市民活動に伴走し、「協働のまち」を支える。オープン10年を迎えた「ながおか市民協働センター」の意義【前編】

少子高齢化と人口減少が加速し、地域活性化に市民一人ひとりの力がますます必要とされる現代、まちづくりに欠かせないキーワードが「協働」です。行政と市民、企業や団体などが自発的・主体的に、また対等な関係で連携し、協力し合って暮らしやすいまちを一緒に作っていこう――そんな意識が社会に浸透し、自分にできることを探り、心地よい居場所を求めて動き始める人が増えています。

新潟県長岡市と「NPO法人市民協働ネットワーク長岡」が運営する「ながおか市民協働センター」は、ありとあらゆる市民活動をサポートする組織。「こんなことをやってみたいんだけど……」というアイデアが芽生えた市民の相談に最初の段階から応じ、NPO法人の設立・運営のアドバイス、助成金・補助金に関する情報提供、活動のPR、ほかの団体との連携、ノウハウを学ぶ講座やイベントの開催など、自らアクションを起こす人を様々な側面からバックアップしています。今回は、この市民協働センターを訪ね、長岡の「協働」を支える人たちにお会いしました。

 

戦災に震災、幾多の逆境を乗り越えて
支え合い、つながる「協働のまち長岡」

2022年4月1日に10周年を迎えた、市民交流のための複合型施設「アオーレ長岡」。市民協働センターはその西棟3階にあり、アオーレと同時に10年の節目を迎えました。オープン時から在籍するセンター長の渡辺美子さんは、誕生の経緯をこう振り返ります。

「当時、『新しい公共』という、地域住民が主体的に活動して自治をするビジョンを国が掲げていました。それを受けて、行政と市民との協働に取り組んでいた当時の森民夫市長が、長岡市としてもこれをやっていこうという方向性を作ったんです。アオーレがオープンする3年ほど前のことでした。ここに市民活動の支援拠点を設けるに当たり、まずは条例を作ろうと検討委員会が立ち上がり、実際に活動をしている人、震災の復興に携わった人など、いろいろな分野から委員が集められ、私自身もそのメンバーの1人として参加していました」

“長岡の協働の育ての親”ことセンター長の渡辺美子さんは、活動する団体にとっても、スタッフにとっても、頼もしい存在。

官民協働の仕組みや環境整備を推進する施策について市民委員と行政がじっくり検討を重ねた「長岡市市民協働条例」は、2012年6月に制定されました。目的は、市民一人ひとりが協働の主役となり、暮らしやすいまちづくりに寄与して「協働のまち長岡」を実現すること。長岡には幕末の北越戊辰戦争、第二次世界大戦の長岡空襲、2004年の中越地震をはじめ、度重なる水害や雪害など多くの逆境を人々が手を取り合い、協力し合うことで乗り越えてきた復興の歴史があります。こうした協働の土壌について、渡辺さんも「震災を経験したことで、地域の安心・安全のためにコミュニティを見直して、自分たちで守っていこうという熱意がある人が長岡には多いですね」と語ります。

市民協働センターはJR長岡駅前にある複合型施設「アオーレ長岡」西棟3階、正面エスカレーターで上がって右手にあります。

市民協働条例を軸に「協働のまち長岡」を実現するため、市民協働センターが誕生。市民活動を支援する担い手としてNPO法人市民協働ネットワーク長岡が設立されました。10年が経過した2022年4月現在、センターに登録している団体の活動内容は地域づくり、子育て、福祉、教育、文化芸術、スポーツなど多岐にわたり、その数は400を超えるのだとか。

「この10年で、様々なジャンルの団体が生まれました。長岡市には公益的な活動の経費を補助する『市民活動推進事業補助金』がありますから、そういう資金も利用して新しいことをやってみようという人が増えている実感があります。相談は『こんな団体はありますか?なければ自分で立ち上げたいのですが』とか、『イベントをやってみたいけれど、どこから手をつけたらいいでしょう』とか。電話してからいらっしゃる方もいますし、ふらっと訪れる方もいます。最近は、毎日のように子ども食堂についての相談があります。『うちの地域でもやってみたいんだけど、お金や人はどう集めたらいいでしょう』『行政とはどのようにつながったらいいでしょう』とか。行政の窓口とつなぐこと、人と人、団体と団体をつなぐことも私たちの重要な役割です」(渡辺さん)

豊かな自然に恵まれ、山もあり、海もある長岡市。「長岡は規模がちょうどいいんです。どの地域にどんな人がいるか把握できて、誰に声をかければいいかわかりやすいですからね」と渡辺さん。9人のスタッフは訪れる人をじっと待つだけでなく、それぞれの担当地域に出かけ、市役所の支所やコミュニティセンター、活動現場で話を聞くといったことも積極的に行っています。
また、情報発信も活発。各地で活動する市民たちをピックアップして取材し、ウェブサイト「コライト」や月刊の「ながおか市民活動情報誌・らこって」、週1回放送のFMながおか「つながるラジオ」などで紹介しています。バックナンバーや放送音源は下記のサイトでチェックを。

「コライト」

「らこって」バックナンバー

「つながるラジオ」アーカイブ

ウェブサイトやラジオと連動し、様々な市民活動情報を発信している月刊誌「らこって」。名前の由来は長岡弁「そうらこって」から。「そうだよね」といった意味合いで、市民活動に対して、まずは肯定と共感から始めようという思いが込められているそうです。写真提供:ながおか市民協働センター

定期的に開催しているイベント「1日店主 のもーれ!長岡」は、まちをもっと楽しくしたい人たちが集う交流の場。その日の店主となった人が自身の活動について語るトークセッション、店主おすすめの飲み物や食べ物を楽しみながら参加者が語り合う交流会の2部構成で、人と人の出会いを創出しています。

コロナ禍以前の「のもーれ!」の様子。写真提供:NPO法人市民協働ネットワーク

 

現在は会場とオンラインのハイブリッド開催にするなど、工夫と対策をしながら継続中です。写真提供:NPO法人市民協働ネットワーク

 

コロナ禍でもへこたれない!不屈の精神で
「長岡の協働」は新たなステージへ

相談件数はオープン3年目で累計1,000件を超え、2020年は年間1,747件にもなりました。しかし現在、出口の見えないコロナ禍が、相談はもちろん市民活動そのものの在り方や運営にも大きな影響を及ぼしています。

「感染予防のためクローズしていた期間もあり、相談は目に見えて減りました。それに、市民活動は一緒にやるから楽しいのであって、みんなで集まれないと、なかなか難しいですよね。しかしコロナ禍も3年目になって、新しいツールを使ってリモートでやってみるとか、様々な方法を試みる人たちも増えてきました。イベントを企画しても直前で中止になることもあるし、集客人数などの数字ではなく目に見えないもの、やれたことへの満足感などが大事。先が見えないことをマイナスに考えずに、これからおもしろいことができるんだと前向きに捉え、ワクワクしていたいですね」(渡辺さん)

市民活動に関連する本を集めた図書コーナーとチラシやパンフレットを設置しているラック。本は借りることもできます。

これからの「長岡の協働」について、渡辺さんはこう語ります。

「市民活動って、突き詰めてみると、地域の中で孤立せずに一人ひとりが楽しく豊かに生きるためのものなんですよね。10周年ということで、そういったことを伝えられるようなイベントを秋に計画しています。コロナの状況がこの先どうなるかわかりませんが、どんなときもめげずに柔軟に対応できる、そんな人たちがいる長岡であればいいですね。雪国の辛抱強さもあるし、なんといっても長岡は『復興のまち』ですから。市民協働センターはそういう人たちをフワッと見守って、あんまりガッツリ手伝わずに(笑)、助けてほしいというときに手を差し伸べられる存在でいたいです。オープンな場所なので、誰でも気軽に立ち寄ってもらえたらいいですね」

▼後編へ続きます

市民活動に伴走し、「協働のまち」を支える。オープン10年を迎えた「ながおか市民協働センター」の意義【後編】

 

Text: 松丸亜希子 / Photo: 池戸煕邦
(メイン写真提供:ながおか市民協働センター)

●インフォメーション

ながおか市民協働センター
[住所]新潟県長岡市大手通1-4-10 アオーレ長岡西棟3階
[開館時間]8:00〜21:00(12月29日~1月3日は休館)
[電話番号]0258-39-2020 [Fax]0258-39-2900
[e-mail]contact@nagaokakyodo.net [URL]https://nkyod.org

 

10周年記念講演会
「ながおかの社会的処方箋~地域活動見本市~」

日時:2022年9月2日(金)夕方予定
場所:アオーレ長岡 ホールA(予定)

「地域とのつながり」を処方することで、身近な社会問題を解決する「社会的処方」。 新型コロナウイルス感染症の影響により「つながりがないこと=社会的孤立」というべき状況が増えている昨今、人とのつながりを通じて孤立を解消し、役割や生き甲斐を創出できる場所が地域や市民活動にあります。活動することで得られる「生きがい」や「しあわせ」とは何かを一緒に考えてみませんか?

関連する記事