ウサギ狩りから「食べること」の意味を学ぶ。豪雪地帯で体験する狩猟ツアー・前編

2017.3.15

雪深い新潟県の山間部に位置する長岡市の川口地域は、いまもなお山暮らしの知恵が暮らしに生きているエリアです。その暮らしぶりを体験することができるのが、Iターン留学プログラム「にいがたイナカレッジ」が長岡市川口地域で主催する「狩猟・冬の暮らしツアー」。

「巻狩り」と呼ばれる伝統的な手法を用いた狩猟に実際に加えてもらえる狩猟同行、仕留めた獲物のジビエ料理、この土地で普段食べている料理をみんなで楽しめるなど、普段は滅多にできない雪国の冬の暮らし体験がたくさん詰まったツアーです。

今回は、2017年2月に行われたこのツアーに実際に参加。山の暮らしを少しだけ体験したルポをお届けします。

※本記事は、狩猟の描写がありますのでご注意ください。

 

スタートは古民家から

本ツアーの寝泊まり、食事などの拠点となる古民家。

本ツアーの寝泊まり、食事などの拠点となる古民家。

まずは、ツアーの開始場所である古民家に集合。こちらは、別の地域にあった築120年の古民家を移築して建てられた施設で、地域文化の伝承を行う拠点として使われている、重厚な建物です。今回のツアーでは、ここが拠点となります。

同行させてもらう猟師のみなさんとの顔合わせの後、チーム分けが行われます。参加者は23名。ほとんどが県外からで、首都圏など関東を中心に、遠くは九州からの参加者もいます。

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猟師さんたちも続々と到着します。その独特のたたずまいに、会場内からは「かっこいい!」「渋い……!」などの声が。

川口のなかでも狩猟の文化を色濃く残すのは荒谷(あらや)という地区。猟師さんのうち何人かは、この荒谷地区にお住いの方たちです。ちなみに荒谷では、ほとんどが「宮」さんという名字! そのこともあって、猟師さんたちは基本的に名字ではなく名前で呼び合います。

にいがたイナカレッジの阿部巧さん。

にいがたイナカレッジの阿部巧さん。

主催者であるにいがたイナカレッジ・阿部さんの挨拶からスタート。新潟市出身の阿部さんは、結婚後、長岡市の川口地区に移り住み、山暮らしの達人から昔から受け継がれてきた暮らしの知恵や技を学ぶイベントを多数企画。今回のツアーもその一環です。

 等高線が描かれた地図。4つのルートから獲物を「巻く」ように追込み、4点が合流する谷で仕留める作戦。

等高線が描かれた地図。4つのルートから獲物を「巻く」ように追込み、4点が合流する谷で仕留める作戦。

まずは地図上での作戦会議からスタート。「巻狩り(まきがり)」と呼ばれる狩猟手法で、獲物を四方から取り囲み、囲いを縮めながら、撃ち手が待ち構えているところに追い込んで捕えるやり方です。全国各地で見られる手法で、鎌倉時代では武士が遊猟を兼ねた軍事訓練として巻狩りをおこなっていたともいいます。山の多い日本の地形を活かした、古くから伝わる伝統的な狩猟法なのです。

今回は、4つのルートから山を駆け上りウサギを徐々に追い込んでいく「勢子(追い手)」と、あらかじめ追い込み予測ポイントに待機し、猟銃で獲物を仕留める「射手(撃ち手)」とに分かれ、狩猟を行います。

下から上へと伸びる4本の赤い線が勢子のルートです。狩猟・冬の暮らしツアーでは、この4つのルートのいずれかに分かれ猟師さんとともに実際の狩りを体験します。詳しくは後述しますが、これがなかなか体力の必要な重労働! 体力に自信のない方は、撃ち手役の猟師さんたちとともに上で待つこともできます。

 

かんじき履いて、山に分け入る!

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各ルートに分かれてスタート! 筆者が加えていただいたのは「2班」。写真右側に見える雪山に分け入っていきます。この日はあいにくの天気で、途中何度か吹雪くことも。あまりにも天気が悪いと動物たちも隠れてしまいますが、はたしてウサギは見つかるのでしょうか。

雪山の必須装備、かんじきをもちろん装着。

雪山の必須装備、かんじきをもちろん装着。

もちろん、普通の靴で雪山に入ることは不可能です。そこで登場するのが「かんじき」。これさえあれば、雪の積もった山であってもびっくりするほど簡単に歩いたり登ったりすることができます。

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いよいよ雪山に入っていきますが……目の前にあるのは、急な斜面だけ。「え? ここから?」と、参加者の多くがびっくりしながらゆっくりと歩を進めていきます。

アップダウンの激しい傾斜をひたすら進んでいきます。

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ふと横をみると、スキー場の急斜面のよう。これはきついです。

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さらに、ところどころ足元が緩くなっている箇所があり、足を取られる参加者さんも。

30分ほど歩いたとき、先頭を行く猟師さんの足が止まります。そして、「お。居るみてえだな」と一言。一同に緊張が走ります。どこかに痕跡を見つけたようです。

「さて、どっちに行ったろっかな……」

猟師さんは「ホーッ、ホーッ」という独特の声を上げながら再び山を登り始めました。これは、ウサギを追い込むために発する勢子の掛け声なのです。私たちも真似をして、一緒に声を発します。

ウサギは上へ上へと逃げる習性をもつ。登っている方向へ足跡が向いていれば、追い込んでいる証拠。

ウサギは上へ上へと逃げる習性をもつ。登っている方向へ足跡が向いていれば、追い込んでいる証拠。

猟師さんは、ウサギの足跡を発見していました。「どっちに行ったか」というのは、ウサギが上へ行ったのか、それとも下に行ってしまったのか、ということ。下に行ってしまったとすれば、勢子の包囲網をくぐり抜けて逃げられてしまった可能性があるのです。

足跡発見後はペースを上げ、さらに奥へと歩みを進めます。

猟師さんはトランシーバーで別の班と連絡を取り、ペースの調整などを行なっていきます。この頃には、天気が一段と悪くなり、時おり雷が鳴ることも。

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横方向からも「ホーッ、ホーッ」という声が聞こえてきました。

目で確認できるほどの距離に、隣の班の姿が見えます。地図上では、勢子のルートを意味する4つの赤線が最終的に絞られます。隣の班の姿が見えたということは、いよいよ追い込みポイントへと近づいてきたはずです。

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ひたすら道無き道を登っていた我々の目の前に、突然急勾配が現れました。目の前には、四方を小高い山に囲まれた谷が広がっています。ついに追い込みの最終段階、集合ポイントに到着したのです。

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「よし、ここらで待機だな」

猟師さんの一声で一旦、ストップします。

「(なかなか姿が見えないので)ウサギも木の陰で休憩してるんじゃないかな」

時おり、そんな冗談を交えながら、楽しく私たちをリードしていただいたのは、猟師歴35年の宮清一さん。物腰がとても柔らかく、「猟師=豪快」という勝手なイメージを抱いていた私のイメージは、良い意味で裏切られました。

「猟で大事なのは、射撃の腕前っていうよりも……事前の打ち合わせらね。ひたすらミーティングらて(笑)!」突然の横文字登場のギャップに、参加者からも笑い声があがります。

しかし、このとき清一さんは、笑いながらも極めて大事なことをおっしゃっていたのだ、と、後で思い知らされることになります。

なんでも気さくに教えてくれる清一さん。

なんでも気さくに教えてくれる清一さん。

とても気さくな清一さん。「猟銃って、いくらで買えるんですか?」などの参加者の質問にも丁寧に答えてくれました。

清一さんが使用する銃は、約30年前に友人から受け継いだもの。日々の手入れを欠かさずに、大切に使用してきた大切な相棒なのです。ちなみに、同じようなモデルの銃であれば、数万円程度で購入できるとのことでした。意外と安いのです。これには参加者の皆さんも驚き。

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向かい側の山をよく見ると、オレンジ色の物体がわずかに動くのが見えます。撃ち手役の猟師さんです。他にも3箇所で待ち構えているはずですが、吹雪が強くなってきたために視認できません。しかし、トランシーバーでは「配置完了」といったやりとりが交わされている模様。追い込みの準備がついに整ったようです。

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谷底に目をやると、1班の姿が見えました。1班いよいよラストスパートです。4つの班が徐々に狭めていった包囲網の中にウサギが入っていれば、谷の傾斜面しか逃げ道がありません。そこは、百戦錬磨の撃ち手の射程内。

 

勝負は一瞬で決まる

急な斜面を突っ切る清一さん。信じられないスピードで獲物へのラッシュをかける。

急な斜面を突っ切る清一さん。信じられないスピードで獲物へのラッシュをかける。

追い込みの掛け声を再開するとともに、急に清一さんが猛然と動き出しました。他の班と足並みを揃え、包囲網を縮めていく模様です。雪深い道なき道を、まるで普通の道を歩くかのような軽快さで突き進んでいきます。

我々もそれに続きますが、あまりのスピードに引き離されそうになってしまう人も。ちなみにこの時にはトランシーバーを使用していません。まるで数人の猟師さんがひとつの生き物のように連動して動いていました。

そんな中、突然、周囲に「パンッ!」という乾いた発砲音が響き渡りました。

急いで谷を駆け上がり、集合予定地点に向かいます。その間に「パン!……パンパン!」と連続して発砲音が聞こえてきました。

集合地点に向かうと、他の班の皆さんがすでに到着をしており、林の中に人だかりができていました。その中心には、仕留められたウサギの姿がありました。脚部を撃たれ、それでもなお逃げ続けましたが、この場所で息絶えてしまったようでした。

歓声をあげる人、じっとウサギを見つめたきり動かない人、とても正視できず、目をそらす人……。参加者の反応は様々でした。その中で猟師さんたちは、淡々と血抜きなどの下処理を行い、はやくも狩りの反省を述べ合っていました。

さりげなく参加者に駆け寄ったり、説明をしてあげたりする猟師さんたち。

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獲物の下処理が終わる頃、一段と天候が悪くなってきました。みんなで歩いて古民家へ戻ります。

道中、我々参加者からの質問攻めに「こんなして話をどんどん聞いてくれるのは、楽しいなあ」とある猟師さんがニッコリしながら話してくれました。

帰り道、猟師さんたちには笑顔が広がっていましたが、それは獲物を仕留めたからというよりも、暮らしぶりを我々と共有できたことへの喜びのような気がしました。

 

後編に続く

 

Text and Photos: Junpei Takeya

 

 

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