古民家再生で日本のよさを今に伝える。老舗和菓子店「江口だんご」

2016.12.16

「130年以上前の古民家を再生させた老舗和菓子店があるらしい」そんな情報を聞きつけた、な!ナガオカスタッフ。目的の地へ向かうため、長岡駅から約12km離れた宮本地区へと車を走らせました。お隣の柏崎市へ向かう国道8号線を進み、にぎやかな市街地を離れると、やがて田園地帯が広がり里山を臨むのどかな風景に……。周囲に店らしい建物は見当たらず不安になってきた頃、突如見えてきたのがドデカい串だんご!

インパクト抜群のくし団子の看板。

インパクト抜群の串だんごの看板。

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こちらが老舗和菓子店「江口だんご本店」。築130年以上の古民家を再生した建物は趣深く、日本の伝統美を感じられるお店として観光客にも人気です。2013年には「AKB48」のプロモーションビデオのロケ地として使われ、一躍注目を集めるようになりました。最近では「ポケモンGO」の出現スポットとしても有名になっているのだとか。

創業は1902年(明治35年)。一軒の茶屋から始まった江口だんごは順調に店舗数を増やし、現在長岡市内に4つの支店をもっています。本店がこの地にオープンしたのは、2005年のこと。今でこそ地元はもとより県内外にも人気のスポットとなりましたが、古民家を再生するまでには並々ならぬ苦労があったようです。開店までの道のりを社長の江口太郎さんに聞きました。

 

修業時代に出会った茶寮に感動
古民家の魅力に惹かれて……

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4代目社長・江口太郎さん。和菓子職人歴は30年以上のベテラン。

そもそもの始まりは江口社長23歳の頃、大分での和菓子修業時代にありました。

「湯布院へ出かける機会があり、そこで古民家を再生した茶寮に出会ったんです。美味しい食事を提供するお店で、温かさと重厚さを感じる空間。ゆったりとした雰囲気が心地よく感じました。」

古民家のもつ魅力に感動した江口氏。さっそく、当時江口だんごの社長を務めていたお父様(現会長)にも声をかけ、この茶寮へと連れていきました。その感想は、「これは素晴らしい」の一言。「将来、自分たちも古民家再生の店をつくりたい」親子はそんな夢をもつようになりました。

「実はこの茶寮、新潟の古民家を解体して、わざわざ九州・湯布院まで運んで建てられたそうです。重みのある雪にも耐えられるどっしりとした梁があるのは頑丈な造りの証。全国的に見てもレベルの高い家屋が、新潟県に多いということを知りました」。古民家再生への夢がますます膨らんでいったといいます。

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古民家が取り壊される話を聞くたびに、現場へと駆けつけた。

十日町市で見つけた古民家は、太くて大きい梁が特徴。本店では甘味処の空間に再生した。

十日町市で見つけた古民家は、太くて大きい梁が特徴。本店では甘味処の空間に再生した。(施工後の甘味処の梁組みの様子は、こちらの記事でもご覧いただけます)

 ところが、その当時、新潟県内の古民家は、価値のないものとして次々と取り壊されていたのです。急いで新店舗設立のために古民家を探す日々……。これぞという家屋は簡単には見つからず、ついに探し当てたのは長岡市柿町にあった与板城家老の家、空襲を免れて残存する立派な建物でした。また、十日町市からは茅葺屋根の古民家を見つけることができ、この2軒を移築させることとなりました。

 

 

時代に逆行してでも
自然あふれる景観にこだわった

店舗となる古民家は確保できました。さて、ではどこに建てようか?江口社長が理想としたのは、田んぼに囲まれ山と川が近くにある、そんな自然豊かな場所。長岡市内を巡った結果、宮本地区がまさに理想そのものでした。

「でもね、困ったことに銀行がお金を貸してくれなかった。それもそのはず、当時和菓子業界では店の半径2.5km以内に住宅地が密集していることや、観光地・商業地であることが繁盛の絶対条件だったんです。江口だんごのやろうとしていたことは真逆ですからね。周りには田んぼしかない(笑)。それでも国道沿いだから車通りは多いはずと、長期間かけて必死に説得しました」

苦心の末、なんとか融資も受けられることに。いよいよ、古民家再生へと動き出します。解体して倉庫に長い間しまわれていた古材たちは、職人の手により再び建物として蘇っていきました。

そして2005年、地元の方々の協力もあって、江口だんご本店開店。長年の想いが結実した瞬間でした。

与板城家老の住んでいた古民家を再生。店舗や喫茶を併設している。

与板城家老の住んでいた古民家を再生。店舗や喫茶を併設している。

休憩スペースからは、山と田園風景が見渡すことができ、春には一本桜が咲き誇る。

休憩スペースからは、山と田園風景が見渡すことができ、春には一本桜が咲き誇る。

1500坪の敷地には、長屋の体験スペース「餅土間」があり、その奥に販売店舗、カフェ、工場などが併設された家屋が建てられています。

体験スペース「餅土間」。クラシックが流れる優雅な雰囲気の中で、和菓子作りを楽しめる。

体験スペース「餅土間」。クラシックが流れる優雅な雰囲気の中で、和菓子作りを楽しめる。

販売スペース。2尺もある太いケヤキの梁が存在感を放っている。

販売スペース。2尺もある太いケヤキの梁が存在感を放っている。

昔ながらの釜戸。懐かしさを感じる薪の香りが漂う。

昔ながらの釜戸。懐かしさを感じる薪の香りが漂う。

本館の先にある「雪甘月蔵づくりカフェ」。ロールケーキ、プリン、シュークリームなどを販売。

本館の先にある「雪甘月蔵づくりカフェ」。ロールケーキ、プリン、シュークリームなどを販売。

また、建物には古民家ならではの重厚さがありますが、現代的な要素も同居。オシャレな照明やステンドグラスで飾られ、店内にはクラシック音楽が流れています。昔の家にありがちな「暗い、寒い」というイメージはまったくありません。古いものでも手をかければ、味わい深く魅力を増していくということを、感じさせてくれる空間です。

 

 

日本文化の素晴らしさを
この地で伝えたい

「昔からある『日本の素晴らしいもの』を伝えていきたいんです」と語る江口社長。その言葉通り、古民家だけではなくこの店のすべてが「昔のよさを、工夫して今に伝える」というコンセプトで貫かれています。

月を愛でながらジャズを楽しむ「お月見コンサート」。

月を愛でながらジャズを楽しむ「お月見コンサート」。

例えば、季節の伝統行事。江口だんごを会場にした花見、七夕、月見のイベントを毎年開催し、行事の由来を解説しながら、日本の風情を感じられる機会を設けています。その際、音楽ライブも開催し、若い人も楽しめるような雰囲気づくりをしているそう。

ここは、「和菓子を売るだけの店」ではないのです。日本の伝統文化の価値に改めて気付かせてくれる、そんな場所だともいえます。

店内では、ベテラン女性職人「匠部」が笹だんごを作る様子を見学できる

店内では、ベテラン女性職人「匠部」が笹だんごを作る様子を見学できる。

名物5色だんご。こしあん、抹茶、ごま、しょうゆ、海苔の5種類(756円)

名物5色だんご。こしあん、抹茶、ごま、しょうゆ、海苔の5種類(756円)

1歳のお祝いの一升餅。名前が入った紅白豆大福に、オリジナルリュックがつく。

1歳のお祝いの一升餅。名前が入った紅白豆大福に、オリジナルリュックがつく。

 

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