これぞローカル・つまみスタイル!長岡市が“酒と食と人”をテーマにブックレットを制作

2017.5.31

新潟県長岡市は、市という単位では全国で2番目に多い16の酒蔵がひしめく「酒どころ」。今回、な!ナガオカでは、その大事な資産である日本酒文化のことをもっと市外に発信するべく1冊のブックレットを作りました。

『うんめすけ、うんめぇ酒。』と題されたこの冊子には、長岡に生きた“日本酒の父”岸五郎の実績や、サイトでも紹介した日本酒ソムリエ・浜田竜二さんの活動といった読み物から、日本酒バル・カネセ商店さんに訊く美味しい日本酒の飲み方といった実用的な情報まで、様々な角度から長岡の日本酒の魅力を知ってもらえる情報が収録され、好評を博しています。

ここでは、編集部員一同が「これは絶対にやりたい!」と謎の張り切りを見せた、「長岡市の各地に住む方々のお宅にお邪魔し、日々実際に食べているつまみのことを伺っていく」という企画の内容を少し再構成してご紹介。

普通のガイドブックには絶対に出てこない、リアルで、そして人の顔が見える「長岡、人と食との酒がたり」。晩酌でもしながら、ぜひお読みください。

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『うんめすけ、うんめぇ酒。』全32ページにわたる読み応え十分な日本酒の冊子。長岡市内ではアオーレ長岡、東京都内では表参道・新潟館ネスパスなどに置いてあります。

→全文が読めるPDFも近日、な!ナガオカにて公開予定。お楽しみに!

 

カジカ酒とピーナッツ、全て徒歩圏内で調達! 川口・中林道男さんの場合。

長岡市の中でも他の地域とは隣接しない「飛び地」にあり、冬は豪雪に閉ざされる山深い川口地域。それだけに、山や川の恵みで生計を立てる猟師・漁師の方が多い地域でもあります。

川漁を営む中林道男さんも、そんな川口で先祖代々、鮎やカジカを獲って暮らしてきました。「家から見える、あの川で獲ってるんだよ。野菜も作ってるし、うちの周りだけで食ってける。最高だろ?」と笑う中林さんのとっておきつまみとは?

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熱燗に舌鼓を打つ中林さん。

まあ、せっかく来たんだ。カジカ酒飲みなよ。

——カジカ……これは川魚ですよね?

そう。独特の香りがするだろ? 何匹かずつ串に刺して炭火でずーっと炙るのよ。そしたら、いい感じに水気が抜ける。

カジカをジリジリと炙り、水分を抜く。

カジカをジリジリと炙り、水分を抜く。

——それを、熱燗の酒に漬けるんですね。どんなお酒が合うんですか?

そんなの、安い酒が一番いいんだよ(笑)。カジカの香りと風味が出るから、あんまり繊細じゃない安い酒が一番(笑)。ヤカンに入れた酒にカジカをつけて直に温めてもいいんだけどな、酒が飛ぶ前に上げるのが大事だから、ちょっと難しいかも。

——もう何年くらい漁を?

中学を出てから50年、ずっとだよ。鮎とか鮭とか。カジカは獲り始めて、もう30年。川底にいるのを、網に追い込んでケンスコ(スコップ)ですくい上げるんだ。

そのまま干すのもいいんだけど、オレは必ず、干す前に胸びれをくいっとこう、開いてやるんだよ。その方が干した時の形がいいし、ほら、グラスに浸かってても見栄えがいいだろ?これで稼いでるんだから、これくらいの企業努力はしなきゃな(笑)。

ピッと開いたカジカ、男前!

ピッと開いたカジカ、男前!

——週にどれくらいお酒を飲むんですか?

晩酌はほぼ毎日、365日するよ。銘柄は「朝日山」とか「長者盛」が多いかな。昔はたくさん飲んだけど、最近はせいぜい一杯半くらいにしてる。

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つまみはほら、自家製のかぐら南蛮味噌。ピリッと辛くて、日本酒に合うだろ? かぐら南蛮は近所にある畑で作ってるし、味噌もこの近くの米山さんが作ってる味噌。この味は、買おうったってないよ。白いご飯に混ぜたりしても最高だな。

あとは、これな。ピーナッツ。普通のとはちょっとわけが違うんだよ……割ってみな?

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——おお、中の皮が黒い!

そう。これが、ものすごく濃厚な味でうまいのよ。これ食ったら、他のは食えないな。こういうのを肴にな。カジカ酒は売り物だから、自分では飲まないよ(笑)。ピーナッツも、昔もらった種で自分で作り始めた。自分で食べるものは、ほとんど自分で作ってるか、周りの人と融通しあってるよ。肉も、猟師からイノシシの肉をもらって、代わりにカジカをやったりな。ここにはなんでもあるんだよ。

——地元が本当にお好きなんですね。

地震(2004年の中越地震)では、このへんの家もけっこうやられた。うちも全壊扱いにされたよ。それでも、ここを離れる気はなかった。ここでしか漁や畑仕事はできないし、仕事をしてれば気が紛れたしな。

中林さんの居間からの眺め、そろそろ、新緑の頃でしょうか。

中林さんの居間からの眺め、そろそろ、新緑の頃でしょうか。

何より、ここからはこの景色が見える。大パノラマだ。最高だろ? お、もう一杯いくかい。

→中林道男さんのカジカ酒については、「漁師さんに密着取材!風味豊かな珍味『かじか酒』ができるまで」の記事もどうぞ。

 

イカと、アルビと、仲間たちと。寺泊・年友さん夫妻の場合。

長岡市で唯一、海に面しているのが寺泊地域。昔から漁業の盛んな地域でもあり、“魚のアメ横”の異名を持つ市場通りは、いつでも新鮮な海の幸に出会える海鮮の宝庫でもあります。

この日は、寺泊の年友さんご夫妻のお宅で何やら賑やかな会合が開かれているということで、ちゃっかりお邪魔してみると……

いきなりの大宴会!

いきなりの大宴会!

お母さん あらーー、いらっしゃい。今日はね、アルビ(Jリーグ・アルビレックス新潟)の試合をみんなで見てたのよ。私たち、みんな近所のアルビサポーター仲間なの。今日は負けたから、ガックリしちゃった。勝つつもりで赤飯も用意したんだけどね。

私たちはアルビが大好き! なにせ、日本海側で初めてできたプロチームだからね。アルビができるまでは、このあたりにプロスポーツは何もなかった。今でも、トップリーグにいるのはアルビだけ。それを新潟の私たちが応援しなかったら、おかしいでしょ! まあ、食べて、飲んで。そこのカメラさん、飲んでる?

——は、はい!いただきます。

まるで宝石のように輝くタコ。絶品でした。

まるで宝石のように輝くタコ。絶品でした。

お父さん これ、寺泊のタコ。絶対に食べてよ。冬の荒海の中で育ってるから、よそのタコとは甘さが違う。

——甘くて柔らかい……これは確かに、食べたことないくらい美味しいです!

お父さん 本当はお正月あたりに食べる、真ダコのメスが最高に美味しいんだけどね。ちょっと来るのが遅かったね。新潟沿岸で採れる真ダコは、脚の1本が5000円とか6000円とかするんだよ。だから、セリにかけると一杯で何万円もするんだ。小売にすると、もっと行く。それを食べるのが長岡の、寺泊の、食文化なんだよ。今は昔ほど獲れないけどね。

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濃厚なワタの味がお酒と相性抜群の塩辛。

お母さん イカの塩辛はね、自家製。ワタを混ぜたりしてね。ちょっと柚子を削って乗っけるとさっぱりするし、味も引き立つのよ。

お父さんの釣ったこのスルメも、柔らかいでしょう。イカが釣れたらまず濃い塩水にザブンとつけて、それから串に刺して干すのよ。私、イカが大好きでね。お父さんに「アジとかいいから、とにかくイカを釣って来て!」って頼んでるの。

お父さん また、オレに寄ってくるんだ、イカが。

お父さんに寄ってきた? スルメ。

お父さんに寄ってきた? スルメ。

お母さん 何言ってんだか。私たち夫婦って、共通点がないのよ。酒が好きで、アルビが好きってくらい。性格は全然違うから、お互い酒好きじゃなかったら別れてたかもね(笑)。

——どこから見ても仲良しですけど……。

夫婦の掛け合いも絶妙で、なんだかんだ嬉しそうなお父さん。こうして齢と盃を重ねてきたんですね。

夫婦の掛け合いも絶妙で、なんだかんだ嬉しそうなお父さん。こうして齢と盃を重ねてきたんですね。

お父さん 飲んで話をするのって、二人でも大人数でも楽しいよな。家もいいんだけど、よその居酒屋に二人で飲みに行くと、なぜか、家ではしないような話もしたりするし。人生の中での楽しみってさ、そういうものだと思うよ。

お母さん 人は一人じゃ生きられないからね。あとは、アルビが勝ってくれさえすれば、それで幸せよ(笑)。

 

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