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長岡発の雪国名物「消雪パイプ」。驚きの仕組みとその歴史に迫る!

長岡
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2018年 3月 20日 | な!ナガオカ スタッフ

全国各地を寒波と大雪が見舞い、積雪による車の立往生や渋滞が多かったこの冬。普段は雪自体が珍しく、除雪車の備えがほとんどないような地域でもよく降り、大きな混乱を招いた。改めて道路への積雪対策が問われる場面も多く、「豪雪地帯ではどのようにしているのだろう」と思う方も多かったのではないだろうか。基本はどこも同じく除雪車による除雪が中心だが、新潟県長岡市には独特の消雪設備が備えられており、雪が降り続く際にも通行を確保できる。それがこの街発祥の「消雪パイプ」だ。

県外から冬の長岡を初めて訪れた人の多くは、道路から水が出る光景に驚く。「雪対策用にすべりにくい靴で来たつもりだが、道路にたまった水で靴を濡らしてしまった」という声を聞いたこともあるし、「冬の長岡に初めて来た方に『どうして道路にスプリンクラーがあるんですか!?』って驚かれたことがありますよ」という話も聞いた。雪の降っていない季節でも「長岡って路面という路面が茶色いですよね。最初、驚きました」と言われ、あらためて横断歩道の白い線や道路そのものが一面茶色っぽく、その風景が異様なことに気づかされた。路面の茶色は、消雪パイプから出る水に鉄分がふくまれるためだ。

茶色くなった路面。とりわけ、雪が消えたばかりの春ごろの路面は茶色い。

市民にとってはなじみ深いが、来訪者にとっては驚きの多い「消雪パイプ」。これはどのような設備で、どう管理、運用されているのか。現場に携わる方々の話をお届けする。

 

冬でも温かい地下水を利用

消雪パイプは、井戸を掘り、ポンプを設置して地下水を汲み上げ、パイプを通して道路に散水し、融雪する設備だ。地下水は冬でも13~14℃と温かいため、雪を溶かすことができる。降雪具合はセンサーで判断し、雪が降りだすと自動的に水が出て、降りやむと自動的に水が止まる(手動のタイプもある)。長岡市では、長岡駅周辺の市街地を中心にこの設備を取り入れているところが多い。

画像出典・長岡市ホームページ「消雪パイプと地下水」より。

 

消雪パイプの歴史

昭和38年(1963年)の「38(サンパチ)豪雪」での長岡市の様子 写真:長岡市

「38豪雪」写真:長岡市

長岡市は、昔からの豪雪地帯。この冬の積雪は1メートル半ほどで「久々の大雪」と言われたが、かつては3メートルを超える雪が降っていた。冬の長岡の歴史は、市民と雪との闘いの歴史だったといっていい。筆者は昭和56年の豪雪を体験しているが、降雪と屋根から下ろした雪で、小学生でも電線に手が届きそうなほどの深い雪だった。積もった雪で玄関まで階段を作り、出入りしていたのを覚えている。

「38豪雪」写真:長岡市

そうした豪雪を克服するのに最も大きく影響したのが、昭和30年代後半に誕生した「消雪パイプ」だといわれる。地下水を汲み上げて融雪する、この画期的なアイデアの考案者は市会議員の今井與三郎氏。「元祖・柿の種」の浪花屋製菓の創業者でもある人物だ。

関連記事→長岡生まれの100年米菓「柿の種」“元祖”浪花屋で聞いた誕生物語

長岡市坂之上町の市道で、公道1号となる消雪パイプが設置されたのは昭和36年のこと。その有用性は瞬く間に知れ渡り、市内では消雪パイプの導入が広がっていった。発案者の今井氏は、消雪パイプの実用新案権を昭和39年に登録。しかし翌年「消雪施設の改良と研究のために」と、その権利を長岡市に無償譲渡した。その後、長岡市も昭和44年に消雪パイプの実用新案権を一般公開し、この画期的な仕組みは全国の雪国に広がっていくこととなる。

消雪パイプを発案しながら、自らの利益を顧みず多くの人々を助けるためその権利を譲渡した今井氏。氏には「柿の種」の生みの親でありながら、商標をとらなかったという逸話もある。結果的に「柿の種」は多数のメーカーで作られ全国区の米菓となり、消雪パイプも全国の雪国に広まっていった。どちらにも今井與三郎氏の人となりがみえるようである。

写真:Yasue Kameyama

 

雪の備えは秋から始まる。
メンテナンスを見学

秋になると、長岡市内では消雪パイプの点検整備のための散水が見られる。どんなメンテナンスをしているのか。11月下旬、「消雪パイプ発祥の地」である長岡市坂之上町の点検整備を見学させてもらった。案内してくださったのは、長岡市の土木部道路管理課、道路雪対策係の稲田成浩さんだ。

消雪パイプのメンテナンスにあたる皆さん。写真中央が今回お話しくださった稲田成浩さん。

「春からずっと使っていなかった消雪パイプには汚れがたまっています。点検では水を通して、その汚れを出し、一個一個、水が出る口の水量を調節していきます」(稲田さん)

道路の端の栓が開かれて、合図とともに、設備の電源が入れられると……。

「今日はこれでもきれいなほうですね。もっとすごい茶色の水が出ることもありますよ」と稲田さん。

噴水のように勢いよく出てくる水。次第に茶色っぽさがなくなってきれいになってくる。

茶色い水が噴水のように溢れ出した。「最初は管に入っていた空気も一緒に出てくるので、こんなふうに噴水みたいになるんです。車も人も普通に通る道ですから、人にかからないように気をつけながら作業しています」(稲田さん)

水がきれいになったのを確認して、端の栓を締める。続いてはパイプの穴から出てくる水量の調整だ。

 

水の飛びすぎ、出なすぎを調整

道路上の小さな穴から出る水の飛びっぷりが写真でおわかりいただけるだろうか。飛びすぎている水に気づかず歩いて靴や服がびしょ濡れ……というのは、冬場の「長岡あるある」のひとつ。

水の飛びすぎの原因のひとつは、別の穴の目詰まりのせい。地下水の砂や鉄分、水垢などで消雪パイプの穴は詰まりやすいのだ。水の出の悪い穴に、細くとがった工具をさすと、詰まりが取れて、水が四方にバランスよく出るようになった。軽度の目詰まりならこれで直せる。

続いて、専用の工具で水量全体を調節する。強い水圧がかかるので、調節は作業をよく知っている専門の人が行う。

パイプ内の汚れの除去作業、穴の点検調整と合わせて、井戸・取水ポンプの機能確認点検と、制御盤・降雪探知機の点検をして、作業は終了。

皆さん、お疲れ様でした!

こうしたメンテナンスによって、雪が降り始めるとすぐに消雪が可能になるのだ。

2月上旬、降雪後の坂之上町の道路。消雪パイプから出る水で道路の雪は融けていてご覧のとおり。快適に通行できる。

 

限りある資源を守るために——
地下水保全のための取り組み

大いに役立っている消雪パイプではあるが、その反面、多くの地下水を使う。地下水を使うことで起きる問題と、その対策が気になって訪れたのは、長岡市環境部環境政策課。課長の宮島義隆さんに地下水保全の取り組みを聞いた。

長岡市環境部 環境政策課 課長の宮島義隆さん(左)と環境対策係 主事の松浦仁さん(右)。

「消雪パイプが使われ始めて間もなく、大量の地下水を使うことから、地下水位の低下による取水不良、井戸枯れといった問題が起きてきました。井戸の深さは20~80mなどさまざまなのですが、昔は20mくらいの浅井戸が多かったので、影響を受けやすかったのでしょう」

そこで、昭和61年、長岡市は『地下水保全条例』という条例を制定する。

「新たな節水ルールで、消雪パイプの新設時には『節水型降雪検知器(降雪センサー)』をつけることとなり、雪が降っていないときは自動的に水が止まるようになりました。散水量の基準なども決められました。節水パトロール隊もあり、5班体制で地下水の無駄使いがないか各地を見回っています」

点検整備取材で見た長岡市坂之上町の制御盤。消雪パイプ発祥の地のパネルも取り付けられている。

この制御盤の上のほうにあるのが、降雪検知器(降雪センサー)。雨と雪の区別もしっかりつくそう。

そうした取り組みの甲斐があってか、現在、長岡市では地盤沈下は鎮静化しているという。
「理由のひとつとして、長岡には信濃川が流れていますから、地下水のもとになる水が多いというのが大きいと思います。とはいえ、スポンジを使い続けると次第に吸水力が落ちて弾力が戻らなくなるように、地面も収縮が戻らなくなることもありえる。信濃川が近いからといって、安心というものではないですし、引き続き、節水対策に努めないといけません」

そういえば、今年は連日の雪で井戸の水が出なくなった日もあったという話も、市内では聞かれた。
「水を大量に使えば、地下水位が下がります。井戸の取水不良の問題は今もあります。地下水は市民共有の財産ですから、大事に使うようにしてほしいですね」

水を出しっぱなしにしない、降雪センサーが正常か確認する、など、こまめに自分の家や地域の消雪パイプの状態を確認することが節水につながるという。

ところで、14~15時と16~17時、雪が降っているのに消雪パイプからの散水が自動的にストップする時間がある。市で節水のために管理しているのだろうか。そう思って聞くと「それは東北電力さんの仕組みなんです」と宮島さん。東北電力の長岡営業所に問い合わせたところ「融雪用電力B・BⅡ」という、春から秋は電気料金がかからないが、冬、一日に2時間だけ電気をカットする融雪設備用の電気料金プランがあるのだそう。電力の使われるピーク時間帯に融雪用の電気をカットすることで、電気の設備を有効に使う仕組みだ。この電気をカットするということが、結果的に節水にもつながっているといえるかもしれない。

 

消雪設備を導入するには?
井戸の専門家に聞いてみた

長岡市には、現在2万5000本を超える井戸があるという。町内会や融雪組合、個人の家でも、現役の井戸があるところは多い。今回の大雪をきっかけに、自宅にも消雪パイプを取り付けたい、と思ったら、どのようにすればいいのだろう。

長岡市幸町にある長岡管工事業協同組合で、「長岡市さく井(い)協会」技術委員の山田新一さんにお話しを聞いた。山田さんは、井戸や温泉などを掘り当てるさく井業を主事業とする(株)NNCエンジニアリングの常務取締役でもある。いわば、地面を掘るスペシャリストだ。

写真右が、今回お話しくださった長岡市さく井協会・技術委員の山田新一さん。写真左は長岡管工事業協同組合の専務理事、山本正男さん。

――まず、長岡市さく井協会というのはどういったことをしている協会なのでしょうか?

「長岡市さく井協会は、井戸の技術をもつ会社が集まり、地下の水資源について勉強会をしたり、地域パトロールをしたり、地域ごとの揚水量や融雪技術についての知識や情報を共有するために3年前に作られた組織です」

「長岡市で融雪用の井戸が掘られてからだいぶ経って、事業が二代目・三代目に引き継がれていることもあり、ノウハウや情報を共有する必要がありました」

「地下というのは目に見えません。その地域が水の出る地域かどうか、何メートル掘れば水が出るのか、そういったことは私たち専門家でなければわからないことです。揚水量は、信濃川の東と西でも違いますし、丘陵地帯なら深く掘らないと水が出難いこともある。だから、100mの井戸を掘ってくれ!といきなり言われても困ります(笑)。どこの地域か、個人宅用なのか、工場用なのか、目的や融雪面積によって、掘る深さやポンプが変わってくるんですよ」

――では、具体的に、長岡で土地と家を買って自宅に消雪パイプを設置したいと思ったらどうすればよいのか、教えてください。

Q1.家庭用の井戸を掘るにはまずどのような手順を踏むのでしょうか?

A1.地域、融雪目的、範囲を確認します。

「井戸を掘りたい、とご相談いただくと、さく井会社は、まずその家の地域に合わせて『50m掘れば水が出ますよ』とか『100mくらい掘らないと』など判断します。続いて、融雪エリアが、アプローチだけなのか、車庫だけなのか、どの範囲の雪を消したいのか確認し、ポンプや深さを決めていきます」

Q2.金額はどのくらいかかるのでしょう。

Q2.新車一台分が目安です。

「井戸の深さや融雪範囲にもよるのですが、例えとして『車一台買うのと同じくらいですよ』ということが多いですね。例えば、50坪の家で、浅く掘っても水が出る地域だったとしたら、井戸掘りとポンプ設置で200~300万円くらいでしょうか。そこから消雪用のホースを取り付けるくらいならあまりお金はかかりませんが、地面に管を通してそこから水を出るようにする、となると、今度は管工事の出番で別費用になります」

道路の地下に消雪パイプを埋めている設備が多いが、個人宅などで、敷地の井戸から取水し、穴をあけた専用ホースで融雪する家も多い。

Q3.工期はどれくらいかかりますか。

A3. 全行程はおよそ1カ月です。

「深さによりますが、一般的には掘るのに2~3週間、その後、水の汲み上げポンプの設置などをして、全行程はおよそ1カ月ですね」

資料提供:(株)NNCエンジニアリング

Q4.井戸は一回掘ると一生使えるものなのでしょうか。

A4.一生ものではありません。ですが、メンテナンスをすることで長持ちします。

「井戸の減価償却って15年なんですよ。消雪パイプも15年。水中ポンプは電気関係の能力が落ちることもありますから、7年ですね。で、この減価償却期間のだいたい倍くらいもつ、といいます。ただし、地下水から砂が出てくるようになることもありますし、ポンプの力が落ちてもくる。なので、減価償却の期間がきたら、一度、井戸そうじをするなど、メンテナンスをするといいんです。しないよりも格段にもちがよくなります。井戸を長く使っている方は、ぜひ、メンテナンスを検討してください」

次の大雪に備えて、消雪パイプの導入を考えている方も、親や祖父母の代が掘った井戸を使っている方も、山田さんの話を参考にしてはいかがだろうか。

雪国のインフラともいえる設備である「消雪パイプ」。管のメンテナンス、地下水管理、さく井業者の方々の話から、あらためて、地下水を大切に使うことと、設備の維持管理の必要性に気づかされることが多い取材だった。

大雪に見舞われた冬がまもなく終わり、春がやってくる。

「備えあれば憂いなし」。雪への備えは、公共整備にたよるだけでなく、一人一人の心構えが必要だ。雪の重圧から解放されて肩の力を抜きたい気分もあるが、次の冬に向けて準備すべきことを私たち一人ひとりが考えていかなければならない。

 

Text & Photos : Chiharu Kawauchi

 

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