幻の果物「ポポー」を里山保全の鍵に!地域の宝を未来へつなぐ、シニアたちの挑戦

日本の原風景ともいえる里山が広がる新潟県長岡市・三島エリア。まちを占める森林の面積は実に6割を超え、様々な樹木が生い茂っている。自然環境が良い証であるホタルが多数生息し、四季の山野草であふれ、清冽な湧き水も流れる豊かな地だ。しかし、現在は山を整備する人手が減ったことから荒廃が進み、環境の保全が深刻なテーマとなっている。

そんな“地域の宝”である美しい山々に親しみを感じてもらいたいと、里山をテーマとした活動を行っているのが「みしまふるさと塾」だ。ポポーという何やら聞きなじみのない果物を栽培することで、里山保全や地域コミュニティづくりをしているとのこと。具体的にどのような活動をしているのか、三島地域の中心部にある活動拠点を訪ねてみた。

まちを覆うように広がる三島の里山。

 

拠点のビニールハウス。室内はエコストーブが設置され、お茶のみスペースが用意されている。

長岡市中心部から西へ約10km。三島地域はすぐ目の前に緑豊かな山々が広がり、一面の田んぼが真っ白な雪で覆われていた。新築の家々が立ち並ぶ住宅街の近く、子育て支援センターのお隣に「みしまふるさと塾」の看板を掲げるビニールハウスがある。

(左から)ポポー農家の難波仁一さん、三島に山を所有する西山研司さん、エコストーブを制作する小林栄吉さん、みしまふるさと塾代表の綿貫悟さん。

「いらっしゃ~い!」と温かく出迎えてくれたのが、みしまふるさと塾のメンバーのみなさんだ。代表の綿貫悟さんはソフトウェア開発会社の役員を務めながら、里山の資源活用・保全活動を行っている。みしまふるさと塾のメンバーは総勢12人で、それぞれがが里山に関する活動(イベント開催や農作物栽培、山の管理など)を行うアクティブな人ぞろい。綿貫さんが里山の魅力を広げたいと願う同志に声をかけ、徐々にメンバーが増えていった。

みしま里山塾のみなさんが御馳走してくれたポポーのカップケーキ(非売品)。

訪れた矢先に「里山で栽培したポポーのカップケーキです。ぜひ食べてくださいね」といただいたこちら。非売品のオリジナル商品で、地元カフェと共同開発した渾身作とのこと。クリームにたっぷりとポポーのペーストが練り込まれており、爽やかな風味が心地よい。中央に鎮座するブランドいちご・越後姫も甘酸っぱくおいしくて、幸せな気分に包まれた。

 

幻の果実「ポポー」とは?
その知られざる歴史と可能性

賞味期限が2~3日程度と短く流通が限られ、幻のフルーツと化しているポポー。

ポポーとは、北米原産の果物だ。柿のような大きな種が入っていることから「アケビガキ」の和名をもつ。マンゴーやバナナのような味で、クリーミーな食感が特徴。栄養価が高く、不飽和脂肪酸やタンパク質、ビタミンA・C、ミネラルを豊富に含んでいる。

里山保全のために農作物を栽培するまではわかるとしても、聞きなれないポポーを選ぶとはユニークすぎる。「なぜ里山でポポーを栽培しているのでしょうか?」と素朴な疑問を投げかけてみたところ、綿貫さんの好奇心と野心が詰まった答えが返ってきた。

「ポポーの可能性に魅力を感じたんです。特に健康効果が素晴らしく、新潟県立大学の神山伸教授の研究レポートによると、抗がん効果が期待できるといわれています。

明治時代、実はポポーは日本全国に普及していたんですよ。傷みやすいので流通させることができず、今では幻となってしまいましたが……。ですが、ここ三島に長年ポポーを栽培する希少な農家さんがいたんです!それが、メンバーに引き抜いた難波仁一さんです」

ポポー農家の難波仁一さん。「年を経るごとに、ポポーの木の数はどんどん増えています」と愛おしそうに語る。

昭和の初めころ、国の減反政策で空いた農地を活用しようと、山にポポーを植えたのが難波さんの祖父だ。そこから少しずつ苗を植えては木々を増やし、3代目となった現在は4カ所の畑で約100本のポポーの木を育てているという。2016年にみしまふるさと塾のメンバーと共に「ポポーの森をつくろう」プロジェクトを立ち上げてから、難波さんは「ポポーを育てる張り合いが出るようになりました」と話す。

また、綿貫さんがポポーに目を付けたのは、その希少性や健康効果からだけではない。

「ポポーの匂いは、吟醸酒の成分と似ていると言われているんです。これでお酒をつくったら特産品になるんじゃないかと思いましてね。クラフトビールも作ってみたいなぁ」

ポポーの可能性はまだまだ未知数だが、それだけに夢は広がる。お酒の製造はハードルが高く今のところ実現していないが、これまでにポポーを活用したスイーツとして、カップケーキやジェラート、もなか、クッキーなどを開発した。これらは、毎年11月3日に三島エリアで開催される「みしま産業まつり」で販売したところ、たちまち話題に。初めてポポーを目にしたお客さんは「何これ!」の驚きと「おいしい!」の感動の表情を見せた。

また、生のポポーも9月中旬~10月下旬の期間限定で購入可能だ。販売先は道の駅「ながおか花火館」と拠点であるビニ―ルハウス(※記事最後にある電話番号へ要問合せ)のみ。期間限定でしか食べられないとは、まさに“幻のフルーツ”だといえる。

 

間伐材の有効利用の救世主
「エコストーブ」って?

みしまふるさと塾の拠点となっているビニールハウス内にあるストーブにもご注目を。一風変わったデザインにだけ目が逝ってしまうが、実はこちらも里山保全活動において重要な働きをしている。

エコストーブを製作したのは、みしまふるさと塾メンバーの小林栄吉さん。国産薪ストーブを販売する「暖房倶楽部」の代表であり、綿貫さんが会に入ってほしいとオファーした。

 

ビニールハウス内に張り巡らせたホースでエコストーブの熱を送り、室内全体を温めている。

「冬でもビニールハウスの中が温かいのは、このエコストーブがあるからなんです。一般的な薪ストーブは、湿った木材や竹、産業廃棄物を燃やしたら、煙突が詰まっちゃうでしょ? でもこれなら、どんな木材を入れてもオーケー! だから、里山のいろんな種類の間伐材を熱源にしています」

ロケットストーブの仕組みを利用した「エコストーブ」は、据え付けられたパイプの中で上昇気流が発生する「煙突効果」を利用したストーブで、薪ストーブとはまったく違う。上昇気流が生まれることで下部からまた新たな酸素がどんどん流入する構造になっているため激しい火が燃え盛り、木材から出た未燃焼ガスも二次燃焼させてしまうことで、クリーンな排気が可能だ。つまり、エコストーブはあらゆる木材を活用できて環境にやさしいストーブなのだ。

ちなみに、みしまふるさと塾が活用するエコストーブは、産業用にも使用されている。メンバーの一人である小林栄吉さんが製作した、燃焼方法を変えられる超大型エコストーブは、酒造会社が廃棄に困りがちなウイスキー樽を燃焼させるのに欠かせない。通常は産業廃棄物扱いなので処理に多額の費用がかかる木材だが、エコストーブで燃やすことで処分費用がかからず、環境にもやさしく処分することができるのだ。

ツバキやサクラなどの広葉樹、スギやマツなどの針葉樹のほか、もみ殻を圧縮した木材も燃焼可能。

そして、エコストーブで生まれた熱はビニールハウス中に張り巡らされたホースやパイプを伝って、ハウス内全体を温める。この温かい環境を活かし、みしまふるさと塾では植物を栽培しているのだ。

ポポーの苗木がすくすくと育つ。頃合いを見て山に植えるのだそう。

現在、育てているのは、ポポー、桑の実、いちご、こくわの4種類。また、ビニールハウスの中にはさらに小型のビニールハウスが設置されており、こちらではモンキーバナナやパッションフルーツなど南国の果物を栽培中だ。昼間は28度前後、最低でも6度を下回らないような仕組みになっており、気温が下がる夜間は太陽光パネルで得た電気エネルギーでハウス内を温めている。

「実は、ポポーは雪国・新潟の山でも栽培できます。ではなぜハウスでも育てるかというと、山中では獣害で全滅するリスクが高いからです。忘れもしない4年前……里山のポポーの木がハクビシンの被害にあってほぼ全滅となりました! だから、ハウスでポポーを育てることにはリスクヘッジの意味合いが強いんですよ。
昔は里山で害獣を駆除する人たちがたくさんいたけど、今ではほとんどいないですね。ここ数年はまちなかにも害獣が現れるようになりました。里山に住む動物たちとどう共存していくかは今後の課題ですね」

 

ARゲームや遊びで地元の歴史と
「宮大工文化」を楽しく学ぶ

みしまふるさと塾拠点から徒歩2分の場所にある「長岡市三島郷土資料館」。

豊かな山々に囲まれた三島地域は、宮大工文化が栄えた地であり、ノコギリの産地としても名高い。その歴史や文化を体感できる場が「長岡市三島郷土資料館」だ。3年ほど前からみしまふるさと塾メンバーが企画提案をし、子どもたちが親しめるコンテンツを増やしたとのことで、案内してもらった。

2階エントランスでは、ゆるかわいい木こりたちがお出迎え。

 

三島の宮大工に関する貴重な資料を展示。特に算額(神社や仏閣に奉納された数学の絵馬)は必見。

 

三島の里山の木々。それぞれ色・質感・香りが異なり、木の個性を感じられる。

資料館のテーマは「木と道具と匠たち」。三島出身の宮大工の歴史や文化、大工道具、建築図面などが展示解説されている。みしまふるさと塾の提案がきっかけで資料の一部はオンライン化が実現し、タブレットでじっくり閲覧できる。さらに積み木で遊べるキッズスペースも完備されており、イベントが行われる休日には、たくさんの地元の子供たちでにぎわう。

AR画像ゲーム「大工の熊平を探せ!」。三島地域の宮大工・長谷川熊平が建設に関わった三条別院を舞台に、隠れた「くまちゃん」を探してタッチするゲーム。誰でも簡単にプレイできるので、小さな子どもたちにも大人気!

「こちらは私たちが手がけた、宮大工文化について学べる体験コーナーです。タブレット端末を使ったお寺のAR画像ゲームを通して、宮大工の手仕事を感じることができますよ。
地元の中学生たちと共同で、三島の宮大工文化を支えた人物を紹介するアニメ『みしま里山ものがたり』も制作しました。アフレコは学生たちが担当してくれたんですよ。
その他にも、組み木や木製パズルの展示など、子供たちが遊びに来たくなる要素をたくさん詰め込みました」

宮大工の技が詰まった組み木。実際に手に取り、遊ぶことができる。

「三島では和算(江戸時代に中国から伝わり独自の進化を遂げた日本の数学)の専門家が活躍し、その知識をもとに宮大工文化が栄え、のこぎり鍛冶の匠が生まれました。独自の文化は、豊かな木々があってこそです。
この地域に住む大人はもちろん、子供たちにもぜひ三島の良さを知ってほしいですし、『ふるさとに里山があるっていいね』と感じてもらえたら嬉しいです」

そう誇らしげに語る綿貫さん。日常に里山がある暮らしをしていると、その美しさや恩恵は特別なものとは感じにくいのかもしれない。しかし、山々がもたらした文化や先人の営みを知ることで、緑に恵まれた地域ならではの豊かさを感じるきっかけになっているようだ。

 

里山を愛する人々で育む
持続可能な地域ネットワーク

三島の宝である里山を知ってもらうため、三島の魅力を地域の人たちに広めるため、奔走してきたみしまふるさと塾。次なる目標は、里山保全を合言葉にした、人と人とのつながりづくりだ。

里山の話になると自然と頬がゆるむ綿貫さん。「2023年はドローンを里山に飛ばして全体を撮影しようと計画中です」と話す。時間が足りないくらいチャレンジしたいことでいっぱい!

「私たちが里山保全活動の一環でポポーを育てるのには、理由があります。それは、地域にペイできるものを生み出したいから。三島の特産品としてポポーが認知されるようになったら、ポポーを活用したスモールビジネスをしたいと思う方が増えると思うんです。特に若い人には、ポポーを活用した事業をやってみてほしいですね。
商売ってお金儲けだけじゃなくて、楽しくやることも重要。地域に貢献しながら、サスティナビリティファーストで持続的ビジネスを行う――つまり、循環型経済の仕組みを作っていければと思うんです」

間伐材消費のためにエコストーブを作ること、ポポーを育てること、宮大工文化を広めること――その中心にはいつも、三島の宝である里山を後世に残していきたい、そして地域の人たちにも大切に感じてほしいという綿貫さんたちの願いがある。美しい里山を誇りに思う人たちが増え、その人たち同士のつながりをもっと作ることができれば……と、綿貫さんはこの地域の豊かな未来を思い描く。

最後に、綿貫さんはこんな夢を語ってくれた。

「この地域に住む大人たちに里山保全について考えてもらうには、まずは私たちの活動自体を知ってもらうことが一番です。そこでやるべきは“飲みニケーション”でしょう。近いうち、このビニールハウスで『じじBAR』を開きたいと考えています」
みしまふるさと塾のメンバーは、ほとんどが70代以上。「じじBAR」というネーミングはなんともユーモラスだが、これは冗談ではなく本気の構想だ。特に集まってほしいと考えているのが、定年退職後で時間を持てあましているシルバー世代。里山保全とコミュニティ作りの実現について、綿貫さんはこう語る。

里山を愛するメンバーが集まると、他愛ないおしゃべりが絶えず笑顔でいっぱいに。つながりの輪をさらに広げることが今後の目標だ。

「シルバー世代の人たちにとって、人と出会っておしゃべりする場は大切です。だから、みしまふるさと塾の拠点であるビニールハウスは、誰でもウェルカムのお茶のみ場にしようと思っています。
それから、エコストーブに薪をくべるといった小さなお仕事も用意するつもりです。楽しくおしゃべりしながら、お小遣い稼ぎができたら最高じゃないですか。こんな風にコミュニティを育てながら、里山保全やビジネスも展開していけるような“循環する仕組み”を作っていきたいんです」

地域の宝は足元にある――日常にある里山を誇りと感じる人々が増え、行動を起こしたなら、その宝ものはさらに輝きを増すはず。子どもも大人も、そしてシルバー世代も巻き込んだサスティナビリティを目指すみしまふるさと塾の取り組みから、これからも目が離せない。

Photo&Text 渡辺まりこ

●Information

みしまふるさと塾
[住所]新潟県長岡市吉崎75
[問合せ]090-1887-3719

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