このまちに、子どもの自由な遊びを育む環境を。一人の青年から広がり始めた「プレーパーク」の輪

「子どもは遊びの天才」と、よく言われます。しかし現実は、「学校や保育園から帰宅すればYoutube動画やテレビを見てばかり……」とため息をついている親御さんも多いのではないでしょうか。特にコロナ禍の昨今は、友だちの家に集まって遊ぶことも遠慮しがち。公園に出ても、特に都市部では「あれも禁止」「これも禁止」という看板が目につくようになり、子どもたちの遊びの機会が社会から失われつつあります。
夢中になる遊びがあれば没頭するもの――そんなワクワクする気持ちを大切にする遊びの場「蔵王の城プレーパーク」が、長岡市にはあります。この場所をメインで運営しているのは、弱冠24歳の青年・星野洸太さんです。ヨーロッパでは「プレーワーカー」という専門資格があり、専門知識を有したプレーワーカーがプレーパークを運営しています。しかし、日本ではまだ知名度が低いのが現状です。星野さんは県内では数少ない「プレーワーカー」であり、自由な遊びの場づくりをするプロとして活動しています。よい遊びの場とはどんな場所なのか、星野さんがここをどんな思いで運営しているのか、取材しました。
子どもたちの創造力をかき立てる
自由な遊びが生まれる場

「蔵王の城 プレーパーク」は、プレーワーカー星野洸太さんと「蔵王のもりこども園」園長の佐竹直子さん、ほか10名ほどの世話人によって運営されています。

自転車に乗ってやってきた近所の小学生たち。星野さんにいたずらを仕掛けてはしゃいでいました。プレーワーカーと子どもたちとの距離の近さを感じられます。

「シャボン玉遊びに使うシャボン液って作れるんだ!」とびっくり!

奥の黒板に書かれた「ベム」とは星野さんのあだ名。「妖怪人間ベム」の主人公に似ていることからついたニックネームなのだとか。
- 星野さんが持参した遊びグッズ。
- 緑であふれる神社は虫がいっぱい。虫かごや昆虫図鑑は欠かせません。
星野さんが持ってきた遊びグッズを覗いてみると、ロープ、長い棒、大きな桶、ナイフ、生き物図鑑、虫かごなど。単なるおもちゃというのではなく、自分で体や頭を使って楽しむための道具がほとんどです。

焚き火の火おこしにチャレンジ。星野さんはあえて上手くいくための方法は教えず、子どもたちから生まれるアイディアを大切にしながら挑戦をサポートしています。

シャボン玉遊びは小さな子どもたちに大人気!

学校や学年が違ってもプレーパークでの遊びを通して、つながりが生まれています。

プレーパークでは自由な遊びがいっぱい。それぞれが思い思いに夢中になれる遊びをしています。
よりよい地域活動の場を求めて長岡へ
子どもたちの笑顔のため奔走する日々
星野さんは、長岡市で唯一のプレーワーカーです。学生時代から子どもと関わる仕事をしたかったそうですが、保育園や幼稚園の先生ではない独自の道を歩むことを決めました。いったいどのような経緯で、現在の活動を行うことになったのでしょうか?

プレーワーカーの星野洸太さん。
児童館でのボランティアを通して、地域に関わる仕事に興味を持った星野さん。地元である高根沢町を盛り上げるためにまちづくりを学びたいと、東京の大正大学地域創生学部に入学しました。そして、大学で子育て支援を中心に「暮らしやすいまちとは何か」について学ぶなかで、初めて「プレーパーク」という存在を知ったそうです。年齢も性別も問わず、たとえ障がいをもつ子どもでも自由に遊ぶことをサポートする場所を作るという考え方に、深く感銘を受けたといいます。
さらに地元に貢献していきたいと学び続け、なにか自分にできることはないかと探して出会ったのが「おもちゃコンサルタント」という資格でした。

東京・大正大学の学生時代。おもちゃコンサルタントの資格試験に合格! ぬくもり感ある木のおもちゃを中心に、子どもたちの五感を刺激するおもちゃを提案しています。
そんな星野さんに転機が訪れたのは、大学4年生の頃。長岡造形大学大学院が主催する「イノベーター育成プログラム」の募集案内を発見し、「やりたかったのはこれだ!」と確信したそうです。長岡造形大学大学院の修士課程イノベーションデザイン領域に在学しながら、地域おこし協力隊として地域活動にチャレンジする内容で、任期は2年間。星野さんは、おもちゃコンサルタント×プレーワーカーの知識を活かした研究テーマを掲げて応募し、見事に採用されて長岡に活動の地を移すこととなりました。

地域交流施設「まちなかキャンパス長岡」での講座の様子。「今の子どもたちって本当に遊べてる?」をテーマに遊びをサポートするコツを伝えました。
年齢や障がいのあるなしを問わず
遊びの世界に没頭できる公平な場所

プレーパークは春夏秋冬の季節の楽しみも。夏は水遊びが人気です。

初めてのナイフにドキドキ。ゆっくり慎重に木を削っていきます。
あとは焚き火も、大人がしっかり気をつけないと危ない遊びのひとつです。でも、子どもたちは普段マッチで火をつける機会なんてないから興味津々で、目をキラキラさせながら火起こしにチャレンジしているんですよ」

焚き火の温もりが心地良い秋のプレーパーク。マシュマロを焼いて食べるのも楽しい時間です。

池にザリガニを発見!生き物が大好きな子どもたちがキラキラとした表情を浮かべています。

2021年はプレーパークで2頭のヤギ、シロとメェを飼育していました。ヤギとのお散歩にみんな大興奮!
「プレーパークは障がいを持っている子も大歓迎です。それは、この場所にはルールのない遊びがほとんどだから。自分のペースで好きなことを思いっきり楽しめるんです。例えば、ある障がいのある子は、焚き火に使う炭をひたすら石で割ることに夢中になっていました。周りにいた子たちも、それを見て同じ遊びを真剣にやっていましたね。こんな風に遊びを通じて、子どもたち同士のゆるやかなつながりも生まれています。これこそプレーパークの醍醐味ですね」
- プレーパーク会場内で虫を発見!どんな名前なのかさっそく昆虫図鑑で調べてみます。
- 晩夏にはセミの抜け殻がいっぱい。子どもたちにとっては嬉しいお宝です。
まち全体で子どもたちを見守りたい
「プレーパーク」を未来につなげる
2021年3月から始まったプレーパークは、無事に1周年を超えました。月に一度の開催を楽しみにする常連さんが増え、もっと開催してほしいという声もあがっています。星野さんは、長岡市におけるプレーパークや遊びの未来をどのように描いているのでしょうか?

「大学院卒業後はすぐに地元に帰るはずだったのですが……」と星野さん。子どもたちや保護者たちからの信頼も厚く、いまや長岡になくてはならない人となっています。
次なるステージをめざす星野さん。ですが、この先は自分ひとりだけの力でプレーパークを運営するのではなく、「まち全体でプレーパークを支えていく仕組みづくり」を構築していきたいと語ります。
「まずは多くの人にプレーパークを認知してもらい、子どもたちの自由な遊びの場をつくる大切さを知ってもらいたいです。そして、地域の人たちがまちのあちこちでそれぞれにプレーパークをひらくことで、長岡にプレーパークが当たりまえのようにある空気感が生まれてほしいですね。僕の使命は、プレーパークをこの地に根付かせること。あと2~3年間はかかるのではと想像しています」
もともと地元の栃木県高根沢町が好きで、数年後にはUターンしたいと思っていると話す星野さん。ですが、長岡でたくさんの人々とつながり、この地に愛着が増しているのも確かです。「もし長岡でいい人が見つかれば永住する可能性もありますが、どうなりますかね……(笑)」と冗談っぽく笑います。
現在、プレーパーク開催日は毎月第3金曜日の15時~17時。蔵王地区にある金峯神社の境内で行われています(雨天時も開催)。誰もが気軽に参加できる自由な遊びの場です。まずは一度足を運んで、子どもたちが自由に遊べる楽しさを感じてみてください。
Text:渡辺まりこ
●Information
蔵王の城プレーパーク
[会場住所]新潟県長岡市西蔵王2-6-19 ※金峯神社
[facebook]https://www.facebook.com/zaonomoriplaypark/