【殿町スナック探訪】Vol.1 パブ ザンパーノ
長岡随一の繁華街、殿町。戦後まもなく市役所庁舎を竣工、昭和22年には銀行、百貨店、厚生会館、アーケードや地下道もできて、街はぐっと利用しやすくなった。時同じくして、坂之上町に闇市(現・五・十市)が復活。仕事帰りに一杯ひっかけたい気持ちを満たすように、周辺にスタンドバーができて、その賑わいが集積して歓楽街へ姿を変えた。
殿町のキャバレー全盛期は、当時全国に店舗を拡大していた「キャバレーハワイ」が神田町にも店を構えた昭和50年だろうか。その頃、洋酒バー組合は380店を越え、「殿町の人口より、店の数が多い」といわれたほどの賑わいを見せていた。
数が多いから選択肢も広がって個性も豊か。
スナックやパブと聞くと、女性は少し入りづらい印象……、でもなんだか面白そう! ママやマスターが演出する大人の空間へ、妙齢女子が普通に飲みに行く連載(?)企画。
第一回目は、老舗「パブ ザンパーノ」から。
今日のメンバーは、22歳のピチピチ女子と三十路を過ぎた女が2人。
――19時30分
長崎ちゃんぽんが評判の「長崎亭」の斜め向かいの雑居ビル2階。階段を上がり、重厚感のある扉の前に立ち、やや緊張して扉を開けると、はじめに目に入ってくるのはガラスケースに入った陶芸の数々。手前には10人ほど座れそうな長いカウンター、奥にはカラオケのミニステージとテーブル席がいくつか並んでいる。
「奥の方のカウンターにどうぞ」とマスターの小林守男さん。
ゆったりとした深めのイスに座ると、厚手のおしぼりが1人に対して二つ出てきた。
すぐ手を拭く用とあとで気がついたら使う用なんだそう。気が利くなぁ。
「若い女性だけで来るなんて、珍しいね」と笑うマスターと「若い」といわれて若干の後ろめたさを感じる三十路の私。
とりあえず生ビールで乾杯!
お通しのふかしなすは味が染みていて、辛しをちょこんと付けて食べるとさらに美味。家庭の味わいで、気持ちが和む。
カウンターの奥に備えつけられたガラスケースには、たくさんの陶器のカップ。上には、賞状がたくさん飾ってある。
「陶芸が趣味なんですか?」と聞くと、「妻がね。お客さんにファンがたくさんいて、要望があればボトルキープのボトルや酒器を作っているんだよ」と答えてくれた。
市展や県展で数々受賞。アオーレ長岡で作陶展を行うなど、とても有名な作家さんなんだと常連さんが教えてくれた。
――19時45分
マスターが少し手を空けて、お店を始めた頃の話をしてくれた。
小林守男さん(65歳)は栃尾の生まれ。都会に憧れて関東の方に出るが、昭和50年、22歳の時に長岡へ帰ってきた。
地元出身の田中角栄が「日本列島改造論」(昭和47年)を発表。日本は高度成長期にあって、昭和50年代は新長岡駅や大手大橋(開通は昭和60年)の建設で、各地からやってきた建設業者で殿町はごった返した。
そして殿町はキャバレー全盛期を迎える。
当時、全国にチェーン展開し飛ぶ鳥落とす勢いだった大衆キャバレー「ハワイ」が、長岡1号店を神田にオープン。
長岡へ帰ってきたばかりの小林青年は、「店長が着る青いスーツがかっこよかった」という理由で「キャバレーハワイ」のボーイとなり、入店たった8カ月で店長に就任。六日町や小千谷の姉妹店へも行き、「辞令は10枚以上もらったよ」。
そこで接客や街のイロハを学び、平成元年に独立して開いたのが、この「パブ ザンパーノ」だ。
「落ち着いて飲めるシックな店にしたいと思っていて、そのニーズがマッチしたのかお医者さんや議員さん、界隈の社長がよく来てくれたよ」
――20時
「よっ!」と言いながら、やはりダンディなおじさまが二人入ってきて、殿町全盛期の話は一旦終了。
例のボトルキープの陶器ボトルが用意されて、飲み始めたおじさまたちに「今日はどうして来たの?」と話しかけられた。やはり若者世代の女性3人組は珍しいらしい。
少しやりとりをしていると、「ここの名物、おごってやるから食べていけ」と粋なお言葉!
出てきたのは、手作り焼売と油淋鶏だ。
このほかにも料理のメニューは豊富で自家製ネギチャーシューやホルモン炒めなどの一品ものから、ラーメンやカレーライス、チャーハンなどごはんものまで用意している。
料理の味も評判で、よそで飲んだ後に代行待ちでラーメンをすすって帰る常連さんも多いそう。
――20時30分
ダンディなおじさまたちが私たちへのおつまみを注文し、料理が出てくる前に帰るという神対応を見せた後、男性2名、50代とおぼしきカップルが続けてやってきた。
私たちは3杯目の焼酎水割りに突入し、お腹も満たされてご機嫌モードで、カラオケを開始。マスターも「どんどん歌っていいよ」と優しい。
――20時45分
カラオケも歌い、酔いも回ってきた。
「そろそろお会計しますか」と3人合意して、恐る恐るお会計をお願いする。内心、すごく高かったらどうしよう、とドキドキが募る瞬間。
3人で10,476円!! 思わず「安っ」と声が出る。しかも伝票も見せてくれて明瞭会計がうれしい。
お通しと1杯セットでセットは一人2,700円、チューハイは1杯432円、カラオケは1曲216円となんだかとっても良心的な価格だ。
こんなに飲んで騒いで、いろんなお客さんを巻き込んだのに、なんだかすみません。
「こっちも楽しかったよ。また来てね」と最後まで物腰柔らかいマスターの笑顔をあとに店を後にした。
店を出て、ほっとしたのか「なんかお腹すいたね、もう一杯飲もう」ということになり、近くの「大吉」へ。つけ麺とギョーザ、ビール2本で〆たのだった。
「パブ ザンパーノ」、いいお店だったなぁ。
パブ ザンパーノ
[住所]長岡市殿町3-3-13 西沢ビル2階
[電話]0258-35-4499
[営業時間] 18時~深夜1時