撃っても楽しい、撃たれても楽しい。20年続くサバゲー「あぶらげHILL」の魅力とは?

2018.9.15

大きくてふっくらとした「栃尾のあぶらげ」で有名な長岡市栃尾。その山奥で20年以上もの間、「あぶらげHILL(ヒル)」というサバイバルゲームが開催されているのをご存知だろうか? 月に3回程度の定期戦があり、50名近い参加者がバトルを繰り広げているという。それにしても、「あぶらげHILL」という命名の由来とは?そして、このイベントが長く愛され続ける理由とは?その謎を探るべく、筆者が実際にイベントに参加!実体験レポートと併せて「あぶらげHILL」の魅力をお届けする。

 

そもそもサバイバルゲームとは?

サバイバルゲーム(以下略称サバゲー)とは、二手に分かれて本物の銃に似せた電動ガンで敵を撃ち合うゲームのこと。サバゲー自体は日本各地で開催されており、ルールや装備、フィールドはイベント毎に異なる。他のスポーツと違って審判がおらず、弾に当たったら「アウト!」と声に出して自己申告をする必要があるのも特徴だ。あぶらげHILLは栃尾の森の中に専用フィールドがあり、相手の陣地に立った旗を15分以内に先に取った方が勝ちというルールのもとで行われる。

敵か味方かを一目でわかるように、参加者は赤と黄色どちらかのテープを腕に巻きつける。(写真提供 岩佐祐二)

あぶらげHILLを運営しているのは、長岡に31年の歴史を持つ「ガンショップ ・インディ」だ。店内に入ると所狭しと電動ガンが陳列され、それにまつわるパーツやウエアもぎっしりと並んでいる。いくら本物の銃でないとはいえ、これだけ並ぶと、その迫力で店内には独特の緊張感が漂う。今回は、店主の武内鎮男さんにイベントの発端や想いについてお話を伺った。

インディ店内の様子。奥には室内で射撃できるスペースも完備。

 

命名はベトナム戦争から!?
平和への祈りをあぶらげに込めて

そもそも、あぶらげHILLというユニークなイベント名は、どのようにして決まったのか。鎮男さんに聞いてみると、一般公募した中から選んだのだと言う。だが、その訳を詳しく聞いていくと、単に「栃尾のあぶらげ」から取っただけではない、深い理由があった。

「ベトナム戦争当時、北ベトナムの兵士に攻められたアメリカ兵たちが、そのあまりにひどい戦闘のさまや多くの銃弾を体に撃ち込まれたことを皮肉って、「我々はミンチにされる」というジョークがあったそうなんです。そこからその戦場となった丘を、“ハンバーガーヒル”と呼んだんですよ。今現在あぶらげHILLの会場になっている場所も小さな丘になっていて、栃尾にはハンバーガーはないけれど油揚げがあるな、ということで“あぶらげHILL”という名前に決定したんです。かつては、そういう悲しい歴史があった。それを踏まえて、今こうしてみんなで安全に楽しめることは本当に嬉しいことなんです」(鎮男さん)

友人みんなで参加するグループの姿も。

 

ネット時代に98%が来店客!
「心が通じ合う店作り」を目指した31年

鎮男さんはガンショップを始める前、おもちゃ問屋の営業をしていた。当時(1975年頃)の日本は高度経済成長期で、「とにかくモノがあればなんでも売れる時代」だったという。地域のおもちゃ屋さんを回っても、「売るものはなんでもいい。売れればそれでいい」という取引先が多く、そんな市場に疑問が生じていたという。

「あぐらをかいていたらまずい。努力の仕方すら知らないようでは、これからどうなっていくかわからない。それなら自分で商品の構成を考え、自分でお客さんを育てて、永く続いていくお店を作ってみたいと思ったんです」(鎮男さん)

問屋の仕事を辞めて起業したのは34歳の時。初めはラジコンやプラモデルも扱ういわゆる模型屋だったが、2、3年してガン専門に切り替えた。しかし立ち上げはそう簡単ではなく、資金繰りもうまくいかなかった。

店内にはお客さん自身がパーツを自由にカスタムできるスペースがある。

お店に修理やカスタムの依頼も可能。これもインディの大事な業務の一つ。

それでもお店を31年、あぶらげHILLを20年以上続けられる秘訣は、お客さんとの信頼関係だという。

「やっぱり、お客さんと心が通じ合わないと。今の時代インターネットで何でも買えるけれど、なんかそれじゃあ寂しいでしょう。うちの店もネットショッピングはやってはいるんですけど、約98%のお客さんは来店して商品を選んでくれているように感じます。市場が狭く、情報も少ないからこそ、一人一人のニーズに沿った対応を心がけて来たからでしょう。とはいえ、別に押し売りをしたり、媚を売ったりはしない。お金を持って来る人がお客さんというわけではありませんから。あぶらげHILLだって私だけではなく、お店の“陽炎”という会員メンバーが運営を手伝ってくれていて、色んな人に助けられているんです。そんな風にしてお客さん一人一人と少しずつ信頼関係を築いてきたからこそ、自然と選ばれる店になったんじゃないかと思っています。」(鎮男さん)

参加者の集合写真。親子連れがいたりと参加者の年代層は幅広く、回によっては女性の姿もあるそう。

 

負けは潔く認める!
サバゲーは実は優しいスポーツ?

今回は実際にあぶらげHILLを体験してみようということで、筆者が参戦。サバゲー未経験の為、特別にお店から電動ガンと手袋、ゴーグルとウエストベルトをお借りした。服装は「隠れるのに適した色と動きやすい格好。短パンよりも長ズボンの方がいい」とアドバイスを受け、地味な色の服を選んだ。

会場は栃尾の山奥。道がわかりにくいため、インディのホームページに映像付きで順路が紹介されている。細い道を抜けると看板を発見!

キツネとあぶらげが目印。写真では見えづらいが、「(注)あぶらげは売っておりません」と書かれたユニークな看板だ。

特別にお借りした装備(普段は装備の貸し出しは行っていない)。

会場で試し撃ちをする参加者を横目に、すでに腰が引ける筆者を見かねた鎮男さんが、「そんなに怖がらなくていいですよ。撃っても楽しい、撃たれても楽しい。サバゲーはその外見やイメージとは全く違う、実は優しいスポーツですから」という。果たして“優しいスポーツ”とは一体、どういう意味なのだろう?

ルール説明を行うインディの鎮男さん。

銃のパワーチェックを行っている様子。

朝7時半頃より受付を開始。参加は事前申し込みではなく、当日に参加料500円を払ってエントリーする。ただ8時半からルール説明があるため、それ以前に受付と銃のパワーチェックを受けることが条件だ。ルール説明では、当たったら即座に声を出して周りに知らせ、セーフティーゾーンと呼ばれる安全な一角に戻ること、すでに負けている人を撃たない、いかなる時でも安全第一、ということが強調されていた。特にフィールド内でのゴーグル着用は徹底しており、誰かが外そうとすると参加者同士で「外さないように!」と注意が飛んで来るほどだ。

青い幕の向こうがセーフティーゾーン。安全とはいえ流れ弾が飛んでくることもあるので気は抜けない。

 

冷や汗だらだらの初戦は
敵が一人も見えないまま玉砕

いよいよゲーム開始!ホーンの合図と共に走って果敢に攻める人、旗を守る人、隠れて敵陣の様子を伺う人など、各個人の戦略に従って散らばっていく。筆者はあまりの恐怖心から攻撃に参加することは到底できず、他の人同様に木の陰に隠れた。すると他の参加者が「あそこの木の陰に敵がいますよ」と小声で教えてくれる。しかし、その木の方角を見ても誰も見えない!

スタートと同時に走り出す参加者。

「え?どこですか?」と幾度となく聞き返し、いろんな方角に敵を探すものの一向に何も見えない。すると、その時、いきなり弾が頭上をかすめた。今までかいたこともないような変な汗がだらだらと吹き出してくる。警戒しながらあたりを見回していたその時、「あイタッ!!」……さっそく当たってしまった。誰がどこから撃ったのか見当もつかないまま終了。ルールを遵守し「アウト!」と周りに知らせながら、銃を頭の上にあげてセーフティーゾーンまで歩いて戻った。

人影の中にマネキン(人形?)が。参加者を惑わす遊び心から常設されている。

しかしその道中、相手が思いもよらぬところに潜んでいたことを見ることができる。「ヒェ~!こんなところにいたのか!」と言いたいところだが、撃たれた人は「死人に口なし」というルールの元、一切の公言は禁止。上級者たちの見事な隠れっぷりに、しばし感動した。

敵が目の前から突然現れることもある。(写真提供 岩佐祐二)

狙いを定める参加者。(写真提供 岩佐祐二)

 

フィールドとなる山にも優しく。
土へと還る「バイオBB弾」とは?

その後も休憩を挟みながら全9試合を行った。結果は全て早々に撃たれて退場だったが、予想以上に「面白い!」「もう1回やりたい!」と徐々にのめり込んでいく自分がいて驚いた。恐怖が楽しみへと変わった瞬間は初戦で弾に当たり、どの程度の痛みなのかがわかってホッとした後からだ。弾はいわゆるBB弾。しかしプラスチックのものではなく、“生分解性バイオBB弾”という土に還る素材でできたものを使うことが義務付けられており、環境にも配慮している。直径6ミリ、重さはわずか0.2〜0.28g程の軽いもので、当たれば衝撃はあるものの、怪我をすることはあまりない。確かに当たるとなかなか痛いが我慢できる程度のものだし、厚手の服を着るなどして痛みを和らげる工夫はできるはずだ。また弾の重さは人それぞれで、現在は0.25gが主流になってきている。軽ければ軽いほど遠くに飛ぶが、それだけ空気抵抗があるため、命中率をあげるために重い弾を敢えて使う人もいるそうだ。

地面に落ちたバイオBB弾。数年かけて土に還る。

銃の撃ち方は事前に鎮男さんに教わっていたものの、動く相手を撃つのは至難の技であった。また低い姿勢で走って攻めて行ったり、ほふく前進したりと隠れながらも常に動いていたため、想像以上の体力が奪われた。筆者は9試合中4試合に参加してヘロヘロに疲れたが、9試合終わっても元気に雑談をしながら帰って行く参加者を見ていると、上級者はかなり体力があるのだろう。しかしながら同じチームのメンバーと連携して考えながら進んで行くことや、自然の中で身体を動かすことにチームスポーツのような楽しさとスリルを味わうことができた。

腰が引けに引けている筆者。けれども森の中で身体を動かすことは純粋に気持ちが良かった。(写真提供 岩佐祐二)

イベント後に参加者に話を聞いていると「家だと撃ちにくいけれどここだと思いっきり撃てて楽しい」、「他の人たちの持つ銃や着ている服を見るのが好き」、「丘の地形が面白い」、「大好きな戦争映画のヒーローになりきりたい」など参加の動機は様々だった。

「室内よりも屋外フィールドの方が開放的で好き」という声も聞かれた。

身を隠すために雑草を頭につける参加者。各個人の工夫を見ているだけでも面白い。

そこで、初めに鎮男さんが言っていた「優しいスポーツ」という言葉を改めて思い出した。あぶらげHILLが長く愛される所以は、銃やコスプレが好きな人、戦争映画が好きな人、装備のコレクターなど様々な入り口からやってきた参加者がいることで、「相手を負かしてやろう」という気持ちよりも、一人一人が自分の楽しさを持ち合わせ、「参加者みんなで楽しむんだ」という共通認識の上で「遊べる」からなのではないか。そして忘れてはならないのは、これは“スポーツ”なのだということ。逃げる、隠れる、撃つことなどに体力と集中力を要し、命中させるのには技術が必要だ。撃っても楽しい、撃たれても楽しいとはそういった技術的な部分も含め、「スポーツでありながらも勝ち負けだけにこだわらず、楽しむことを分かつ人たち」が作り出した感覚なのだろう。そして、そうした地域の楽しみを長らくサポートしているガンショップ ・インディの存在も忘れてはならない。

休憩中に雑談を楽しんだりと笑顔が絶えない現場。

初心者や県外の方も大歓迎。冬季に当たる11〜4月頃までは積雪のためイベントは休止だが、興味のある人はぜひ参加してみて欲しい。その際は、お土産に栃尾のあぶらげを買って帰ることも忘れずに!

 

Text & Photo Shizuka Yoshimura

 

ガンショップ インディ
[住所] 新潟県長岡市千歳2-9-30
[TEL] 0258-35-5995
[FAX] 0258-35-6014
[営業時間] 平日・土日・祝日 12:00~19:00
[定休日] 毎週木曜日
[HP] https://www.indi-nagaoka.co.jp/wp/
[あぶらげHILL開催期日] 5月~10月の間、月に3回ほど定期戦がある
予定はガンショップ・インディのホームページで要確認
※取材は8月5日(日)の定期戦の様子です。
[あぶらげHILL専用フィールドアクセス] 新潟県長岡市栃尾地域 道の駅 R290とちおから車で15分。
道がわかりにくいため、インディのウェブサイトに動画付きの説明あり。
[参加方法] 当日現地にて申し込み、参加料500円

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