な!ナガオカ

まるで暗号!? 特殊文字に青春を刻む「速記ガール」たちの戦い

学ぶ長岡
学ぶ長岡
2018年 4月 5日 | な!ナガオカ スタッフ

話された言葉をありのままに書き記す「速記」という記述形式をご存知でしょうか? 国会中継などで見たことのある方もいるかもしれませんが、特殊な文字を使うことで、人が話すスピードに追い付いて記録できる便利な方法です。かつては学習指導要領の必須科目にも指定され、新潟県内にも10校以上の高校に「速記部」というものが存在しました。ですが、現在存続するのは長岡商業高校のみとなっています。

聞けば、部員たちは3月下旬に全国大会を控え、練習にラストスパートをかけているとのこと。どのような想いで速記に取り組んでいるのかを伺うため、長岡商業高校を訪れました。

 

半世紀の伝統を受け継ぐ
県内唯一の高校速記部

50年以上の伝統を持つ、長岡商業高校速記部。全盛期の昭和40年代には、約100名もの部員を抱えていました。当時は市役所職員にも速記術を備えた人材が重宝され、国会や県議会で議事録をとるためにも欠かせないスキルだったのです。衆参両議院ではそれぞれに専門養成所を設け、速記者の人材育成に力を入れていました。

ところが2006年に入ると参衆ともに養成所を廃止。現在は、審議モニター中継を見ながらパソコンで入力したり、音声認識システムを活用したりする新方式が採用されています。しかしながら本会議などの速報性が求められる会議では手書き方式が重宝され、いまだに国会や裁判所などでプロの速記士が必要とされています。

現在、長岡商業高校の速記部員(平成29年度)はわずか9名。全員が女子部員です。地味な活動に見えますが、実は運動部並みに練習がハードなため、途中で挫折して退部する部員も多いそうです。ですが、卒業生の中には速記技能検定に合格してプロの速記士になる人もおり、年2度開催される全国大会では、個人の部・団体の部ともに何度も優勝を経験し、高いレベルを誇っています。

 

速記部の練習に潜入!

練習部屋を訪れると、3年生が原稿を朗読している真最中でした。

読み上げられる原稿のジャンルは様々。この時のテーマは「速記について」でした。

分速300文字で2分間原稿を読み上げています。これは、アナウンサーが話すスピードとほぼ同じ速さです。

シャープペンを走らせる紙の上には、一般人には難読不能な速記文字が綴られていきます。

部員たちは読み上げられた内容を、まるで暗号のような速記文字で記します。

知らない語彙が出てきたときには、国語辞典を使って漢字と意味を調べます。

続いて行うのは、速記文字のメモ書きをもとに日本語文章に書き直す「反訳」。書き終えたら隣同士で交換し、読み上げられる正解文章と照らし合わせて間違い箇所を数えます。

記入ミスや書き漏れを赤字でチェック。こちらはゆっくり読まれた別の原稿を、1年生が速記して翻訳したもの。

このように、速記の練習は「朗読、速記メモ、反訳、採点」の繰り返しです。ミスの少ない正確性が求められ、集中力や根気が試されます。

しかし、この速さで記録する技術を習得するには最低1年はかかるもの。入部してから半年間の練習は、暗号のような速記文字をひたすら書き綴り、覚えなくてはなりません。

入部してまず初めに配布される速記テキスト。

速記方式には衆議院式、参議院式、中根式、早稲田式があり、ほとんどの高校では中根式を採用しています。

テキストは全12章で構成され、基本文字50音から始まり、長音、助詞、簡略法など、学ぶことは山のようにあります。

部活の通常練習は平日2時間と、専属講師による土曜2時間。夏休みには合宿を行い、大会前は土・日曜6時間練習になるそう。さらに、自宅での課題もあるというからストイック極まりなし。地道な努力が要される速記術は、一朝一夕では習得できないことが分かります。

 

部活の主役・2年生へインタビュー

(左)部長の土田梨花さんと(右)マネージャーの小林莉子さん。

現在、部員を引っ張っているのは2年生の土田梨花さんと小林莉子さん。これまでの速記練習の成果を発揮しようと、大会に向けて気合い十分です。二人はどのような気持ちで速記に取り組んでいるのでしょうか。

――お二人が速記部に入ったのはなぜですか?

土田 友達に誘われて、とりあえず仮入部してみたのが始まりです。
小林 先輩の誘いがあって、いつの間にか入っていた感じですね(笑)。
土田 同期は6名だったのですが、練習がハードなせいか、最後には私たち二人だけが残りました。

――毎日欠かさずの練習は大変ですよね。これまで一番苦労したことは何ですか?

土田 入部したての頃に、速記文字をひたすら覚えたことですね。基礎50音だけでもかなり苦戦しました。
小林 速記を学ぶ人なら誰もが通る道なのかもしれませんが……初めの1年間は本当に大変何ですよ。

――その苦労を乗り越えて、速記を続けて良かったことは何ですか?

土田 集中力が身に付くことでしょうか。文章をたくさん読み書きするので、作文力や語彙力も上がりました。
小林 授業でメモをとる時に、速記術が役立っています。家族に頼まれて、テレビ番組の
メモをとることもあります(笑)
土田 日常生活でも使えるから、速記は実用的な技術なんですよ。

――速記術習得を根気よく続けてきたお二人は、お互いをどんな性格だと感じていますか?

小林 梨花ちゃんは、学科の課題が忙しくて部活に出られないことが多いんです。それなのに、速記はしっかり結果を出す。きっと家でたくさん練習しているんですよね。努力家ですよ。
土田 莉子ちゃんは、頼りになるしっかり者。いつも部長の私をフォローしてくれます。

二人が支え合いながら切磋琢磨し、技術を高めてきたことが伝わってきます。個人の記録に挑む速記ですが、共に頑張る仲間がいることが大きな励みになっているようです。

 

技術力を備えた3年生と
パワーアップ中の1年生

(左)渡辺芽依さんと(右)佐々木美香さん。

こちらは秋に引退した3年生の渡辺芽依さんと佐々木美香さん。忙しい中、後輩の練習をサポートするために駆けつけてくれました。

「『な!ナガオカ』と速記で書いてもらえませんか?」とお願いしたところ、サラサラッとペンを走らせること約2秒。

え!こんなに簡単なんですか!

速記には幾通りもの書き方があり、簡略化もできるそう。「ナガオカ」の表記は他にもあり、基礎に忠実に書く場合は②の書き方、これを簡略化して③、さらに簡略化すれば①になるとのこと。3年間経験を積んだからこその技術の賜物です。

個性豊かな1年生。練習の休憩中は、お菓子を交換し合って食べるのが楽しみなんだとか。

笑顔がフレッシュな1年生は5名。最近ようやく基礎が身に付き、ゆっくり読み上げる朗読を速記して反訳できるようになったそう。専属講師からの厳しい指導を受けながら、たくましく成長してきました。「1年間頑張ってこられたのは、もはや意地だよね」と笑い合う姿が頼もしいです。

 

速記術上達をサポート
厳しくも愛のある専属講師

長岡商業高校速記部が全国的にもレベルが高い理由は、部員たちの努力の他にも、熱心な指導者の存在があります。

速記一筋40年の細川信次先生。他にも専属講師が1名います。

40年以上の指導歴をもつ細川信次先生は、元商業高校の教師。退職した現在は速記部の専属講師として、土・日曜に部員たちを指導しています。

「新潟県内の高校速記部が1校だけになってしまったからこそ、存続し続ける使命感を感じています。私の指導は少し厳しいようですが、だからこそ上達するんです」

速記部の指導に情熱を注いでいるという細川先生。おもむろに取り出したのは、手作りの問題集でした。

富士山世界遺産登録、オリンピック、新しい法律など、朗読される文章のジャンルは幅広いそう。

「大会で出題される文章は時事ネタが多いんです。だから毎日欠かさず新聞を読んで、予想問題として朗読文を作っています。これまでにヤマ勘が2度当たったことがあるんですよ」

政治、法律、医療など幅広いジャンルからなる出題文には、聞きなじみのない言葉が度々登場します。あらかじめ予想問題で慣れておくことで、大会で有利になるそうです。

2017年8月に東京で開催された全国大会。

約70名の学生がエントリーしました。

「速記部の上達は人生の楽しみです。ハードな練習なので部員たちは大変でしょうが、実は指導側もなかなか大変。家内も子どもも、私の熱の入れようにはもはや諦めています(笑)」

 

地道な努力の積み重ねが
人としての成長へつながる

速記部を温かく見守る人物がもう一人。顧問の長井浩美先生です。

商業科の長井浩美先生。顧問として部員たちを見守っています。

「速記部の部員たちは、派手で自己主張が強いタイプではありません。けれども、努力し続ける芯の強さを持っています」と長井先生。事務的なサポートを担当し、生徒たちの支えとなってきました。

商業高校は普通科とは異なり、簿記やビジネス文書など検定試験に追われています。さらに授業の宿題も多いうえに定期考査もあり、自分の自由になる時間は極めて少ないそうです。

年2017年8月の全国大会は2年生2名、3年生2名で臨みました。世界の国旗を掲げた派手な飾りつけは、中根式速記大会の伝統のようです。

2017年3月の団体成績は第三位。

「速記部で3年間やり遂げた部員たちは“存在感を放つ子”へ成長しているのを感じます。実際、就職や進学でも良い成果を出しているんですよ。厳しくも充実した練習の日々は、決して無駄ではないんですね」

 

厳しい練習を耐え抜いてきた理由とは?

かつては就職や進学に有利と言われた速記術ですが、現在ではひと昔前ほどの効力は持っていません。そんな中、部員たちが厳しい練習を続けているのは一体なぜでしょうか?

「1年目はちょっぴり辛かったよね」と二人から本音が。今では楽しさとやりがいを感じられるようになったそうです。

そんな問いに、「他の人にはない技術を身に付けたい好奇心ですね」と2年生のふたりはサラリと答えてくれました。部員たちはプロの速記士を目指している訳ではありません。しかし、目標を決めたらあきらめずに取り組む力を持っています。地道な努力ができる人のみが部員として残っているのです。

1年生はまだまだ修行中。地道な努力を続けた先に、道が拓ける瞬間があります。

速記に青春を捧げる部員たち。悩み、苦しみ、立ち止まりながらも努力を積み重ねてきました。その結果として、集中力や根気力、文章の読解力、豊富な時事知識が身に付いています。速記をマスターすることは技術だけでなく、人としての大きな成長へもつながっているようです。

彼女たちが頑張ってきた意義は、社会人になったときにこそ実感できるのではないでしょうか。自らの目標を設定して達成する力を養ってきた「速記ガール」たちなら、今後も自分らしい人生を歩んでいけるに違いありません。

 

Text & Photos : Mariko Watanabe

 

このエントリーをはてなブックマークに追加
ページトップへ