鍛治職人に1日弟子入り!自分だけのナイフを作れる与板の工房体験に参加してみた

2017.10.14

新潟県長岡市にある与板町は、戦国時代より打刃物業が栄える場所。今でも、ノミやカンナなど打刃物の総生産量は日本一を誇ります。国の伝統工芸品にも指定される与板の打刃物はその昔、上杉謙信の家臣である直江景綱が春日山(現在の新潟県上越市)から刀剣師を連れてきたのが始まりだそう。そんな歴史ある町に鍛冶場の職人技術を体験できる工房がオープンしたと聞き、不器用ライターイモトが実際に体験してきました!

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工房に用意されたデニム地のエプロンとキャップ、袖カバーを装着し、準備万端!の図。

 

実際の製作所だから設備も本格的!

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JR長岡駅からバスで30分、「江西団地」バス停より徒歩10分ほどの場所にあります。

体験では現役の職人たちに教えてもらいながら、オリジナルの切り出し(小刀)を作ります。実はこちらの工房、もともとは使われなくなった刃物製作所。実際に製品を作っていた場所なので、機械ももちろんプロ仕様です。

 

与板のスペシャリストが工房に勢ぞろい

集合は朝9時。先生と体験者の自己紹介から始まります。この日の体験者には大工道具好きの男性のほか、歴史好きが高じて参加したという若い女性の姿も。先生は体験者5人に対して、8人もついてくれるという盤石の体制。自身で不器用を自覚しているがゆえに、「失敗してケガでもしたらどうしよう」と一抹の不安もあったのですが、これだけの人数で見守ってもらえると安心感が違います。

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今回教えてくれるこの道40年以上の職人の先生方+地域おこし協力隊として鍛冶場に入門している島田さん(一番左)。

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先生から与板の打刃物の歴史と本日の体験内容について簡単なレクチャーを受け、いよいよ刃物作りスタート!

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いくつかの行程を経て完成する切り出し。一番左の状態から作り始めます。

 

これぞ鍛冶場! 燃えさかる炎&火花と対面

まずは本体作りから。地金(鉄)に刃物の切れ味を左右する鋼を接合させる“鍛接(たんせつ)”と“鍛造(たんぞう)”という作業を行います。

火床(ほど)と呼ばれる炉で地金と鋼の破片を熱するのですが、この火床が近くに寄るだけでめちゃくちゃ熱い! 炉口から飛び出るほどの炎と熱気に圧倒されます。

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火床で熱する地金。取材は9月の比較的涼しい日でしたが、それでもものすごい暑さ。

ここで先生、「このオレンジ色が重要なんだよ」と熱している地金の色をチェック。鉄をやわらかくして打ち伸ばすために900℃まで熱するのですが、この温度が非常に重要。900℃以上になると鋼がダメになってしまうため、熱した金属の色の明るさで温度を瞬時に判断する目利きが必要なのだそう。この作業は先生の熟練の技に甘えます。

火床から取り出した地金と鋼は、エアハンマーを使って熱いうちに同じ幅になるようにたたき伸ばします。打つ強さは機械の足元にあるペダルで調整。踏み込むほど打つ強さが上がって、火花がぱちーんと飛びます。まさに想像していた鍛冶場らしい場面!その様子はぜひ動画でごらんください。

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衝撃が強いエアハンマーは、しっかり持って固定しないと均一に伸ばせない。

エアハンマー編

エアハンマーで打ち伸ばしているところ。同じ日に来ていた体験者の方にご提供いただきました。

叩いた衝撃で地金の位置がずれるので、同じ幅にするのはひと苦労。先生に手伝ってもらいつつ、同じサイズになったところで、接着剤の役割を果たす謎の粉2種類(ホウ砂と金剛砂)を地金の片面にまぶし、鋼と合体!さらに火床で熱し、エアハンマーでたたきのばして一体化させます。

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本体が適度な薄さになったら、熱いうちに切断機でカット。鉄の塊が飴のようにぐにゃりと切れる様はなかなか生で見る機会がないので、印象的でした。

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鉄と鋼を接合した本体をカットした断面。真ん中で色が分かれているのが分かりますか?

 

しっかり打つ!が強い刃物への第一歩

さぁ、ここからは第二段階。先ほどより火力を弱くした火床で本体を熱して、金鎚で打つ!打つ!打つ!の繰り返し。しっかり打つことで、金属の組織が細かくなり、欠けにくい刃が出来上がるとのこと。

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「熱いうちに打たねば!」と焦るイモト。

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この段階ではこんな形。側面がふにゃふにゃです。重さがあると自分で使いづらいので厚みを薄くして、軽くしました。

 

火花を散らして自分好みに磨き上げる

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ここで、いよいよ整形です。砥石が高速回転するグラインダーという機械で磨き、本体に持ち手と刃先を作り出します。直線かカーブか、持ち手を自分の好きな形にできるので、この工程でさらに愛着がわいてきます。

回転する砥石に削りたい部分を当てて磨いていくのですが、強い力で押し付けるほど火花も派手に飛び散ります。初めは少し怖さもありましたが、慣れるとなかなか快感です。この作業が一番楽しかったな~。

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グラインダー編

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後ろから心配そうにイモトを見つめる先生たち。

あらかた削ったところで、一旦お昼休憩に。事前に注文したお弁当をいただきます。

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車麩の煮物や栃尾のあぶらげなど、郷土料理が入った長岡らしいお弁当でした。540円。

休憩後も気合を入れて研磨作業

さて、午後から仕上げに。

「これができたら鍛冶屋の女房になれるら(笑)」と先生に言われたのが、この“裏づくり”という整形作業。

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裏側の真ん中だけ楕円に削る行程です。この部分を削ることで、最後に刃先を研ぎやすくなるのですが、これがなかなか難しい作業。
きちんとグラインダーの真ん中に当てないとうまく丸い形にならない……でも真ん中に当てられない……という、もどかしい気分になります。

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イモトが削った後。楕円がガタガタで円以外のところも削れてしまっています。

ここも先生になんとかお助けいただき“裏づくり”ができたところで、やすりで持ち手部分の角を取り、持ちやすくします。

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角がとれたら、裏側に橘(たちばな)紋と与板の印を打ち込みます。(イモトが非力なため、またしても先生の手を拝借)

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刃物作りのキモ“焼き入れ”に突入!

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整形できたら、仕上げの重要な作業である“焼き入れ”へ。本体に金属の色を美しく見せる“とのこ”という液体を塗って、火床で一番最初より少し低い750~800℃に熱します。適温になった本体は、水の中へ丸ごと入れて急速に冷却。この作業こそ、与板の強くて美しい打刃物の奥義。一気に温度が下がることで硬度が高まります。

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ここからは本当の本当にラストスパート!荒い回転砥石で刃の面を削り出した後、最後は粗さの異なる砥石を使って、切れ味が良くなるまで磨き上げます。

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ここは包丁を研ぐ要領と同じ。とはいえ、イモトは砥石初体験。

 

数々の指導を経て……ついに完成!

じゃーん!オリジナル切り出しが出来上がりました!(かなり先生に助けていただきましたが……)

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持ち手に少しカーブがついた形にしました。菊の模様が入った素敵な箱に入れてくれます。

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鉛筆だって削れるちゃんとしたナイフです。

自分で作れば、道具への愛着もひとしお。与板の印が入っているのも、ちゃんと認定された感じがして何だかうれしいです。体験といえど、そこは与板メイドの美しい切り出しにするため要所でチェックをしてくれたので、不器用な私でも自信を持って進められました。実際に製作を体験すると、普段使っている包丁など刃物を見る目が変わりますね。これから刃物を使うときは職人さんに敬意を払って、手入れして大切に使っていきたいと思います。(砥石の使い方も分かったことですし!)

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興味がある方はぜひ一度チャレンジしてみてください。次回の体験は2017年10月28日、11月4日・18日です。1回の定員が5名なので、ご予約はどうぞお早めに。

 

Text : Akane Imoto / Photos : Ryosuke Kokubo

与板鍛冶体験工房
[住所]新潟県長岡市与板町東与板369-1
[電話番号]070-4474-7490
[定員]5名(要事前予約)
[参加費]:5000円(昼食は別料金。要事前予約。)
[開催日]2017年10月28日、11月4日・18日。体験は午前9時~午後2時頃まで
[HP]http://www.city.nagaoka.niigata.jp/sangyou/cate01/kaji-taiken.html

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