注文を受けてから塗る、できたてコッペパンを訪ねて「旭屋」へ
JR宮内駅前の商店街に店を構える「パンと菓子 旭屋」の名物は、素朴なコッペパン。バタークリームやジャムなど、オーダーに応じて目の前でサンドするスタイルを守り続けている。スーパーやコンビニなどの出現でこうした「街のパン屋さん」には厳しい時代だが、この店には県外からもお客さんがやってくる。その人気の秘密を探ってみた。
懐かしコッペパン
ラインナップは10種類以上
自家製バタークリームに、イチゴやブルーベリーのジャム、ピーナッツクリーム……。店のコッペパンコーナーには10数種類のスプレッドが並ぶ。
「昔はどこのパン屋も、こういうのやってたけどね」
旭屋のご主人・高橋正文さんは三代目。先代の父が製パン業を始めた。お客のオーダーを聞いてから、好みのクリームなどをその場でコッペパンに塗る“ライブ”なスタイルは、当時からずっと変わらない。
平日の午後。話を聞いている間にも、コッペパン目当てのお客さんは次々とやって来る。みんな常連さんなのか、迷いなくお気に入りをオーダーしている様子。
「中学生の孫が大好きなの」と、何種類もまとめ買いしてゆく女性。
部活帰りっぽいジャージ姿の少年は、サンドイッチとコッペパンをチョイス。クリームたっぷりのコッペパンは、デザートの位置付けかな?
サンダル履きで来店のご近所らしきお父さんは、これからおやつか、明日の朝食用か。
人気の傾向は長年あまり変わりないそうで、「デキシーピーナツ」「バタークリーム」は、昔から幅広い年代が支持。チョコ×バタークリームの「チョコっとバター」、バタークリームにラムレーズンを混ぜ込んだ「フルーツバター」も人気だ。2種類を合わせる「ミックス」なら、「あんバター」や「ジャムマーガリン」。いずれもパンの端っこまでたっぷり塗って1本130円~170円。何も塗らない“素”のコッペパンも1本90円で買える。多種類のスプレッドに目がいきがちだが、何より旭屋のコッペパンはパンそのものがおいしい。甘みがあってふんわり。食べ飽きしない素朴な食感をぜひ味わってみてほしい。
酒蔵の酵母で始めたパン作り
創業は大正元年。当初は菓子店で、パンを焼くようになったのは戦後になってから。「店の向かいにある酒蔵の吉乃川さんから製パン用の酵母(イースト)を仕入れ、パン作りを始めた」という。
旭屋のある摂田屋(せったや)は、昔から酒蔵やしょうゆ、みその醸造所が集積する「醸造の町」。日本酒も、しょうゆも、みそも、そしてパンも、酵母の発酵を利用した食品。この土地には、旭屋が製パン業を始める素地があったのだろう。
古くから酒造りで酵母を扱ってきた吉乃川は、昭和21年にパン用酵母の製造技術を確立。傘下に酵母製造を専門とする会社「中越酵母工業」を設立している。旭屋のパン作りも、この頃に始まったらしい。
旭屋の店頭には惣菜系の調理パン、菓子パンなど毎日約30種類が並ぶ。テレビで紹介されて話題となった「煮卵パン」や夏の隠れた人気商品「アイスパン」などもあるが、メインはやっぱりコッペパン。一晩かけて長時間発酵させるオーバーナイト製法で、1日120本は焼く。多い時は300~400本になることも。
「4月12日の『パンの記念日』にちなみ、うちは毎月12日は『パンの日』サービスデーで、コッペパンは全種類20円引き。この日はいつもよりたくさん仕込むんだ」
夜に仕込んでゆっくり発酵させた生地を、翌朝にこねて成形し、焼き上げる。手間はかかるが「風味が全然違うから」と、おいしさを最優先。風味良くふんわり焼き上がったコッペパンは、ご近所さんから観光客まで、多くの人を引き付けている。
旭屋
[住所]新潟県長岡市摂田屋4-7-31
[電話]0258-32-0981
[営業時間]7:00~19:00(11月~3月の冬期は7:30~18:30)
[定休日]日曜・祝日
[駐車場]3台