2000体以上のフィギュアがお出迎え!異色の人気店「カレーショップモカ」に潜入

2018.4.12

人には様々な趣味嗜好がある。その中でも「コレクター」と呼ばれる人たちは、ある特定ジャンルのモノを収集し続け、豊富な知識を持ち、自らの世界観を確立している。

以前「な!ナガオカ」では、和菓子店「川西屋」店主のクリアファイルコレクションをご紹介したが、他にも“すごい収集家”が存在するとの噂が……!真相を確かめに、長岡市内のとある飲食店を訪れた。

 

店主の趣味が炸裂する
異色空間へ潜入

カラフルな手書きのメニュー表が立てかけられているが、看板だけ見るとどんな店か想像もつかない。

階段脇の壁には、テレビ取材のサイン色紙がずらりと飾られている。

JR長岡駅から徒歩5分、町のメインストリートである大手通りの交差点近く。ここに、地元人なら誰もが知る有名店がある。まず目を引くのが「オバケパフェ」と銘打たれた色とりどりの壁面看板。店先には「本格欧風カレーショップ」の電飾看板がまばゆく光り、温かみあふれる手書きのメニュー表が掲げられている。屋号のロゴは昭和レトロだ。一見すると統一感のない様々な要素が独自の空間を作り上げ、白い建物は、ひっそりと佇んでいながらも存在感は抜群。仄暗い階段を上った先にあるのが「カレーショップモカ」だ。

扉を開くとノスタルジックな空間が広がる。年季の入ったテーブルや椅子、すずらん型のレトロな照明、BGMは70~90年代の懐メロ……まるで20世紀にタイムスリップしたかのような店内に並ぶのは、尋常ではないほどの数の店主のフィギュアコレクションだ。

専用ショーケースに整然と並べられたフィギュアの数々。

美しく見せるために照明はブルーライトを使用。

ショーケースで大切に保管されたフィギュアたち、その数は推定2000点以上。特撮キャラ、昭和アニメキャラ、自動車、ロボット、ノベルティグッズなどジャンルは多岐に渡る。

カメラを向けられるとまずはピース!お茶目な性格が表れている。

コレクションの主は「カレーショップモカ」店主の大崎喜代志さんだ。

1970年代に開業した「喫茶モカ」の店長を大崎さんが任されたのは、約30年前のこと。コーヒー好きの初代が名付けた「モカ」の店名通り、純喫茶としてコーヒーやケーキをメインとする店だったが、より多くのお客を満足させるため、食事メニューを据えた飲食店へと路線を変えた。味に自信のあったカレーを中心に、スパゲティ、ラーメン、炒飯など何でも作り、多い時には8人を雇って店をフル回転させたという。店名は「喫茶モカ」から「カレーショップモカ」に変更した。

カレー焼きうどん、カレー焼きそば、アパッチピラフなど、現在はないメニューも多数。

オバケパフェ。お客さんの要望から徐々にジャンボサイズへと進化していった。

さらに、内観の雰囲気も変えようとシャンデリアを外して4人掛けテーブルを導入し、奥部屋にはカラオケルームを作った(現在は倉庫となっている)という。どうやら、初めからフィギュアを飾っていたわけではなさそうだ。

「フィギュアを集め始めたのは、今から15年前。実家に眠っていたダンボール箱に、少年時代に集めたフィギュアがたくさん詰まっていたのを発見したんだ。価値が高いものも何点か残っていて、胸を躍らせたことを覚えているよ」

大のおばあちゃんっ子だったという大崎さんは、月光仮面やロボットのフィギュアを買ってもらった思い出が蘇り、ワクワクする気持ちが湧いてきたという。テレビ番組『開運!なんでも鑑定団』をよく視聴していたため、その価値の高さもある程度は想定できた。「これは面白いぞ」と、凝り性の大崎さんの心に火が付いた。

 

まだ見ぬフィギュアを求めて
収集に奔走してきた15年間

この時以来、フィギュア集めに奔走するようになった大崎さん。主な購入手段はネットオークションで、暇さえあれば出品状況をチェックし、これぞというものを次々と落札。フィギュアの聖地である「中野ブロードウェイ」や秋葉原「リバティ―」にも足繁く通った。コレクション仲間もできて情報量が増えるたびに、入手したいお宝フィギュアはどんどん増えていく……。

オバケのQ太郎、ゲゲゲの鬼太郎、モンチッチ、バットマンなど、昔懐かしい面々。

日本製ブリキのメルセデスベンツは、細部まで精巧に仕上げられている。

初めはささやかなコレクションだったが、次第にその数は膨大となっていった。店内だけでなく、自宅の一室にも数えきれないほどのフィギュアが大切に飾られている。

大崎さん自宅のコレクション。

箱に入ったまま未開封の品も多数あるそう。

不二家のペコちゃんと、エーザイのトラベルミン坊や。

最近狙っているのは、企業販促品のノベルティグッズ。店頭に出なかったものは特に価値が高いという。現在所有している中には、推定100万円近くのレア商品もあるそうだ。

 

コレクター魂を掻きたてる
フィギュアの魅力とは?

フィギュア集めにハマって早15年。大崎さんの心をつかんでやまないコレクションの魅力とは、一体何なのだろうか?


「ノスタルジックな味わいに心惹かれるんだよね。この世界は実に奥深い。いつでも高価なものが買えるわけじゃないから、最近は身の丈にあったジャンク品しか買ってないよ」

昭和を感じる看板も収集している。

特別に好きなジャンルはない、高価なものを購入して転売したいのでもない、ただ純粋に心惹かれるものを買い集めて、楽しんでいるのだと大崎さんは語る。

「完全に自己満足だよ。お客さんにフィギュア好きが多いってこともないし。凝り性だからね、好きなことはやめられない」

「フィギュアにはさわらないでください」のメッセージが至るところに。

フィギュア愛が芽生える前も、やはりコレクター魂は持っていたのだという。特に夢中になったのは、ブルドッグの置物集め。それが高じて、自宅でもブルドッグを飼うほどになったという。小動物が好きだったことから、金魚やカメのグッズも集めていた。その名残か、現在店内ではカメを飼育している。

数十年前に飼っていたブルドッグのキンブル君。写真中央の人物は大崎さんの弟。

店内に設置された水槽を優雅に泳ぐ、ブタバナガメのカメ太郎。

 

お客との交流が好きだから、
飲食店経営は最高!

実は取材中、お隣の柏崎市から20代前半の男性6人グループが来店していた。

バニラアイス、クリーム、フルーツ、チョコレート、クッキーなどが豪快に盛られた「オバケパフェ」。

彼らの目的は名物「オバケパフェ」。こちらはレベルが14段階あるうちのレベル3で小盛りサイズだが、実はすでに3分の2は食べ終えた後とのこと。これよりまだまだ上をいくビッグサイズがあるというから驚きだ。

「若い人が来店してくれるのは嬉しいね。彼らにはパワーがある」と嬉しそうな大崎さん。

「お前ら、よく食べるね~」と大崎さんは度々話しかけに行く。そして「もっと食べられるだろう」とばかりに、フルーツやお菓子を容赦なく追加するのだ。

店自慢のオムカレーと焼きカレー。鶏ガラや野菜をじっくり煮込んだスープで作るため手間暇がかかっている。

パフェを完食した男性グループは、カレーも追加オーダー。「そこまで食べっぷりがいいと気持ち良いよ」と大崎さん。華麗な手さばきでカレーを仕上げ、卓上に運んで行った。

「フィギュア集めはもちろん好きだけど、仕事も大好きでね。人生にかける割合は、仕事7:趣味3ってところかな」と語る大崎さん。人と交流するのが好きで、一見客でも常連客でも分け隔てなくフランクに話しかけるという。

過去のメニューブックやお客さんの記念写真を修めたアルバムは、今でも大切に保管している。

SNS映え抜群!オバケパフェは、若者の食欲と挑戦意欲を掻きたてる。

「オバケパフェは有名になりすぎちゃったから、もう宣伝したくはないかな……」と本音を漏らしながらも、赤字覚悟で続けているのは、お客さんに喜んでもらいたい気持ちを大切にしているからかもしれない。

「自分の店を持つことは、自分の好きにしていいってこと。人に雇われて働くよりずっと楽しい。好きなフィギュアを飾って、お客さんを驚かせるメニューを提供できるこの仕事は最高だね」

気さくな大崎さんだが、彼には客に媚びないサービス精神が宿っている。自らの趣味遍歴を店に反映させ、独自の世界観を醸し出す「カレーショップモカ」は唯一無二の存在だ。ビンテージが放つ深い味わいのように、この店もまた、時を経るごとに変化し味わいを増している。

膨大なフィギュアに惑わされるなかれ。この店の真の価値は、店主の温かかつゴーイングマイウェイな魅力にある。インパクト抜群なメニューの裏に隠れた、本格的味わいのカレーにも驚かされること間違いなしだ。あなたがまだ来店したことがないならば、まずは一度訪れてみてほしい。きっと、この店のディープな魅力にハマってしまうことだろう。

 

Text & Photos : Mariko Watanabe

 

カレーショップモカ
[電話]0258-35-3096
[住所]新潟県長岡市東坂之上町1-4-6
[営業時間]11:45~24:00
[定休日]火曜不定休
[駐車場]無し

 

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