農業×eスポーツという新しい働き方。兼業プロゲーマー・モモさんの奮闘記
昨今、急速に注目を集めるゲーム対戦競技「eスポーツ」。世界各国で大会が開催され、アメリカでは優勝賞金3億円を16歳の少年が手にしたと大きな話題になった。日本でも続々とプロゲーマーが現れ、大会を主宰する企業はここ数年で増加傾向。テレビ放送やネット配信で試合を観戦できる機会も増え、一部の若者にとって「プロゲーマー」は憧れの職業となっている。
そんな新興スポーツのプロとして活躍しているのが、新潟県長岡市在住の❀モモ❀(プレーヤーネーム。以下、モモ)さん。農業を営むかたわらゲームの腕も磨いているというが、いったいどんな日々を送っているのだろうか?そのライフスタイルを取材した。
世界で注目を集める
「eスポーツ」とは?
世界ではメジャーな存在になりつつあるeスポーツ。名前は聞いたことがあるが、その実情がよく分からないという方はまだまだ多いかもしれない。eスポーツとは「electronic sports」の略称で、コンピューターゲームの対戦競技である。プレイヤー人口は世界中で数億人、観戦・視聴者はその3倍近く存在し、特に北米やヨーロッパで盛り上がりを見せている。ちなみに日本はゲーム産業が発展していながら、プロライセンスを持つプレイヤーや大会数は少なく、eスポーツに関しては後進国だ。
競技に使われるゲームタイトルは多数あり、シューティング、パズル、スポーツ、格闘などジャンルは多岐に渡る。その中で「一般社団法人日本eスポーツ連合」が公式種目として認定しているのは『ストリートファイターⅤ アーケードエディション』『ぷよぷよ』『パズル&ドラゴンズ』などの11タイトル(2019年11月現在)。国内外で活躍できるeスポーツ選手の育成や地位の向上を目指すべく、プロライセンスも発行している。
実は、eスポーツ選手はすべてのゲームに精通しているわけではない。陸上競技選手が100m走や走り高跳び、砲丸投げなどの専門種目をもつように、自分が得意なタイトル1本で勝負するのが通常だ。大会を主宰するのは「国際eスポーツ連盟」のほか企業や自治体などで、タイトルごとに大会の開催頻度や賞金は異なる。
モモさんが専門とするのは、スマホゲームのアクションRPG『モンスターストライク(以下、モンスト)』。大会では対戦バトルに特化した『モンスターストライク スタジアム』を使用し、モンスターを自分の指で引っ張り、敵に当てて倒すクリア時間の速さを競う。誰でもできる簡単操作ながら、モンスターの特性を踏まえ弾く角度を極めることで効率的に敵を倒すことができ、奥深いゲームとして老若男女から人気だ。最大の特徴は「マルチプレイ」で大会では4人1組で出場し、そのチームワークが勝利のカギとなっている。
ただの趣味から一転、
プロゲーマーになるまでの道のり
大学卒業後、迷うことなく家業を継いで米作りを始めたモモさん。幼い頃からゲームは好きだったようだが、なぜプロの道へ進むことになったのだろうか?
「きっかけは、現在僕が所属するチームのリーダー『くま』との出会いでした。彼とはモンスト(『モンスターストライク』)のLINEグループで知り合い、情報交換をしたり、一緒に戦ったりしていた仲だったんです。ある日くまから『プロになりたいから、一緒にやらないか?』と誘われ、思いがけずチームメンバーとして加入することになりました」
くまさんの声がけにより、同じくLINEグループのメンバーだった2人が加入し、2018年に4人組チーム「4Sleepers」結成。チーム名の由来は「4時間しか寝られないほど練習している」ことから。これは決してオーバーな表現ではなく、その名の通りモモさんのハードな日々がスタートした。
「まず目指したのは、2018年5月開催のモンストグランプリ2018チャンピオンシップ・北海道・東北予選大会で優勝することでした。この年初めて、地方予選大会を優勝した6チームにプロライセンスが与えられると発表されていて、本気で臨む挑戦者たちであふれていましたね。僕らも必死で練習しましたよ」
モンストは操作性のシンプルさゆえに、正確に狙いを定めて撃つことはもちろん、キャラクターの選び方、ステージや敵を熟知したうえでの戦略が重要になってくる。大会で戦うステージはあらかじめ定まっているため、本番までにいかにチームの方向性を合わせて精度を高められるかがポイントだ。
4Sleepersのチーム練習は週6回、午後9時半~深夜12時半に行われる。リーダーを中心に意見を出し合いながら、最適なクリア方法を毎晩探し続けた。メンバーに迷惑をかけてはいけないと、毎日3時間以上の個人練習も欠かさなかったという。「眠りにつくのは毎日深夜3時頃、朝7時には起きて農業の仕事。正直かなりハードですよ」とモモさんは語る(ちなみに、この生活サイクルは現在も継続中なのだとか)。
そして、宮城県で行われたチャンピオンシップ地方予選大会の本番当日。これまでの練習の積み重ねから、根拠のない自信が芽生えていたというモモさんらメンバー。腕に自信のあるチームがあまた集うなか、地方予選大会の優勝を決めるトーナメントに勝ち上がれるのは上位8組のみ。激戦の末にトーナメントへと勝ち進み、レベルの高いデッドヒートを華々しく制して地方予選大会を優勝!見事プロライセンスを勝ち取り、チャンピオンシップ決勝大会ではベスト8となって賞金200万円を獲得した。
戦いの様子はこちらから確認できる。
技術のさらなる高みを目指す
プロとアマチュアとの違いとは?
プロになった現在は、大会に向けて練習を重ねているというモモさん。2018年は10月~12月までプロチームが競い合う「モンスターストライク プロフェッショナルズ2018 トーナメントツアー」、今年4月~7月にはプロ・アマ混戦でアジアNO.1を決める「モンストグランプリ2019 アジアチャンピオンシップ」が行われ、練習を含めると一年の大半をモンストに費やしている。
一方、米農家の仕事としては、春に田起こしや田植え、夏に水管理やあぜ草刈りのメンテナンス、最も忙しい秋は稲刈りと出荷、さらに冬にはスキー場でゲレンデ整備の仕事をしている。日々の業務をこなしながら、練習に時間を割いてスキルを磨くことは容易ではない。憧れる人が多いゲームの世界、モモさんはプロとアマチュアの違いについてこう語る。
「プロは絶対的に練習量が違います。一つの大会に向けて、完成度を限りなく高めています。実際アマチュアでも上手い人はたくさんいますけど、どこまでストイックにやり込むことができるかが決定的な違いかもしれません」
プロ選手ならではの厳しさは周囲に伝わりづらい。日々の練習の裏側が公開されることがないために仕事として理解されにくく、それゆえ「ゲームで遊ぶだけで稼げるなんて、楽をしている」と軽く見られてしまうのかもしれない。
「囲碁や将棋は高尚なイメージをもたれていますが、これらもゲームの一種です。対してeスポーツは『遊び』と思われがち。綿密に戦略を立てて確実なプレイで実行する、奥深い競技なんですけどね」
「モンストプロツアー2019-2020」第3戦 幕張
ゲームを通して社会貢献
地方でも活躍できる環境をつくりたい
ゲーム機器やパソコン、スマホさえあればどこに住んでいても活躍できるイメージがあるeスポーツのプロ選手。しかし実際は、東京を中心に大会やイベントが開催され、地方在住者は自己負担の交通費など必要経費がかさむ。そのため、本気でゲームの世界に身を投じる覚悟を決め、上京という選択肢を選ぶプロ選手も少なくないのだとか。ちなみに現在、日本でプロゲーマーの仕事一本で稼ぐ選手はごく僅かであり、多くのゲーマーが副業をもっている。
長岡市で生まれ育ったモモさんは、この先もずっとこの地で生きていくと決めているそう。農業とeスポーツを両立するなかで、どんな未来を描いているのだろうか?
「プロ選手として生涯活躍することに執着はしていません。いつかプロゲーマーを支える会社を経営して、地方からeスポーツ業界を盛り上げるのも夢の一つです。それが結果的に、ひきこもりの人たちの支援にもつながればと考えています」
モモさんが所属するモンストのLINEグループでは、高校生からお年寄りの世代まで、幅広い層の人たちが交流を重ねている。もしかすると、そこには現実社会での生きづらさを感じている人もいるのかもしれない。ゲームを通じてコミュニケーションをとる機会を設けること、そしてプロへの門戸を広げることで、埋もれていた才能は開花させられるのかもしれない。
そして当たり前のように言い足したのは「もちろん農業も続けていくつもりですよ」との一言。代々続く米作りはあくまでも彼のベースなのだ。しなやかに地に足をつけて、デジタルの世界での競技に臨むモモさん。地方在住プロゲーマーとして、戦いはこれからも続いていく。
Text and Photos: 渡辺まりこ