【教えて!ご主人】腕利きのコーヒー焙煎人が「地方の商店街」を選んだ理由

2016.8.27

新潟県のほぼ中央に位置する与板は、長岡駅から車で30分のところにある、東西を信濃川と三島丘陵に挟まれた水と緑のまち。戦国時代には大河ドラマ『天地人』の主人公・直江兼続が城主を務めた城下町で、現在は6,500人が暮らしています。敵の侵入を食い止めるために作られた鍵型の曲がり道が現在も残り、歴史を今に伝える風情たっぷりの商店街は、どこかゆったりと時間が流れるような雰囲気。

この通りの一角に、真っ青な外観が目を引く一軒のお店があります。店の名は「ナカムラコーヒーロースターs」。コーヒーの焙煎所と小さなカフェを併設したお店です。一歩中に入ると、真っ白な店内にずらっと並ぶ10種類以上の豆。そして、ドーンと黒光りしながら存在感を放つ、大きな焙煎機。これだけでも、このお店のこだわりが伝わってきます。

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この「ナカムラコーヒーロースターs」は、コーヒーの銘柄それぞれに特有の個性を楽しめると評判ですが、それもそのはず。店主の中村一輝さんは、業界でも名高いコーヒー専門店「丸山珈琲」で焙煎を任されていた、日本トップクラスの焙煎人なのです。焙煎技術を競う国内大会でも上位入賞を果たす腕の持ち主で、2年前に独立してこの与板にお店をオープン。常に最前線であり続けるために、焙煎機の前に立ち続けるストイックな毎日です。

中村さんは同じ新潟でもお隣の三条市出身。お店を出すまで、与板はおろか長岡とも縁はありませんでした。全国に名の通った腕利きの焙煎職人が、関東でもなく、ましてや長岡の中心市街地でもなく、与板を選んだのは、いったいどうしてなのでしょうか? 気温30度超えの暑い日に、どっしりしつつもまろやかな味わいのアイスコーヒーをいただきながら、店主で焙煎人の一輝さんと、奥様でバリスタの綾子さんにそのわけをうかがいました。

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注文が入ってから豆を挽き、一つ一つの工程を丁寧に経て、運ばれてくるコーヒー。様々な表情をもつ初めての味わいに驚くことも。

大学4年になってからコーヒーのおいしさに開眼

一輝さんが、コーヒーのおいしさを知ったのは、大学4年生の時。それまでは、缶コーヒーやコーヒー牛乳ばかり飲んでいたそう。「たまたま手元にあったドリッパーを使って友達と淹れたコーヒーが、すごくおいしかったんです。それ以来、毎日自分で淹れて飲むようになりました。これがきっかけですね」DSC09354

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大学を卒業後、一旦は他の業界へ就職するもコーヒー熱は冷めず、転職。縁あって、長野県の軽井沢町にある株式会社丸山珈琲の焙煎人としてコーヒーの世界に足を踏み入れました。「焙煎人になりたかった私にとってはど真ん中の焙煎人募集の求人だったので、すぐに応募しました。丸山社長も、僕がサービスに向かない人間だと見抜いていたと思います(笑)」

こうして、一輝さんの焙煎道が幕開け。「はじめは独立することをそんなに意識していませんでした。その時がきたら考えよう、とにかく今は、ここで頑張りきろう。それだけでした」

一般的には1日15~20窯という回数、焙煎機を回せれば上出来のところを、一輝さんは効率的な作業と素早い動作で懸命に窯を操り、入社3年が過ぎる頃には、1日30窯をこなせるようになっていたそう。

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ドリンクサービスを行うバリスタの経験を深めるべく丸山珈琲へ入社した綾子さんと出会い、結婚。「休憩室から見る一輝さんは、いつも忙しく走り回っていました 」と話す綾子さん。お互いにコーヒーと向き合う姿勢を刺激にしながら、喧嘩もあり、コントもありで、いつも寄り添う名コンビです。

 

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