な!ナガオカ

米国人女性と農家のかあちゃん。二人が「食」から考える“発酵的な暮らし”とは

ながおか興し食べる
ながおか興し食べる
2019年 10月 10日 | な!ナガオカ スタッフ

「発酵・醸造のまち」を掲げる、新潟県の長岡市。全国有数の米どころである新潟県において16もの酒蔵を有し、江戸時代から栄える摂田屋エリアでは味噌蔵・醤油蔵・酒蔵などが密集。大学や企業の発酵研究機関も多数あり、“発酵スポット”として注目されています。全国的に発酵への注目は続いていますが、長岡では食品以外にもスポットを当てた取り組みをしているのが特徴。「暮らしや生き方も発酵させていこう!」という動きが加速しています。

これまでの発酵イベントはこちらをご覧ください。
発酵×食×観光でまちの魅力を発信!「長岡をRe:デザインする」イベント潜入レポ
どう働く?どこに住む?自分らしい生き方を「発酵的」視点で考えてみた

2019年7月12日に行われたトークイベント「Reborn::長岡の食」は、日本のスローフードを世界へ発信するアメリカ人女性と、長岡市山古志地区で食堂を営む女性が主役。テーマは“発酵的な暮らしのヒント”です。地域に根ざした食への想いであふれるお二人の話に、観客はぐいぐい引き込まれ、会場中に熱気が漂っていました。大盛り上がりを見せたこのイベントの様子をご紹介します。

舞台は、発酵蔵が集まる摂田屋エリアにある「秋山孝ポスター美術館」。歴史的建造物の銀行をリノベーションした空間には、鮮やかな色彩のモダンなポスターアート作品が展示されています。この日会場を訪れた参加者は、当初の定員の倍近くになった約60名。これからどんなトークが展開されていくのか、ワクワク感が伝わってきます。

 

日本の食を世界へ発信する
ナンシー・シングルトン・八須さん

はじめに登壇したのは、日本食を世界に広めるべく活動するアメリカ人女性、ナンシー・シングルトン・八須(はちす)さんです。スタンフォード大学卒業後、語学留学のため1988年に来日。現在のご主人と出会い、埼玉の農家に嫁ぐことになりました。豊かな自然環境の中で英語や食の大切さを教える幼稚園を運営する傍ら、日本の食を世界へ発信する活動を推進。2012年に出版した初の著書「Japanese Farm Food」はグルマン世界料理本大賞グランプリを受賞しました。

ナンシーさんの著書。外国人の視点による、日本食の素晴らしさを再発見できる

幼い頃から食に興味があったというナンシーさん。大学生時代はスシ・バーに通い詰めるほどの寿司好きで、英語教師として来日したのも「お寿司を食べたかったから日本に来たのよ」と冗談交じりに話します。彼女は一体どのような食の変遷を辿ってきたのでしょうか?

「日本に来て夫と知り合ってから、人生が一変しましたね。結婚して埼玉の古民家に暮らし、有機農業の野菜作りを手伝う。そして、個人経営の肉屋、魚屋、酒屋などへ買い物に行くようになり、店主さんとも仲良くなりました。彼らは、私の知らない食に関する情報をたくさん教えてくれました。今の若いお母さん達は、スーパーへ買い物に行くので、個人商店へ行く機会はあまりないかもしれませんね。

私は食べることが大好きだから、はじめのうちは外食も大いに楽しみましたよ。でも、何度も食べていると飽きてしまうんです。友人にお客としてもてなされる時も、わざわざ出前をとってもらうことが多くて……『手作りの方が美味しいのになぁ』なんてモヤモヤしていました。いつのまにか『外食よりも手作りの方が体になじむ』と感じるようになったんです。

 

“本物の食材”を使えば
シンプルな料理も極上になる

ナンシーさんが結婚してから開眼したのが、「調味料」だったとか。

「自家製野菜の滋味深さや、魚屋さんの上質な素材の味わいは分かっていましたが、味噌や醤油などの調味料は特にこだわってはいませんでした。ですが、ある時、素晴らしいレタスが手に入ったので、奮発して購入した上質なイタリア産オリーブ油と国産塩でシンプルなサラダを作ったんです。ハッと目が覚めるような美味しさの感覚は、今でも鮮明に覚えています」

その体験以来、調味料の奥深さに開眼したナンシーさん。食材の一つ一つを“本物”にすることで、シンプルな料理でもとびっきり美味しくなることに気付いたそうです。

「でもね、いくら素晴らしい醤油でもいい加減に作られた小松菜にかけたら、野菜本来の味が弱くて美味しくない。上質な醤油、有機栽培の小松菜、本枯れ節の鰹節がそろえば最高ですね。良い材料さえあれば、料理はシンプルで十分なんです。若いお母さん達には、このことをぜひ知っておいてほしいです。忙しくて意識を変えるのは難しい?大丈夫、私だって日本に来たばかりの頃は、“本物の味噌や醤油”について理解していませんでした。少しずつ知っていけばいいんですよ」

 

本の出版をきっかけに踏み込んだ
発酵調味料の奥深い世界

ナンシーさんは、自然の中で学ぶ幼稚園を運営していたため、小さなお子さんをもつお母さん方と、日常的にコミュニケーションをとっていました。「日々のお弁当作りは大変」という彼女たちの悩みを聞き、週に一度、ナンシーさんのお手製ランチを子ども達にふるまうようになったそうです。食に関する興味はどんどん高まっていき、ご主人が営むオーガニック農園も本格的に手伝うように。スローフード運動の代表も務め、その活動が周囲から注目されるようになっていきました。さらにはテレビ番組で紹介され、書籍出版依頼も舞い込みました。

「実は海外に住む友人たちから『日本のローカル料理について教えてほしい』と以前から頼まれていたので、出版する本の内容はすぐに決まりました。華やかな料理より“Honest(誠実)”な料理を目指しました。例えば、ゴマは煎ってすり鉢で擂る。シンプルな調理工程だからこそ一手間かけることが大切なんです。
本では、日本の伝統的な保存食や調味料も紹介することにしたので、私自身も醤油や味噌について詳しくなければと思いました。作り方を調べて自分でも仕込んでみましたし、県外へ蔵見学にも出向きました。自分がこれまで食べてきた発酵調味料が作られる過程を知り、誠実につくられているんだなと感動しましたね」

 

国産原料のオーガニック商品は希少!?
“本物”にこだわる理由とは

その一方、日本の発酵調味料には見過ごせない問題点も多いと指摘します。

「実は、日本市場で出回っているオーガニック味噌は、ほとんどが中国産大豆を使用しています。国産原材料にこだわるメーカーも知っているのですが……残念ながら食品表示やウェブサイトを見ても、国産の有機大豆を使っている事実が全く記されていないんですね。

『これは誰が作った大豆?』『誰が作った味噌?』本物を求める消費者が知りたいのは、まさしくここなんです。誠実に作られた材料で、誠実につくった“本物の発酵調味料”であるならば、食品表示や情報発信は正しくしていくべきです。ブランディングだけが上手で、品質がそれほどでもない発酵調味料も数多くあります。例えば、国産大豆とグレードの低い大豆をミックスさせて木桶で仕込み、高値で売られているケースも……。

海外では、消費者の大部分は、まだまだ日本の発酵食品について知識がありません。ブランディングが上手いメーカーの商品だけが並び、“本物の発酵調味料”は少ないと感じています。さらに、味噌にいたっては、大豆以外の代替材料で作られたものがスタンダード。日本産の味噌は「味が違うから買いたくない」と言われる始末。日本が誇る伝統食品が、異国の地で生まれた新種に取って代わられるのは残念としか言いようがありません。だからこそ私は“本物”にこだわりますし、海外の方に“正しい日本の食”を伝えていかなければと思っています」

アメリカ人であるがゆえに、日本人が気付かない日本食の魅力を掘り起こし、世界へ発信するナンシーさん。食材の“本物志向”は、誠実な作り手を応援するために大切だと、改めて感じさせられました。

 

山古志愛であふれる
五十嵐なつ子さん

続いて、五十嵐なつ子さんのお話です。五十嵐さんは自然豊かな旧山古志村(現長岡市)で生まれ育ちました。2004年の中越地震で壊滅的被害を受けた村を、少しでも元気にしたいと農家レストラン「山古志ごっつぉ多菜田(たなだ)」を仲間4人とオープン。山の食材にこだわった“農家のかあちゃんめし”はホッとする味わいで、地元の人はもちろん県外客にも好評を博しています。

故郷・山古志にどんな想いをもって活動しているのでしょうか?

「山古志はその名の通り山だらけ。長岡市中心部へ行くには峠越えをしなければならないほどで、いわゆる僻地です。冬は雪が深く積もるので、自給自足ができるように、食材保存の工夫がなされてきました。多菜田は12月にオープンしたのですが、食材には全く困りませんでした。かあちゃん、ばあちゃんが行っていた自給自足の術を受け継いできたおかげでしょうね」

 

慣れ親しんだ神楽南蛮が
震災復興の助けになった

山古志名物の神楽南蛮。肉厚で爽やかな辛みがある。

山古志は豊富な農産物に恵まれており、なかでも有名なのが伝統野菜「神楽南蛮」です。シワの寄ったゴツゴツした形が神楽面に似ていることから、その名が付けられたと言われています。五十嵐さんにとっても、神楽南蛮は特別な存在のようです。

「幼い頃から神楽南蛮が食卓に並んでいた記憶があります。時々、ピリリと辛すぎるものがあるから、『私には当たりませんように』と心の中で唱えながら食べていましたね。一時は消滅するのではと思われるほど、神楽南蛮の栽培量は減りましたが、震災以降は山古志を盛り上げようという動きから復活してきました。
震災から今年で15年が経ちます。当時2,000人程だった人口は、全村避難命令で帰る居場所がなくなった方も多く、今では1,000人を切っています。高齢化率は50%を超え、若い人は少ないです。そんな状況であっても、『山古志で楽しみながら暮らしていきたい』という思いは変わりません。だから、かあちゃん達は神楽南蛮を育て、神楽南蛮味噌を作ります。作って、食べて、交流をして、笑って。神楽南蛮は“山古志かあちゃんの元気印”なんです」

 

山古志暮らしは楽しい!
あふれる“かあちゃんパワー”

「私はキノコや山菜採りも大好き。毎年9月、キンモクセイの花が咲き始める頃は、あまんだれ(キノコの品種)のシーズン。ウキウキしながら山に入ります。

山古志は多少不便ではあるけれど、自然の恵みが豊か。やっぱりここが大好きで楽しいんです!私はとうちゃんを残しては絶対に死にたくなくてね、一日でも長く元気に生きていきたいなと思っています」

山古志という、決して利便性の高いわけではない土地で暮らしながらも溢れる、五十嵐さんのパワー。その源泉は、日々の営みを生きる喜びに変換するのが上手なことなのかもしれません。最後に五十嵐さんは、山の暮らしで大切なことについて教えてくれました。

「自然に囲まれた地で生きていくには、暮らしに“過干渉”が必要だと思います。実は、多菜田では週2度、山奥のお宅へ弁当を配達しているんです。お年寄りの一人暮らしの問題は深刻で、弁当を届けることは、同時に見守りになっています。伺うと、いつも喜んで歓迎してくれる。私たちの活動が、ほんの少しでも地域に貢献できているのかなと思います」

「山古志が大好き!」の気持ちであふれ、チャーミングな笑顔が印象的な五十嵐さん。気取らない性格で、彼女を本当の「かあちゃん」のように慕うお客も多いようです。明るく元気な姿に、会場中が底知れぬパワーに包まれたようでした。

 

微生物研究家を交えた
3人のトークセッション

続いて、長岡技術科学大学で微生物を研究する小笠原渉教授が進行役のトークセッションへ。

日本では、発酵食品と謳う商品にニセモノも多いと指摘する小笠原教授。海外で販売されている日本の発酵食品はどうなのでしょうか?

その疑問に対して、「海外で“本物の発酵調味料”は手に入りづらいですね」とナンシーさん。店に並ぶのは低質な商品ばかり。手作りしようと提案してみても、本来の味を知らないためか抵抗があるようです。ナンシーさんは「日本の伝統的な味が一番」と繰り返します。外国人ウケを狙って、素材や製法を変えた“変な発酵調味料”を売り出すよりも、“本物”を知ってほしいと願っているそうです。

そして、ナンシーさんが最もこだわるのが“国産”であること。大豆を育てるのは大変ですし、誠実に作ればどうしても価格は高くなります。でも、買い手がいなくなったら大豆農家は消滅してしまいます。「生産者を守らねば」との思いを込めて、何度も繰り返し「国産が大事」とお話していました。

続いて、「山古志と長岡中心部で食文化は異なるのでしょうか?」と、五十嵐さんへ質問が投げかけられました。

山古志ならではの食文化はあるそうで、例えば、長岡全域では金時豆入りの醤油赤飯がスタンダードですが、山古志では小豆の赤飯がよく作られていたそう。また、新潟の郷土料理「煮菜」に使うのは一般的な体菜ではなく、野沢菜が主流だそうです。しかし、最近ではこの山古志らしい食文化は薄れてきているのだとか。

「自給自足というのも、変化してきていますしね」と五十嵐さん。昔はおやつも手作りで、畑で採れた大豆や落花生をからりと揚げたあられにして、よく食べていたと言います。朝は台所からトントンと響く包丁の音で目覚め、「かあちゃん、どんな朝ごはん作っているのかな?」とワクワクしたそう。「貧しかったですが、食事は楽しかったですね。その頃の“美味しい記憶”は今の原点です」と五十嵐さんは語ります。

ナンシーさんが世界に発信している“美しい日本の食”とは、まさに五十嵐さんのような、地域に根付いた食をごく自然にいただく、かつての日本人にとっては当たり前の姿なのかもしれない――二人のお話を聞きながら、今ここにある豊かさに気付かされるようでした。

 

特製の山古志料理を楽しみつつ
会話もふつふつ発酵する交流タイム!

最後は、五十嵐さん特製の山古志料理をいただきます。

神楽南蛮味噌の焼きおにぎり、神楽南蛮の葉を使った“はっと煮”、ジャガイモの煮転がし、身欠きニシン、車麩とゼンマイの煮物、糸瓜の漬け物、みずの塩漬け、フキのきんぴら、枝豆など、テーブルに乗りきらないくらいのごちそうが並びます。

五十嵐さんの優しさが詰まった、素朴でほっとするお料理の数々に、皆さん箸が止まりません!

日本酒は、朝日酒造の久保田千壽や朝日山純米大吟醸、吉乃川の五百万石特別純米酒などが用意され、楽しい会話と共にお酒も進みます。会場に集った参加者は、シェフや飲食店経営者、旅館のおかみ、大学教授、発酵愛好者など、年齢も職種も様々。“発酵”を共通項に盛り上がり、あっという間に時間が過ぎていきました。

これにて「Reborn::長岡の食」は終了。参加者の皆さんはどんな“発酵する暮らしのヒント”を見つけたのでしょうか?その答えはおそらく一人一人が異なるもの。ナンシーさん、五十嵐さんの生き方を知ることで、これまでにない気付きが得られたことと思います。

発酵・醸造のまち長岡では、これからも発酵に関するイベントを続々と企画していきます。どうぞご期待ください!

 

Text and Photos: 渡辺まりこ

 

●Information
HAKKOtrip~hakko×local×sience ~
[日時]11月9日(土)10時~
[会場]アオーレ長岡、NaDeCBASE、摂田屋ほか
[内容]発酵マルシェ(飲食・物販)、発酵体験(発酵足湯、醤油仕込み体験など)、発酵トーク
[イベントページ]https://www.facebook.com/events/505356413375812/?ti=cl
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