コスプレイヤー必見! 移住者が運営する、長岡の「施設まるごと貸切ロケ地」
2020/1/9
有名漫画家やアニメーターを数多く輩出し、日本海側最大級の同人誌即売会「ガタケット」やマンガ・アニメの祭典「がたふぇす」などサブカルチャーの盛り上がりを見せる新潟県。愛好家の中にはお気に入りのキャラクターになりきるコスプレを楽しむ人々も多いが、いま彼ら彼女らの間で「ロケ地」の少なさが嘆かれている。都心のようなコスプレ専用スタジオはほぼないため、撮影できる機会はコスプレイベントがほとんど。店や公共施設、山林、海などは撮影許可が必要となり、自由に撮影できる場所は意外なほど少ないのだ。
そんなコスプレイヤーの不満を解消すべく、ロケ地提供の活動をしているのが、新潟県長岡市のNPO法人くらしサポート越後川口が運営する「川口コスプレロケーションイベント(通称カワコス)」。いったいどんな活動をしているのか取材した。
各地からコスプレ好きが集う
撮影会イベントに潜入!
10月某日、この日はカワコス主催の「第4回学校コスプレ撮影会」が長岡市川口エリアで行われると聞きつけ、いざ潜入!旧・泉水小学校(現川口公民館泉水分館)という、廃校になった学校をコスプレイヤーのロケ地として一日貸し切り、存分に撮影を楽しんでもらおうという企画のようだ。
教室、体育館、理科室、音楽室、図書室……いたって普通の学校に、続々と集まるコスプレイヤーとカメラマンたち。マンガやアニメの登場人物の衣装を身にまとい、モデル顔負けの堂々たる態度でポーズを決める。
室内にある備品は基本的に使用OK。こちらのグループは黒板に作品タイトルを書いて雰囲気を演出。学園ものの作品は、本物の教室で撮影することで臨場感が出てくる。
「白ホリ」と呼ばれる、床とバックを白で統一した撮影環境が整った簡易スタジオも設置されている。真っ白な床と壁の空間は、コスプレイヤーをきれいに撮影できると好評を博した。
朝9時から夕方18時まで開放された撮影会場。この日の参加者は約60名で、その3割がリピーターだという。利用者からは「ロケーションが最高」「夕方まで時間たっぷり撮影を楽しめました」「スタッフの対応が親切で感激です」と好意的な感想が寄せられた。
現実世界から離れ、二次元キャラになりきるという非日常空間! コスプレ業界に疎い筆者は、サブカルチャー文化の知られざる世界、そしてハイクオリティさに衝撃を受けて会場を後にするのだった。
コスプレイヤー協力のもと、
利用者目線で環境を整える
そもそもなぜ川口地域にロケ地が生まれたのだろうか? その仕掛け人は、長岡市地域おこし協力隊川口地域担当の宮美紀さんだ。
東京都出身で都内大学に通っていた宮さんは、卒業後の2017年3月に地域おこし協力隊隊員として長岡へ移住。受け入れ先団体であるNPO法人くらしサポート越後川口からの「山奥にある運動施設に人を集めてほしい」というミッションに挑む中、コスプレイヤーのロケ地として活用するアイディアを思いついたという。
「撮影するには十分すぎるほどロケーションが整った施設なので、ロケ地としてぴったりだと確信しました。ですが困ったことに私自身は、全くコスプレと縁がなくて知識ゼロだったんです……」
利用者が満足できる施設にするためには、まずはニーズを知らなければ。そう考えた宮さんは、長岡駅前で開催されたイベント「長岡痛車&コスプレフェスタ」に潜入。どんな施設であれば喜ばれるのか、コスプレイヤーに突撃街頭アンケートを決行した。そこで運命的に出会ったのが、ベテランコスプレイヤーOさん(仮名)だった。
「Oさんは頼りになる存在で、コスプレ撮影時に必要なことを一から十まで教えてくれました。彼のアドバイスを参考に、価格や時間、施設の運用ルールに至るまで、あらゆることを決めていきました」
カワコスの撮影ルールは禁止事項がはっきりしていてわかりやすい。場所の占有や会場の汚損など一般的マナーはもちろん、「機材の脚にはカバーを付ける」「抜刀の振り回し禁止」「ダンクシュート禁止」などコスプレイヤー目線から設けた事項もある。また、室内備品や血糊使用OK、レフ版制限なしなど、必要最低限のルールはありつつも自由度が高く撮影を楽しめるように環境を整えた。
さらに、心遣いとしてアメニティも用意。安全ピン、綿棒、ティッシュ、メイク落としシートなど、うっかり忘れ物をしてしまった時でも安心だと好評。さらに脚立や養生テープも貸し出し、寒い時期にはカイロや温かいお茶もふるまうという万全ぶりだ。
ちなみに、情報発信に使用するSNSはtwitterのみ。「♯カワコス」のハッシュタグ付けを地道にお願いしてきた効果か、最近はコスプレイヤーの間でも浸透してきたそう。広告宣伝費一切なしの純粋な口コミで、カワコスはじわじわと知名度を上げている。
野球場から体育館まで
自慢の撮影ロケーション
現在カワコスが常設会場として貸し出す「川口運動公園体育館」は、越後川口ICから車で約7分。辺りを山に囲まれた静かな場所で、近くに民家はほとんどない。これはコスプレイヤーが同意なしに部外者に撮影されるリスクを避けられるため、環境としては良好だ。貸し切り料金は3時間1万円~(1~15人使用可)とリーズナブル。冷暖房完備でコンセントや更衣室も使用可能、広い駐車場も喜ばれている。
撮影ロケーションはバリエーション豊か。屋内は体育館と人工芝のゲートボール場、屋外に野球場、テニスコート、多目的広場を有する。スポーツ施設としてはごくありふれた光景だが、ここにコスプレイヤーが加わると、世界観が一変するから不思議である。
その他にも、学校、ホテル、ビーチなどを会場にした1日限定の撮影会イベントも不定期で開催(冒頭の「学校コスプレ撮影会」もイベント限定)。これらのロケ地は、コスプレイヤーへのアンケートから見えてきたニーズを汲み取って実現したのだという。
困った時はコスプレイヤーに相談
利用者と近い存在であり続けたい
試行錯誤しながら地道にカワコスを形づくってきた宮さん。Oさんをはじめ、大勢のコスプレ愛好家の協力があったおかげで活動の方針が定まりつつある。
「コスプレの知識ゼロ状態からのスタートでしたが、利用者さんたちの意見を聞く中で、求められていることがだんだん掴めてきました。今では毎日のtwitterチェックが習慣になっちゃって、コスプレイヤーさんたちとの交流が楽しいです」
自らがコスプレ業界では新参者であることを自覚し、コスプレイヤーの意見を尊重して素直に取り入れる。そしてリクエストがあればできる限り応える努力をする。その謙虚な姿勢が支持を集めている理由かもしれない。
「2020年1月5日~2月23日には期間限定で、リクエストが多かった『雪景色のロケーション』を提供します(要予約)。地元の人には厄介者と捉えられがちな雪ですが、コスプレロケ地としては需要大。コスプレイヤーさんに喜んでもらえると嬉しいです」
新たなロケ地の要望はまだまだ多いようで、今後は古民家や森林での撮影会イベントも検討しているそうだ。
また、撮影のために遠方から足を運んでくれたコスプレイヤーたちには「川口の魅力を全力で伝える」と決めているそう。東京都出身の宮さんにとって、川口地域は魅力的なまち。自然に恵まれ、お米や野菜が美味しく、お気に入りの温泉や飲食店も多いという。
「せっかく川口を訪れたのなら、撮影会だけじゃもったいないです。美味しいごはんを食べて温泉でゆっくり汗を流して、アフターの時間もぜひ楽しんでほしいですね」
2020年2月には地域おこし協力隊の任期を終え、独立を目指す宮さん。今後は川口エリアでのロケ地を増やし、まち全体でコスプレイヤーウェルカムな地盤を作り上げていきたいと未来を描く。“よそ者”だからこそ見えてくるまちの魅力と可能性――大好きなまちとコスプレ愛好家をつなぐべく、宮さんの挑戦はこれからも続いていく。
Text and Photos: 渡辺まりこ
●Information
KAWACOS(カワコス)
[HP] https://kwgcmusubi.wixsite.com/kawacos
[twitter] https://twitter.com/kawacos_kwgc