学へ連れ出すこともあるそうです。この活動は、県内の魅力を広めるために一役買っています。

新メニューの試作は、総務部の女性を中心に行っている(写真提供:サカタ製作所)

「新潟かき氷プロジェクト」で生まれた秋葉硝子と安田瓦のオリジナル容器

そしてなんと、現在は「氷」までも新潟県産にしようと奮闘中とのこと。長岡技術科学大学と連携して、究極に透明な単結晶氷の開発を進めています。他に類を見ない透明度の高い氷は、固く薄く削りやすいうえに、クリアな味わいが楽しめるそうです。

オール新潟県産の食材や器を使って、イベント販売や来客へのふるまいなどを続ける中で、県外客だけでなく地元民にも、新潟食材やものづくりの素晴らしさが広まっていることを実感していると小林さんは語ります。また、あえて流通できない「規格外品・ハネもの・B品」の果物や野菜を農家から分けてもらってかき氷シロップを作り、農作業の大変さ、もったいない精神、フードロスにつながる活動であることも伝えているそうです。

 

「働き方改革」に「新メニュー」
かき氷には無限の可能性がある

かき氷機に情熱を傾け、全国のかき氷店にも一目置かれる存在になったサカタ製作所。しかし、これで終わりではなく、やりたいことはまだたくさんあると小林さんは語ります。

「サカタ製作所では、来社されたお客様へ、新潟県産の旬食材を使った手作りかき氷を振る舞っています。食べ物の力は偉大ですよね、笑顔が生まれて取引先との関係は良好!難しい交渉ごとも不思議と円満に進むんです。

社員の昼食では、定期的に『かき氷食べ放題デー』を実施しています。企業の飲みにケーションが“かき氷コミュニケーション”に変われば、人間関係のストレスが解消され、無駄な気遣いも出費もなくなりますよ。1社に1台かき氷機があれば、社内の雰囲気が良くなり、『働き方改革』につながると信じています」

冗談のようにも聞こえますが、小林さんのまなざしは真剣そのもの。世の中の常識をひっくり返して良好なコミュニケーションをとるために、かき氷が一役買うというのは、あながち実現してしまうかもしれません。さらに、かき氷機の未来についてはこんな夢を語ります。

「レストラン業界で『凍った食材を薄く削れる道具』の需要は十分にあると思うんです。例えば、削った冷凍トマトジュレをパスタで和えたり、冷凍レモンをドルチェにあしらったり、ビールの上に薄氷をまとわせたりしてもおもしろいですよね。私たちの技術によって、創作料理を手掛けるシェフ達が新しい発想を生み出してくれると期待しています」

夏の夜空を彩り、一瞬で消える花火に生涯を掛ける職人がいるように、あっという間に溶けて無くなる氷に情熱を注ぎ、かき氷に無限の可能性を見つけた小林さん。今後、どんな革命を起こしてくれるのでしょうか。「かき氷の聖地は長岡」と称される未来はそう遠くはないのかもしれません。

 

Text and Photos: 渡辺まりこ

 

●Information
サカタ製作所
[住所] 新潟県長岡市与板町本与板45
[電話] 0258-72-0072
[HP] https://www.sakata-s.co.jp/

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