海の営みをつなげていく。寺泊・海の男たちの声
寺泊漁業協同組合 代表理事・組合長 金田一彌さん
株式会社CHOU’CHOU 水産事業部マネージャー 平原渉さん
※この記事は2015年7月に作成いたしました
新潟の「魚のアメ横」。
はるか佐渡沖まで及ぶ、豊富な漁場に恵まれた寺泊(てらどまり)。ここには、多くの観光客が訪れる人気のスポットがあります。国道沿いに、大型鮮魚店が軒を連ねる市場通り、通称「魚のアメ横」。目玉は、その時期に揚がった、もっとも旬の地物。「1月はヒラメ、タコ、アンコウ、カレイ。だいたい6月の半ばくらいまでは同じ顔ぶれで、そのあとは7月半ばまでアマダイが穫れます。8月の末になると、今度はノドグロ。10月をすぎると、またアマダイを穫って、12月に入るとヒラメ、タコ、アンコウ、カレイが穫れるようになります」教えてくれたのは、還暦を過ぎた今もなお現役の漁師である金田一彌さん(68歳)。金田さんの漁船、「宝丸」の乗組員は、同じ漁師の道を選んだ息子さんと金田さんの二人。「せがれが漁師になった時、ちっとも嬉しくなんかなかったですよ。一人でやったほうが気ままだからね」。かく言う金田さんも、漁師だった父と同じ道を選んだ一人です。
漁師歴、50年以上。
「初めて船に乗ったのは、小学校4年生のとき」。少しでも家計を助けるためにと、子供の頃から父の仕事を手伝っていた金田さん。見よう見まねで覚えていくうちに、次第に漁の面白さにのめりこんでいきました。「穫れたときの喜びは、何ものにも変えられない」「漁師の面白みってさ、他の人よりも量がとれたら、とれた分だけ値がつく」バブルの時は、1日で何十万という売上をあげたこともあったそう。かといって欲を出すと、危ない目にあうこともあります。「しけているときに無理に沖に出て、おっかない思いをしたことは何度もある」。自然が相手の商売だからこそ、常に危険とは隣り合わせ。天気予報はいつもチェックしています。いつ天候が変わるか、風向きが変わるか、沖に出てからも油断は禁物。「釣った魚を船の上でさばいて食べるシーンをテレビでやるでしょう?実際はそんな暇なんてないからね」。片手で食べられるものをと、奥様が毎朝つくってくれる握り飯が、お守り代わりになっています。
二束三文の魚に、値がつく工夫。
「僕も昔は、漁師をしていたんです」。仲買として長岡で働く平原渉さん(37歳)が“丘にあがった”のは、十数年前のこと。「実家から戻ってこいと言われまして。漁師をやめた後は、包丁1本で流れ板をやっていました」。漁師の目線と、料理人の目線。仲買に必要とされる目を、自ら現場で養ってきました。大切にしているのは、自分で見たこと、感じたことを正直にお客様に伝えること。「3日前に揚がった魚を、鮮度いいよ!なんて口が裂けても言いたくないですから」。一方、美味しいと思えば、安い値で売り買いされる魚にも高い値がつく工夫をしています。「たとえばカワハギは、関東の方ではけっこういい値がつくし、味もいい。でも、こっちだと、売れないからと皮をむいた状態で売り飛ばされていたんです」。中の肝が美味しいからこそ、処理をしないで売ってほしい。自ら漁師にかけあったことで、二束三文だった魚に少しずつ値がつくように市場も変わってきました。
命をいただく仕事。
漁師と仲買。それぞれ立場は違えど、どちらも命をいただく仕事。寺泊では、年に一度、漁師をはじめ漁業関係者が僧侶を囲んでカニ供養を行っています。「昔はタコをとるために、竿の先に真ガニをつけて、おびきだしていたんです。カニは竿に縛り付けられて、逃げられない。それがかわいそうだからと、供養をするようになったのがはじまりです」。金田さんも地元の漁師の一人として毎年参加してきました。「私たちができることは、一つの命を無駄にすることなく、最後まで供養してやることだと思うんです」。そう語ってくれた平原さん。一匹の魚を、どうすれば余すところなく、大切に食べられるか。鮮度を保つための魚の締め方を勉強している最中なのだそう。「締め方によって、身が固くなるのを遅らせたり、身が痛むのを遅らせることができるんです」。平原さんが見据えているのは、業界の今後。「ここから先、漁師さんの高齢化が進めば、日本の水産物の水揚げ量が減ってしまうと思うんです。だからこそ揚がった魚を、無駄にすることなく、一つひとつを大事に食べられるようにしたいんです」。
寺泊・漁業関係者の志
生涯現役。
親父は82歳まで船に乗ってました。自分も体が動く限りやりたいし、休もうなんて気持ちが、まず起きない。人が沖に出てると、「自分も負けねえど!」と思うくらいだから。母ちゃんと二人で温泉にでも行くか、なんて話をしたりもするけれど、温泉よりも海の上の方が楽しいんです。これからも元気に続けて行きます。
(寺泊漁業協同組合 代表理事・組合長 金田一彌)
命を繋ぐ。
自分たちは命を預かっている。その意識はいつも持つようにしています。口に入れたものによって、命を繋いでいる。そのことに感謝して、水産物はもちろん、食べ物すべてにもっと関心を持つ人が増えたら嬉しいです。
(株式会社CHOU’CHOU 水産事業部マネージャー 平原渉)