発酵・醸造のまちに全国の頭脳が集結!「長岡バイオエコノミー・シンポジウム」

近年、注目を集める「バイオエコノミー(直訳すると、生物経済)」。石油資源の枯渇、気候変動、食糧問題など世界が様々な課題を抱えるなかで、生物資源(バイオマス)やバイオテクノロジーを活用して持続可能な“循環型社会”をつくろうとする概念です。経済開発機構(OECD)は、2030年にバイオエコノミー市場が約200兆円に拡大すると見込んでおり、世界各国で取り組まれている一大政策でもあります。

「発酵・醸造のまち」を謳う長岡市には、歴史ある醸造技術と共に、サイエンスの視点から微生物研究をする機関が集まっています。99%が解明されていないといわれる微生物のはたらきや発酵の研究はバイオエコノミーを推進する要でもあり、化石燃料に頼らない持続可能な社会をつくるためのカギだといえます。

そんな長岡市がバイオエコノミーの拠点になるべく“地域循環型の新たな産業づくり”への機運を高めようと、2020年1月17日に開催したのが「HAKKO×SDGs 発酵を科学する 長岡バイオエコノミー・シンポジウム」。市内大学や高専の教授、産業技術総合研究所の研究員らが集まるほか、県内外から250人の来場者が訪れました。その内容は、日本のバイオ事業をけん引する企業の基調講演をメインに、先進自治体や企業、大学の取り組み事例のほか長岡の歴史・発酵文化の紹介など様々。バイオエコノミーの可能性を知る一日となったシンポジウムの様子をご紹介します。

発酵・醸造のまち長岡が

バイオエコノミーで目指す姿

まずは主催者の一人である長岡市の磯田達伸市長のあいさつからスタート。長岡市の紹介や取り組んでいるバイオ事業と市が目指す姿が語られました。

また長岡市の産業は、明治時代の東山油田の開発に端を発して盛んになった歴史があり、当時創業した企業も時代の変遷を経て、現在はバイオの技術を活かして活躍されております。本日のポスターセッションでは、そのような市内企業からも発表いただきますので、ぜひ交流を深めてもらいたいと思います。

長岡市は行政としてもバイオ事業に力を入れており、市民のご協力を得ながら、プラスチックや資源ごみの分別に加えて生ごみを分別して回収し、生ごみからバイオガス発電を行っています。これは微生物の力で生ごみを分解・発酵させ、発生するガスを活用するもので、取り組み前に比べて可燃ごみの量は2割、二酸化炭素排出量は年間650t削減しています。

これからの長岡市が目指すのは、地域のなかで循環する持続可能なバイオエコノミー。微生物をはじめとしたサイエンスとテクノロジーを合わせて、地域資源を活かした長岡らしい産業の発展や市民が豊かに暮らし続けることができる社会をつくることが最終目標です。今日お集まりの企業や研究機関の皆さんのお力を借りながら、この地をバイオエコノミーの研究開発拠点として育てていきたいと願っています」

 

日本を代表するバイオ企業群

「ちとせグループ」の活動とは?

続いて、共同主催者である長岡技術科学大学、産業技術総合研究所からのあいさつです。長岡技術科学大学は、国連が定める「持続可能な開発目標(SDGs)」に早くから取り組んでおり、ゴール9(産業と技術革新の基盤を作ろう)のハブ大学にアジアで唯一任命されています。また産業技術総合研究所は日本で最大級の公的研究機関として、日本の産業や社会に役立つ技術の創出とその実用化、革新的な技術シーズを事業化に繋げるための「橋渡し」機能を担っている研究機関です。両者からは本日のシンポジウムで地域企業と研究者が連携を深め、長岡の活性化、地方創生の成功モデルになることを期待するとあいさつがありました。主催者あいさつが終わると、いよいよ基調講演が始まります。登壇するのは、「ちとせグループ」創業者 CEOの藤田朋宏氏です。

ちとせグループは、千年先まで人類が豊かに暮らせる環境を残すべく活動する“バイオベンチャー企業群“。2004年に微生物関連事業からスタートし、グループ会社は日本、マレーシア、ブルネイなど現在11社。本社をシンガポールにおき、約120名の社員(そのうち8割が研究員)が、国や企業と共同で農業・医療・食品・エネルギーなどの領域に新たな価値を生み出すべくワールドワイドに活動しています。

今回、藤田氏に講演を依頼したのは、世界を股にかけてバイオエコノミー事業を展開させるちとせグループから、地方都市でバイオエコノミーに取り組む際のヒントを探りたいという狙いがあります。講演では、ちとせグループ設立の思いと歩み、事業を発展させる手法や、長岡市の可能性などについて語られました。

「僕がバイオ事業に興味を持ったのは10代の頃。東京大学農学部に入学し、その後コンサルティング企業を経て、会社を設立しました。目指したのはバイオ基点の社会を作ること、自分のモノサシで測れる社会を作ること、東南アジアと日本の良いところ同士を組み合わせて循環型経済圏をつくること事業としてバイオ産業に携わるなかで、社会→事業→技術→科学と志を繋ぐことが自分の生業となりました。そのために人生を捧げたいと決意したんです。

ちとせグループの活動は多岐に渡っています。例えば、マレーシアのボルネオ島で行う、藻類バイオマス産業。10年がかりで品種改良を繰り返し、バイオマス燃料を安定的に作る技術を確立しました。藻は栄養面でも優秀で、大豆の16倍のタンパク質が含まれているとのこと。将来的に地球上のタンパク質が不足すると懸念されていますが、藻はその解決策の一つになる可能性も秘めているようです。

その他、有機性廃棄物を有効活用した循環型パームプランテーション、バイオ医薬品製造のための細胞の開発、イチゴやチェリートマトを栽培する環境配慮型農業など、その多くは東南アジアを舞台に行われています。

 

会社が成長した理由は

「広がる組織」と「社会解決型事業」

「バイオ基点で社会を変えたい」と志し、様々な事業を成し遂げてきた藤田氏。世界各地で多様な事業を展開するほど会社が大きく育っていったのはなぜでしょうか?そこには、藤田氏の会社づくりに対する明確なビジョンがありました。

「僕が意識していたのは『自発的に広がる組織』作りです。日本の組織は、既存の与えられた資産をいかに有効活用するかという議論になりがち。ですが、例えば宗教は『自分たちの目指すビジョン』が広がっていくことを目的とした組織なので、まったく考え方が違います。“広がる組織”について研究し、自分の会社に当てはめていったら、自然と会社が大きくなっていったんです」

さらに会社経営に必要なマインドについては、このように語ります。

「最終的にどんな社会を作りたいかを考えるのが先決です。それを実現するためには『どんな事業が必要?』『どんな技術や科学が必要?』と、この順番で考えるべき。例えばHondaの本田宗一郎さんは『こんなバイクを作ってみたい』との思いからスタートして技術開発したのであって、決して逆から考えたわけではありませんよね。

ちとせグループの技術については、たくさんの方にお世話になりながら培ってきました。ですので、自分達ができることならどんどん貢献していきたいです」

 


ポイントは“まちのサイズ感”

地方都市が持つ可能性とは?

最後に、長岡市の持つ可能性と今後どのように進むべきか、藤田氏の視点からアドバイスがありました。

「長岡市の規模は、『社会、事業、技術、科学』を並行してマネジメントしやすいという利点があります。技術・科学が事業を経て社会に貢献するには、多くの専門家が関わることになりますが、全員がその文脈を理解していることが大切です。そのためには、“地域”のサイズ感がちょうど良く、なにより人の顔がきちんと見えているのがポイントになってきます。

例えば、全世界で取り組まれているSDGs(持続可能な開発目標)。実際のところ、具体的にどう取り組むか定まらないことが多いのですが、“地域”というエリアを限定して考えると目的意識を共有できて進めやすいです。

僕は何度も長岡市を訪れていて、このまちはポテンシャルが高いと感じています。その理由は3つ。1つ目は、生産システムとしての“発酵”の分野に強いこと。2つ目は、産官学(大学などの研究機関、行政、民間企業)の連携。3つ目は実行力。世界に誇る花火大会をまち一体となって進めているのだから、これは間違いないです。

最後にまとめると、世界的にお金の動きや人材組織のあり方が変化してきています。プロフェッショナルの離合集散が容易にできる時代、長岡市は科学・技術の研究をするだけにとどまらず、“事業”“社会”としての発酵のまち長岡市を作り上げられるものだと考えています」

最先端のバイオ事業を行う、ちとせグループ・藤田氏の講演は、長岡でバイオエコノミーに取り組む際のヒントがたくさん散りばめられていました。

基調講演の後は、事例紹介です。地域のバイオエコノミーを進める先進自治体である佐賀市のバイオマス産業推進課は、「共創する資源循環社会」と題して、市が仲介役を果たしながら企業間を連携し、「廃棄物であったものが、エネルギーや資源として価値を生み出しながら循環するまち」づくりについて紹介。日本一の生産量を誇る特産のノリの養殖にも廃棄物の窒素を利用しておりバイオの技術が活かされていました。その他、産業技術総合研究所、長岡技術科学大学の研究事例、長岡市文書資料室から長岡の発酵文化と産業の歴史、JA越後ながおか、地元企業の大原鉄工所からそれぞれの事業や課題について紹介がありました。また事例紹介の最後に行われたアートサイエンスのWebマガジン「Bound Baw」編集長による講演では、これからのイノベーションを生み出すメカニズムとして、一つの分野だけでなく、問いを生み出す「アート」「サイエンス」と課題を解決する「デザイン」「エンジニアリング」が融合することが必要と話がありました。

 

企業や大学が研究成果を発表する

ポスターセッションタイム

後半は、会場を移動してのポスターセッションタイム。市内企業や大学、産業技術総合研究所などがそれぞれの研究成果をまとめた56枚のポスターが掲示され、自由に閲覧することができます。その内容は、魚の排泄物を活用した循環型農業、廃棄物のバイオ資源化、微生物の新たな有用性、省エネルギー型下水処理システムなど様々で、なかには生産過程でのロス品を有効活用したいとする課題も見られました。地域全体で連携、これまで破棄されていたものを循環させていくことが求められています。

 

会場をさらに盛り上げたのは、来場者に振る舞われた市内16蔵の日本酒と発酵フード。美味しいお酒に舌鼓を打ちながら、発表者への質問が積極的に飛び交う有意義な時間となりました。

今回のシンポジウム開催は、長岡市がバイオエコノミーに取り組んでいくうえでの第一歩。まずは地域にどんな資源があるか目を向けるための良い機会となりました。バイオエコノミーは農業や工業などの産業から、暮らしに欠かせない食糧や水、エネルギーまで、循環させてみんなで関わること。今後、長岡の新しい未来をつくるであろうバイオエコノミーの種は、実は地域の中にたくさん眠っているのかもしれません。

2020年度からは研究機関や大学、企業が参画する協議会を設置することが決まっており、持続可能な社会を目指す本格的な活動がスタートします。世界の最先端をいくバイオエコノミーの拠点となるべく、始まった長岡市の挑戦。きっと私たちの暮らしや未来に明るい変化をもたらしてくれることでしょう。

 

Text: 渡辺まりこ / Photos: PEOPLE ISLAND

 

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