【長岡蔵人めぐり 第6回】築98年の赤レンガ造り!文化財の蔵で醸す高橋酒造
2020/6/4
市内に16蔵を有する酒どころ、新潟県長岡市の酒蔵と蔵人をご紹介する本企画。今回はJR長岡駅から車で約6分、ゆるやかに流れる川沿いの住宅地に古き良き佇まいを残す高橋酒造にお邪魔してきました。
赤レンガ造りのモダンな酒蔵!
この場所で生まれる酒とは?
栖吉(すよし)川を渡ると目に飛び込んできたのは、煙突に書かれた「長陵」ののびやかな文字。20メートルはあるモダンで立派な煙突、レンガ造りの重厚な建物から、ただものでないオーラがただよっています。
しんと静まり返った蔵に、カツン、カツンと足音が響きわたります。高い天井に、蔵全体を包む凛とした空気。酒蔵というよりも、美術館や博物館に近い雰囲気かもしれません。まるで時間が降り積もっているような空間で、いま自分がどこにいるのか分からない不思議な感覚におちいります。
安政年間(1854〜1860)に産声を上げた高橋酒造は、初代 高橋七之助氏が紺屋(染物屋)として創業。シンボリックな六角形の煙突と赤レンガ製の醸造蔵は三代目である高橋榮太郎氏が着手し、約3年の歳月をかけて大正11年(1922年)に完成しました。地域のシンボルとして親しまれる蔵と煙突は、2007年には国の登録有名文化財に登録されています。
以前使っていた倉庫の入り口には白いコンクリートとレンガの装飾があしらわれ、日本酒というよりワインやビールを醸していそうなハイカラな雰囲気。創業者や当時の蔵人たちが自慢の仕事場で意気揚々と働いていたであろう様子が、ありありと想像できます。
「雪が降ると逆に暖かいんですよ。外気温が零度でも蔵のなかは5度ぐらいに保たれる。おいしいお酒ができる理にかなった空間なんです」
教えてくれたのは、専務で製造責任者の関口賢史さん。埼玉から長岡に移り住んだ9年前は、豪雪地帯の寒さに驚く日々だったと笑います。
新潟の酒らしくない
芳醇旨口をマイペースに醸す
高橋酒造の酒は、言うなれば“我が道をゆく”タイプ。新潟の酒に代表される「淡麗辛口」にとらわれることなく、「芳醇旨口」の酒造りにも取り組みます。地元の人の晩酌酒として愛される普通酒の「長陵」から、コクのある「八一(やいち)」やスマートな印象の「雪兜(ゆきかぶと)」、チョコレートに合う超甘口の純米原酒「カワセミの旅」まで、バラエティー豊かな食中酒がそろいぶみ。冷や(常温)や燗酒が生きるしっかりとした酒が多いのが持ち味です。
「麹がよくできると『やった!』と思いますね」
酒造りの話になると、寡黙な関口さんの表情がふわりとほころんだ。ときには思わぬ出来事から新しい知見が得られることもあるそうです。
「機械トラブルなど想定外の事も通常ではなかなか得られない経験と思って、前向きにとらえるようにしています。個人的には、ろ過後に瓶詰めする製品化前の酒が一番良い状態だと思ってます。これを消費者に届けられないのは残念ですが」
帰り際、蔵の外をぐるりと回ってみました。裏手は住宅街に接しており、その堅牢さに「よくぞこんな贅沢なものを100年前に作ったなぁ……」と改めて驚かされます。また、同地区には余った赤レンガで作ったとされる地蔵堂も残されています。誰もが舌を巻く立派な蔵が住宅地にずっと息づいている……酒どころの長い歴史を物語るフォトジェニックな蔵、それが高橋酒造。建物見物も兼ねてカメラ片手に訪れてみても良いかもしれません。
Text: 森本亮子
Photo: 池田哲郎
●Information
高橋酒造
[住所]長岡市地蔵1-8-2
[電話]0258-32-0181
[URL]https://echigo-choryo.co.jp/