小国の「道楽人形」の復活へ。一泊二日の「ムラビトになる旅」体験レポート
長岡市小国町にある法末(ほっすえ)集落には、ほんの20年ほど前まで、1月15日の小正月のサイノカミの行事の際、巨大な男根が特徴の「道楽人形」という大きな藁人形を5つの班が出来栄えを競うように作り、燃やして、五穀豊穣、健康祈願、子孫繁栄を祈る風習がありました。しかし、人口減少のなか、道楽人形は一体、また一体と減っていき、さらに2004年の中越大震災も追い打ちとなって、その歴史は途絶えてしまったのです。
しかし、これから先の未来に集落の歴史を継いでいくために、この道楽人形作りを復活させようと、今年、「法末自然の家 やまびこ」主催の「ムラビトになる旅」というツアーが組まれることになりました。2016年の5月に始まり、2017年1月の小正月の行事本番まで、全5回。村の人たちと、外から来る若者たちの手で、道楽人形のための藁を作り、トバを編み、さらに山の暮らしを体験する試みです。ここでは、9月24日と25日に行われた、第三回ツアーをレポートします。
法末ってどんなところ?
長岡市小国町の法末集落は、長岡駅から車で40分くらい走った山あいにあります。どこからか水の流れる音が聞こえ、木々の葉の揺れる音で風の通り道が見えてきます。昔ながらの家と田畑と木立と山が調和して、まるで風景画の中にいるよう。快晴の朝には、心洗われるような雲海が見られることもあります。
法末の集落は40世帯。ほとんどが高齢者で、しかも一人暮らしが20世帯を占めています。それなのに、村人は若々しくてとっても元気! 今回の「ムラビトになる旅」は道楽人形の復活のための作業を体験する、というだけでなく、山の暮らしを体験する貴重なチャンスにもなっているのが特徴。自然を敬う暮らしぶりの美しさや、村人たちの底抜けに優しい笑顔に魅了されて繰り返し通う人もいるのだそうです。
道楽人形って何だろう?
今でも新潟県をはじめ各地で見られる「塞ノ神」(サイノカミ)の行事。小正月の頃に藁と竹で円錐形を作り、火をつけて燃やし、無病息災を願うお祭りです。竹の先に餅やスルメをつけて焼いて食べると、病気をしないと言われ、また、書初めを燃やすと字が上手になるとも言われています。
法末は、集落ができてからなんと500年の歴史があるそう。数多くの伝統行事・伝統文化を残すこの地では、塞ノ神の際、男性のシンボルが堂々と表現された巨大な藁人形を作ります。これが「道楽人形」。もともと、子宝に恵まれて子孫繁栄しますように!という願いを込めて作られたものだそう。これだけ威風堂々としていると、もはや恥ずかしさを通り越した崇高さすら覚えます。前述のように、5つの班が競って作り、出来栄えを競い合い、最後はほかの塞ノ神の行事と同様、燃やします。
「ムラビトになる旅」って?
発端は、2015年。若者による山村活性化の取り組みである「地域イノベーター留学(※)」で、首都圏から法末を訪れた若者たちがいました。彼らは、法末で様々な体験をし、集落の人たちと何をすべきか、何を提案すべきか思案していました。集落をまわりながら、古い写真を見せてもらっていたときのことです。
東京出身のオオツカ君は「これ何ですか? 超面白い!」と、道楽人形の写真に大興奮。その様子に、地元の内山正平さんたちの気持ちが動かされました。今から10年以上も前に「こっつらがん、しんどいんだ、やめよう(こんなに大変なこと、もうやめよう)」と作るのを断念しながらも、心の中にくすぶっていた「いつかまた作りたい」という思いに火が付いたのです。オオツカ君の「見たい!」という気持ちに応えて「そっか、やってみよう」と、ムラビトたちの決断は早かったのです。
しかし「高齢化していく集落の人だけでは、伝統芸能を復活させることは難しい」とオオツカ君は思いました。そこで「よそものが来て、一緒に作り上げて、復活した伝統芸能を見に集落を訪れる人が増えていくことを願って」企画されたのが今回の「ムラビトになる旅」。
道楽人形は、稲の藁を使って作ります。村人の四季を通じた暮らしの中から生まれた芸能です。そこで、材料となる稲藁を調達すべく、米づくりから体験できるツアーに仕立てることにしたのです。2016年5月の田植えから始まり、7月に草刈り、9月に稲刈り、10月にトバ編み、そして1月には道楽人形作り……と、5回シリーズで実施されることが決定しました。
※「地域イノベーター留学」とは、「地域活性のスキルを身につけ、3年以内には地域で仕事を創り出したい!」と言う人たちに向けた、地域から新たな仕事を作り出すための手法と感性を磨く、短期実践プログラム。
ムラビト一日目~山道を作る
第三回ツアーが行われたのは9月24日土曜日。一日目は、首都圏から来たオオツカ君・シマムラさん・ナカジマさん、長岡からはカネコ君・「山の暮らし再生機構」のニシザワ君・な!ナガオカライター高橋が参加しました。
まずは、村人の大橋昭司さんを先頭に法末キャンプ場近くの山道整備に繰り出しました。山道の古くなっている階段を修繕するところから。のこぎりと鉈(なた)と木槌などの道具を持って山に入り、山仕事の経験があるニシザワ君が、木や枝を切り出します。壊れた部分の木は山の土に還るので、処分も簡単。とってもエコです。
細い枝を杭に作り変える作業を、79才の大橋さんはササッとこなしますが、やってみると一苦労。ムダなところに力が入るので、一本つくるのに時間はかかるし、汗びっしょり。ところが、神奈川から移住して今は長岡住まいのカネコ君は、3~4本作るとコツをつかみ、サクサク杭づくりに励みます。
その杭を土に打ち込むのも、山道の足場の悪いところで行うため難しいのですが、今度はあっという間にオオツカ君が名人になりました。材料を運ぶシマムラさんに、その木を山道に馴染ませるためトウグワを使って土をならしていくナカジマさん。適材適所で、休憩をはさんで2時間もすると山道の修復が終わりました。
ピザ窯に薪を入れて火を起こしてから、大橋さんの畑に行って、さつまいもとカボチャをゲット。美味しい焼き芋が出来上がりました。
ムラビト二日目~稲刈りとはさかけ
天気は快晴。朝、大橋さんが雲海を見に行こうとドライブに誘ってくれました。村の林道の先にある「法末・万里の長城」と名付けられた見晴台からの眺めは圧巻……。春から秋の快晴の早朝にしか見られないという雲海。今回は「最高」といえるものではなかったそうですが、それでも、この世の景色とは思えない美しさでした。朝日が昇るときの雲海も神秘的だとか。心が洗われる瞬間でした。
いよいよ9時から「道楽人形」の藁の材料でもある、稲刈りがスタート。毎年お米を法末から買っている都会の人たち、長岡の子どもたち、女性たちも加わって、のこぎり鎌でザクリ、ザクリと手刈りします。
一体の人形を作るのには、たくさんの藁が必要です。田んぼ一枚まるまる刈っても足りないくらいなのだそう。刈った稲をクルンクルンとまわして、束ねていきますが、覚えるのも一苦労。村人がマンツーマンで手とり足とり教えてくれます。それにしても80歳の村人たちの鮮やかな働きぶり、身のこなしの美しさ。「人は年齢だけでは測れない!」のです。ナカジマさんは、人生の達人のムラビトから、いろんなことを学びたくて来ていると語っていました。約2時間、総勢15名で稲を刈り、はさかけを行いました。
稲刈り機を使えば、一人で稲刈りから袋詰めまでできることなのかもしれません。しかし15人の人が汗だくになって作業をして笑い声や子どもの声が響くと、心なしか田んぼも喜んでいるかのようでした。じっくりと乾燥させる「はさかけ米」は香りも食味も格別です。
次の10月に実施される4回目のツアー「トバ編みと山仕事の旅」では今回束ねて干した稲わらを、一つひとつ編み込んで、長さ5メートルほどの「トバ」を作ります。そして最後の1月のツアーでいよいよ、道楽人形を作り上げるのです。
若者をとらえる法末の魅力
ムラビトたちの心の拠り所となっている「法末自然の家 やまびこ」は、元々は法末小学校でした。廃校になって、使われなくなった校舎を宿泊施設にして、訪ねてきた人々との交流の拠点にしています。校舎の雰囲気はそのままに、2階には冬でも使える体育館もあります。
三度のお食事は、村のお母さんたちの手作りで、山の恵みがたっぷり! 山ウド、フキノトウ、ゼンマイ、ズイキなどなど、都会では食べられないお料理ばかりです。
夕飯は、村人たちと一緒に、いただきます。初めて会ったとは思えない、自然な歓待ぶりです。管理人の大橋好博さんのさり気ない気配りも心に沁みます。
ムラビトになる旅
[開催日時]
2016年10月29日(土)・30日(日)『トバ編みと山仕事の旅』 ※申し込み締め切り10月25日(火)
2017年1月14日(土)、15日(日)『道楽人形復活の旅』
[参加費]1万2800円 ※宿泊費・交流会料金・講師謝金等含む[問い合わせ・申し込み先]法末自然の家 やまびこ
[住所]新潟県長岡市小国町法末706
[電話]0258-95-3827
[URL]http://hyamabiko.wp-x.jp/