読書の秋! 話題の本屋さんが長岡にまつわる本を紹介
騒がしい夏があっという間に過ぎて、夜も長くなってきました。もうすっかり「読書の秋」。そこで長岡市内を中心に「移動本屋」という新しい本屋スタイルで活動しているBook Knock(ブックノック)店主・長谷川敏明さんにオススメの本を紹介していただきました。「な!ナガオカ」らしく、「長岡にゆかりある著者が書いた・長岡を舞台にした・長岡がもっとおもしろくなる本」をテーマに据えて……。
「ちょっと本でも読もうかな」と思ったとき参考にしていただければ幸いです。(編集部)
「ブックスはせがわ」店主長谷川敏明です。
新刊の個人書店といえば、昔ながらにあるお店を構えてお客さんを「待っている」お店が一般的といえば一般的ですが、去年より本屋のあり方を見直して、お店を持たないスタイルに業態を変えました。
普段は、定期購読の雑誌を届ける「配達」を主にしています。また、洋服屋、アウトドアショップや美容室、ギャラリーといった本屋以外の場所での本の販売もしていますし、依頼してくださったお店の方と、そこではどういった本が好まれるか、と相談しながら、本棚作りのお手伝いをしたりもします。
週末には「移動本屋BookKnock(ブックノック)」としてイベントに出店したりして「最近本読んでないなあ」と読書するのを忘れている人などに本の面白さをもう一度味わってもらうべく、活動しています。「本との偶然の出合いを演出する」といえばかっこつけすぎでしょうか。人の集まる場所にこちらから積極的に出向いて、よそで本を売る、より自由なスタイルので本の販売をしています。
雪国の忍耐強さを備え持つ 人間五十六の温かみと厚みを知る一冊
「山本五十六」 半藤一利 平凡社 1944円(税込)
長岡で長岡空襲に遭う経験をされた、半藤氏が、旧制長岡中学の先輩にあたる山本五十六の半生を綴った一冊。
山本五十六は、長岡が誇る偉人。連合艦隊司令長官の任務に就きながら、最後までアメリカとの戦争に反対した人物です。近現代史を語る上で外せない人物を、長岡は輩出しているのです。
明治維新の際の戊辰戦争で幕府軍に付き新政府軍と相対したときから長岡藩は「賊軍」の汚名を着せられることとなりました。その血を受け継ぎ、また雪国の忍耐強さを備え持つ人間五十六の温かみと厚みを、本書から知ることができます。
出だし50ページの五十六と長岡との関係、長岡藩の歴史からさかのぼる記述は五十六という人間を語るうえで欠かせないところ。
また、その生い立ちが五十六自身の悲劇を呼び、先の大戦につながって、やがては日本を待ち受ける運命に影響していくところがこの本の読みどころでしょう。
自らを「山本贔屓」と言っている半藤氏が人間五十六の魅力を語りつくした一冊として、おすすめです。
また、山本五十六記念館には実際の直筆の書簡や遺品、写真の展示があります。ぜひ足を運んでください。
山本五十六記念館サイト
さらに、五十六が酒は好まず甘いものが大好きだったことから、数年前に役所広司主演で映画化されたときも長岡名物水まんじゅうを食べるシーンがありました。甘いものが好きな方はこちらのサイトもチェックしてみてください。
長岡花火が涙を誘うその理由とは?花火師・嘉瀬誠治の半生に寄り添う
「白菊」 山崎まゆみ 小学館 1620円(税込)
日本一、いや世界一ともいってもいい長岡まつり大花火大会。長岡の花火を見た人は、哀しいわけでもないのに「なぜだか泣いてしまう」「涙が頬に伝う」と語るそうです。その理由を探るとひとりの「伝説の花火師」が……。
長岡出身、ノンフィクションライター、温泉エッセイストとして活躍中の山崎まゆみさんが書き下ろした一冊。山崎さんと嘉瀬さんはご近所で、山崎さんが幼少の頃から縁があるそう。
この作品では長岡花火を代表する「白菊」を作った花火師、嘉瀬さんの半生を辿ります。花火への想いの背景には、ご自身の戦争体験、シベリア抑留がありました。そこから「白菊」へとつながっていく嘉瀬さんの人生や、戦後長い時を経て、自らが抑留されていたシベリアを訪れ花火を打ち上げるプロジェクトに参加した時のドキュメントと回想、そして山崎さん自身が極寒のハバロフスクを訪ねての取材等が続きます。
長岡という土地に降りかかった歴史と、花火師の想いが、夜空にパッと咲く大輪に魅せられる、引き付けられる、その積み重ねが涙を誘うのかもしれません。
気が早いですが、来年の花火大会はこの原点を探った1冊を読んでから足を運んでほしいと思います。
長岡の地で春風に誘われ 成長する少年の物語
「哲夫の春休み」上下 斉藤惇夫作 岩波少年文庫 上691円 下756円(各税込)
「ガンバの冒険」シリーズで知られる著者、斉藤惇夫さんは新潟県生まれ、高校卒業まで長岡で過ごして、上京、児童書で有名な福音館書店で長年本の編集にも携わっていた方です。
長岡生まれのお父さんが、小学から中学にあがる年の息子に故郷をみせたいと自宅の浦和から各駅停車のローカル線で一人旅をさせます。
そこから哲夫は早春の長岡で父のすごした昭和時代にタイムスリップ。現実と幻想を繰り返しながら彼を含む登場人物がそこでの気づきを通し、ふさいでいた心が癒え、成長していくファンタジーあふれる児童小説です。
作者の半自伝的小説であり、長岡で過ごした青春期の追体験でもある内容となっています。
信濃川、長生橋、長岡高校、福島江、蒼紫神社、悠久山公園、ニューオータニ、笹だんご、など長岡の方ならおなじみの名前がたくさん出てきます。
実際にこの登場する舞台を巡る「文学散歩ツアー」などしてみても面白そうです。
タイムスリップする際に登場するおばあちゃんの長岡弁がうまく描かれているのもポイント。よいアクセントになっていて、物語に引き込まれます。
児童文学として制作されたものではありますが、幅広い年齢層の方が楽しめると思います。
以上3点紹介させてもらいました。
「書を捨てよ、町へ出よう」という寺山修司の有名なフレーズがありますが、書を携えてその地を歩き、より長岡を探るのも面白いと思います。そのお役にきっかけに、たてればうれしいです。
ブックスはせがわ
[住所] 新潟県長岡市悠久町4丁目1226−7
[電話] 0258-35-2147
[連絡先]bookbook@ozzio.jp[移動本屋BookKnock出店情報] ブログに掲載中