「子ども食堂」から「地域食堂」へ。温かい食事がつなぐ世代とコミュニティの絆

2019/11/20

都会も地方も核家族化が進み、「孤食」という言葉もいつの間にか定着した昨今、子どもの貧困や食品ロスなど様々な社会問題、さらに防災・防犯、共助の観点からも改めて地域の絆を見直し、楽しく食べながら支え合おうという取り組みが全国各地で進められている。子どもと保護者が対象の「子ども食堂」から、一人暮らしの高齢者も学生も誰でもウェルカムの「地域食堂」へ。この取り組みが私たちに投げかけているものとはなんだろう? 新潟県長岡市内で展開されている3ヶ所の食堂を訪ね、食事の風景を見て体験した。

 

長岡の「食堂」の原点がここに!
熱気あふれる「新町みんな食堂」

2019年10月現在、長岡市内の子ども食堂・地域食堂は全部で6ヶ所。その先駆けとなったのが、2017年4月から蔵王地区集会場で開催されている「新町みんな食堂」だ。

このオレンジ色の旗が目印。会場の蔵王地区集会場は金峯神社社務所の隣にある。

毎月第3金曜の夜、こんもりした緑に包まれた由緒ある金峯(きんぷ)神社の一角に食堂がオープンする。17時ごろ到着すると、ちょうどボランティアの女性たちが料理の真っ最中。キッチンからおいしそうな匂いが漂ってくる。

近隣だけでなく、市内各地から集うボランティアのみなさん。ここで初めて出会って仲良くなった人たちも多い。

キッチンを覗いてみるとエネルギーが満ちあふれ、「あれ、もう茹でた?」「こっち先にやろうか」「コンロもうすぐ空くからね!」など言葉が飛び交う。

会場では、当日の13時から15時ごろまで食材の提供を受け付けている。14時ごろから集合するスタッフが集まった食材を見て「今日はなに作ろうかねぇ」と相談し、バランスを考えながらメニューを決めていくという。この日は地元の農家、スーパー、フードバンクにいがた、ライオンズクラブなどから食材が提供されていた。

食べに来る人たちも料理に参加。それが新町みんな食堂の楽しいところ。

温かい手料理の数々は、食堂に関わるすべての人たちの愛情のたまもの。

運営に当たる世話人会代表の佐竹直子さんは、「『なに作るか決めてないけど、とりあえず大根の皮をむこう』とか『私はジャガイモをやるわ』とか、毎回そんな感じで始まります」と笑う。

佐竹さんは近隣の「蔵王のもりこども園」園長でもあり、子育てを当事者だけでなく地域や社会の多世代と共に行おうと、中越地震を契機にNPO法人「多世代交流館になニーナ」を立ち上げ、育み合える場づくりに尽力してきた。地域で活動する中で家庭の孤立や貧困など様々な問題に触れ、「長岡にも子ども食堂がほしい。すべて解決できなくても、食堂があることで少し楽になる人もいるのでは」と一念発起。ネットワークを駆使して各所に協力を呼びかけ、保育関係者や地域の児童委員らと共に世話人会を組織し、新町みんな食堂をオープンした。

「今日のメニューはなんですかー?」とスタッフに声をかける佐竹さん。

スタッフから聞き取った「本日のメニュー」を紙に書き、貼り出す。

「予約を取らないから何人来るのかわからなくて。足りなくなったらスパゲッティを茹でるとか、工夫しながらやってます」と佐竹さん。「子どもたちに『あー!そっちのほうがいい!』って言われたりしてね(笑)」

キッチンでは次々に料理が完成し、盛り付けがスタート。熱気が最高潮に達し、スタッフはてんてこ舞いだ。

食材提供者や早くやってきた参加者など、手が空いている人たちもお手伝い。時計を気にしながらラストスパート。

今日のメニューは焼き鳥、春雨の中華サラダ、野菜たっぷり味噌汁、ナスのキーマカレー、油揚げ・シシトウ・ナスの煮物、野沢菜とナスの浅漬け、季節のフルーツ、イチジクジャム。贅沢なワンプレートが出来上がった。

食事開始の18時が近づくと、赤ちゃんや幼児を連れたお母さん、高齢の親を伴う人などが続々と集まり始めた。まずは受付で名前を書き、大人も子どもも1人100円の参加費を支払う。

受付は世話人会メンバーが担当している。佐竹さんの情熱と食堂の趣旨に賛同して運営に携わる人たちも含め、食堂の活動がそれぞれの居場所と出会いを創出。

盛り付けられたプレートを参加者も協力して和室へ運び、全員に行き渡ったタイミングを見計らって佐竹さんが食材の提供者を紹介。「みなさんにいただいた食材を使って、ボランティアさんが愛情たっぷり込めて作ってくれて、今日のおいしい食事が出来上がりました」。みんなで感謝して「いただきます」と声を合わせる。

佐竹さんは「新潟県子どもの居場所づくりアドバイザー」として、食堂の開設準備や運営の支援にも力を注ぐ。

「食堂は人と人をつなぐ手段で、食事をしながら助産師資格を持つスタッフに悩みを話して安心するお母さんたちもいます。子どもたちはお皿を運んだり、ほかの人の分も持ってきてもらったり、お手伝いを通じて支え合うことを学ぶ場にもなればいいですね」(佐竹さん)

この日の参加者は60人以上。多いときには100人にもなるという。
「毎月とても楽しみにしているの。家ではひとりだから、みんなと食べるとおいしいわね」と言うおばあさん。家では好き嫌いがあるのに、ここではなんでも食べるという子どもたち。知識と経験豊富なスタッフに育児相談をするお母さん。赤ちゃんからお年寄りまで多世代が集い、語り合いながら共に食べる風景は大家族の食事会のよう。にぎやかな笑い声がいつまでも食堂にあふれていた。

●Information
新町みんな食堂
[開催日]第3金曜17:00から
[会場]蔵王地区集会所(長岡市西蔵王2-6-19 金峯神社社務所隣)
[参加費]100円
[問い合わせ]新町みんな食堂世話人会 tel.0258-33-2812
[Facebook]https://www.facebook.com/shokudo.aramachi/

 

高校生ボランティアも活躍!
アットホームな「銀河食堂」

続いて長岡市内2ヶ所め、宮内地区で毎月第2土曜の昼に開催されている「銀河食堂」へ。地域で子どもたちを見守り、温かい食事と団らんを提供し、地域の様々な年代の人が触れ合える居場所づくりを目指して、ながおか医療生活協同組合が2017年11月に開設した。同医療生協は食堂の会場となっている「多機能こどもセンター銀河」を含め、長岡市内でいくつかの医療機関や介護事業所、病児保育室などを手がけ、「明るいまちづくり」「地域まるごと健康づくり」に取り組んでいる。

会場は宮内小学校の向かい側にある。

「本日10時オープン」と開催を告げる看板。

銀河食堂は10時から13時30分まで。昼食以外の時間はプレイルームで遊んだり、おしゃべりしたり。近隣にある長岡英智高校の生徒がボランティアとして子どもたちの遊び相手になり、宿題も見てくれる。キッチンではスタッフの女性たちが朝から奮闘中だ。高校生を含めて毎回10人から15人ほどのスタッフが携わる。

「おばあちゃん、肩もんであげるね!」と小学生の女の子。「あなた、上手ねぇ」「私もやってよ」などと会話が弾む。

「子どもと遊ぶのは楽しい」「ボランティアに興味があったから」と赤いエプロン姿が似合う高校生スタッフ。銀河食堂でのボランティアは高校生の社会学習の機会にもなっている。

12時になったらプレイルームから食堂に移動して食事がスタート。赤ちゃん、小学生からおじいちゃん、おばあちゃんまで、スタッフも含め30人ほどが和気あいあいと食卓を囲んだ。小学生5人、お母さん2人、高齢者6人がほぼリピーターとのこと。

料理のスタッフと高校生ボランティアも、みんなで「いただきます!」

この日のメニューは、ひつまぶし、肉そぼろ、焼き鮭そぼろ、かきたま汁、ポテトサラダ、ナスひき肉チーズ焼き、無限ピーマン、ナスの漬物、果物(リンゴ、オレンジ)。

ごはんの上に刻んだウナギで「ひつまぶし」に。食後にフルーツとお菓子、コーヒーもあり、ごちそうランチでおなかいっぱいに。

銀河食堂の代表は、ながおか医療生協くらしいきいき支援室の藤田明美さんが務める。「子ども食堂に貧困のイメージが根強くあること、また、この会場が障がい児支援の事業所であることから、地域食堂として正しく理解されていないと感じることもあります。地道にPRを続けて、本当に必要な人に食べに来てもらえる食堂になりたいですね」

「毎回来てくれる人たちにとっては、銀河食堂は定着したと思います」と藤田さん。子育て家庭への目配り・心配りも大切だ。

料理を担当するスタッフは生協の組合員のほか、市内各地から集った女性たち。提供された食材を活用して毎回おいしい手料理を振舞う。「どんな食材が届いても、料理上手なスタッフがオリジナルのひと品を作ります。最初は食べ残していた子も残さず食べてくれるようになりましたよ」と藤田さんはにっこり。

スタッフと藤田さんの明るい笑顔に会いにやってくる人たちにとって、銀河食堂はなくてはならない場所だ。

●Information
銀河食堂
[開催日]第2土曜10:00から
[会場]多機能こどもセンター銀河(長岡市宮栄3-17-15)
[参加費]高校生まで100円、大人300円
[問い合わせ]ながおか医療生活協同組合 くらしいきいき支援室 tel.0258-30-1161

 

チャペルで楽しいイベントも開催、
和やかな雰囲気の「子どもみらい食堂」

最後に訪ねたのは、長岡市内で3ヶ所めの地域食堂として2018年9月に四郎丸地区に誕生した「子どもみらい食堂」。長岡市立中央図書館のすぐ近くにある長岡聖契キリスト教会で、概ね第4土曜の昼に開催されている。

中央図書館に近いキリスト教会が会場。

のぼり旗は食堂ごとにデザインも様々。

目的として掲げるのは「食を通じて、地域の子どもたちの生きる力をはぐくむ」。食堂を切り盛りする運営委員は全員主婦で、毎回10人ほどが運営に参加している。

この日はフードバンクにいがた長岡センターによるフードドライブ(寄贈品を集める活動)が行われ、食材を持ち寄る人たちが次々に教会を訪れていた。食品ロスを減らし、食材の寄付を通じて人と人を結ぶフードバンクが子ども食堂・地域食堂の運営に密接に関わり、活動をサポートしている。

寄付に訪れた人やフードバンク担当者と言葉を交わす「子どもみらい食堂」代表の日吉均子さん。

「貧しい人たちが集まる場ではなく、ひとつの市民活動の場として理解してもらえたら。子どもたちが気軽に参加できるように毎回プチイベントを企画したり、フードドライブを開催したり。たくさんの方々に食堂の活動を知っていただき、みなさんにいろいろな形で参加・協力していただけたらと願っています」(日吉均子さん)

食堂の黒板には、この日の料理に使用された食材と提供者の名前が書かれている。

たくさんの人たちの善意と愛が食堂の運営を支える。

この日は2階のチャペルで「プラレールで遊ぼう」というイベントもあり、子どもたちや家族連れで賑わった。

長岡大学米山ゼミによる企画「プラレールで遊ぼう」。子どもたちはもちろん、お父さんも夢中!

2階のチャペルでは子どもたちがはしゃぐ声が響き、1階のキッチンでは料理に奮闘する女性たちの声が飛び交う。

受付から移動して均子さんもキッチンで料理に参加。朝から大忙しだ。

12時前になり、チャペルで遊んでいた子どもたちに呼びかけると、みんな1階のカフェテリアに集まってきた。
この日はワカメとシャケが入ったまぜごはん、チキンナゲット、かぼちゃサラダ、ジャガイモのきんぴら、味噌汁とフルーツという豪華メニュー。

「おいしそう!早く食べたいな」の声も。

そして、均子さんの夫で主任牧師の日吉真実さんが感謝の言葉を述べ、食事が始まった。どの食堂でも「いただく」ことへの感謝の気持ちは欠かせない。

「子どもを取り巻く現状のために何かしたいと、できるところから始めた活動ですが、スタートして1年半が過ぎ、小さな子どもたちが大学生や高校生など若いボランティアと交流したり、子育て中のママたちもたくさん参加してくださったり。多世代にわたる地域の方々の居場所となり、交流の場となっていて、とても嬉しいことですね」と均子さんは微笑む。

長岡聖契キリスト教会では、毎月第2土曜の10時から11時30分まで、妊娠中の女性と未就学児のお母さんを対象にした「ママカフェ」も開催。ベビーシッターもいるので子連れで気軽に参加できる。

「じゃあ、みんなで、いただきます」。一緒に感謝して味わうことで、旬の味覚が盛りだくさんの食事はいっそうおいしくなる。

●Information
子どもみらい食堂
[開催日]概ね第4土曜11:00から
[参加費]高校生まで100円、大人300円
[会場・問い合わせ]長岡聖契キリスト教会(長岡市学校町1-10-31)
tel. 090-2236-3153(日吉さん)
[Facebook]https://www.facebook.com/kodomomiraishokudo/

長岡市内にはほかに四郎丸コミュニティセンターでの「しろうまる食堂」、塚山地域活性化センターでの「塚山みんな食堂」、寺泊コミュニティセンターでの「寺泊みんな食堂」があり、いずれも第2金曜の夜に開催されている。
一緒に楽しく食事をしたい人、料理など運営をサポートしたい人、食材の提供ができる人、自分の地域で食堂を開設したい人。子ども食堂・地域食堂は、あらゆる人たちを結び、地域の絆を育む。ぜひ近隣の食堂に出かけて、温かな雰囲気とおいしい食事を体験してほしい。どの食堂もきっと笑顔で迎えてくれるはずだ。

また、長岡市では11/22(金)14時から15時ごろまで、さいわいプラザ6階の604会議室で「子ども食堂情報交換会」を開催。参加を希望する人は、11/21(木)までに子ども家庭課へ申し込みを(tel. 0258-39-2300)。

 

Text & Photos: Akiko Matsumaru

 

関連する記事