プロレスを愛し、プロレスファンに愛される。「応援する力」が集まる『のみくい処みや』
JR長岡駅から北に歩くこと10分。袋町ガード横のプロレスラーのポスターがびっしりと貼られた居酒屋と聞けば、知っている長岡市民も多いのでは。『のみくい処みや』は、信州の極上馬刺しと、こだわりの豚もつ煮こみが名物の居酒屋。そして、外観の印象を裏切らない、熱いプロレス愛に溢れたお店なのです。興行で長岡を訪れるプロレスラーたちも通う、美味しく楽しい酒場はどのようにしてできたのか?オーナーご夫妻に話を聞いてきました。

マスターと女将、プロレス好きの
ふたりの出会いは?

のみくい処みやは、料理担当の「マスター」こと宮本茂さんと、明るく話題豊富な「女将」こと望さんご夫妻が営む居酒屋です。茂さんは長野県須坂市生まれ。親の影響で小学生の頃からプロレスが好きで、年に一度、長野に来るプロレスの興業を見に行くのが楽しみにしていました。新日本プロレスが好きで、小学生のときにアントニオ猪木のファンになり、のちに長州力の大ファンに。学生時代から料理を作るが好きだったこともあり、高校卒業後は長野市の有名割烹で住み込みで働き、和食の料理人としての修行を積みました。30歳になる少し前、割烹を辞して別の店に移ったのち、1999年頃、縁あって新潟県へ。長岡で厨房に立つことになったそうです。
茂さん「長岡の殿町に新しくオープンしたスポーツバーの厨房チーフを務めることになったんです。店内にモニターが3つか4つあって、野球、サッカー、プロレスを見ながらお酒が飲めるバーでした。でもあまり流行らなくて1年で店を閉めることになりまして。長野からわざわざ出てきたので、閉店したからといって地元に帰るのもな…と思っていたら、ここ(今の「みや」の店舗)が貸店舗になっていたのを見つけ、自分の店をやってみようと決心し、2000年7月10日に『のみくい処みや』を開店したんです」
一方、長岡市出身の望さんは、90年代の半ばだった中学3年生の冬、自宅のテレビでたまたま流れていた全日本プロレスの試合にくぎ付けになりました。
望さん「そのときの試合がすごく印象的で、翌週、学校でプロレスが好きな同級生に『全日本プロレスを見たけど、おもしろそうだから、雑誌を読むなら何がいい?』と聞いて勧められた『週刊ゴング』を読み始め、テレビ中継もチェックするようになりました。高校生になってからは、長岡市厚生会館に全日本プロレスのチャンピオンカーニバルの興行が来ていたので、生観戦にも行き始めました」
そんなふたりはどこで出会ったのでしょうか。
望さん「社会人になってから一緒にプロレス観戦に行っていた女友だちが『私の新しいバイト先のチーフがプロレスファンで、厨房に『週刊プロレス』のバックナンバーがあるから読みにおいでよ。モニターでプロレスもずっと流してくれているし』と誘ってくれて、行ったのが殿町のスポーツバーだったんです」(望さん)
その「プロレスファンのチーフ」こそが茂さんでした。望さんはこの店に、プロレスファンの客として訪れるようになり、のちに茂さんがスポーツバーを閉めて「みや」をオープンさせたときのお祝いの会にも参加。「みや」の開店から2年目、マスターとお客さんの関係だった茂さんと望さんは、茂さんがお店のイベントとして企画した長野へのリンゴ狩りツアーをきっかけに親しくなり、交際をスタート、そこから4カ月というスピードで結婚へ。茂さんのプロポーズは「これからは週刊プロレス1冊でいい?」、そして望さんの嫁入り道具は「これまでに集めたプロレス観戦のパンフレット」という息の合ったご夫婦が誕生しました。茂さん33歳、望さん24歳の春のことでした。
望さん「結婚記念日は、3月8日で『みや』の日なんです。ちなみに長男は8月3日生まれで覚えやすい日なんですよ」

長男の力さん、次男の真さんも、もちろん大のプロレスファン。それぞれが好きな選手や団体の試合を追っかけたり、家族揃って観戦に行ったりするそうで、宮本家の仲の良さ、家族共通の推しジャンルのある幸せが伝わってきます。


プロレス関係者からも
一目置かれる店に


今でこそ、店内にプロレスのグッズやポスター、格闘家たちの色紙が隙間のないほどに飾られ、地元開催試合のチケットまで取り扱う「みや」ですが、当初は、現在ほどプロレス色は強くなく、ポスターを一、二枚貼ってあっただけだといいます。
望さん「自分たちも、いつからこんなにプロレス色が強くなったのか全く覚えていないんです(笑)」
茂さん「プロレスの試合のチケットを扱うようになったきっかけも、自分たちから何かしたわけではなく、全日本プロレスの営業さんがポスターとチケットを持ってうちに話を持ってきてくれたんです。『売れるかどうかわかりませんよ』と伝えたのですが、それでもいいから、と言ってくれて」
望さん「興行があると表にポスターを貼るので、どの団体の営業さんからもありがたがられます。店のすぐ前の交差点は信号待ちの人や車が多いので、目に入るそうなんですね。『外のポスターで、長岡に試合が来るってわかります』なんてたまに言われます」
いつの間にか、「みや」は新潟に営業に来るプロレス関係者の間でよく知られるお店となっていきました。プロレスラーのお客さんが最初に来てくれたのは2013年、大森隆男選手。以来、若手から有名選手まで、数多くのレスラーやプロレス関係者が大会前のプロモーションや、試合後の打ち上げで立ち寄り、楽しく飲んで食べていくようになったのだとか。
店に訪れたレスラーたちがサインや写真を残していってくれるので、それを見ながら試合の話で盛り上がったり、選手来店時のエピソードを女将から聞くのも、ファンにとっては楽しいひと時です。
望さん「でも、プロレスファンのお客さまばかりというわけでもなくて、ほとんどが馬刺しともつ煮を目当てにいらっしゃる一般のお客様です。逆にプロレスのファンの方には『ハードルが高い店』と言われてしまって(笑)。『自分レベルの知識でマスターとプロレスの話ができるのか?と思いましたが、今日は勇気出してきました』とおっしゃるお客様もいて。もう全然気にせず、どなたさまもぜひ来てくださいと言いたいです」

宮本家に大事件!
憧れの長州力とテレビ出演

「みや」開店以来の大事件は、2023年の春、「みや」のSNSにダイレクトメールが届いたところから始まりました。TBS系列のテレビ番組「推しといつまでも」の番組制作スタッフからの連絡で、長州力さんを推す一家としてテレビ出演することへの打診でした。
「推しといつまでも」公式HP
https://www.mbs.jp/oshi_mbs
6月にいよいよ出演が本決まりになり、宮本家は大わらわ。撮影期間は2週間という長期で、長州さん本人もお店に来るとあれば、それも当然です。茂さんが最も敬愛する長州力さんをどうおもてなしするのか、テレビ局からのオーダーにどう応えればいいのか、家族みんなで頭をひねることに。茂さんの気持ちはどうだったのでしょうか。
茂さん「(対面するのが)おっかなかったです。私が見てきた長州力は今みたいにバラエティ番組でニコニコ笑っている、そんな人じゃないから」
リングでの姿を知っているファンとしては、話しかけることもできない、畏怖を感じる存在だというのです。
茂さん「制作スタッフのディレクターの女性が『なんで長州さん、怖いんですか?あんなにニコニコしていいおじいちゃんじゃないですか』とか言うのよ。いやいやいやいや、違うんだ、こんな近い距離なんかもう絶対無理だ」
望さん「私も、長州力さんの全盛期をリアルタイムで見ているわけではないので、マスターに『お前、わからないだろ、長州力の本当の怖さを』と言われると何も言えなかったです」
茂さんが緊張するなか、家族も番組制作陣のリクエストで「推しへのおもてなし」に全力で応えます。当時小学生だった次男の真さんは長州力の絵をカメラの前で2時間がかりで描き上げ、さらにチャンピオンベルトを手作り。また家族総出、7時間がかりでプロレスのリングを制作したのでした。

茂さんはもちろん料理でおもてなし。素材のおいしさをいかした、いつも通りの料理を出したい茂さんは、番組制作陣から長州さんに向けた創作料理を用意してほしいとのリクエストに、ずいぶん頭を悩まされたりもしたそうです。そしてついに当日、長州力さん、ご来店。
望さん「長州力さんが、もつ煮をね、絶賛してくださって」
茂さん「それが一番嬉しかった」
望さん「もつをあえて大きめにカットして食べ応えを出したり、味噌をブレンドして使ったり、マスターのこだわりが詰まった料理だから」
「推しといつまでも――長州力推しの家族が自宅でおもてなし!!」の回は2023年7月24日に放送。番組の反響は大きく、遠方から来てくれるプロレスファンや、近所の人にも「テレビ見たよ」と声をかけられたり、お店に来てくれたことのあるプロレスラーがSNSで番組の紹介を発信してくれたり、「感動した」「泣いた」という声も数多く寄せられました。

店には、次男の真さん手作りのチャンピオンベルトが今も置いてあります。番組で長州力さんが実際に付けて「今まで巻いたベルトの中で一番重いな」とコメントしてくれた思い出の品。放送後も、来店した若手の選手や現役レスラーや、番組を見たお客さんが肩にかけたり、巻いたりして写真を撮っていくといいます。
嵐のようなテレビ出演でしたが、憧れの人、長州力さんとの交流は、宮本一家にとって、忘れられない思い出となりました。
番組は既に配信終了していますが、YouTubeやInstagramで予告映像など一部を見ることができます。宮本一家と長州力さんの交流をのぞいてみてください。
みやに来たなら外せない!
看板メニュー「もつ煮」と「馬刺し」

ここで、のみくい処としての「みや」の味をご紹介。みやの名物は長州力さんも絶賛の「豚もつ煮こみ」と「極上馬刺し」。また、地元らしさのある料理として栃尾の油揚げなども人気があるといいます。


いまや名物の豚もつ煮こみですが、定番メニューに入ったきっかけは偶然の巡り合わせなんだとか。
茂さん「精肉店さんから『もつを買ってくれませんか』と頼まれたのがきっかけで作り始めた料理なんです。出してみたら寒い冬場だけでなくて、夏場もけっこう人気があるので、通年のメニューになりました」
仕込む際のマスターのこだわりは、豚もつをおおぶりに切ること。だから、柔らかいのに食べ応えは満点。さらに嬉しいことに、豚のカシラ肉もゴロゴロと入っているので、ガツンとしたうまみも味わえるのです。味は定番の「みそ味」と、マスターの気まぐれで作るため、運がよければ出会える「塩味」の二種類。みそもマスターのこだわりでブレンドして使っています。鍋や容器を持って豚もつ煮だけを買いに来るお客さんもいるほど、ファンの多い逸品です。


もう一つの名物が極上馬刺し。開店当初からメニューには入れていたものの、最初はそこまで人気のあるメニューではなかったのだとか。人気に火が付いたきっかけには、食品の安全神話を揺るがした、あの社会問題がありました。
望さん「最初の頃は七輪で焼いた牛タンが人気メニューだったのですが、2000年代前半、狂牛病が問題になった影響で、牛タンが仕入れにくくなったんです。また、その後生食用の牛レバーも安全性が問題視されて食べられなくなったことで、生食できる馬刺しの人気が上がっていったんです。『みやさん、昔から馬刺しやっていたよね』『馬刺し、美味しいね』って言われるようになって」
茂さん「日本は肉の生食の基準がすごく厳しいのですが、馬刺しはそこをクリアしているから食べられるんです」
望さん「馬刺しを出しているお店はうちの他にもありますけれど、お客様は『みやの馬刺しが一番おいしい』って言ってくれて、ありがたいことです」
茂さん「長野から直接仕入れて、送ってもらっているんですよ」
望さん「馬刺しは高たんぱく、低カロリーなんです。だから来店されるアスリートの方はみんな喜んでくださるんですよ。プロレスラーの方はもちろん、アルビレックスBBのバスケット選手が来てくださったときにも人気でした」
茂さん「いろいろなレスラーにお出ししたけれど、一番緊張したのは小島聡選手が来たとき。緊張しすぎて、いつも通りに馬刺しが切れなかったもの」
望さん「極厚になってましたね。女将としては『ふだん、これ出さないで!』というくらいの(笑)」

裏人気ともいえるのが、栃尾のジャンボ油揚げ。長岡では焼いたものが居酒屋の定番メニューですが、「みや」では焼くのではなく、揚げ直しをして出しています。だから、表面がバリッとしていて香ばしく、ちょっと驚きのおいしさ。

ドリンクメニューには、プロレス推しの店ならではのものも。青りんごサワーは、その色合いから「みや」では通称「ミサワー」と呼ばれています。緑は、かつての全日本プロレスのエース、そしてプロレスリング・ノアの創設者となったトップレスラー、故・三沢光晴選手のイメージカラーなのです。

生ビールも美味しい「みや」。酒豪の方なら、特大ジョッキで注文するのはいかがでしょう。写真の特大ジョッキは、容量なんと1リットル。プロレスファンのお客さんから「まるでビッグバン・ベイダーですね」と言われたことから、「ベイダージョッキ」という名前になりました。望さん曰く「石川修司選手が持つと中ジョッキに見えてしまう……」とのこと。

さらに、「みや」は日本酒の品揃えも本当に素晴らしいので日本酒好きなら訪れて損はなし。地元新潟の今が旬なお酒が多数セレクトされていて、そのラインナップにはうなるばかりです。日本酒ファンなら何を頼もうか迷うこと必至ですが、そんなときはぜひ女将に相談を。また、マスターのおすすめの日本酒を組み合わせた「越後の地酒 呑みくらべ」のセットもあり、少しずついろいろ飲んでみたい、といった希望も叶えてもらえます。

アルビBBも絶賛応援中!
「応援」する力を持ち寄れる店

店内にはプロレスだけでなく、長岡市をホームとするプロバスケットボールチーム、アルビBBのポスターやグッズも数多く見られますが、こちらはどなたのご趣味でしょう。
望さん「私と次男です。実はアルビファンになったのもプロレスつながりでして、2020年11月の土日にアオーレ長岡で行われる『新潟アルビレックスBBvs宇都宮ブレックス』戦のゲストとして全日本プロレスの宮原健斗選手が2日間登場することになったんです。宮原選手目当てで私と次男で出かけたのですが、ゲームを見て次男がまずはまりました。攻守の切り替えが早くておもしろくて『バスケはプロレスとはまた全然違うエンターテインメントだ!』って。それで翌日も見に行って、私も付き添いで一緒に観戦に行くうちに、はまり出して、気づけば応援してもう6シーズン目です。だから我が家では、一番最初に買ったアルビレックスBBグッズが、アルビと全日本プロレスのコラボグッズなんですよ」
プロレス、アルビレックスBB、ほかにも鉄道関係のグッズや、カプセルトイのキャラクターグッズコレクション……。「みや」の店内からは「推し」を一家で応援する溢れんばかりのパワーが感じられます。それに囲まれながら、おいしい料理、おいしいお酒をいただいていると、熱中できる何かがあって、それが話せる場所や仲間があるって幸せなことだな、としみじみ実感してしまいます。
好きなスポーツ、好きな選手、自分が今夢中になれるものを楽しく語りながら、美味しいものがいただける、「みや」はそんな場所。ぜひ、みなさんも、「みや」でパワーチャージしていきませんか。
「のみくい処みや」の紹介はここまでですが、みやのご夫妻には、次の記事にもご登場いただきます。実は、長岡のプロレス熱が今、盛り上がっているのをご存じですか? 後半は、長岡にて昭和から続くプロレス興行の歴史や、プロレス界隈で大注目のアオーレ長岡会場の魅力を語る、プロレスファントークをお届けします。
Text: 河内千春 / Photo: 池戸煕邦





