【長岡蔵人めぐり 第1回】伝統を守りつつ、若者への浸透を! 挑戦を続ける越銘醸
市内に16もの酒蔵を有し、国内でも有数の酒どころとして知られている新潟県長岡市。これだけあると、例えば都内でもふらりと入った居酒屋で長岡の酒に出会うことも珍しくなく、店主がその酒のファンであることもしばしば。
しかし、酒だけでなく酒を造る酒蔵のファンも増やしたい! その魅力をお伝えするのが『な!ナガオカ』の使命! ということで、今回から長岡の酒蔵で働く方の思いを交えて、酒蔵を順番にご紹介していきます。
記念すべき第1回目は、分厚いあぶらげ(油揚げ)で有名な栃尾にある越銘醸。
越銘醸は享保年間(1716-1736年)に創業した山家屋(越の川)と1845年創業の山城屋(越の鶴)が合併し、越銘醸株式会社として1934年に創立したのが始まりです。築200年になる越銘醸の建物は、修繕と改修を重ねながら昔ながらの風情を維持しており、2016年には「長岡市都市景観賞」を受賞しています。
毎年2〜3メートルもの積雪に見舞われるこの土地では、ちょうど仕込みの時期に蔵が雪にすっぽり覆われます。気温の高低差が少なくなるため、酒造りには最高の環境になるそう。また酒の仕込み水には、名峰・守門岳に降り積もった雪の伏流水が使われ、酒造りにおいて雪は欠かせないものとなっています。
働く人も老若男女さまざま
伝統も時代の流れも尊重する酒造り
今回、蔵をご案内いただいたのは杜氏の浅野宏文さん。
取材チームが訪れたのは、ちょうど仕込み真っ最中の朝一番。立ち込める湯気の中、蔵の方が二人一組になって蒸したての米を運んでいるところでした。力仕事を黙々と進める人の中には、若い男性の他に女性の姿も。
酒蔵といえば、一般的に力仕事が多く男性社会というイメージがありましたが、
「近年は女性が働く酒蔵も増えてきているようです。うちも時代に合わせて、女性はもちろん若い世代も働きやすい環境になるよう努めています」と浅野さん。
また蔵の奥では男性がタンクの中の米を手早くかき混ぜています。こちらは越銘醸の銘柄の一つ、「山城屋」の生酛を仕込む作業です。
『生酛』とは、酒母(糖をアルコールに変える酵母を元気よく生育させるための工程)を伝統的な製法でつくった日本酒のことを指します。
江戸時代に主流だったこの技法は、蒸米と麹、水をすりつぶす作業を数時間ごとに行わなくてはならず、体全体を使ってそれらをかき回す大変な重労働を伴います。しかも、通常の製法なら酒母が約2週間でできるのに対し、こちらの生酛づくりは約1ヶ月(!)もかかるそう。
手間がかかる伝統的な技法を取り入れることについて、浅野さんはこう語ってくれました。
「築200年になる建物同様、古い技法はしっかり残しながら、それ以外の部分は時代に合わせた酒造りを進めていきたいです」
「例えば、蔵の中の設備については他の蔵を参考にすることもあり、効率がいい作業のやり方や、酒質を上げるための器具など、参考になることは積極的に取り入れています。できるだけ作業しやすい導線を作るため、酒造り以外の時期は、タンクや機械の配置をかえることもあります」
地元で愛される、だけじゃない。
未来に向けて海外進出を狙う
越銘醸では、地元の人に愛される昔ながらの酒から、現代の人の好みに合わせた酒まで、幅広い銘柄が揃っています。
『越の鶴』や『壱醸』など、長岡では定番の酒が並ぶ一方で、先ほど紹介した『山城屋』は2014年に新しく立ち上がった銘柄です。
実は『山城屋』は新潟県外向け限定の銘柄として作られたもので、名前は創業当時の屋号から来ているそう。こちらの酒は、ファンの裾野を広げようと,新潟の酒らしく淡麗でありながら、米の味わいを引き出した淡麗旨口。近年のブームでもあるワインのような口当たりで、料理とのペアリングも楽しめる食中酒となっています。
また、2019年には台湾の有名デザイナーとコラボしたスペシャルパッケージも発表。今後、台湾への進出も目指すなど、これからの長岡の酒の発展のために様々なチャレンジ行っている銘柄なのです。
【参考記事:長岡の酒が台湾上陸。現地の反応は?「Nagaoka Sake Discovery in 台湾」】https://na-nagaoka.jp/archives/11779
思い通りの出来にならないからこそ
毎年課題を追求していきたい
最後に杜氏の浅野さんに「どんなお料理に合わせるのがいいですか?」と問うと、「よく聞かれるんですよね」と困り顔。
「この銘柄は○○に合う……というような先入観をあまり与えたくなくて……。
ただ日本酒はどんな料理にも合いますよ。繊細な味わいにも合うし、味が濃いものもスッキリと流してくれる。フレンチレストランのシェフでも、日本酒を一緒に出してくれることもありますよね。正直、僕個人の好みとしては、お刺身とはちょっと合わないなと思いますが(笑)、お客様一人ひとり味覚は違うので、自分で好みのペアリングを探してほしいんです」
そう語る浅野さんは、蔵人である両親を見て育ち、幼いころから自然と将来、酒造りをすることを思い描いていたそう。大学を卒業し、23歳から蔵人として働いています。深く知れば知るほど奥深くなっていく日本酒造りに触れるなかで、毎年課題が見つかると言います。
「酒を造る際には、最終製造アルコール度数と日本酒度数の目標値を決めて酒をつくります。目標通りの日本酒ができて満足しても、火入れ瓶詰めした酒を夏場や秋口に飲むと、香りが想像と違うこともあって……。もっと低温で保存したほうがいいなど、改善点が毎回見つかりますね。自分ができたと思っても世間的にはいまいちだったり、その逆もあったりします。でも常に目指しているのは、飲み飽きずに、料理と一緒に何杯でもいけるもの。日本酒は温度のアレンジなどでも自分の好きなように飲めるバラエティの豊かさが魅力なので、そこも楽しんでほしいです」
若い蔵人が多く所属する越銘醸。若いパワーもあってか、きっちりと伝統を守りつつも、新たなチャレンジを次々と重ねていく姿勢は、幅広い味わいを揃えるラインナップにも表れています。台湾で開催されたイベントでも好評だったそうで、これから世界を見据える長岡の酒の一つとして、注目していきたい酒蔵です。
Text and Photos : Erina
●Information
越銘醸株式会社
[住所]新潟県長岡市栃尾大町2-8
[TEL]0258-52-3667
[URL]https://koshimeijo.jp/