長岡発「新潟一のおみやげ」を目指す!大学生と企業が組んだ商品開発プロジェクト

2020/6/11

「新潟県の特産品」といえば何を思い浮かべるでしょうか?きっと多くの人が、お米、または日本酒と答えるかもしれません。しかしながら、新潟にはまだまだ知られざる魅力がたくさんあります。そんななか「若者目線で新潟の魅力を伝えたい」という想いで、おみやげの商品開発に挑んでいる大学生たちが話題を集めています。企業とコラボして「売れる商品」を作り、最終的には“新潟を代表するおみやげ”を目指しているとのこと。いったいどのような活動をしているのか取材しました。

訪れたのは、新潟県長岡市東部、悠久山のふもとにある長岡大学。平田沙織元専任講師のゼミに2019年度に所属していた22人が、企業と協力をして新商品の開発を進めてきた。2019年度が第二期目となる新しいゼミで、メンバーは4年生10人、3年生12人の計22人(2020年3月現在)。「商いを通じて学ぶ会計と経営戦略」「地域に貢献する商品開発」をテーマに活動を行っています。

平田ゼミはアイディア力と行動力にあふれた学生ぞろい。中央のスーツを着た女性が平田元専任講師。

こちらのゼミの注目すべき点は、商品開発だけで満足せず「売れる商品づくり」を目指していること。学生ならではのアイディアでこれまでにない商品を世に送り出し、きちんと利益を生み出すことが目標です。さらに「販売戦略を立てて売る」体験も重視されており、大学祭での模擬店では商品や販売方法に工夫をこらし、校内模擬店大賞で1位を獲得するという功績を残しています。

聞けば、平田ゼミ立ち上げから、これまでに200以上の企画書が提出されてきたとのことどれも学生たちの夢とアイディアが詰まっていましたが、現実は厳しく、企業のゴーサインが出なければ商品化にはたどりつけません。そんななかで商品化を果たしたのが、「新潟コイクッキー」と「ハレハレはなび」の二つの企画。いったいどのような商品なのか、そして企画案から商品化に至るまではどのような試行錯誤があったのでしょうか?学生たちに話を伺いました。

 

“鯉×恋×来い”がコンセプトの

「新潟コイクッキー」

経済経営学科4年生の吉田真理さん。

学生発商品の一つめ、新潟コイクッキー。プロジェクトメンバーは全6名で、そのリーダーを務めるのが3年生の吉田真理さんです。

「新潟コイクッキーは、長岡市に本社をもつ洋菓子店『ガトウ専科(美松)』さんとの共同開発で生まれました。案が採用されるまで、30枚以上の企画書を提出しましたね。商品化にたどり着くまでには苦労しました」

授業で経済を学んでいる彼女たちですが、商品開発に関しては素人同然。はじめのうちは菓子の味や形状にこだわり、原価やターゲット層が考慮されず“利益を生む商品”を目指すにはほど遠かったといいます。それでもガトウ専科の社員たちとミーティングを重ねてアドバイスをもらうなかで、新潟産サツマイモ「イモジェンヌ」を使用したラスク、米粒の存在感があるクッキー、カレー味のフィナンシェなど、好感触のアイディアも登場。しかしながら競合他社の存在やコンセプトの弱さから却下され、商品化へのハードルは相当高いものでした。

ガトウ専科の社員と学生たちとのミーティングの様子。

吉田さんたちメンバーは「お米以外の新潟の魅力を広めたい」との想いから、地域の特産品を探索し、商品アイディアを練る日々を送ることに……。そしてたどり着いたモチーフが、新潟発祥の「錦鯉」でした。

採用された新潟コイクッキーの企画書。若者らしいコンセプトが評価されました。

「コンセプトは『新潟にコイしてもらう』。外国人に人気の錦鯉は、日本の風情を代表する魚です。美しい錦鯉に心を奪われるように、新潟県にも魅力を感じてもらいたいという想いを込めています。新潟に“来い”という意味も含ませているんですよ」

大学生らしいコンセプトとモチーフの魅力、競合他社の少なさが決定打となり、2019年8月末の打ち合わせで商品化が決定。いよいよ商品を形にする段階へと歩を進めました。

 

県産米粉と天然着色料越後姫パウダーで

新潟特産品をPR

新潟コイクッキー(6 枚入り)500円。

こちらが学生のアイディアをもとに完成した新潟コイクッキー。味や食感はガトウ専科と共に何度も改良を重ね続け、時間をかけて配合や製造方法を決定しました。米粉100%を使用したグルテンフリーのクッキーで、サクサクほろりとした食感が特徴。錦鯉の中でも高い人気を誇る品種「紅白」をモチーフにし、頭部には“恋”をイメージしたハートマーク、背中部分には新潟県の形が浮かんでいます。ホワイトチョコレート入りの生地に、新潟県産ブランドいちご「越後姫」パウダーを使用した甘酸っぱいアクセントを加えることで、メリハリのある味わいに仕上げた自慢の逸品です。

左下が改良前の新潟コイクッキー。

長岡造形大学の学生がパッケージを担当。

初期の製品は錦鯉を象ったいちご味のシンプルなクッキーで、模様はありませんでした。しかし、「錦鯉の美しさを表現できれば」とガトウ専科がコストをかけて金型を製作し、赤い模様が映える現在の形となったそうです。多くの人に知ってほしいと1袋6枚入りで販売を開始しましたが、おみやげとして多くの枚数を購入したい方に向けて、箱入り(10枚入り)での販売もスタートさせています。

見附市にあるガトウ専科工房で、製造を経験する吉田さん。

試作品の新潟コイクッキー。

 

コイクッキーが結んだ

大切な人たちとのご縁

新潟コイクッキーの商品化決定は、吉田さんたちに様々な縁を運びました。その一つが、錦鯉を育てる生産者たちとの出会いでした。

「錦鯉についてもっと知りたいと考えた私たちは、新潟県小千谷市にある『全日本錦鯉振興会 新潟地区』を訪れました。そこで知ったのは、致死率100%にもなる原因不明の病気『コイヘルプスウイルス病』の存在。場合によっては、錦鯉が全滅してしまうほどの恐ろしい病気です。

新潟コイクッキーが、錦鯉生産者の役に立てないだろうか――そんな想いから、売上金の一部を寄付し、病気対策用の募金を集めることにしました」

学生たちが自作した錦鯉型募金箱。

錦鯉品評会で販売。錦鯉モチーフの新しいおみやげが、会場を盛り上げました。

これが縁となり、吉田さんたちは10月開催の「錦鯉品評会」で新潟コイクッキーを販売することが決定。当日は錦鯉が優雅に泳ぐ会場で販売し、来場した外国人の愛好家たちにも好評を博しましたが、鯉のエサと勘違いされる場面もあり、課題も残ったようです。

そしてもう一つ、長岡市を中心に音楽活動をするデュオ「ひなた」のメンバー・ぴろんさんとの出会いも大きく運命を変えました。ガトウ専科のテーマソングを手がけるぴろんさんは、吉田さんたちが集まる打ち合わせにも度々同席し、商品化が決まると全力で応援することを宣言。自身のラジオ番組でPRの場を設けたり、SNSで商品紹介したりと、吉田さんたちの頑張りをサポートしてくれました。

フォークデュオ「ひなた」が長岡を熱くする!12月開催「音むすびフェス」への想い

 

ぴろんさんがMCを務めるラジオ番組に出演!

ガトウ専科と学生とのミーティングでは、ぴろんさんの表情も真剣。

「10月開催の『ひなた結成20周年ライブ』では、新潟コイクッキーを販売させていただきました。ステージ上でぴろんさんが商品紹介をしてくださったおかげで、目標100袋を大きく上回る385袋が飛ぶように売れたんです!今後はコイクッキーのテーマソングも構想中なんですよ。ご縁に本当に感謝しています」

その他にも、長岡大学「悠久祭」の模擬店や長岡駅、アオーレ長岡アリーナ、リバーサイド千秋長岡店、ハワイのホノルルなどで販売し、総売上金はなんと50万円以上(2020年3月現在)。3月中旬からは、ガトウ専科CoCoLo長岡店、ガトウ専科新潟駅万代口店、ガトウ専科見附工房店で通年販売がスタートしています。

お客さんに試食をしてもらい、新潟コイクッキーの魅力を伝えます。

2020年3月、ハワイ州ホノルルで販売。夢の海外進出を果たしました。

「ガトウ専科の社長さんは、『商品を成功させるために協力できるのは2割だけ』とおっしゃっていました。あとの8割は私たち学生が、どうPRして盛り上げていけるか。たくさんの人に手に取ってもらえるように全力で情報発信していきたいです」

 

新潟コイクッキープロジェクト動画

 

長岡花火がモチーフの干菓子

「ハレハレはなび」

ハレハレはなび(15個入り)1,500円。中には「大吉」と記されたおみくじ入り。

平田ゼミの学生が考案したもう一つの商品はこちら。華やかで繊細な和菓子「ハレハレはなび」です。創業200年の和菓子屋「紅屋重正」とコラボした干菓子で、長岡名物の「フェニックス花火」に見立てています。

まるで花火玉のようにコロンとした見た目で、ピンク色はいちご風味、黄色はゆず風味。上質な和三盆糖を使用することで、口に入れるとふわりと優しく溶ける食感が魅力です。

コンセプトは「今日も一日ハレますように」という想い。食べた人の顔をハレ(笑顔)にし、長岡の夜空を花火でハレにし、食べればたちまちハレの日(特別な日)になる。そんな願いを込めて、干菓子を若者らしい視点でアレンジしました。

経済経営学科4年生の大島日和さん。

「ハレハレはなびも、商品化に至るまでは数々の苦労がありました」と語るのは、メンバー3名を率いるプロジェクトリーダー、4年生の大島日和さん。まず直面したのはコストの問題でした。

「初期案は花火を象った形状でしたが、それでは金型のコストが膨大になってしまいます。そこで既存の型で花火を表現したいと模索し、丸い干菓子を和紙で包み、円形の容器に並べるアイディアを思いついたんです」

初期のハレハレはなび企画書。商品名や干菓子の形状、パッケージイメージは現在と異なっています。

その後もブラッシュアップを重ね、味、食感、風味を決定。和三盆100%のなめらかな舌ざわりにこだわったため、どうしても価格が高くなってしまうので、消費者に納得してもらえる魅力を備えることも課題でした。パッケージも妥協せず、高級感のある曲げわっぱ風の箱を採用。パッケージイラストは、大島さんが自ら手がけました。

大島さんが手がけたパッケージイラスト。明るい黄色で“ハレの空”を表現している。

2019年7月に商品化が決定してから時間をかけて味や包装資材を検討し、初めての販売は10月開催の長岡大学「悠久祭」。目標販売数は2日間で60個だったところ、結果は23個と振るわない結果となってしまいました。

「和三盆の認知度が低かったのが敗因の一つでした。試食の数を増やして、商品説明をしっかりすべきだったなと。あとはSNSなどの宣伝やプレスリリースのタイミングが遅れてしまったので、計画性が必要でしたね」

長岡大学「悠久祭」での販売。思うように販売数が伸びず、悔しい結果に。

シティホールプラザ「アオーレ長岡」で行われた発酵イベントでの販売。

これらの反省点を踏まえ、11月は長岡市主催の発酵をテーマとしたイベント「HAKKO trip」で再び販売に挑むことに。その結果は前回よりも好調で、1日に14個を売り上げることに成功しました。

「販売してみて気付いたことはたくさんあります。異なるターゲット層からの反応が大きかったり、『量が多い』『価格が高い』という意見が目立ったり。『ワインと相性ぴったり』という予想外な感想もありました。これらの意見を参考に、商品の規格を見直していきたいです」

販売経験を経たことで、まだまだ改良を重ね続けるハレハレはなび。2020年8月には紅屋重正での店頭販売が決定しており、多くの人に手にとってもらえる機会が増えそうです。

 

自らが生み出した商品を

大きく育てていきたい

平田ゼミの学生たちは、企画書作成から企業へのアポ入れ、メディアへのプレスリリース発信、出店手続きや当日の販売など、すべてを自らが考えて行動してきました。そうした経験を積むなかで知名度を上げることの難しさと重要さを学び、次々と課題や改善点、新たな目標が見えてきたようです。

大島日和さん(左)、永井ひとみさん(中央)、吉田真理さん(右)。

「目指すは“新潟を代表するおみやげ”。新潟コイクッキーを海外で販売していきたい!」と意気込む吉田さん。一方、同プロジェクトの永井ひとみさんは4年生で、春から企業に就職しますが、「プロジェクトを卒業しても、新潟コイクッキーを応援しています。地道に周りの人に魅力を伝えていきたいです」と話します。ハレハレはなび担当の大島さんは「今年は長岡花火開催時期での販売を目指します」とやる気十分。企画書から商品化へとつながったことで、各自がそれぞれの目標を見つけています。

そんな学生たちの奮闘ぶりは、平田元専任講師の想像以上だったようです。

平田元専任講師は2019年度で別大学へ移籍。2020年度からは後任の担当教員がゼミの内容を引き継ぎます。

「企画書段階でストップすることが多い中、商品化にたどり着けたのは素晴らしく、彼女たちにとって大きな学びとなっていると思います。実際に消費者から商品のフィードバックを得られるのも貴重な経験です。商品を生み出したら、これからが本番!知名度を上げられるように頑張ってほしいですね」

商品開発において素人同然でありながらも、アイディアを練り、売れるための方法を考え、試行錯誤しながら行動し続けてきた学生たち。その情熱的な姿勢があったからこそ、企業は厳しいアドバイスを行い、必要なサポートを続けてきました。とはいえ“舵取りをするのはあくまで学生”というスタンスは崩さず、企業は介入しすぎないことを大切にしているそう。そこには心地良い信頼関係が生まれています。

学生発の新みやげの可能性は未知数。若者パワーで地域を巻き込み、商品を育てていくことで“新潟を代表するおみやげ”になる日も近いのかもしれません

Text and Photos: 渡辺まりこ

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