な!ナガオカ

父が築き、息子が仕掛ける「加勢牧場」。酪農、スイーツ、福祉へとリレーは続く

加勢牧場
和島買う食べる
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2019年 2月 16日 | な!ナガオカ スタッフ

新潟県長岡市の北西部に位置する和島地域で、日本には100頭から200頭という希少な乳牛「ガンジー種」を飼育し、ガンジー牛乳で作ったアイスクリームやケーキを販売している「加勢牧場」。山あり谷あり、失敗も乗り越えて挑戦し続ける加勢さん親子が見つめる先には、誰もが幸せに暮らせる次世代のイメージがあります。経験をバトンタッチし、未来につないでいこうと奮闘する酪農家の取り組みを取材しました。

 

ジェラートにする?それともケーキ?
魅惑のスイーツショップ開店

2018年10月5日、国道116号線・和島バイパス沿いに一軒家のスイーツショップ「加勢牧場 わしま本店」がオープンしました。ここから車で10分ほどの場所にある加勢牧場の直営店です。

牧場のお話の前に、まずはこのお店の紹介から始めましょう。

加勢牧場

さらさらのミルクのように白く清らかな外壁が目印。釣り堀などがある「いやしの郷」敷地内の、いちばん手前にあります。

加勢牧場

取材は真冬、雪がちらつく平日の夕方でしたが、次々にお客さんがやってきました。

扉を開けると木のぬくもりが心地よい空間が広がり、正面にはケーキのショーケースとガンジージェラートのカウンター。ケーキもジェラートも、加勢牧場のガンジー牛から採れる搾りたての「ガンジー牛乳」で作られています。

加勢牧場

専属のパティシエが店内のキッチンで作ったスイーツがずらり。甘党は目移り必至!

いちごのタルト、ロールケーキ、シュークリーム、モンブラン、チーズケーキ、プリン……。「うーん、決められない!」という人は、とりあえずイートインコーナーでジェラートを食べてケーキをテイクアウトしましょう。カプチーノやカフェラテ、ホットガンジーミルクなどのドリンクと一緒にケーキを店内でいただくこともできます。

加勢牧場

ジェラートはシングル350円、ダブル600円。カップかコーンを選んで。

ガンジージェラートはストロベリー、キャラメルナッツ、抹茶、きなこ、ソルティービスケットなど、フレイバーは季節ごとに入れ替えがあり、常時10種類ほど。これまた悩みますが、一押しはスタンダードな「ゴールデンミルク」。コクがあり濃厚なのに後味さっぱりの、ガンジー牛乳の風味を堪能できる一品です。

加勢牧場

ガンジー牛乳の味を堪能したい人は「ゴールデンミルク」を。

加勢牧場

そして、ジェラートで冷えた体をホットミルクで温めて!

もう一品、おみやげにぜひとも買って帰りたいのは、「ガンジーチーズのクレーム・アンジュ」。クリームチーズにメレンゲを加えたふわふわフロマージュの中にラズベリーソースという、加勢牧場が腕によりをかけて作り上げたチーズケーキです。

加勢牧場

ガンジー牛乳とカップアイス(バニラ・ストロベリー・抹茶)。

加勢牧場

これが「クレーム・アンジュ」。ふわふわ食感をぜひ味わって!

このショップで買えるのはスイーツだけではありません。ベーコン、ハム、コーヒーシロップなど、長岡市を中心とする地元の商品も並んでいます。

加勢牧場

おみやげによさそうな地元のユニークな商品がたくさん!

バイパス沿いということもあって、さながらおしゃれな“道の駅”のよう。ぜひ気軽に立ち寄ってみてください。

加勢牧場

トイレのサインも牛マーク。

加勢牧場

棚にも牛の親子がさりげなく。

加勢牧場

お客さんを迎える“招き牛”。ガンジー牛は明るい茶色とオフホワイトのマイルドな色柄が可愛らしい。

それでは、いよいよ牧場に向かい、このお店ができるまでの物語を伺います。

 

北海道実習で抱いた憧れを即実現
18歳で酪農家になった加勢社長

加勢牧場の創業は1972年。社長の加勢勉さんが18歳のときに1頭のホルスタイン種の子牛を飼い始めた、それが始まりです。

もともと農業高校に在籍し、トラクターなど農業機械専攻だった加勢社長ですが、酪農クラブの実習先が北海道と聞いて「北海道?行ってみたい!」と急きょ参加。ひと月を過ごした酪農家の温かい雰囲気に触れて、「こんな暮らしもいいな」と憧れを抱いたのだとか。公務員など堅実な仕事に就いてほしいと願う両親の反対を押し切り、農協などの協力で子牛を手に入れ、4年後に7、8頭の牛たちを連れて現在の場所に移りました。

加勢牧場

良質な水源に恵まれた和島の山間にある加勢牧場。かつてはこの地域に30軒もの牧場がありましたが、いまではここ1軒のみとなりました。

「山を切り開いて30頭の牛舎を建てて、22歳で本格的にスタートです。2000万円くらい借金をしたのですが、親は『返せるわけない!酪農なんて』と相変わらず猛反対。隣に建てたプレハブ小屋に寝泊まりして、ずっとひとりで仕事をしていました」(加勢社長)

加勢牧場

持ち前の行動力で夢をスピーディーに実現し、18歳で酪農家になった(有)ケーエスファーム加勢牧場代表取締役社長・加勢勉さん。

 

情熱のまま、各地の牧場をお願い行脚!
執念で手に入れたガンジー牛「みちる」

28歳で結婚し、子供も生まれ、反対していた両親も仕事ぶりを認めて協力してくれるようになっていました。経営は順調でしたが、35歳を過ぎたころ、加勢社長の脳裏に不安がよぎったのです。

「当時ホルスタインが60頭いたのですが、朝から晩まで休みなく働いていたので、体がキツくて。年を取ったら、これはもう無理だろうと。利益を維持しながら仕事を軽減するにはどうしたらいいか考えているとき、イギリス原産のガンジー種のことを聞いたんです。搾乳量はホルスタイン種の半量と少ないけれど、栄養価が高く、腸が弱い人や病人も飲めるので、ヨーロッパでは付加価値の高い牛乳として人気なのだと」(加勢社長)

日本ではまったく無名な牛でしたが、那須高原の南ヶ丘牧場がガンジー種専門の観光牧場だと知った加勢社長は、すぐに連絡して牛乳を取り寄せました。「これだ!」と思い、「牛を譲ってもらえませんか」と南ヶ丘牧場に打診するも断られ、大分県のガンジーファームにも断られ、伊香保グリーン牧場にもいるという情報を得て交渉に出かけました。

「最初は断られましたが、お酒が好きそうなオーナーだったので、次は新潟の地酒を持って行って(笑)。何度か通って、『もし雌牛が生まれたら連絡するよ』と言ってくれました。1年待ってやっと連絡があり、生後1ヶ月のガンジー牛がやってきたんです」(加勢社長)

加勢社長はその牛を「みちる」と名付け、大事に育てました。その後、少しずつガンジー種を増やして現在は17頭。すべて、みちるの子孫だそうです。

 

「自分がいいなと思うものを届けたい」
自宅通勤のおかげで牧場の仕事を再発見

ところで、長男の加勢健吾さんは牧場という家業についてどう考えていたのでしょうか。

加勢牧場

加勢社長は牧場担当、新事業の代表を務めるのは“加勢牧場のこせがれ”こと加勢健吾さん。

「子供のころ、友達が休日に家族で遊びに行ってきた話をしているのに、両親が休みのない生活でどこにも連れて行ってもらえずに悲しくて。『俺は牛の世話なんてしねーぞ』と思っていたんです。父からも継いで欲しいという話は一切ありませんでした」(健吾さん)

「『俺は親に反対されても好きなことやったんだから、お前も好きなことやれ。生きる道は自分で探せ』ってね」(加勢社長)

学生時代はアスリートだった健吾さん。牧場のことはまったく念頭になく、日大文理高校から国士舘大学体育学科に進学し、卒業後はセコム株式会社に就職しました。

「新入社員は自宅通勤とのことで、ここから県内の営業所に通いました。会社の指示通りに動くサラリーマンです(笑)。火災報知器を売ってこいと言われ、ノルマを課せられコネを使ってたくさん売って。成績は良く、賞をもらったりもしたけれど、売りたくないものを売っている自分がとても嫌でした」(健吾さん)

加勢牧場

健吾さんは日本文理高校ではレスリング部でインターハイ出場経験も!

自分の仕事に疑問を感じていたとき、ふと両親の仕事が目に留まった健吾さん。これまでの考え方に変化が芽生えた瞬間でした。

「『こういうものは喜んでもらえるだろう』とか、両親は自分がいいなと思うものを作ってお客さんに届けてる!これってすごいよねと。牧場なんて嫌だと思っていたけれど、自分がいいと思うものを喜んでもらえるなんて羨ましい仕事だと思いました。旅行に行かれないとかそんなことでなく、もっと本質的な、仕事として重要な部分を垣間見ることができたんです。こういう道もありなのではと思い、父に話したら二つ返事で『いいよ』と言ってくれました」(健吾さん)

「うれしかったですよ。そのころ農業高校の研修受け入れをしていたんですが、卒業生が大人になってここを訪ねてきてくれたときに、一緒に酒を飲みながら話していて。息子にしてみれば、同じ年頃の若者たちが農業に対する夢を熱く語っていたんです。それも羨ましいと思ったんじゃないかな」(加勢社長)

「本当にそう。目標があり、そこにまっすぐに向かっている。若い頃はそういうキラキラしたものに憧れますよね。いまは逆に僕が羨ましいと言われます」(健吾さん)

加勢牧場

25歳で牧場に加わった健吾さんは新しい視点で経営を見直し、次々に提案をしていきました。それまではメーカー委託で生乳を処理し、アイスクリームやソフトクリームにして販売していた一連の工程を「自社でやろう」という健吾さんのアイデアを社長が採用。工房を建て、「ガンジージェラート&カフェみちる加勢牧場」を開店しました。しかしジェラートは、夏は利益が出ても冬は難しく、赤字ではなかったものの、5年ほどで閉店することになりました。この経験を踏まえ、健吾さんはさらに経営戦略を練り、数々のプロジェクトに邁進中です。

2016年に妻の麻子さんと共に立ち上げた、オリジナルソフトクリーム開発・製造を手がける「あいすくむり」もそのひとつ。注文殺到中の現在は新規受付をいったん休止し、7月に予定されている新工場完成を待っている状態だそうです。

「乳製品の製造と店舗の運営。農業の6次産業化(1次×2次×3次産業の利点を掛け合わせ、新しい戦略を考えること)といわれるものですが、やるべきことは実に多岐にわたります。商談会の営業活動、イベントでの販売活動もあり、自社でデザイナーも抱えていて、スタッフは全員で10人くらい。それぞれのプロフェッショナルで、みんな責任を持ってやってくれています。

10月にオープンしたショップではケーキがよく売れています。パティシエの樋口幸生さんとは10年ほどのおつきあいですが、長岡市内の人気イタリアンレストラン出身で業者さんの知り合いも多く、任せられるので助かります。新潟の百貨店さんからもお声がけいただいていて、バレンタインなど季節ごとのイベントもやっていきたいし、人員を増やしてチャレンジしていこうと思っています」(健吾さん)

 

特産品開発と障害者雇用をジョイント
誰もが安心して暮らせる社会のために

5歳と3歳、ふたりの男の子のお父さんでもある健吾さん。息子さんがもし牧場で働きたいと言ったら?

「反対しますね(笑)。長岡の牧場、新潟の牧場といえば加勢牧場と言ってもらえるようにしたいし、規模が大きくなって従業員が増えたら、上に立つ人間は血縁とかそんなことは関係なく優秀でなければ。子供だから継ぐというのは時代遅れだし、リーダーの資質を持った真面目な人が継いでくれたらいいですね」(健吾さん)

加勢牧場

牧場内で放し飼いのポニーもいます。

加勢牧場

最初の1頭「みちる」の名がここにも。

また、障害を抱えている次男のために構想中の、さらに大きなビジョンについても教えてくれました。

「子供に障害があると家族はその子の将来を心配してしまいますが、そんな障害を抱える人たちのオープンな雇用の場を創出したい。『ガンジーソフトクリーム』という地域の特産品を作っているわけですが、特産品と障害者雇用をジョイントできないかとビジネスモデルを考えているところです。加勢牧場を土台にした実験というか、それで社会全体が変わっていけばと思うんです。

個人的なプロジェクトですが、自分の子が将来仕事をするなら、こういう場所がいいよねということをまずやってみる。同じような障害を抱えた子を持つ親たちに『安心してください。大丈夫ですよ』といった社会システム。2019年も一歩進めたいと思っていて、いま34歳ですが、あと50年でそれが出来上がったら気持ち良く死ねます(笑)」(健吾さん)

加勢牧場

「毎朝4時から牛の世話をして搾乳は朝晩2回。うちの牛はおとなしい?飼い主に似るんですよ」と加勢社長は笑う。

チャレンジし続ける健吾さんを見て、加勢社長はこう言います。
「まだ私が代表者だから保証人にならないといけないけど、動くのは健吾だから気が楽です。なんでも始めてみないとね。失敗覚悟でやらなければ成功はないので」

父の懐の深さと息子のアイデア。そして、それぞれの次世代を想う気持ちが原動力となり、加勢牧場のリレーは未来へと続いていきます。

加勢牧場

 

Text: Akiko Matsumaru
Photos: Hirokuni Iketo

 

●Information
加勢牧場 わしま本店
[住所]新潟県長岡市黒坂615 いやしの郷内
[営業時間]10:00〜19:00 
[定休日]火曜
[問い合わせ]0258-74-2863(平日9:00〜17:00)
[URL]http://www.kasebokujo.com
     https://ameblo.jp/kasebokujo/(加勢牧場ブログ)
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