新潟県立近代美術館がリニューアル!学芸員に聞く「芸術とのふれあいかた」とは?
新潟県長岡市の中心部、緑豊かな千秋が原ふるさとの森に佇む「新潟県立近代美術館(以下、近代美術館)」。前身となる新潟県美術博物館が芸術にふれあう機会を充実させるため、複合施設から単独館となって新潟市から長岡市へ移転し、1993年に近代美術館として生まれ変わりました。所蔵作品は国内有数の約6000点あり、県出身作家を主とした「新潟の美術」、明治以降の美術の流れを展望する「日本の美術」、19世紀以降を主とした「世界の美術」の三本柱を基本としています。
そして、オープンから四半世紀を過ぎた昨年、施設の老朽化や機器の不具合に対応するため、設備の更新や一部改修工事がスタート。約一年間の長期休館を経て2019年9月14日に再開館しました。リニューアルしたことでいったい何が変わったのでしょうか?
芸術鑑賞に浸りながら
新しくなった館内を見学
エントランスに足を踏み入れると、まず目を奪われるのが巨匠ロダンの彫刻作品《カリアティードとアトラント》。もともとは建築物のバルコニーを支える装飾品として設置されていたものですが、時と場所を変え、近代美術館の象徴として来館者を迎えてくれます。
館内には収蔵品を展示する「コレクション展」、幅広いジャンルに対応する「企画展」創作発表の場としての「ギャラリー」が設けられています。まずはコレクション展から鑑賞していきましょう。
コレクション展は全3室あり、展示室1と2では「新潟の美術」をテーマにした展示がされています(2019年10月現在)。
なかでも見所は、吉田町(現・新潟県燕市)出身の日本画家 横山操(みさお)の小特集。力強く轟くような漆黒、荒々しい筆づかいで、戦後の日本画壇に新風を吹き込んだ巨匠です。大作《炎炎桜島》の他、《十勝岳》《雪峡》などじっくりと鑑賞したくなる作品が揃っています。
コレクション展最終室は「近代美術館の名品」。展示されているのは、ロダンの名作《考える人》をはじめとした、近代美術館が誇る名品揃いです。ほの暗く落ち着いた空間が広がり、これまでの雰囲気とガラリと変化しています。
「次はいざ企画展へ!」と展示室へ向かったところ、取材時は搬入の真っ最中とのこと……。残念ながら鑑賞できませんでした。2019年度は「PIXARのひみつ展」「1964年 東京-新潟」が開催されるそう。過去には「没後90年 萬鐵五郎展」「法隆寺-祈りとかたち」といった重要文化財の展示も行うなど、幅広い企画が好評を博してきました。
続いて2階へと続く階段を上って「ギャラリー」へ移動しましょう。
こちらは作家が誰でも利用できる貸しギャラリー。個人展でもグループ展でもOKとのこと。
芸術鑑賞をした後は、休憩がてらにカフェでひと休みするのもオススメ。美味しい料理と煎れたてコーヒーで、ほっと一息つくことができます。
館内を飛び出して屋外の展示も覗いてみましょう。
信濃川河川敷につながる芝生には、印象的な野外彫刻があちらこちらに。2階とつながった小高い丘は、開放的で青空が広がっています。犬の散歩をする老夫婦や近くの公園で遊ぶ親子など、多くの人たちがこの空間を楽しんでいるようでした。
再び館内に戻り、最後はミュージアムショップでお土産を物色。企画展や所蔵品を元にしたグッズ、過去に開催された展覧会の図録などが購入できます。
見た目では分からない?
重要なリニューアルポイント
一通り館内を見学しましたが、正直、従来とあまり違いがないような……?そこで、いったいどこをリニューアルしたのか、学芸課の村山裕之さんにお話を伺いました。
「実は、メインで改修工事をしたのは『空調機器の交換』なんです。作品は最適な温湿度で保管しないと傷みが出てしまいます。カビが生えたり、木質割れや金属錆びが出たりしないようにするためには、長期に渡る工事が必要でした」
これまでに収集してきた貴重な作品は、未来永劫に残っていくよう最適な管理をしなければなりません。美術館としての使命を果たし、今後も後世に残すように努めたいと村山さんは言います。
さらに企画展示室の一部のガラスケースにエアタイト式を採用。外気をシャットアウトすることで温湿度を保ちやすく、粉塵や害虫による汚染を防ぎ、作品をより良い状態で保管できるようになりました。また、照明をLEDに変更することで、熱や紫外線による作品へのダメージを軽減。その他、外壁ブロックの落下防止のためのタイル補修など、外観の劣化進行を止めるための改修も行いました。
新潟出身作家の素晴らしさを
多くの地元人に広めたい
約一年の時を経て再開館した近代美術館。記念すべきリニューアル直後の展示テーマを「新潟の美術」に決定したのは、2019年9月~11月の期間に新潟県で開催される「国民文化祭」を応援し、新潟県ゆかりの作家を紹介するためとのこと。「新潟の宝であるこれらの芸術作品を、多くの方々に知ってほしいです」と村山さんは語ります。
近代美術館は県出身や県ゆかりの作品も集め、地域に密着した調査研究を進めているのが大きな特徴で、収蔵作品は年々増えています。また、現役作家や、故人となった作家家族との交流もあり、コレクション展や自主企画の展覧会などで紹介する機会も設けたいと考えているそうです。
芸術鑑賞に正解はない!
直感で味わえばおもしろい
「美術作品に興味は湧いてきたものの、鑑賞のポイントがいまいち分からない……」と感じている方は意外と多いのではないでしょうか。作品解説をじっくりと読みつつも、肝心の作品はサラッと眺めて終了してしまい、いったいどう作品を味わえば良いのかと途方に暮れている方へ、村山さんがアドバイスをしてくれました。
「まずは直感で作品の気になる所を探してみてください。この時に作品解説は見たらダメですよ」
村山さんはおもむろに一枚の絵画を指さします。
「この絵は長岡市出身の小山正太郎の作品です。眺めていると、どんなイメージが湧いてくるでしょうか?」
「空は明るいか暗いか?」「ここはどこなのか?」「人々は何をしているのか?」など幾通りもの捉え方があり、そこに答えはありません。自分の経験や知識、感情などと照らし合わせ、自分はなぜそう感じたのかと理由を考えることも楽しい作業です。「人々が笑っているように見えるから、空が明るく見える」と捉える人がいる一方、「人々が悲しそうに見えて、嵐の後みたいだ」との感想もありえます。鑑賞時の自分の気持ちも反映するというから、おもしろいものです。
「不思議なことに何度も作品を見ていると、だんだん感じ方が変わってきます。もし気になる作品があれば、解説を読んだり、文献を調べたりしてみてください。芸術鑑賞には必ずしも知識は必要ありませんが、作家や歴史的背景、技術的な素晴らしさに気付くことで、新たな魅力を感じられるのも楽しみの一つだと思います」
芸術鑑賞が楽しくなる
講座やワークショップを開催
近代美術館では作品をもっと深く知りたい、違った角度から楽しみたいという方に向けての講座やワークショップも定期的に開催しています。
「美術鑑賞講座」では作家や作品の歴史をスクリーンに映して解説し、鑑賞の視点を紹介。「ワークショップ」では野外彫刻を探検したり、大理石彫刻を鑑賞してから実際に白い石をピカピカに磨いてみたりと、展覧会の内容に合わせた「気軽に美術とふれあえる機会」を提供しています。さらに毎週土曜日の11時からは、コレクション展示室で解説会も行っているそう(不定期で開催しない週もあり)。どれも学芸員が「芸術鑑賞の魅力を伝えたい」と想いを込めた企画ばかりです。
「当館学芸課には20~50代の職員が全9名います。歴史に造詣が深い人、作家プロフィールの知識に富んだ人、自身が作品を手がける人など、各自の視点で解説をするので内容は人それぞれ違うんです。風景や小物から時代性を感じ取ったり、作家が影響を受けたであろう作品との類似点を探したり、線や色づかいなどの表現技法に注目したりと、様々なアプローチの仕方に気付くことができます。その感性の違いこそが、芸術鑑賞の醍醐味なんですよね。解説を聞くうちに、きっと何度も作品鑑賞したくなるはずですよ」
「芸術鑑賞では何を感じてもOK!」というのなら、これまで美術作品に苦手意識を感じていた人でも、興味が湧いてきたのではないでしょうか。近代美術館では12月8日(日)までコレクション展「新潟の美術」を開催中とのこと。その後の日程はホームページをご確認ください。みなさんも今年はアートで「芸術の秋」を満喫してみてはいかがでしょうか?
Text and Photos: 渡辺まりこ
●Information
新潟県立美術館
[住所]新潟県長岡市千秋3-278-14
[電話]0258-28-4111
[URL]https://kinbi.pref.niigata.lg.jp/