長岡の自然を愛し、顧客一人ひとりと歩む。全国のアウトドア愛好家が信頼する名店「パーマーク」の哲学
はじまりは自宅の店舗から…
兄弟で大きくしてきた会社
店名である「パーマーク」は、ヤマメにイワナといったサケ科の幼魚の体にある小判型の模様のことを指します。parr [パー] はサケ科の幼魚という意味で、この店のルーツがフライフィッシングにあることを物語る店名です。
現在は宮内地域に2階建てのどっしりとした店舗を構えているパーマークですが、始まりはご自宅に併設した小さな店舗。10坪(約33平方メートル)のスペースで「フライフィッシング専門店」としてスタートをきったのは、1984年のこと。
お店を始めたのは、現社長の若林雅和さんの兄である若林聡さん。高校生の頃からフライフィッシングにハマりまくっていた、いわゆる「釣りバカ」です。市内で会社員をしていた聡さんですが、身のまわりに多くのギアを取り揃えたフライフィッシングの専門店がないことから、一念発起して自宅で自分の店を始めてしまったのだそうです。
フライフィッシング愛ゆえのラインナップとアドバイスによって、すぐに同好のファンの心を掴んだパーマーク。その後、少しずつ取り扱い範囲を広げ、フライフィッシングに限らずさまざまなアウトドアウェアを扱うようになりました。
「兄とは年齢が5つ離れていて、兄が店を始めた当時は、僕はジーンズショップで働いていました。転勤もあったので、長野や横浜で働いていたこともありましたね。その頃のパーマークはフライフィッシングのギアだけでなく、アウトドアウェアも扱い始めた頃でしたが、兄はウェアに関しての知識があるわけではなかったので、ゼロからのスタートになった。そこから4年ほど経って『一緒にやろう』という話になって、私も長岡に戻ってきて合流し、ようやくスタッフが二人になりました。
当時は第一次キャンプブームと言われる頃だったので、アウトドアグッズもいろいろと取り扱うようになりましたが、10坪の店には到底置ききれず、近所に倉庫を借り、お客の要望に合わせて商品を取りに行く往復運動スタイルでなんとか店をやっていました」
高校時代は山岳部に所属していた雅和さんは山岳グッズにも詳しく、自然とアパレル&アウトドア用品担当に。気づけばパーマークはフライフィッシング専門店から、アウトドア全般を扱うショップになっていました。大きく分けて「フライフィッシング」「登山用品」「キャンプ用品」の3つのカテゴリを軸にアイテムがずらりと並び、とても自宅兼店舗には置き切れなくなり、1993年に現在の店舗を構えることとなったのでした。
店舗も広くなり、ますます幅広く商品を扱えるようになったパーマーク。いまや誰もが名前を知っている有名アウトドアブランドの数々を、日本上陸のタイミングでいち早く取り扱ったり、新潟県では一番に入荷したりと、感度の高いアウトドアショップとして名前を知られる存在になっていきました。
身近な自然の見方が変わるのが
アウトドアの最大の醍醐味
信濃川水系を中心に、イワナとヤマメが生息する河川にめぐまれている新潟県。冬の積雪量も多く、春になると豊かな雪解け水が渓流を潤す美しい景色が見られます。
「兄はその渓流に入って釣りをすることを覚えたらすぐにのめり込んでしまって、商売にしてしまった。
春から秋はフライフィッシングのアイテムはもちろん、低山ハイク、テント泊、トレイルランニング、クライミングなどが店の取り扱いの中心となっています。冬は、雪国ということもあってピッケルやアイゼンなど本格的な雪山登山のアイテムも取り扱いますが、おすすめなのがスノーシュー。東山や山古志のあたりって、夏に山に入ろうと思っても薮がきつくてなかなか難しいんです。でも、冬になると逆に雪が積もるおかげで山に入っていける。そんな時にスノーシューが便利なので、老若男女さまざまな人が買っていきますよ。雪はたんまり降るけどそこまで過酷な寒さではない新潟県の環境にぴったりで、この地域の特性におすすめのアイテムです」
店舗には山岳ガイドの資格を持っているスタッフの方も2名いて、店主催のツアーとして近くのフィールドに出かけることもあります。例年、東山エリアでスノーシューツアーを行なっており、楽しみにしている人も多いそうです。2023年度の冬は積雪が少なかったためスノーシューツアーは見送りとなりましたが、地元の自然を知り尽くしたプロたちと過ごす時間は、慣れ親しんだ長岡の景色の見方を変えてくれるきっかけになる体験。
他にも主催企画としてキャンプイベントを行なっていたりと、地元の環境を遊ぶ企画を数多く仕掛けているパーマークは、普段何気なく見ている長岡の自然を遊びのフィールドに変える、新しい楽しみ方をひらいてくれる存在として、ファンの信頼を得ています。春や秋はハイクイベントで近隣の山をみんなで歩く企画もあるそうで、妙高エリアや長野県との県境となる飯山エリア、柏崎市の米山や、長岡市内の名もなき里山など、場所や難易度もさまざまな山を歩いてきました。
長岡の自然のなかで紡いできた
顧客との信頼関係を財産として
1990年代からはじまった第二次登山ブームの後押しもあって、構えたばかりの店舗も軌道に乗り、市外や県外からもお客さんが来るようになっても、若林さんたちは2店舗め、3店舗めと事業を拡大していこうとは思わなかったそうです。
「パーマークをもうひとつつくるなんて無理ですね。過酷な環境で使う道具を扱っている以上、アウトドアの専門店には信頼性が求められると思うんですよ。道具はどんどん進化していいものも増えているけど、使う人によっておすすめの道具も変わる。それを常に『あなたにはこれがいいよ』と、適切なアドバイスができるスタッフを確保するのは並大抵のことじゃないですから。いま店を支えているのもアクが強くて面白いスタッフばかりで、スタッフそれぞれにお客さんがついている感じです」
現在5名の正社員スタッフと2名のアルバイトが働いているパーマーク。正社員スタッフは長く勤めている人が多く、スタッフ間はもちろん常連客との間も固い信頼で結ばれています。そんなパーマークとお客さんの絆をよく表す出来事がありました。前社長の若林聡さんが、2008年に事故で亡くなったときのこと。フライフィッシングのエキスパートを失って途方にくれていたときに、常連のお客さんたちからの推薦で、現在フライフィッシングを担当するスタッフが入社することに。突然店の代表を継ぐことになり、バックオフィス業務にてんやわんや状態だった雅和さんを支えてくれたのは、この地でこれまで紡いできた縁と信頼だったのです。
雅和さんが高校で山岳部に入ったのは、「遠くに行きたい」という思いからだったと言います。山岳部で北アルプスを縦走してから、これまで、さまざまなアクティビティに挑戦してきました。そんな雅和さんは、地元・長岡について「長岡は海も、山も、川も、フィールドが近いので、お客さんからのフィードバックを細かくもらえるんです。だから、それに応じて店の品揃えもどんどん変わっていくことができる」と語ります。実際にフィールドで道具を使う人たちの気持ちから離れることなく、柔軟に進化と更新を続けてきたからこそ、時代の変化の中でもフライフィッシング小僧が始めたお店の精神を忘れずにいられたのかもしれません。
雅和さんに、特におすすめする長岡のアウトドアスポットを聞いてみると、「守門岳! あそこは本当にすごいですよ、東洋一の大雪庇が有名です。長岡は昔から山スキーが盛んですからバックカントリースキーはもちろん、スノーシューで雪原を歩くのも気持ちがいいです。スケールの大きさに驚くと思いますよ」と、前のめりな返答が。
雅和さんが案内する、守門岳の魅力たっぷりの動画。雅和さんお気に入りの長岡のスポット紹介も。
「長岡は新幹線で都内からのアクセスも非常にいいのに、駅から30分あれば海にも出られる。私も、朝起きて『今日は海に行こうかな』なんて思ったらSUPを持って出かけたりします。スキー場もあるし、山も整備された低山から守門岳のような異世界気分の場所まである。もちろん渓流もあって、フライフィッシングも海釣りも楽しめる。自分が一度長岡を出ているからこそ一層思うけど、こんな場所、なかなか他にありませんよ。食べ物も本当に美味しいしね。枝豆と米菓は格別です。そんなまちでアウトドアショップをやらせてもらえているのは、すごく幸せですね」
社長となり、お店を引っ張る立場となって、昔のように遠くに行くことは難しくなっても、長岡に根を張りながら、たくさんの人と一緒に地元の新しい顔を発見する日々を重ねる雅和さん。アウトドアへの愛とともに兄と弟で守ってきたパーマークは、これからも自然を愛する人たちのよりどころになっていくはずです。
アウトドアショップ パーマーク
住 所
新潟県長岡市西宮内2-97
電話番号
0258-37-1200
営業時間
11:00〜19:30(日・祝日は19:00まで )、水曜休
公式SNS
Text&Photo:八木あゆみ(「な!ナガオカ」編集部)