【長岡蔵人めぐり 第3回】「酒造り=人づくり」でV字回復!柏露酒造の伝統と挑戦

2020/3/31

新潟県内トップ、全国でも2番目の酒蔵数を誇る「日本酒のまち」長岡の16蔵と蔵人たちをご紹介していく本企画。今回訪れたのは、JR長岡駅から車で15分ほどの十日町地区にある柏露酒造です。創業270年の酒蔵を支える人々の思いを聞かせてもらいました。

由緒正しき蔵元なのに
挑戦を忘れず業績も好調

1751年創業の「柏露酒造」のラベルに輝くのは、長岡藩主・牧野家の家紋“三つ柏”。もとは牧野家御用達の酒屋で、1882年に長岡藩主の酒造蔵を譲り受けて以来、家紋の使用が許されている由緒正しい酒蔵です。「ちょっと堅苦しい雰囲気なのかな……?」とやや構えて訪れた蔵元には、自由な風がビュービューと吹いていました。

入り口で長岡藩主・牧野家の家紋“三つ柏”がお出迎え。

「“柏露」”純米吟醸 生貯蔵 無濾過生原酒は、1年間寝かせることで香り良く米の味をしっかり感じる芳醇タイプ。720ml1,650円。

「こんにちは!」「おつかさまです!!」
元気いっぱいに挨拶をくれた蔵人たちは、老いも若きも皆いい表情。いいお酒に出会えそうな予感がします。日本酒低迷の時流に反して、柏露酒造は絶好調。今季は売り上げの過去最高値をたたき出しました。特に、2019年のラグビーW杯の乾杯酒として話題を呼んだのが、出場20チームの国花や樹木をデザインした低アルコールのスパークリング清酒「HANABI」です。シュワシュワ心地良い泡と甘酸っぱい味わいは、食前酒にうってつけと国内外で評判になりました。

長岡花火をイメージしたスパークリング純米酒「HANABI」。お米の豊かな甘みと酸味のバランスが良く、ジューシーな味わい。300ml990円。

こちらがラグビーW杯の乾杯酒のデザイン。ウェールズはラッパスイセン、ロシアはヒマワリとその国と縁ある意匠となっている。

蔵のルーツを受け継ぐ定番の「柏露」シリーズ、今年から純米吟醸に統一した個性的な品目揃いの「氵(さんずい)」、地元産の酒米・越淡麗(こしたんれい)を100%使った旨み豊かな「朱鷺(とき)の舞」などのうち、全体の6割が大吟醸。家紋をあしらった高級感漂うラベルはギフト需要が高く、都内の百貨店など首都圏への出荷先が圧倒的に多くなっています。

季節限定の「氵(さんずい)」純米吟醸 無濾過生原酒。深い旨みの後、優しい甘みがすっと残る。飲み飽きず、どんな料理にも合う万能食中酒。720ml1,528円。

創業270周年を記念して造った「柏露」大吟醸 無濾過原酒 生貯蔵は、牧野家11代当主・牧野忠恭公が描いた『甲子大黒図』をラベルのモティーフに。720ml2,700円。

酒造りのノウハウは皆で共有!
“柏露流マンパワー”の作り方

近代的な設備がそろう醸造現場では、若い杜氏たちが主戦力になって酒を醸していました。

「若手も現場に立って技術をどんどん体得してもらいます。酒造りの技術は蔵人すべてで共有しますし、データもすべてオープンにしています。技術継承ができればそれが“柏露の味”になり、マンパワーは企業資産になります。若い人がいると新しい風が吹きますしね」

そう教えてくれたのは、企画開発部の白原光明さん。長年杜氏として従事してきた麹のスペシャリストであり、トークも上手。お気に入りは「氵」シリーズと普通酒×鍋の組み合わせ。

「原料処理、蒸し、麹・酒母造り、仕込み……どの工程でも大事なのは、『この工程では今日は何が必要で、今は何をするべきなのか?』と常に考え続けること。だから、ひたすら実践あるのみ。そしてそのつどコミュニケーションをしっかり取って、何が足りないのかをきちんと共有する。酒は一人じゃ造れないし、お互いの信頼関係がないと成り立ちません。酒造りにおいて一番大事なのは人作りだと、私は思っています」

作業を終えて麹室(こうじむろ)から出てきた杜氏の野田晋一郎さんにも、杜氏に求められる資質を聞いてみました。

「大切なのは最終的な判断力と、人をまとめるバランス感覚かなぁ。うちはプレーイングマネージャーが基本。僕は酒づくりの監督のほかに企画開発にも携わっているし、白原さんも杜氏時代に営業を兼ねていましたし、何でもやらされちゃう(笑)。でもきっと、それが良いんじゃないかな」

フレキシブルな人材育成こそが、蔵に吹く自由な風の正体だったのです。

柏露酒造の魅力はマンパワーの有効活用だけにあらず。越後杜氏の伝統技術を大切にしつつ、近代的な最新設備の導入にも力を入れています。昨年にはパストライザー製法の最新瓶詰め機械を導入。瓶火入れを自動化できるようになり、生き生きとした 「酒らしさ」をより残せるようになりました。「五百万石」をメインに地元の契約農家からやってくる酒米のトレーサビリティ管理もバッチリ。さらにバーのようにモダンなテイスティングカウンターまで完備するなど、時代の流れを見逃さない広い視野もまた、蔵の強みです。

幾多の苦難が育んだ
しなやかな柏露スピリット

順風満帆に見える「柏露酒造」ですが、じつは長い歴史のなかで幾多の苦難を乗り越えてきた過去もあります。1894年、長岡市で起きた平潟神社火災で酒蔵を類焼し、蔵王町へ工場を移転。越後らしい酒造りにこだわりながらも科学的醸造の研究を重ね、三千石を越える醸造量となりましたが、戦争による統制令により1943年にいったん廃業・工場売却の憂き目に逢いました。1956年に長岡で再び酒造りが始まり、1974年に現在地へ移転、高度経済成長の清酒ブームにより五千石を販売するまでになったのですが、またもや経営不振に陥ることに……。

紆余曲折のなか、転機がやってきたのは2015年。鹿児島の焼酎メーカーの傘下に入り、再生請負人として理系出身の尾坂茂社長が迎えられました。最新設備の投資、越後らしい淡麗な飲み口に昨今のトレンドである旨みを加えた新しい酒造りなど、ブランドの見直しを抜本的に行い、売り上げは徐々に右肩上がりに。蔵は復活を遂げたのでした。

地元への恩返しも忘れてはいません。市内の蔵元とタッグを組んだ「長岡飲み比べセット」の開発、長岡を拠点にするプロバスケットボールチーム・新潟アルビレックスBBの選手を招いた毎年の酒造りイベントのほか、「朱鷺の舞」シリーズの売上金の一部を「新潟トキ保護募金」に寄付するなど、地域に根ざしたPR活動も精力的に行っています。

進化を続ける老舗が生む
新しい長岡の酒に期待!

幾たびの試練を乗り越えてきた柏露酒造は、来年で270歳を迎えます。「『新潟らしい淡麗辛口のど真ん中はウチだ!』と思って一所懸命造っています」と良い顔をした蔵人たちは元気に口をそろえていました。酸いも甘いも経験したからこそ醸せる、“しなやかで飲み飽きない酒”。変化を恐れぬたくましい蔵元は、まだまだ美味しく進化するはず!と期待せずにはいられません。

 

Text: 森本 亮子
Photo: 池田 哲郎

 

●Information
柏露酒造
[住所]長岡市十日町字小島1927
[電話]0120-130-896(受付時間9:00〜12:00、13:00〜15:00)
[URL]https://www.hakuroshuzo.co.jp/
酒蔵見学は事前予約制(平日のみ)

関連する記事