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住職はアーティスト!紙芝居・絵本作家の諸橋精光さんが伝える「表現の楽しさ」

アート長岡
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2016年 11月 8日 | な!ナガオカ スタッフ

お寺の住職にして絵本と紙芝居の作家、長岡にそんなユニークな人がいると聞き、柏町にある千手観音 千蔵院(せんじゅかんのん せんぞういん)を訪ねました。

観音さまに由来し、千手村と呼ばれたこの界隈。やがて門前町が形成されて千手町と名付けられ、江戸時代には長岡藩主・牧野家の祈願寺となり、中越地区の信仰の中心に。しかし長岡大空襲で町は一変。戦後の区画整理で町名も変わりましたが、越後三十三観音霊場15番札所でもある千蔵院には、いまも日々絶え間なくお参りの人々がやってきます。

そんな由緒正しき千蔵院ですが、住職の諸橋精光さんは絵の具だらけのエプロン姿で登場。さっそくその活動について語っていただきました。

02お寺の外観(正面)

千手観音 千蔵院境内入口。左側の掲示板にある「絵説法」が訪れる人の目を引きつけます。ぬくもりのある絵、味わい深い言葉も文字も住職・諸橋精光さんの手によるもの。

 

始まりは参拝者向け仏教説話の手作り絵本
301冊を作り上げ、体力と表現力を培う

——今日のスタイルは画家そのものですね。お寺で絵を描き始めたのはいつごろからでしょう。

諸橋「いつもこんな格好なんですよ。お寺の人間なのに自覚が足りないって女房に叱られるんだけど(笑)。紙芝居や絵本を作っていて、来客があると対応して、終わると戻って続きに取り掛かる。さっと気持ちを切り替えて、短時間で集中して描けるようになりました。

子供のころから絵や漫画を描くのが大好きで、東京で美術を学び油絵を描いていましたが、長岡に戻りお寺の仕事をするようになって、参拝する人たちのために仏教説話の絵本を作り始めたんです」

03待合室の諸橋さん(目線あり)

休憩中のアーティストにしか見えませんが、背後のモニターには、節分追儺式での住職の凛としたお姿が映し出されていました。

諸橋「言葉だけで伝えられないもの、絵だけで伝えられないものも、言葉と絵が響き合うことで伝えられます。ネタが尽きてきたころ、40巻くらいある『仏教説話大系』に出合い、仏教がお話の宝庫だとわかって。大鉱脈を発見した気分で興奮しました(笑)。

いいお話がいっぱいで、これを月に一度出していくことは意味があるんじゃないかって。最初はコピーをホッチキスで留めた50部ほどの手作り絵本でした。絵本制作はけっこう大変な作業で、やってるうちにどんどん体力がついて表現力が養われ、ますますおもしろくなってきて、27年間で301号になりました」

04仏教童話ラック

1981年から27年間にわたり諸橋さんが作り続けた「仏教童話絵本」。お釈迦さまが前世に菩薩として修行していたときの「ジャータカ物語」シリーズ、「お釈迦さまの話」シリーズなど、その数なんと301作!

05仏教童話3冊

ユーモラスで力強い絵の力はさることながら、物語の構成とわかりやすい文章も秀逸。千蔵院で誰でも手に取り、1冊100円で購入することができます。

 

地域の子供たちのために始めた大型紙芝居
ライブの手応えが作り続ける原動力に

——紙芝居はどんなきっかけで始まったのでしょう。

諸橋「紙芝居もほぼ同時並行ですね。もっと親しみのあるお寺になればと、子供好きだったこともあって、1982年に『こども祭』を始めました。ゲームとお菓子があるから来てねとチラシを配ったら、200人以上集まってびっくり!

翌年、せっかくだからメインイベントが欲しいなと考え、子供たちが地獄極楽図に見入っていたのを思い出して、それを発展させて紙芝居を作ったらどうだろうと。お寺で絵が描ける口実を探してたんですよ(笑)。たくさんの観客に見せるために大きなものにしようと、畳1畳分(90cm x 130cm)のダンボールに2ヶ月ほどかけて18場面を描き、最初の紙芝居『地獄へ行った五平』が完成しました」

06お寺での紙芝居実演

「こども祭」での超大型紙芝居の実演。大迫力の演出も手伝って、子供も大人も釘付けに。写真提供:千手観音 千蔵院

諸橋「女房も美大出身なので、ふたりで相談しながら作っていました。私が忙しいときには代わりに描いてもらったこともあるし、最初はほとんど合作です。紙芝居は生の語りが入ることで物語が立体的になります。お寺の太鼓や銅鑼を使ったらもっと盛り上がるかなと、鳴り物を入れてリハーサルをやったら、絵に命が吹き込まれて動き出すようで、これはおもしろい! たぶん私がいちばん楽しんだと思う(笑)。

実際に子供たちの前でやってみたら、みんなピタッと固まって釘付け。観客の生の手応えをひしひしと感じて、一度やったらやめられない魅力があり、毎年のように新作を作ってきました。お寺という舞台で私も遊ばせてもらっています」

07ハケの説明をする諸橋さん

紙芝居を描く絵筆はこんなにバリエーション豊富。最初は細い筆でちまちまと、最後は太い筆で大胆に、選ぶ筆が自然に変化していくそうです。

08画材はネオカラー

絵の具はネオカラー。発色がよく、遠目からもはっきり見えてダンボールとの相性がいい画材で、光を当てると反射して絵が生き生きする効果も。

09ギターと譜面

学生時代から趣味でギターをやっていたという諸橋さんは作曲も手がけます。「絵は具象だけど音楽は抽象。その響き合いが楽しくて、最近は紙芝居にギターを付けることにハマっています」

——紙芝居にする物語は仏教と関わりのあるものとないもの、両方ありますね。

諸橋「最初は仏教説話や民話で作っていましたが、紙芝居の語りをさせたら当代一という声優の右手和子さんと出会い、その繊細で深い語りによって絵の浅さに気付かされました。そこで方向転換し、それ以降は児童文学を紙芝居の素材として選ぶようになったんです。言葉が深くてデリケートで、描くのがすごく難しいんだけど、どんどん描き込んで、私の絵もまったく異なるものになっていきました。

児童文学が内包しているものはとても大きくて、伏流水のような仏教的要素もあり、それを私が掘り起こすというか。仏教と重ね合わせながら創作するのがいちばんおもしろいんです」

10紙芝居の脚本

鳴り物の指示も細かく書き込まれている脚本。総合ディレクターとしての諸橋さんの手腕が冴え、ライブ感のある紙芝居に。『小僧さんの地獄めぐり』より。

11紙芝居の場面

上の脚本と対応する紙芝居『小僧さんの地獄めぐり』のシーン25と26。

12紙芝居『月夜とめがね』

紙芝居の最新作は小川未明の幻想的な物語『月夜とめがね』。11月26日に千蔵院で、12月には東京都内で公演を予定。紙芝居は20作以上になり、そのうち16点が通常サイズの紙芝居として出版されています。

 

表現したいのはワクワクする身体感覚
日常のちょっとした延長がおもしろい

——出版された絵本『はしれ!チビ電』と『とべ!カーピー』の物語は実話ですか?

諸橋「どちらも表面的には仏教と関係のない物語で、ベースは実体験。手作り絵本が書店に置かれる出版物になるというハードルを越えられたのは、仏教説話の絵本で培った基礎体力のおかげですね。

ガタガタッと体に伝わる路面の凸凹や、犬や猫の目線で町を眺めるおもしろさなど、五感で感じるワクワクするような身体感覚を表現したい。言葉では言えない、1枚の絵でも表現できないものが絵本では伝えられます。遥か彼方のファンタジーではなく、日常のちょっとした延長がおもしろい。そういう物語によって日常を少し違う視点で見られるのかなと。仏教もそう、視点を変えると世界の見え方が変わってくる。こんな物語も仏教も、私の中では同じ延長線上にあります」

13出版された絵本たち

諸橋さんが上梓した絵本の数々。千蔵院で手に取ることができます。

14『はしれ!チビ電』場面

もろはし せいこう作『はしれ!チビ電』(童心社)より。臨場感のあるこの場面、長岡市民なら見覚えがあるかも。旭町から弓町に抜けるガード下です。実際にこの場所で諸橋さんと子供たちが経験したことがベースとのこと。

15『とべ!カーピー』場面

もろはし せいこう作『とべ!カーピー』(鈴木出版)より。これも息子さんたちとの実体験だそう。メガネのお父さん、諸橋さんに似てます。車のナンバーはもちろん長岡。

16ポップアップ絵本

飛び出すお釈迦さま! こんな可愛らしい本もあります。ポップアップ絵本『おしゃかさま』(鈴木出版)より。

 

20年にわたり千手小学校で紙芝居を指導
混沌から湧き上がるエネルギーを引き出す

——千手小の授業では、どのように指導されているのでしょう。何年くらい取り組んでいらっしゃるんですか?

諸橋「私と息子たちの母校でもあるのですが、息子が在学していたときからだから、もう20年くらいになります。3人ほどのグループで1枚の絵を担当し、まずは下書きの鉛筆画から。ここはこうしたほうがいいよと私が指導して、描き直した絵をダンボールにトレースして、一気に仕上げる色塗りがクライマックス。汚れてもいい格好でドロドロになって、みんな絵の具と格闘です。

失敗しても重ねられる画材だから、あえて子供たちを訳わからない状態に持っていく。ぐちゃぐちゃの中からおもしろいものが生まれます。子供たちの困った状態を作り出すと、どうしよう? というところから絵の力が湧き上がってくる。上手に描ける子より、描けない子のほうが、なぜか結果的におもしろくなっちゃうんです」

17千手小での授業(お話)

千手小学校4年生の授業風景。諸橋さんの話に、みんな真剣に聞き入っています。今年は52人の児童が紙芝居作りに参加しました。写真提供:長岡市立千手小学校

18千手小での授業(キャラクター作り)

みんなで相談して作ったキャラクターを描く諸橋さん。クライマックスの色塗りには奥さまと息子さんも加わり、3人で指導するそうです。写真提供:長岡市立千手小学校

19千手小での授業(色塗り)

上演で手応えを感じてほしいから、クオリティを整えるため「口を出して手も出す」諸橋さん。まさに子供たちとの合作です。写真提供:長岡市立千手小学校

20千手小での実演

10月29日、千手小学校での学習発表会で上演された『はなさかじじい』。練習を重ねた語りで迫力のある絵が生き生きと躍動していました。

21千手小での実演(鳴り物)

ライブ演奏で心を掴む鳴り物チームも大活躍。演者と観客が一体となったグルーブを生み、紙芝居を盛り上げます。

 

お経の本当の意味はなんだろう?
描きながら思考し、初めて見えてくる

——いま取り組んでいらっしゃるご活動について教えてください。

諸橋「2005年に小学館から『般若心経絵本』を出版して、そういった仏教の経典を絵本にすることです。毎日唱えているお経の本当の意味はなんだろうと、絵本を作りながら探ってみたい。

紙芝居は宮沢賢治の『注文の多い料理店』を作っていますが、描いてみてこの話のものすごさがわかってきました。細かいところまでよくできていて、そうか、こういうことだったのか! と、それがわかってくるのが創作の原動力。国語は苦手だったけれど、絵を描くとトロい回転だった頭が急に高速回転し始めるんです(笑)。

絵本も紙芝居も描いてみるとわかる。描かないとわからない。描きながら思考することで初めて掴めるんだけど、場面が25あったとして、23番目くらいでやっとわかってくるので、それ以前の絵をぜんぶ描き直すこともあります。描きながら奥にあるものを探しに分け入って行く、それが武器でもあり、その場所へ連れて行ってくれる船でもあるんです」

22お寺の外観(看板入り)

毎週木曜に千蔵院で行われている小学生向け「こども絵画教室」は、美大卒のご長男が主宰。諸橋さんと奥さまの香也子さんもサポートしているそう。表現することの楽しさが存分に体験できるプログラムが用意されています。

11月26日には千蔵院で新作の紙芝居『月夜とめがね』のお披露目があります。また、2017年3月には見附市のギャラリーみつけで個展も。紙芝居『ごんぎつね』の原画のほか、絵本の原画展示も予定されています。2017年の手帳を買ったら、さっそく書き留めなくては。いつも以上に待ち遠しい春になりそうです。

23アトリエの諸橋さん(製作中)

『注文の多い料理店』の紙芝居を制作中の諸橋さん。一度色を塗り、墨で汚してから鮮やかに描き起こしていくのだとか。冬はお寺が忙しく、完成は来年夏の予定だそうです。楽しみ!

 

Text: Akiko Matsumaru

 

 超大型紙芝居鑑賞会『月夜とめがね』
[日時]11月26日(土)14:00〜15:00ごろ(13:30開場)
[会場]千手観音 千蔵院 長岡市柏町1-5-12
[HP]http://senzouin.jp
[料金]大人500円(お茶代、当日持参)、子どもは無料
[主催]柏シニア倶楽部
[共催]柏町2・1町内会
[連絡先]090-2981-3810(小熊)
*予約不要なので直接会場へ
諸橋精光 大型紙芝居原画展
[会期]2017年3月15日(水)〜31日(金)
[会場]ギャラリーみつけ 見附市昭和町2-4-1
[HP]https://www.gallery-mitsuke.com
[料金]無料
[電話]0258-84-7755
*3/25(土)に見附市中央公民館で大型紙芝居上演会が予定されています。
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