アメリカの高校生たちが過ごした長岡の夏。花火や踊りに感じた「日本の心」とは
フォートワース市とは?
高校生たちの活動を紹介する前に、まずは姉妹都市であるフォートワースについてご説明しましょう。
フォートワースは、アメリカ合衆国南側のテキサス州にある都市です。19世紀にカウボーイ文化がこの地で根付き、今でも西部劇の世界さながらのまち並みがストックヤードという歴史地区に残っています。カウボーイ文化が色濃く残り、メキシコからの影響も受けた独自の魅力を備えています。
大民踊流しの練習会場へ
今回、長岡を訪れたフォートワース市の高校生は8名。全員が成績優秀で、面接や志望動機を書いた作文の提出を経て教師の推薦状を獲得。倍率3倍の難関をパスしてきました。参加の理由は人それぞれですが、共通しているのは全員が好奇心旺盛ということ、そして「日本」にとても興味があるということです。
この日は彼らが長岡まつりの前夜祭「大民踊流し」に参加するため、「アオーレ長岡」で踊りの練習をしていると聞きつけ、取材に伺いました。
つい先ほどまで長岡駅前の大手通りを散策してきたばかりという高校生たちは、まったく疲れを見せません。甘いお菓子をつまみながら談笑し、コミュニケーションをとっています。
「はい、踊りの練習を始めますよー」という担当者の合図で、いよいよ練習が始まります。
大民踊流しで踊る演目は「長岡甚句」と「大花火音頭」の2曲。「大花火音頭」を歌っているのは、なんと日本の大御所演歌歌手・北島三郎!威勢のよい歌声に合わせて、しなやかな動きや手拍子をし、足並みをそろえながら踊るのがポイントです。
長岡の人にとっては夏の風物詩といえるこの踊りですが、フォートワースの高校生たちの目にはどのように映ったのでしょうか?
「アメリカでダンスといえば、学校で踊るフォークダンス、あとはパーティーで踊るノリがいいダンスかな。日本の踊りは全く違って、簡単といえば簡単だけど、しっかりと踊るのは難しいです。繊細さが必要ですね」
「僕の国では聞いたことがないような、不思議なメロディの曲です。中国や台湾の音楽ともまた違って、日本独自の音楽性を感じます。これに合わせて踊る動きは複雑です。手と足をバラバラに動かすのは難しいですね。」
「こんな踊りは初めてで何だか新鮮!この手の動きが難しいんですよね。でも、踊っているうちに不思議と体が覚えていく感覚があります。日本の文化である祭りの踊りを一から学ぶ経験ができて嬉しいです」
「私は踊るのが大好きなので色々なダンスを知っていますが、大民踊流しは流れるような体の動きが日本的だと感じました。当日は、日本文化を尊重しながら、美しく踊れればと思います」
フォートワースのみなさんにとって、大民踊流しの曲、歌、動きのどれもが新鮮に感じるようです。「踊るのは難しい」と口では言いつつも、メロディに乗せて次第に体は動き、練習が終わる頃には、みな完璧に踊りをマスターしていました。
休憩時間には、こんな一コマも。
ダンスの先生であるゾーイさんが、アメリカの伝統的な「ラインダンス」のステップを踏み始めました。横一列になって、シンプルな振り付けをくり返すこのダンスは、カントリーミュージックのみならず現代のポップス曲で踊られることも多いそう。全員が一斉に同じ動きをするというのは、日本の盆踊りと共通しています。国境を越えても、ダンスを通じて親交は深められることを示しているようでした。
長岡まつり、いよいよ開幕!
練習を終えたら、いよいよ本番。だんだん薄暗くなってきた長岡のまちでは前夜祭が始まり、太鼓や笛の音色があたりに響き渡っています。会場の長岡駅前大手通りには特別な夏の思い出を作ろうとたくさんの人たちであふれかえり、これから始まる3日間の長岡まつりにみんながワクワクしているようです。
さあ、浴衣を着て、高校生たちも準備万端!「日本の夏まつりは初体験。ドキドキです」とみんなが少し興奮気味です。
トラックを豪華に飾り付けた山車を曳く「仁和賀(にわか)パレード」、総勢100人で演奏する「悠久太鼓」、ロックライブやダンスパフォーマンスなどが行われ、会場は熱気でいっぱい。
そして、いよいよ「大民踊流し」のスタートです。今年は、長岡市内の企業やサークルなど52団体、約5,400名が参加。全員が心を一つにして踊ります。
高校生たちも気合い十分。練習の成果を発揮し、美しく踊っています。
その表情は真剣で、「今まさに日本の伝統文化を体験しているんだ」という喜びが伝わってくるようです。
大民踊流しの後半には、一般市民の参加で踊り手の人数が増え、会場の盛り上がりは最高潮に!学生たちの緊張もこの頃にはすっかり解け、約1時間半の大民踊流しは全員が笑顔でフィニッシュを迎えることができました。
「5,000人以上もの市民が一斉に踊る迫力がすごい!」「浴衣を着て踊ることで、日本人の気持ちにより近づけたと思います」「ここにいるみんなの気持ちが一つになって感動しました」と高校生たち。彼らにとって、かけがえのない夏の思い出となったようです。
慰霊の花火を見つめて高校生たちが感じたこと
そして翌日と翌々日は、長岡まつりのメインイベント「大花火大会」が開催されました。正三尺玉3連発や復興祈願花火「フェニックス」、ミュージック付きスターマインなど、2日間で約2万発打ち上げられる花火は「日本三大花火大会」の一つに数えられています。
学生たちは各ホストファミリーと一緒に花火を観覧して、感動を共有したそう。アメリカでは花火を観覧できる機会は少なく、式典やイベントでのパフォーマンスの一種として打ち上げられます。しかも打ち上げ時間は15分ほどと短く、日本のような「花火大会」という行事はありません。およそ2時間もかけて打ち上げられる豪華な花火に、高校生たちは驚いていたようでした。
そして長岡花火の大きな特徴といえば「慰霊の花火」が打ち上げられること。72年前の空襲で亡くなった方々への慰霊、復興に尽力した先人たちへの感謝、恒久平和の願いが込められています。
「僕にとって、長岡空襲は想像しがたいものです。だから、花火を見て先人に思いをいたすというよりは、慰霊の花火を見つめる長岡の人々を観察していました。いま生きていること、幸せに暮らせていること、そんなささやかな毎日に感謝しているという思いが伝わってきました」
長岡の花火は、美しさの中に哀悼の念が込められています。日本の情緒に触れることで、母国アメリカとの違いを高校生たちは感じ取ったようでした。
早朝のゴミ拾いにも参加
花火大会を終えた翌朝、午前6時の長岡駅前大通りに高校生たちはいました。その手にはゴミ袋と軍手が。これからまちのゴミ拾いをしようというのです。
この日は、他にも企業や学校など、ボランティアでゴミ拾いに協力する団体がたくさん集まっていました。「祭りを楽しんだ後は、自分たちの手でまちをキレイにする」という考えが日本では自然です。しかし、高校生たちはこれにも驚いていたようでした。
「アメリカでは清掃員を雇って、そうじをしてもらうのが普通です。日本人の感覚とずいぶん違うなって感じます」
アメリカでは、まちを掃除する機会がないのはもちろん、学校の教室の掃除も清掃員が行います。そのため、ゴミ拾い体験は新鮮だったようです。
約40分かけて、ゴミ拾いは終了。
フォートワースの高校生たちは、これ以外にも長岡で特別な体験をたくさんしてきました。そのどれもが新鮮で楽しく、ときには思い描いていた日本とのギャップに驚いたこともあるかもしれません。
今回は、フォートワースの高校生たちの目線で短期相互ホームステイプログラムをご紹介しましたが、一緒に過ごした日本の高校生たちも、新たな長岡の発見があったようです。日々当たり前と思っていた風景や習慣が、外側から見ると特別で素晴らしいものなんだという発見は、自分たちのまちを誇りに思う大きな収穫だったのではないでしょうか。
長岡でのプログラムを無事に終え、原信サマースカラーシップ担当者・西澤早紀さんはこのように振り返ります。
「『国ごとの違いや共通点を見つけ、感動してほしい』そんな思いをプログラムに込めました。私たちの願い通り、高校生たちは日々発見をし、多くの質問を投げかけ、日を追うごとに積極的になっていったと感じます。
このプログラムで学んだことを、自分の知識だけに終わらせるのはもったいないです。高校生たちには、長岡やフォートワースの魅力をより多くの方に知っていただけるように、ぜひ行動をしてみてほしいですね」
次は、日本の高校生たちがフォートワースに向かいます。そこで何を見て、何を感じ取っていくのでしょうか? プログラムを終えて日本に戻る頃には、きっと長岡の魅力をさらに感じられるようになっていることでしょう。
Text & Photos : Mariko Watanabe