自宅がそのままショールーム!? Uターン夫婦が作る「暮らしになじむ木工家具」
2017.1.11
長岡駅から下越方面へ車で15分ほど走ると、目の前には雄大な自然の東山と田んぼが広がる、のどかな景色。これからの季節、雪が降りだすと、周囲はいよいよ一面の銀世界となります。
この地域に特徴的な佇まいで目を引く建物が一軒。大きな屋根に煙突が付き出た平屋で、外壁には明るくきれいな色の木材があしらわれています。
入口で風になびくのれんをくぐり中へ入ると、薪ストーブがお出迎え。周囲にも柔らかさと温もりを感じる家具がいくつも置かれ、寒さと少しの緊張で固まっていた身体がホッとゆるんでいくようです。そして、奥に見える小上がりにはテレビが置かれ、なんだか自宅の居間のような雰囲気。興味深い空間に心がときめきます。
実はここ、九里(くのり)家具製作所という無垢材にこだわった手作り家具屋さんの店舗兼住宅。
「丁寧に家具をつくっているところ」という周囲の評判を聞き、木製品好きとして以前からとても気になっていたお店です。
温かな店内で迎えてくれたのは、代表で家具職人の九里裕之さんと、店長で奥さんの美紀さん。8年前に大阪からUターンしてきたというお二人に、長岡で営む家具づくりについてお話を伺いました。
手作業で作り出す九里家具製作所の家具
家具に使われる木材には様々なものがあります。一般的に多く出回っているウッド調の家具は化粧合板を使っている一方、九里家具製作所は徹底して、無垢材の使用にこだわっています。無垢材は木そのものの質感はもちろん、使うほどに色に深みが出たり経年変化も楽しめる木材です。
そんな木の風合いを活かしつつ、サイズや素材、機能性等の要望に応じたオーダー家具の製作を続けながらオリジナルブランド『nine』を展開。暮らしを主役においた、生活に寄り添うような家具づくりがモットーの裕之さんがひとつひとつ手作業で作り出す家具は、シンプルなデザインでありながら、温かみがあり、柔らかな印象です。
脱サラで志した「家具職人」への道
この家具をつくる裕之さんは、脱サラで家具職人の門をたたいたそう。それも、求職中に図書館で読んだ家具の本に魅かれ、木製家具の製作技術が学べる職業訓練校があることを知ったそうです。そして、長野県にある訓練校、上松技術専門校で無垢材の家具づくりを1年学んだ後、大分で1年、大阪で7年、家具職人としての経験を積んできました。
大阪ではオリジナル家具を扱うインテリアショップの家具を作っていたそうで、ここでの工場長時代に、同じ職場で店長をしていた美紀さんと結婚。娘さんの出産を機に2009年に独立し、九里家具製作所を立ち上げました。スタートの地として選んだのは、裕之さんの実家がある長岡です。そして2016年3月に念願の店舗兼住宅が完成し現在に至ります。
「独立の地は、奥さんの実家近くということで関西も考えました。それに、マーケットの大きいところでやりたい気もあって。でも色々考えていく中で、長岡なら米農家をしている実家の作業場を借りられるし、両親も近くにいる、自分も長男だし……といった現実的な理由から、長岡へ帰ることに決めました」
始めは商売的に不安があったという裕之さん。「今作っているものや、やり方は地方では理解されないと周囲から言われることもあったんです。でも大阪時代からのつながりで、県外の仕事もしていたし、なんとかなるとも思うようになりました」
特徴は「ありそうだけど、他にない家具」
裕之さんに家具の特徴を訪ねると「ありそうだけど、他にない家具」という言葉が。そして、無垢材を使っていることの他に、3つの特徴を聞かせてくれました。
1つ目は、デザインについて。「『あたりまえだけど、なかなかない家具』というのは、うちの家具は、見る人によっては、よくある形だと思われることもある。でも、シンプルな形に仕上げて素材感を際立たせることで、ありそうでない雰囲気になっていると思います」
2つ目は、異なる素材を組み合わせること。「木工所だけど、鉄の脚や、布地の座面、籐で編んだ素材も使います。その方がより木が生きたり、布が生きたり、素材を組み合わせることで生まれる相乗効果があって、それを大事にしているんです。木以外の部分は、長岡市周辺の企業の技術でできているものもあります」
最後の3つ目はちょっと意外なことでした。「修理することです。壊れたら修理するより買った方が安いってことがよくある世の中ですが、使い続けてもらえるようにメンテナンスに力を入れています」
お客さんとの丁寧な会話も特徴
家具注文の際には、オーダーメイドもオリジナルブランド商品も受注生産。木材の素材や、サイズ、張り地の色など選べる範囲で予算に合わせて決めていきます。その時にお客さんの要望や用途を聞きながら、適した素材を紹介したり、人柄に合わせて家具のメンテナンス方法のポイントを伝えるそう。
「『お父さんの悩みを解決してくれてありがとう』と、テレビ台を買ってくれた方の娘さんから手紙をもらったことがありました。きっと、お父さんがテレビ周りを図ったり、考えていた姿を見ていたんでしょうね。とても嬉しいお手紙でした」と話す美紀さん。お客さんとの丁寧な対話の様子が伝わってきます。
大事にしたいのは生活のリアルなサイズ感
お二人からお話を聞く中で見えてきた、九里家具製作所の特徴は他にもありました。それは、“サイズ感”です。
家具屋さんの広い店内で、照明に照らされ素敵な小物とカッコよく並んでいる家具を気に入って、実際に購入して家に帰ってみたら、イメージと違ったり、部屋と家具の大きさが合わなかったという経験はありませんか。裕之さんは「みなさんの家に合う家具を使ってほしいという思いから、家具と空間のサイズ感を大切にしています」と話します。要望があれば、希望の家具をご自宅へ持って行ってサイズ感を確認できたり、住まいそのものがモデルルームという斬新な店舗の作りで、スケール感が体感できたりと工夫が満載です。
「『四畳半ってこのくらいか』とイメージできるようにしたり、『六畳の部屋にこのダイニングテーブルを置くとこうなるのか』と、そのままを見てもらえるようにしています。暮らしが仕事、仕事が暮らしです」最後に陶芸作家の河井寬次郎の言葉を加えて話す裕之さんからは、実感がこもっていました。
独立してからの7年と、これから
お二人に、これまでの7年はどんな時間だったか聞くと、「お店を構えるための7年でした。クラフトフェアや、県内のイベントに出展しながらの試行錯誤の日々でわかったことは、蓄積からにじみ出る信念は相手に伝わるということです。なので、とりあえずこれからも続けて行くことが大切な気がしています。やっとスタートできたという感じです」
そして、これからのことも。
「長岡には、安く手に入る家具屋さんがたくさんある。それでも、うちを選んでくれる人もいる。期待に答えていきたいですね」と裕之さん。そして、こう続けました。
「無理に広げすぎず、小さな輪を回して、届く範囲にしっかり届けていきたいです。あとは、拠点が出来たので、ここで家具にまつわる作家さんたちとのコラボを企画しています。イベントを開いたりして、お店に足を運んでもらう機会を作っていきたいです」
暮らしと共に深みを増していく無垢材の家具を、九里さん夫婦とじっくり育てていくのもいいですね。春からは、長岡造形大学の学生の作品とのコラボを行ったり、観葉植物販売などのイベントを予定しているそうです。
ものを売るだけでなく、トータルで「長岡の暮らし」を見つめる九里さんがこれからどんなものを作り出していくのか、要注目ですね。
Texts and Photos: Naoko Iwafuchi
nine/九里家具製作所
[住所]新潟県長岡市福島町2525-7
[0258-77-2565]
[営業時間]土曜・日曜日 11:00-17:00、月曜〜金曜日 予約制
[HP]http://nine-furniture.jp/
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