食と体験で“発酵”に浸るスペシャルな一日!「HAKKO Trip」開催レポート

2019/12/22

新潟県長岡市には数々の歴史ある蔵元と、最先端の発酵技術を有する大学や研究機関があります。これらの“発酵文化”を集結させることで、多くの人に知って楽しんでほしい――そんな想いを込めて企画されたイベント「HAKKO Trip~hakko×local×science~」が、2019年11月9日(土)に開催されました。メイン会場である「アオーレ長岡」の他、サテライト会場でも多様な企画が盛り込まれ、来場者数はなんと約5,000人!わざわざ県外から足を運ぶ発酵ファンの姿もあり、会場は大いに盛り上がりを見せました。長岡のまち中がぶくぶく発酵する一日となったイベントの様子をレポートします。

 

蔵元と飲食店がコラボした
オリジナル発酵メニュー

まず足が向いたのは、美味しそうな香りが漂うアオーレ長岡の中庭にある発酵フードエリア。個性の異なる蔵元の醬油やみそなどを使って地元飲食店がオリジナルメニューを開発し、この日限りの特別メニューが提供されました。出店したブースは、なんと17店舗。日頃は一堂に会することのない出展者が集まり、来場者のみならず、出展者もお互いに地元の多様な魅力に気づく場となっていました。

SUZU365×新潟農産の「旨辛ネギ増しモツ煮込み」。神楽南蛮を使用した調味料「なんばんしょうゆ」を使用。

SUZU365×越のむらさきの「NIIGATAトリカラ」。

Catering割烹わだの×味噌星六の「味噌おでん」。3種のみそと甘酒入り。

和ダイニング朔×三崎屋醸造の「雪国タコス」と「イチボローストビーフの味噌漬と塩麹漬」。

 

各エリアのご当地名物が集合!
地酒やクラフトビールも充実

海から中山間地域まで広い範囲にわたる長岡市だからこそ、エリアごとに食文化が異なるのが魅力。栃尾のあぶらげ、寺泊の浜焼き、山古志の神楽南蛮など、各地域ならではの名物が一堂に集いました。

揚げたてのサクフワ食感がたまらない栃尾のあぶらげ。4種類の醬油からお好みのものをかけていただきます。

寺泊名物の浜焼き。大きなイカは食べ応え満点!

山古志のごっつお多菜田の「かぐらなんばんコロッケ」。

別会場の市内飲食店にて「盛岡じゃじゃ麺」をイベント限定で用意。味噌星六のみそや長岡産野菜を使用。

米どころ新潟県において忘れてはならないのが日本酒。長岡市内16蔵の地酒飲み比べができる「長岡発酵BAR」では、華やかで繊細な大吟醸から、淡麗で飲み飽きない普通酒まで、それぞれの個性を存分に堪能することができます。あまりのおいしさに思わずぐびぐびと杯が進んでしまう人が続出!

気軽に飲める立ち呑みエリア。

栃尾産ケルナー種ぶどうを100%使用したワイン。

栃尾ワイン「T100K」のような長岡の産品だけでなく、新潟市のワイナリー「カンティーナジーオセット」や十日町市の「妻有ビール」、南魚沼市の「ライディーンビール」など近隣地域のお酒も、グラス一杯から気軽にお試しOK。遠く鹿児島県長島町からも、芋焼酎「さつま島美人」がお目見えして注目を集めました。

山古志伝統野菜のかぐらなんばんを使った調理みそなどを販売。

自然の恵みをたっぷり受けて育った山古志野菜。

手土産にぴったりの品も揃っています。地元醸造メーカーのみそや醬油、地元野菜を使用した漬物やおかずみそなどの加工品の他、朝どりの新鮮野菜まで。お店の人との会話も楽しい時間です。

メイン会場のアオーレ長岡から徒歩1分のところにある立ち飲みバーでは、長岡農業高校生が一日限りの「豚汁バー」をオープン。学生たちが丹精込めて育てた豚と、手作りの野菜やみそを使った特製豚汁の奥深い味わいに、お客さんから絶賛の声が相次ぎました。

農業高校生たちが豚を育てる奮闘ぶりはこちらの記事をご覧ください。
「育てる」から「食べる」まで—— “いのち”の全てと向き合う農業高校生たちの日々

高校生の可愛らしい笑顔にほっこり心が和みます。

ホテルニューオータニ長岡監修の特製豚汁。豚肉や野菜のおいしさがたっぷり。

 

参加者同士の交流も楽しい
体験ブースやワークショップ

発酵は食だけにあらず。体験ブースやワークショップも充実しています。

スタンプラリーは発酵仕様。麹菌や乳酸菌、酵母などの微生物スタンプが用意され、最終的にオリジナルバッグが完成するという、アトラクションとしてもたまらない企画。

こちらは長岡工業高等専門学校による「発酵足湯」。木箱におがくずを入れて微生物の力で発酵させることで、まるでお風呂のようにじんわり温か。「これも発酵!?」と驚きの声が上がっていました。

野外会場にこたつが出現!まるでおばあちゃんの家に来たようにのんびりくつろげる「漬物サロン」では、地域のお母さんお手製の漬物がずらり。お茶をすすりながらのんびりと交流を楽しむ人たちであふれていました。

温泉の足湯も登場。「長岡の奥座敷」と称される蓬平温泉のやわらかなお湯が、肌にしっとりとなじみます。ぽかぽかと心まで温まってくるようです。

長岡市における醸造のまち・摂田屋地区を写真パネルで紹介。

イベントのために集められた発酵関連本。

醸造のまち・摂田屋の写真や発酵関連本も展示されました。じっくりと発酵の世界に浸ることができます。

NPOおもいのほかと長岡造形大学のコラボで行われた「おにぎりワークショップ」

家族連れの人気を集めていたのが「おにぎりワークショップ」。用意されたたくさんの具材からチョイスし、自分好みのおにぎりを作ります。星野本店の味噌漬けや柳醸造の醤油の実のほか、煮菜の佃煮、おむすびジャム(神楽南蛮にんにく、巾着茄子ジンジャー)など、長岡らしい具材が満載でした。

 

大人も子どもも夢中になる
体感型の「発酵サイエンス」

“発酵×科学”の視点で体感できる「発酵サイエンス」も目玉企画の一つ。メイン会場のアオーレ長岡から約300m離れた場所にあるNaDeC BASEでは、長岡技術科学大学の学生などの協力のもと、見て、触れて、体験できるコーナーが用意されました。

科学者気分を味わえるミニ実験コーナーでは、卵に含まれる酵素を利用して、キラキラの結晶ペンダントを作ります。発酵のキーワードとなる“酵素”が、実験を通すことで身近に感じられます。

こちらでは発酵食品を当てる「発酵クイズ」に挑戦!ふだん何気なく口にする食べ物にも、意外な発酵食品は多いもの。大人でも全問正解するのは難しかったようです。

発酵にはつきものの“匂い”の世界も体験できます。カカオやかつお節、発酵バターを実際にくんくん嗅いでみたらどんな匂い……?好奇心を掻き立てられる体験型の展示です。

発酵デザイナー・小倉ヒラクさん監修、発酵をやさしく理解できるプロモーションビデオ。

遊びながらSDGsを学べるボードゲームは、子どもでも簡単にプレイできます。

レーザーカッターを使ったコースター作り。

粘土やペーパークラフトで火焔土器を制作する縄文体験。

その他、長岡技術科学大学が考案した持続可能な開発目標「SDGs」を学べるボードゲーム、長岡が誇る縄文文化に触れる土器づくり、レーザーカッターを使用したものづくり体験コーナーも設けられました。

五感を使っての体験は記憶と強く結びつき、「もっと知りたい」という探究心が生まれます。大人たちが真剣に遊び、子どもたちがキラキラした表情で取り組む姿が印象的でした。

 

チーズ×日本酒、甘酒、醬油
発酵のプロに学ぶ特別講座

メイン会場のアオーレ長岡会議室では、事前予約制で発酵のプロによる特別講座が開講されました。

チーズプロフェッショナル・遠藤ミホさんによる「発酵×発酵~チーズと日本酒講座」。カマンベールやコンテなどのチーズと組み合わせるのは、日本の発酵調味料である醬油やみそ。ワインではなく日本酒とのマリアージュを楽しむ、新しい世界が広がる発酵体験です。

日本発酵文化協会が開催したのは、今なお注目を集める甘酒について深く学べる「甘酒講座」。甘くなる仕組みや効用、正しい飲み方などの知識を得ることで、甘酒ライフがもっと楽しめそうです。

新潟県醬油協業組合は、醬油の原料や作り方を紹介。さらに小さなペットボトルに、醬油用の麹や塩、水を入れて仕込む「マイミニ醬油」作りも行いました。自宅でお世話をしながらじっくり発酵・熟成させるとのことで、愛着が湧いてきそうです。

 

「発酵を科学する」アイディア・コンテスト
発酵トークやパンマルシェも盛況!

会場では「第3回『発酵を科学する』アイディア・コンテスト」も同時開催。全国の高専生が発酵の新たな可能性を拓くアイディアのポスター発表をしました。一般の方でも自由に閲覧でき、学生たちが詳しく解説してくれます。コンテストでは「食品」「科学」「アート」の各分野から、優秀な研究が表彰されました。

今の発酵界を牽引するゲストによる「発酵トーク」も開催!ゲストは発酵デザイナー・小倉ヒラクさん、情報学研究者・ドミニク・チェンさん、精神科医・星野概念さん、編集者・安東嵩史さんという、異色の組み合わせです。詳しいトークの内容はこちらをご覧ください。
小倉ヒラク、星野概念、ドミニク・チェンが長岡に集結!「発酵するまち」を考えた

さらにサテライト会場である摂田屋エリア「吉乃川酒ミュージアム 醸蔵」では、日本糀文化協会による「目からウロコの酒粕講座」や発酵スペシャリストを交えての「発酵トーク」を実施。同じくサテライト会場の「サフラン酒本舗」では市内外の人気パン屋が集う「パンマルシェ」を開催し、「摂田屋まちめぐりツアー」も行われました。

発酵の魅力に多角的に迫った「HAKKO Trip~hakko×local×science~」。おいしい発酵フードを頬張り、蔵元自慢のお酒に舌鼓、五感や思考を刺激する発酵体験をすることで、発酵の楽しみ方がより広がったのではないでしょうか。今回のイベントを開催するにあたって、市内外の蔵元や企業にも数多く参画いただきました。微生物たちが相互作用することでうまみのある発酵食品ができるように、温かなつながりがあってこそ、ユニークで深みのあるイベントとなり得たのかもしれません。

先人たちが長い時間をかけて築きあげてきた発酵・醸造文化。そこには消費サイクルを超えた“大きな円環”があり、私たちの生き方や考え方にヒントをもたらしてくれます。長岡市ではまち全体を大きなラボに見立て、発酵を食文化のみならず学問、サイエンス、アートなどの視点から捉え、まちの未来を考えるプロジェクトを発動中。ぶくぶく発酵すべく、今後も様々な企画を仕掛けていきます。

 

Text and Photos: 渡辺まりこ

 

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