【長岡蔵人めぐり 第4回】少人数はアイデアでカバー!米作りから手掛ける恩田酒造
蔵から10歩で自社田!
六日市町の酒造りの理想形
「うらやましい!」
恩田酒造の現場を見て、目を輝かせる蔵人たちはきっとたくさんいることでしょう。近年の日本酒造りにおけるキーワードの一つが、「地元で育った米」。有名な生産地から酒米を運んでくるのではなく、「自分たちの土地の米と水で酒を醸そう!」というムーブメントは各地で起こっていますが、ほぼ全量自社栽培米という酒蔵は全国的にもレアです。自分たちで米を育て、精米し、酒を醸す。恩田酒造は、それらをすべて1箇所で行うことができているのです。
のびやかに育った酒米と
豊富な地下水で醸す“地元の味”
2020年1月、全国的な暖冬は長岡も例にもれず、深い雪に包まれているはずの田んぼは稲株が遠くまで見渡せました。
「本当ならこの時期はあたり一面、銀世界。積もった雪が2、3メートルの壁になって蔵を囲むんですけどね」
オーナー杜氏である社長の恩田紀男さんは、「こんな冬はなかなかないよ」と肩をすくめます。雪に囲まれた蔵の内部は温度が一定に保たれ、雑菌が繁殖しにくく酒質が安定するため、例年なら酒造りには絶好の環境なのです。
ギイと蔵の扉を開けると、恩田酒造の田んぼが現れます。田植えの頃の青々とした水田と山のグラデーションや、収穫の時の黄金色に輝く稲穂が蔵のすぐそばにある贅沢。すくすく育ってくれた米をいつくしみながら行う酒造りは、大変なぶん愛情もひとしおなことでしょう。
酒米は自家栽培の「一本〆(いっぽんじめ)」と契約農家による 「五百万石」。「一本〆」は新潟生まれの「五百万石」と「豊盃(ほうはい)」を親に持ち、米の旨みが出やすい品種。これで純米酒と吟醸酒を醸しています。また、雪深い六日市町の環境は豊富な地下水も与えてくれました。軟水がこんこんと出る井戸が敷地内に3か所あることも、蔵の自慢です。
“自ら耕し、自ら醸す”
サステナブルな酒造り
蔵に入ると、米袋が積まれた奥で精米機が大きな音を立てて稼働しています。自社で精米する一番のメリットは、玄米から精米するため精米歩合を細かくコントロールできるということ。さらに精米で出た米粉や米ぬかは、他社へ販売するなど使い途がきちんと決められています。廃棄によるフードロスがないという点でも、時代の最先端をいっている蔵なのです。
創業から145年にわたり“半農半蔵”の恩田酒造。自社の田は社長を含めた4人で栽培・収穫を行っています。さらに酒の仕込み、朝晩の掃除、瓶の洗い、瓶詰め、ラベル貼り、出荷……果てしなく、また多岐にわたる蔵の仕事の数々。なんと働き者の蔵人たちなのかと、話を聞くほどに頭が下がります。
「もうね、酒米と酒造りで手いっぱいだから、今じゃ食べる米はお米屋さんで買っていますよ(笑)」
恩田社長はカラカラと笑います。
合理的でアイデア満載!
無駄なくコンパクトな酒造り
少人数でも合理的な酒造りができるよう、小さな蔵にはアイデアの詰まった道具が無駄なく配置されています。たとえば、蕎麦のせいろのような形状の蒸し器は精米歩合が違う米を重ねて一度に蒸すことができる優れもの。蒸し器のなかに人が入らないため米が潰れない利点もあります。
「オーナー杜氏の走りだった先代は、新しいもの好きで設備開発や投資に意欲的でした。せいろ型の蒸し器を自ら設計したり、当時最新だったアコーディオン式絞り機もいち早く導入したり。今でもすべて現役です」。
使いやすくコンパクトに設計された蔵はすみずみまでフル活用されていて、あっぱれのひと言です。
小粒でピリリとおもしろい。
ユニークな酒でハートをわしづかみ!
“恩田式”のオンリーワンな発想は酒の銘柄にも投影されています。言うなれば、“ユニーク&チャーミング”! 旨口でちょっと甘いフルボディタイプの酒が得意。たとえば、「舞鶴 鼓」シリーズでは精米歩合を打ち出した「88」「48」や、フルーツのとろりとした甘みを感じるため「トロピカル」の異名を取る「純米大吟醸 生原酒」。さらに地元名産の肉厚の油揚げに合う酒をと造った「鶴と油揚げ」、古代米を使ったにごり酒などもラインナップ。
小ロットながらバリエーション豊かで遊び心あふれる酒造りが、感度の高い日本酒党のハートをバンバン撃ち抜いており、海を越えたアメリカでもオリジナルラベルが人気なのだそうです。ユニークな酒造りは国内外で今後ますます注目を浴びるはず。さらに、社長は「三季醸造」、すなわち夏以外の全ての季節で醸造を行うという野望を抱いているのだそうです。これが実現すれば、個性豊かな季節の酒にもっと会えるかも……! 楽しみは尽きません。
「うちは“究極のスキマ産業”でいきます」
スマートに笑う恩田社長の眼の奥には、情熱の炎がしっかりと燃えていました。
Text: 森本亮子
Photo: 池田哲郎
恩田酒造
住 所
長岡市六日市町1330
電話番号
0258-22-2134