何もかもが初体験!雪国への移住者に聞く「初めての冬」

2017.4.5

雪のあまり降らない地域に住んでいる人にとって、「冬の雪国暮らし」は、なかなか想像しにくいかもしれません。たくさん降るとはどれくらいか、生活にはどんな影響があるのか……。今回お届けするのは、雪の少ない地域から、豪雪地帯に移住して、「はじめての雪国暮らし」を体験した安東尚代さんによる、雪国暮らしレポートです。

大阪府出身、23歳の安東さん。日本酒が大好きで、酒米作りと日本酒造りを学ぶために、新潟県長岡市にある栃尾地区に引っ越しました。彼女がどんな冬を過ごしたのか、移住者の目を通した、雪国の景色をぜひご覧ください。

 

酒米作りと日本酒造りを学ぶため移住

まずは、雪国の暮らしについて書く前に私が一体何者で、なぜ新潟に住んでいるのかという説明から。

私は生まれも育ちも大阪で、2016年、22歳の春、大学を卒業して栃尾に移住してきた。学生時代は滋賀県にある芸術大学に通っていて、専攻は油画だった。

そんな奴がなぜ栃尾に? と思う人も多いだろう。

新潟県中越地区には「にいがたイナカレッジ」という中山間地域の暮らしや生活、仕事について学べるインターンシップ制度(就業体験制度)がある。1年間のロングインターンと、1カ月のショートインターンのプログラムがあり、私の興味をひいたのが、ロングインターンのひとつ、「酒造りの一から十を学ぶ“コメ作り×酒蔵インターン”」だった。

春から秋までは米作りといった農業、稲刈りが終わってから冬の間は、「越銘醸」という酒蔵で酒造りをするプログラムになっている。

地域産業や日本酒造りに興味があり、酒米から日本酒造りを学べるというこのイナカレッジのプログラムに魅力を感じた私は、22年間生まれ育った故郷を離れ、1年前に栃尾へ移住してきたのだった。

4月初め。大阪から栃尾に引っ越した。ひとりで東京より北に行くのは初めてな上、ひとりで生活するのも初めてで、ワクワクと不安の2つのドキドキが私の胸の中に入り混じっていた。

いろいろな人から「雪の暮らしは大変」と言われたが、大学は滋賀県の比叡山のすぐ近くにあり、雪も積もるため、私の中でなんとかなるだろうと思っていた。

年が明けるまでは栃尾の冬は静かだった。

1月半ば。1週間ほど雪が降り続いた(注1)。

静かに積もる雪、それがどんな影響を与えるのかこの時はまだ私は知らなかったのだ。

注1・長岡では2017年1月11日(水)から雪が本格的に降り始めた。特に1月13日(金)~16日(月)にかけては大雪となり、14日、長岡では79cmの積雪が記録されている。(編集部)

 

深夜3時の大音量の正体は

1月12日。その日の夜は雪が降っていた。夜中、大きな音で目が覚めた。最初は何の音かわからず、どこかで工事でもしてるのかと思って時計を見た。時間は3時。そのときに音の正体は除雪車だとわかった。

夜中に除雪車の音で目が覚める。そんな状況が3日ほど続いた。

1月15日。朝、外の駐車場に止めてる車を見ると雪の中に埋もれていた。必死に除雪して何とか雪の中から車を掘りだした。

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そしてとうとう事件が起きた。

 

水が……出ない!?

水道が凍ってしまったのだ(注2)。家中全部の水が出ない。蛇口をひねり氷が解けるのを待つことにした。飲み水を買いにスーパーに行こうと思い車に乗った。

しかしここでまたトラブル発生。

注2・厳寒期、水道が凍ってしまうことは、寒冷地では時折あるトラブル。これを防ぐ対策としては、夜間、水道の栓をごくわずかにゆるめ、ポタリ、ポタリとゆっくりと水が落ちる状態にしておくと凍りにくい。(編集部)

 

車のバッテリーが上がる

寒さのせいで車のバッテリーが上がりエンジンがかからない(注3)。

仕方ないので歩いてスーパーに行くことにした。スーパーは家から歩いて10分ほどの所にある。行きは問題なかったが、帰りは2リットルの水を1ケース(6本)持って、自宅まで歩いたので、腕が疲れた。途中、休み休み、少しずつ家へと進む。

とりあえず飲み水を確保して、トイレは会社で済ませてなんとか乗り切ろう。

次の日、少しの期待を込めながら水道を見る。

出ていない。

注3・車のバッテリーは、気温が低くなるほど性能が下がる。また、気温が低いとエンジンオイルがかたくなるために、エンジンをかけるのに通常より多くの電力がかかるなどの理由で、厳寒期にはバッテリーが上がりやすい。(編集部)

 

灯油がない……

早く水道を復活(注4)させないと死活問題である。会社の人に雪を解かしてお湯を作ればいいと教えてもらい、早速、家の前の雪を鍋に入れて湯を作ることにした。次に風呂場の蛇口を石油ストーブで温めることにしたが、今度は灯油がない……。

車は使えない。ガソリンスタンドまで歩いた。スーパーもガソリンスタンドも歩ける距離にあってよかった。でなければ今頃私は絶望に打ちひしがれていたことだろう。灯油を10リットル買い、約8㎏の重さのそれを歩いて運び、石油ストーブで風呂場を温めつつ、雪を溶かして作った湯を蛇口にかける。

翌1月17日、やっと風呂場の蛇口から水道が出た。この時の喜びと感動はとてつもなく大きかった。

水道が凍って解けるまで2日かかった。この悪魔の2日間で学んだのは、冬への備えは早めにしておかなければならないということ。いつ何が起こっても大丈夫なように前もって準備しておくことが必要だと実感した。

注4・水道管が凍結した場合、自然解凍させるには部屋を温めるとよい。また、タオルを巻きつけてからぬるま湯をかける方法や、ドライヤーをあてる方法もある。なお、露出している水道管や蛇口に熱湯をかけると破裂することもあるので危険。(編集部)

 

スノーダンプとの格闘

雪が降り続いたせいで家の前にはたくさんの雪が溜まっていた。近所の人が家の前を除雪し始めたので私も慌てて除雪することにした。

初めて使うスノーダンプ(注5)。

人が使っているところを見てたので見よう見まねで使ってみた。結構重くてなかなか動かせない。慣れないせいで腕が疲れる。スノーダンプで運んだ雪を流雪溝(注6)にどんどんと雪を捨てた。

雪国は雪を片付けるために雪をどんどんと川に捨てるのだ。まるでゴミを捨てるような感覚で。逆に雪がない地域では雪は貴重な存在となっている。それが、雪のある地域とない地域の大きな違いなのだとわかった。

注5・スノーダンプとは、パイプの持ち手がついた大型のシャベル。一度に多くの雪が運べるので、雪国では除雪の必需品。(編集部)
注6・流雪溝とは、河川などの水を側溝に流し、雪を流すための雪処理施設。(編集部)

 

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その日、空から星が降ってきた

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2月4日。この日の夜の栃尾は雪の中に灯る小さな光で溢れていた。

とちお遊雪まつり前夜祭。会場の産業交流センターへ行くと会場一面、1,000個もある雪洞の中にあるロウソクの小さな灯りで照らされていた。

この日の目玉はなんといっても打ち上げ花火だ。会場には花火を見ようとたくさんの人で賑わっていた。

午後8時、花火が上がった。

夏に見るよりも空が綺麗で光が明るかった。空には満天の星空。まるで空から星が降ってきたみたいだった。

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冬は夜が長くて暗いとよく言うけれど、栃尾の夜は雪に照らされた星が綺麗で、夏よりも明るい。生まれ育った大阪の繁華街の夜よりも栃尾の夜の方が明るい、そんな気がする。

それに街灯や家の灯りはとてもあたたかいのだ。

そんな灯りに包まれながら私は眠りについた。

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お酒を寝かせるかまくら作り

2月13日。蔵でお酒を雪室貯蔵するためにかまくら作りをすることに。雪室の中で、一定の温度(2℃)でお酒を貯蔵することによってお酒の飲みあたりが丸くなると言われているのだ。前日の夜、雪が降ったこともあり、雪は大量にあった。

午前10時半。越銘醸のスタッフに、栃尾の酒屋さんの協力も得て、総勢10人がかりで雪室作りを始めた。会社にある除雪車でどんどんと雪が運ばれる。

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運ばれた雪をスコップを使って固める。

と書くだけなら簡単なのだが雪が固くてなかなか思うようにいかない。雪の山の上に登ると私の身体は雪の中に最も簡単に沈んでしまった。

腰まで沈んでしまいうまく上がれない。上がった、と思ったらまた沈む。足場を固めると沈まないことを教えてもらって足場を固めながら作業をすすめた。

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かまくらを作り始めて2時間ほど、かまくらが出来上がった。3メートルを超える高さになり、かまくらと言うより雪の山みたいになった。

この中で6月までお酒を熟成させる。6月になってそのお酒がどんな味になるのか期待で胸が躍った。

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自然を相手にした暮らし

今年の冬は雪が少ない方らしく、家の前の除雪も一回だけで済んだが、雪国に住んでる人は雪があるのが当たり前で雪との付き合い方を心得ている。そんな周りの人の知恵を教えてもらえながら一年目の雪国の暮らしを終えた。

自然を相手に自分の暮らし方を考えていく、それがこの栃尾の地域の特徴なのかもしれない。

自然の中に私がいて、私の体の中にも自然がどんどんと入り込んでいく、そんな体験をぜひ誰かにもしてほしい。酒造りプログラムのイナカレッジのインターンは来年度もある。

詳しくはイナカレッジのホームページをご覧いただきたい。

にいがたイナカレッジ | 地域と自分の価値探求コミュニティ

インターンの期間は終わったが、私はもう少し、栃尾暮らしと酒造りを続けてみたいと思う。

今の栃尾は少しずつ雪が消えてきた。春がやってくる足音が近づいている。

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Text & Photos:Hisayo Ando

Main Photo:Chiharu Kawauchi

 

※一部、「にいがたイナカレッジ」への安東さんご本人の寄稿文からの転載含みます。

 

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