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【長岡蔵人めぐり 第四回】少人数はアイデアでカバー!米作りから手掛ける恩田酒造

長岡
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2020年 4月 16日 | な!ナガオカ スタッフ

新潟県長岡市の酒蔵と蔵人をご紹介する本企画も、はや第四回目。

年々来場者が増えていた『にいがた酒の陣』が新型コロナウイルスの影響で中止になり、全国でも日本酒イベントが中止となる近頃ですが、イベント再開となる時期に向けてぜひこのシリーズで予習をしていただきたいところです。

今回訪れたのは、JR長岡駅から車で20分ほどの六日市町にある恩田酒造。小さな蔵ではありますが、そこには酒造りのひとつの“理想の形”がありました。

 

蔵から10歩で自社田!

六日市町の酒造りの理想形

「うらやましい!」

恩田酒造の現場を見て、目を輝かせる蔵人たちはきっとたくさんいることでしょう。近年の日本酒造りにおけるキーワードの一つが、「地元で育った米」。有名な生産地から酒米を運んでくるのではなく、「自分たちの土地の米と水で酒を醸そう!」というムーブメントは各地で起こっていますが、ほぼ全量自社栽培米という酒蔵は全国的にもレアです。自分たちで米を育て、精米し、酒を醸す。恩田酒造は、それらをすべて1箇所で行うことができているのです。

 

のびやかに育った酒米と

豊富な地下水で醸す“地元の味”

2020年1月、全国的な暖冬は長岡も例にもれず、深い雪に包まれているはずの田んぼは稲株が遠くまで見渡せました。

蔵のすぐ裏が自社田んぼという贅沢な環境。田植えから収穫まで全てを4人で行っている。

 

「本当ならこの時期はあたり一面、銀世界。積もった雪が2、3メートルの壁になって蔵を囲むんですけどね」

オーナー杜氏である社長の恩田紀男さんは、「こんな冬はなかなかないよ」と肩をすくめます。雪に囲まれた蔵の内部は温度が一定に保たれ、雑菌が繁殖しにくく酒質が安定するため、例年なら酒造りには絶好の環境なのです。

ギイと蔵の扉を開けると、恩田酒造の田んぼが現れます。田植えの頃の青々とした水田と山のグラデーションや、収穫の時の黄金色に輝く稲穂が蔵のすぐそばにある贅沢。すくすく育ってくれた米をいつくしみながら行う酒造りは、大変なぶん愛情もひとしおなことでしょう。

 

酒米は自家栽培の「一本〆(いっぽんじめ)」と契約農家による 「五百万石」。「一本〆」は新潟生まれの「五百万石」と「豊盃(ほうはい)」を親に持ち、米の旨みが出やすい品種。これで純米酒と吟醸酒を醸しています。また、雪深い六日市町の環境は豊富な地下水も与えてくれました。軟水がこんこんと出る井戸が敷地内に3か所あることも、蔵の自慢です。

 “自ら耕し、自ら醸す”

サステナブルな酒造り

蔵に入ると、米袋が積まれた奥で精米機が大きな音を立てて稼働しています。自社で精米する一番のメリットは、玄米から精米するため精米歩合を細かくコントロールできるということ。さらに精米で出た米粉や米ぬかは、他社へ販売するなど使い途がきちんと決められています。廃棄によるフードロスがないという点でも、時代の最先端をいっている蔵なのです。

「一本〆は何%、五百万石は何%と用途によって精米具合を細かく調整しています」。精米の工程を入社7年の喜納朝泰さんが丁寧に教えてくれた。

 

創業から145年にわたり“半農半蔵”の恩田酒造。自社の田は社長を含めた4人で栽培・収穫を行っています。さらに酒の仕込み、朝晩の掃除、瓶の洗い、瓶詰め、ラベル貼り、出荷……果てしなく、また多岐にわたる蔵の仕事の数々。なんと働き者の蔵人たちなのかと、話を聞くほどに頭が下がります。

利便性の高いコンパクトな蔵は考え抜かれた工夫がそこここに。

瓶の洗浄やラベル貼りも4人で行う。少人数で効率的に作業が行えるようスケジューリングするのも5代目オーナー杜氏の腕の見せどころ。

 

「もうね、酒米と酒造りで手いっぱいだから、今じゃ食べる米はお米屋さんで買っていますよ(笑)」

恩田社長はカラカラと笑います。

 

合理的でアイデア満載!

無駄なくコンパクトな酒造り

少人数でも合理的な酒造りができるよう、小さな蔵にはアイデアの詰まった道具が無駄なく配置されています。たとえば、蕎麦のせいろのような形状の蒸し器は精米歩合が違う米を重ねて一度に蒸すことができる優れもの。蒸し器のなかに人が入らないため米が潰れない利点もあります。

全国的にも珍しいせいろスタイルの蒸し器。大人二人が十分入れるほどの大きさ。

 

「オーナー杜氏の走りだった先代は、新しいもの好きで設備開発や投資に意欲的でした。せいろ型の蒸し器を自ら設計したり、当時最新だったアコーディオン式絞り機もいち早く導入したり。今でもすべて現役です」。

じゃばら状の自動もろみ圧搾機。全国の8割の酒蔵が使うスタンダードな機械を先代はいち早く導入したそう。

コンパクトで無駄のない蔵。見るほどに細かく考え抜かれた環境設計に「なるほど!」と膝を打つ。

使いやすくコンパクトに設計された蔵はすみずみまでフル活用されていて、あっぱれのひと言です。

 

小粒でピリリとおもしろい。

ユニークな酒でハートをわしづかみ!

“恩田式”のオンリーワンな発想は酒の銘柄にも投影されています。言うなれば、“ユニーク&チャーミング”! 旨口でちょっと甘いフルボディタイプの酒が得意。たとえば、「舞鶴 鼓」シリーズでは精米歩合を打ち出した「88」「48」や、フルーツのとろりとした甘みを感じるため「トロピカル」の異名を取る「純米大吟醸 生原酒」。さらに地元名産の肉厚の油揚げに合う酒をと造った「鶴と油揚げ」、古代米を使ったにごり酒などもラインナップ。

舞鶴 鼓シリーズから3本。(左)「舞鶴 鼓88」は8割8分磨き、通称「ハチハチ」。米の旨みがぎゅっと詰まり、洋食や中華に負けないしっかりとしたボディ。冷やはもちろん、燗でも存在感を発揮。720ml921円。(中)「舞鶴 鼓 純米吟醸48」は自社米「一本〆」100%使用。さっぱりしたなかに旨みや甘みを感じる、柔らかなバランス。肉じゃがや煮魚などの和食にぴったりだ。720ml1,382円。(右) 「舞鶴 鼓 純米大吟醸 生原酒」720ml2,078円。パイナップル、桃、バナナのようなとろりとした甘さは「トロピカル」の愛称で親しまれる。冷やでくいっと!(すべて税抜)

油揚げを背負った鶴がゴキゲンに酔う本醸造「鶴と油揚げ」。油揚げとの見事なしっくり感、ぜひ一度体験していただきたい。冷やもお燗もどんとこい。180ml278円(税抜)。

ラベルのイラストは取引先の絵を描くのが上手な方に依頼したそう。瓶によってさまざまなバリエーションがある。

小ロットながらバリエーション豊かで遊び心あふれる酒造りが、感度の高い日本酒党のハートをバンバン撃ち抜いており、海を越えたアメリカでもオリジナルラベルが人気なのだそうです。ユニークな酒造りは国内外で今後ますます注目を浴びるはず。さらに、社長は「三季醸造」、すなわち夏以外の全ての季節で醸造を行うという野望を抱いているのだそうです。これが実現すれば、個性豊かな季節の酒にもっと会えるかも……! 楽しみは尽きません。

現在輸出している“舞鶴 鼓”シリーズのアメリカ版ラベル。左が現行版で、“外国人の考える日本酒の魅力”をアメリカ人がデザイン。「私たちは右のシンプルな筆文字が良いと思っているんですが、外国の人には左のほうが受けるみたい」と社長。

「うちは“究極のスキマ産業”でいきます」

スマートに笑う恩田社長の眼の奥には、情熱の炎がしっかりと燃えていました。

 

Text: 森本亮子
Photo: 池田哲郎

●Information
恩田酒造
[住所]長岡市六日市町1330
[電話]0258-22-2134
[URL]http://maitsuru.com/
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