100年の時をこえて、本物の物語を伝える~和島トゥールモンド~
レストランBague支配人 斎藤篤さん
生まれ変わった廃校。
旧三島郡和島村。明治の時代にこの地で開校した島田小学校が、105年の長い歴史に幕を閉じたのは6年前のこと。地域のシンボルになっていた昭和2年建築の木造校舎は今、なかなか予約のとれない人気のレストランに様変わりしています。外観には、ほとんど手を加えていないため、一見するとレストランが入っているようにはまったく見えません。「シンボリックな建物だったからこそ、もとの校舎をなるべく活かして、景観をなるべく壊さないようにつくりました」。教えてくれたのは、レストランの支配人である斎藤篤さん(39歳)。施設名は、和島トゥールモンド100年の時をこえて。「長い名前でしょう?でも“100年の時をこえて”までどうしても入れたかったんです」。トゥールモンドとは、フランス語で“みんなで”、という意味。100年の時をこえて、みんなで集まる場所。施設の名前には、和島の歴史を大切に受け継ぎ、地域に根ざした施設運営を、という支配人の想いが込められています。
家庭科室と音楽室が、レストラン。
一歩足を踏み入れると、まず目を奪われるのはエントランスの光壁。「できるだけ地場のものをと、和島特産の竹と小国和紙を使っています」。レストランBague(バーグ)へと続く、磨き上げられた廊下を歩けば、懐かしい記憶が蘇り、大人もつい童心に帰ってしまうほど。かつて図工室だった場所が厨房、その先の家庭科室と音楽室の2教室がレストランになっています。レストランの高い天井には、骨太の梁。もともとあった天井をはがした際に現れた部材があまりに立派だったからことから、そのままの姿を残しました。窓から見えるのは、田畑が連なる昔ながらの風景。特注のテーブルは、教室の机をイメージし、カトラリーをしまうための引き出し付き。部屋の片隅にはピアノがあり、音大出身の支配人自ら、お客様のリクエストに応じて生演奏を披露してくれることも。小粋な演出が随所に光ります。
感動するほど、美味しい野菜。
レストランBagueで味わえるのは、モダンフレンチ。その時期に手に入る食材によってメニューが変わるので、ランチもディナーもコースのみ。流通している市販の野菜は使わず、もっとも食べごろのときに農家の方が収穫した野菜を扱っています。「食材が新鮮で美味しいので、なるべく手を加えずに素材が活きる料理をふるまっています」。梨のように瑞々しいカブや、繊維がぎっしり詰まっていて固いキンチャクナスなど。「他ではお目にかかれないような野菜が、長岡にはたくさんあるんです」。海の幸もあれば、山の幸もある。信濃川の豊かな水が大地を潤す。長岡はいわば、農業、漁業、畜産のすべての環境が整っている非常に珍しい場所だと、斎藤さんは言います。さらに和島の周辺は湧き水が豊富なことから、久須美酒造と池浦酒造という二つの酒造があります。「水がいいからこそ、農作物も非常においしい。これを使わない手はないだろうと、地産地消を目指しています」。
本物を追求する理由。
大切にしているのは、お客様が口に運ぶまでのストーリー。生産者の努力、シェフの腕前、サービスの心遣い、場所のポテンシャル。すべてが織りなす“本物の物語”があってこそ、舌をうならせる一皿が生まれます。クオリティを高めるために斎藤さんたちが心血を注いでいるのには、お客様に喜んでいただく以外に、もう一つ理由があります。「ここは、長岡市初の指定障害福祉サービス事業所なんです」。母体となっている社会福祉法人が、障がい福祉事業の一貫で立ち上げた施設が、和島トゥールモンド。レストランスタッフには、軽度の障がいを持ったスタッフも多く在籍しています。障がい者雇用の問題を知るにつれて、斎藤さんは彼らの雇用を守りたいという思いを強くしました。「自立自立ってよく言いますけど、本当に自立できるだけの給与を彼らが得られているかというと難しい。都道府県別にある給与水準の実積をみれば明らかです。だからこそ、お給料に反映できるように、彼らには生産性の高い仕事をしてほしい。生産性を高めるためにも、すべてにおいてクオリティを高めているんです」。
語らずして、語る。
「最近、感激した出来事がありました」。レストランで働く知的障害の男性と、親御さんを交えて面談をしたとき。彼が書店の書籍コーナーの前で立ち尽くし、調理師免許取得の本が目の前にありながら、手をのばせないでいたことを、斎藤さんは聞いていました。「その彼が、最近とあるテレビ局の取材でインタビューを受けたときに、このレストランで調理師免許をとって活躍したいと、カメラに向かって話してくれたんです」。少し前まで手の届かない夢だった調理師免許の取得が、彼にとって具体的な目標に変わっている。そこに斎藤さんは強く感銘を受けたと言います。「彼らは非常に勤勉で、向上心が強い。人が見ていないところではサボってもいい、なんていう発想をしない。その姿勢に、本来あるべき姿を教えられているような気がします」。目の前の仕事に真摯に取り組む。スタッフのひたむきな姿勢もまた、語らずして “本物の物語”を訪れた人に伝えています。
和島トゥールモンド100年の時をこえて 斎藤さんの志
行動の源。それは正しいことを為すこと。
正しいことを為す。それは、ハンデのある方の行動の源だということを、一緒に働くことで気づかされました。正しいか、どうか。非常に大切なことですが、ややもすると見過ごされてしまいがちだと思います。レストランの総支配人として、障がい者雇用に携わる一職員として、私自身も常に正しくありたいと思っています。
(レストランBague 支配人 斎藤篤)