写真が語る地域の記憶。全国各地の「かつての暮らし」を写真集に編む、長岡の「いき出版」を訪ねた
長岡の大正・昭和・平成の景色を
一冊にまとめた驚きの写真集
2024年2月末、書店に並んだ『長岡市の100年』。表紙の写真は、大手通り沿いにあった旧大和デパートの屋上から厚生会館(現アオーレ長岡)を望む景色。デパート屋上にあったモノレールや、今はなき厚生会館の姿に、書店やポスターなどで興味を惹かれた地元の方も多いのではないでしょうか。掲載された写真の一枚一枚に目を引くおもしろさがあり、「よくこんな写真を残していたな」「あの場所に昔はこんな建物があったのか」「昔はこんなイベントをしていたのか」など発見の連続。昭和生まれの人にはたまらないほど懐かしく、また若い方には、地域のかつての姿が新鮮さをもって目に映るものになっています。
この「長岡市の100年」を企画・製作したのが、地元出版社「いき出版」です。地方の出版社でありながら、「〇〇市の100年」「〇〇市の昭和」といったタイトルで、東日本を中心に全国各地の写真アルバムを刊行しています。また、他に郷土のまつりを記録した写真集や、昔の合戦について記した「合戦シリーズ」などの刊行もしています。
「〇〇市の100年」「〇〇市の昭和」シリーズには大きな特徴があります。それは、写真集といっても、プロのフォトグラファーが撮影した写真ではなく、市井の人たちが個人的なアルバムに残していた、生活感のある写真で構成されているところ。だからこそ、その地に住んでいた人々の息遣いが感じられる、独自の魅力をもった一冊となっているのでしょう。
筆者は昭和40年代後半の長岡市生まれで、大手通りにデパートが何軒も立ち並んでいた頃に子ども時代を過ごしたので、本をめくっていると、当時の思い出が蘇ってきます。同時に、これだけの枚数の個人所有の写真を集めることがどれほど大変な作業かと思うと、その仕事量に圧倒され、敬服するばかり。しかも、全国様々な地域の写真集を作るとなると、並大抵のことではありません。どのようにして、このような活動が成り立っているのか、なぜ、長岡でこうした本作りをすることになったのか。「いき出版」の代表取締役社長・佐々木高史(ささきたかし)さんにお話を伺いました。
ニーズを探り、売る機会を作る。
呉服の訪問販売で鍛えた営業力
——はじめまして。『長岡市の100年』、発売と同時に、我が家でも購入させていただきました。今日は、どのようにして「いき出版」が生まれ、このような本を作るようになったのか、そのいきさつや、出版にかける思いをいろいろお聞きしたいと思います。まずは佐々木さんが出版社を立ち上げるまでの経緯をお聞きかせください。ご出身はどちらですか?
佐々木高史さん(以下、佐々木)「生まれは出雲崎町です。昔から歴史に興味があったのですが、戦国時代の武将や戊辰戦争、日露戦争などの歴史小説を読みふけっていた自分には、高校の歴史の授業が暗記や定説ばかりでつまらなかったんです。歴史って現代に繋がるような面白いストーリーがあるのにと思っていました。
長野県の大学に進学後、歴史の教師を目指したのですが、採用試験に落ちてしまって。教育実習での日本史の『国風文化と末法思想』の研究授業は受けが良かったんですけどね。ちなみに大学の卒業論文は『出雲崎の戊辰戦争』で、町に残る当時の弾痕を見つけて戦争を身近に感じた体験は今の本作りにもつながっています。大学卒業後は日本の歴史文化という視点で長岡の呉服屋に就職しました」
——呉服屋ですか!意外な進路。どんなお仕事でしたか?
佐々木「当時の呉服屋は、中学校の卒業名簿で家庭へ飛び込み営業していたんですよ。『まもなく成人式ですね、振袖とかお考えですか?』と声を掛ける。振袖を入口にして結婚するまで様々な『きものや宝石』の提案をさせていただきました。」さらに結婚相手を紹介するのも得意で、好みのタイプ――見た目重視?性格重視?生活力重視?といったことを聞いて、30組くらい成婚できました。
——今の若い方はご存じないかもしれませんが、当時は地元の商店が家庭の玄関先まで御用聞きに行くのって一般的なことでしたよね。営業力や、人と人とのつながり作りのパワーはそこで培われたのですね。
佐々木「呉服屋は9年間勤めました。その後、長野県に本社がある地方出版社が、長岡市にあった新潟支社の社員募集をしていたんです。地方の歴史や文化を題材にした本を出している、全国でも有数の地方出版社でした。歴史好きだった自分は『これだ!』と思って応募し採用されました。31歳のときです」
——なるほど、そういったいきさつで出版社に入ったのですね。
佐々木「ただ当時はバブルが崩壊し景気も落ち始め、今までと同じようにやっているのに売れなくなった時期でした。もっとも売上がいきなりガクンと下がれば気がつくのですが、本の売れ行きには書店の外商力や地域差、本の内容の善し悪しもあり、一概に結果は説明できない。営業会議では、取材担当者の取材力が足りず、お客さんが喜ぶ内容になっていない。営業担当者の書店とのコミュニケーション力が足りない。過去の成功事例を思い起こして、あれはやったのか、これはやったのかなど、喧々諤々の会議が続きました。結局、お客さんの購入動機、書店環境が大きく変わっていたことが原因でしたが、成功していた昔のやり方に戻ろうとしてもがいていたんですね」
——そうした出版環境の変化にどう対応したのでしょう。
版元・読者・書店をつなぐ
「三方良し」の売り方
佐々木「自分が入社した頃の仕事は、書店に本の長所を伝えたり、他店の成功事例を伝えたり、書店の活動エリアのお客さんが喜びそうな資料を配布する。そして本を作って書店に卸すのが仕事、お客さんへのアプローチは書店の仕事という流れでした。これは今でも変わっていません。様々な出版物がある中で、自社の出版物を書店が持っている顧客に優先的に紹介してもらうこと。そんなことがお願いできる関係作りのために、あちこちの書店と酒を飲んだりすることが大事だったんです。
しかしながら、時代はインフレからデフレに変わり、出版物が古本市場で値上がりすることもなく、今までの営業では通用しなくなりました。当然書店の顧客だけではジリ貧です。幸い会社の写真集は評判も良く、新しい営業手法として、本を紹介するDM(ダイレクトメール)を打ったり、新聞折り込みを始めたのです。これは入社以来ずっと考えていたことなので、絶対の自信がありました。ただそのやり方を自信満々に会社に言うと30人以上いた先輩社員に『新人のくせに生意気だ』と足を引っ張られるので、内緒で経費も全部自腹で実行しました。400万円くらいかかりましたが、実際に凄く売れたんです。半年が過ぎた頃の営業会議で社長が気づいて『なんで佐々木くんだけそんなに売れるんだ?』と聞かれて、結果も出たので営業方法を話したところ、『何で最初から言わないんだ』と言われて、費用を返してくれました。実は自分も破産寸前だったので、助かりました(笑)。でも社長は必ず返してくれると信じてました。今でも毎年家に伺って親交を深めています。2年目からは営業部長に出世して、以降10年位は会社の売り上げを立て直すことができました」
——なるほど! 新聞への折り込みは、まさに、今回の『長岡市の100年』でもやっていらっしゃいましたね。これは地方都市ならではの戦法ですね。でも具体的にはどうやって、DMで売り上げを伸ばすんでしょうか。
佐々木「例えば、佐渡博物館に顔を出した時に、『(佐渡でガラス乾板の写真を撮り続けた)近藤福雄さんについて、NHKが先日、取材に来ていたから、まもなくテレビで取り上げられるよ』という情報を仕入れたら、数年前に刊行した近藤福雄さんの『佐渡万華鏡』の在庫を売るチャンスだ!と思い、佐渡の高校の卒業名簿を集めて、関心のありそうな年代の人に『NHKで紹介されます。ぜひ放送を見てください。』とその写真集と、佐渡にまつわる本を合わせて紹介するDMを送り、島外にお住まいの方には初見の佐渡に関する写真集や歴史本の在庫が1千部以上売れました。在庫が売れる喜びは会社にとって何よりです。ただDMは、個人情報の取り扱い上、今は出来なくなりました。新聞の折り込みチラシは、大事な情報提供ですし、地域ごとに写真を入れ替えてチラシを作るなど、今も最大の効果があり、続けてやっています」
——チラシによる販促については『長岡市の100年』でもやっていらっしゃったと思うので、そのノウハウについては、後ほど、詳しくお聞きしたいと思います。ちなみに、DMやチラシでの販売促進というのは、会社からお客さんに直接通販するスタイルだったのですか?
佐々木「いえ、今まで一度もお客さんに直接販売をしていません。すべて『書店に注文してください』と伝えて、本屋さんで買ってもらうようにしています。だから書店から怒られることはありません。売れる状況を作って、お客さんが書店に買いに行ってくれれば、書店は味方になってくれます。最近では、初めて出版する地域に行っても全国チェーンの書店は小社のことを知っているので歓迎されます。昔は新潟の出版社???という扱いでした」
——自社で直販すれば売り上げとしては美味しいところを、あえて書店さんを通すという手法は、今の「いき出版」でも続けられているんですよね。町の本屋さんの売り上げが年々苦しくなっていく中、読者と書店を出版社自らが繋ぎにいくというのは、書店さんにはありがたいことでしょうね。
「読者と一緒につくる」
いき出版のこだわり
——営業で成績を残し、そこから今の「いき出版」を立ち上げたのはどんな流れだったのでしょうか。
佐々木「前職では、社長に言われて営業マニュアルを作ったのですが、結局、営業って、マニュアル通りにやっても売れるものじゃないんですよ。その人の素質、商品の特性、やり方がそれぞれマッチしていなければダメなんです。出版社の宿命なのですが、売上不振になると販促費が削減され、実売に合わせた本を作った結果、取材内容も写真点数も少なくなり、お客さんは少しずつ離れていき、書店にも喜んでもらえない。自分の企画本は売れたので、幸い経費の削減はありませんでしたが、そうした方向性の違いに納得できず、13年勤めた会社を辞めました」
——出版社は生き残るためにいろいろ考えてはいるのですが、儲からないとやはり徐々に内向きになっていく。そうしたあり方に反対されたわけですね。
佐々木「辞めて半年過ぎてから、2008年に自分で出版社を立ち上げました。実は、今の社屋は、もともと会社の新潟支社が借りていた建物だったんです。自分が辞めると同時に新潟支社もたたむことになったので、大家さんに『半年後に戻ってくるから、エアコンも付けっぱなしにしておいて』と言って(笑)」
——有言実行で、会社を興した、と。それが今の「いき出版」なんですね。「いき」にはどのような意味があるのですか。
佐々木「『心意気』の意気です。名刺の裏の通りなんですけれど。『粋』だと思っている方もいますが、それはどっちでもいいなと思っていて。お会いした人には、名刺の裏を見ていただければ、社名の由来が分かるようにしています」
——それでは、ここからは、いき出版の写真集ができるまでの流れをお聞きしたいと思います。
佐々木「うちでは、企画と取材と営業をやっていて、特に企画を決めるのは全部自分がやっています。どの地域の本を作るか、全国の市町村図を見ながら決めるんですよ。編集は、自分と同じ出版社から独立した方が立ち上げた、長野県のしなのき書房という出版社に頼んでいます。販売は、各都道府県にある教科書供給・販売会社で、前職の営業時代に全国を回ってつながりを作ってきたことが生きています」
——では、例えば神奈川県の横浜市のアルバムや写真集を作ろうと決めたら、どのように進んでいくのですか?
佐々木「まずはその地域の販売元となる教科書会社さんに話を持っていきます。その事業に対する了解がとれて、出版時期が決まると、取材担当者に現地に行ってもらって取材が始まります。まず最初は、地域の写真を残している公民館や公共機関を回って、最初の火種になる写真を見つけてきます。その写真を使って写真募集チラシを作り、今度はそれを新聞に折り込みます。例えば〈『横浜市の100年』という本を作りたいので、写真を持っている方はぜひご協力ください〉と募集するわけです。
同様の地域写真集は他社からも出ているんですが、他社の本は、公共機関の写真だけ集めていたり、執筆者の先生の関係だけで作っていることが多い。つまり、地域の皆さんを絡ませていないんです。うちの本は最初のチラシこそ、公共の写真を使いますが、基本的には一般の方の写真で本を作る。それをこだわっていまして。そのためには、とにかく写真の募集をする。要するに、『皆さん、一緒にいい本を作りませんか』と伝えるんです。当然、写真がなかなか集まらない地域もあるんですよ。そうするとその地域に、何回も何回も折り込みチラシを入れて、『〇〇町だけは写真がないんです』とか情に訴えるんです。そうすると『じゃあ協力しようか』と言ってくれる方が出てくるものなんですよ」
——版元と読者双方の「心意気」で本ができているわけですね。新聞の折り込みなら、地域ごとにチラシの内容も変えられますし、必要なエリアにピンポイントに入れることもできる。よくできています。それにしても、新聞の折り込みチラシって、入れるのにけっこうお金がかかりますよね。
佐々木「そう。例えば新潟市で本を販売する折り込みチラシは、それだけで1000万円かかるんですよ」
——大変な金額。まだ、できてもいない本にそれだけのお金を投資するって、なかなか勇気がいるといいますか、絶対売れないといけないというプレッシャーがかかるといいますか。
佐々木「はい。でも売れる自信があるからできるんです。中途半端な経費では市民の皆様に写真集の良さが伝えられない。しかも何回もアプローチされないと買う気にならない、というのがお客様の心理です。(昔は書店さんが声がけをしてくれましたが、郊外店中心の現在では難しい。)10万枚の折込で400人の方が予約をしてくださいますし、それを受け付けてもらえる書店もやる気が起きます。すると店内のディスプレイも迫力が出てきます。売れるための相乗効果が生まれます」
——その地域に実際足を運んだ営業経験があるからこそ、これまで売れた実績や、エリアへの知見をもとに売り上げの目星をつけることができて、チラシに投資しても、無謀な賭けにはならないんですね。
佐々木「こういった地域写真集は、同業他社が真似してくることもあります。でも、写真の枚数が少なかったり、カメラマン撮影のきれいな写真を1ページに4枚も入れて写真の良さを台無しにしたり、ただ写真を並べれば良いのではなく、1枚1枚の写真が主役になるようなレイアウトが必要だと思います」
地元に生きる人が見たいのは
「きれいな写真」ではない
——きれいな写真は売れないですか。
佐々木「売れないんですよ。お客さんは、誰も歩いてない街並みのきれいな写真が見たいんじゃないんです。そこに人がいて、車があって、生活感があるものじゃないと。一粒で三度美味しくないと写真集は売れないんですよね」
——三度美味しい写真ですか?
佐々木「『建物の懐かしさ・風俗・年代』がわかる写真や当時の流行りがわかる写真とかですね。服装や女性の髪型を見ると、その写真がいつ頃撮られたものかがわかります。特に昭和50年くらいまでは、女の人たちは一斉に同じ流行の髪型にしていましたから。男性のファッションも、西条秀樹のようなパンタロンが流行った時期があって、そういった時代性がわかる写真にお客さんは『懐かしいな』と思うわけです。俺もこんな格好をしていたな、とかね。そういう写真がいっぱい載っていると読む人に喜んでいただけるんですよね。この『長岡市の100年』の表紙写真、見てください」
——大和デパートの屋上ですか?
佐々木「そう。大和のモノレールから厚生会館を眺めた写真。この写真を見た時、もうびっくりして。こんな凄い写真を撮ってる人いたんだ。こんな構図の写真は初めて見たと。それで、これは勝った!売れる!と(笑)」
——すごいですね。こんな角度から撮った写真があったんだ!と私も思いました。
佐々木「長岡駅の駅ビル内の書店で、この『長岡市の100年』掲載写真のパネル展があったのですが、女子高生にご高齢のおじいちゃんが説明していたり、知らない人同士が写真を見ながら盛り上がっていたそうなんですよ。若い人は昔の写真に興味なんかあんまりないだろうと思ったので、ちょっとびっくりしました」
地域のお宅を回って集めた
6000枚から厳選して掲載
——話を編集の流れに戻します。この『長岡市の100年』では、写真は何枚くらい集めたんですか?
佐々木さん「二百数十人に取材して、6000枚くらい集めています」
——チラシを見た一般の方が「うちにこういう写真があります」と連絡してきたら、写真を送付してもらうのですか?
佐々木「いえ、担当者がそのお宅に複写しに行くんです。借りるとなくすこともあるので、提供者のお宅からは持ち出さないことにしています。残念ながら採用できる写真がなかった場合は、一枚も複写せず、その場で掲載ができないことをお伝えします。複写させてもらった場合は、少なくとも一枚は絶対に使うようにしています。お客さんを裏切るのは最悪なので、これは約束事として大事にしています」
――200人以上の家を実際に訪問するんですね。それは手間も時間もかかりますね。どのくらい取材に時間をかけるのでしょう。さらに言うと、6000枚近い写真から、採用する写真を選ぶのがまた大変ですよね。
佐々木「取材にはだいたい6カ月くらいかけます。掲載する写真は、600枚載せる本なら、そのうち400枚は自分が決めて、残りの200枚を取材担当者が決めます。採用写真が決定したら、提供者の方に写真のコピーを送り、この写真にまつわる思い出や、写真には写っていない話を教えてもらいます。『ここは評判のお店だった』とか『このかき氷は最高に美味しかった』とか。それを入れることで、三度美味しい写真に文章がついて、もう一度美味しく読めるんですよ」
——ものすごく手間がかかる工程ですね。
佐々木「すごく手間暇かかるんです。でもお客さんが喜んでくれるし、写真をご提供くださった方も、ただ写真を出しただけじゃなくて、自分の言葉も載っていれば、一緒に作った本になりますよね。そうすると、協力者のみなさんが『この本いいよ』ってうちの本の応援団になってくれる。法事で10冊配りたいから……と注文も来たりします。だから、面倒でも、協力者に連絡をとって、確認をとることは続けています。おかげで間違いも減りましたしね」
——これだけの建物、風俗、年代を切り取った、一般の方たちの写真の資料となると、何十年か経つとこの時代の歴史資料という扱いになるかもしれませんね。写真協力者、各地の執筆者や監修者、たくさんの方々と信頼関係を築くのって、実は本づくりにおいて、すごく重要なところなのですが、そこをとても丁寧にし、1年近くかけて本を作られていることに感服しました。しかも、それを年間10冊近く、進行させていく。大変な作業だと思います。
ここで、実際に地域を取材に回っている方にもご登場いただきました。新入社員の堀井愛花さんです。2024年11月発売予定の『新潟市の100年』の写真集めをまさに進めている最中とのこと。
——いき出版への入社のきっかけは?
堀井愛花さん「実家の福島でいき出版のパンフレットを見たのが、入社を希望したきっかけです。元々昭和の文化がすごく好きだったので、いき出版の写真のシリーズは読むのも楽しいけど作れる方になれたらもっと幸せだなと思って」
——今、入社して初めての写真集めをされているところだそうですね。どんな風に取材するんですか。
堀井「写真を見せていただきながら、早いところだと写真一枚なら10~30分ほどかけてお話をうかがいます。だいたい200軒くらい行くのが目安と聞いています。写真提供者は、ほとんどが70歳以上の方で、写真の話だけでなく、人生的な話もたくさん伺いました。後日写真が決まってからご連絡すると、近所の人たちにも聞いて写真の内容の確認をしてくれたり、優しい人ばかりです」
——たくさんの写真を集めて、それから採用写真の文章のための追加取材を進めて、大変な作業が続くと思いますが、いい本ができるのを楽しみにしています!
発売前から購買意欲を盛り上げる
手作業と執念のチラシ作戦
——さて、こうして出来上がった本がいよいよ書店に並ぶわけですが、ぜひお聞きしたいのが、宣伝チラシのことです。『長岡市の100年』の宣伝チラシも、新聞に何度も折り込まれているのを拝見しました。
佐々木「新潟日報には10回入れましたね」
——そうそう。これだけ見たら、もう買った方がいいかな、みたいな気になりました(笑)。
佐々木「実はこのチラシは、最初の頃と、発売日近くでは、掲載写真やメッセージが少しずつ異なっているんです。さらに、エリアごとにも内容を変えています。最初の頃は、中心街の写真が多いのですが、3回目くらいから、配布エリアの写真の点数を増やすようにしています。買おうかどうしようか、悩んでいる人にとって『この写真がもっと大きく見られるなら予約しようかな』と思える一押しになるんですよ」
——エリア別に内容を変えられるのは、新聞折り込みならではの強みですね。でも、今はそもそも新聞の部数も減ってきているといいますよね。広告効果に影響を感じることはありますか?
佐々木「以前あんなに売れたから、今回も売れる!と思っていた本が思ったより売れなかったことがあります。原因を調べると、新聞をとっている人が10年前の3分の2になっていた。お客さんへのアプローチの量が減っているんですよね。対策として、折り込み回数を増やしたり、別の媒体も活用すると、やっぱり見てくれる人が増えるんです。新聞広告というのは、毎月繰り返し出すことで、読者からの信頼度が上がっていくものだと思います。続けるうちに、広告に出していない在庫本まで売れるようになるんですよ。繰り返すうちに、何かの縁を感じて、買ってくれる人が出てくるんです」
——よほど縁を感じないと、なかなか1冊1万円の本は買えませんからね。
佐々木「本を1万円で買うという感覚は、普通の人はないんですよね。でも、うちは本だと思って売ってないので。思い出を売ってるつもりなので」
——なるほど。本ではなく、思い出。それなら、多くの人にとってお金を出す価値があるでしょうし、手元に置いて、いつでも懐かしい記憶に浸れるのは魅力的ですものね。ちなみに、購読者の年齢層はどのあたりなんですか?
佐々木「自分のために買う人は65歳から85歳の方ですね。だけど、親のためにプレゼントとして買う人もいます。『思い出』ですから、こうした本だったらもらって嫌な人はいません」
売るのは「本」ではなく「思い出」。
地域の記憶をつなげる仕事人
——今後、どのような本を作っていくのか、展望を教えていただけますか。
佐々木「今、『新宿・中野の昭和』を作っています。ほかに、目黒区や渋谷区なんかも写真を集めようと企画を進めているところです。東京の写真集は、昔は全然売れなかったのですが、今は売れるようになりました。大学進学や就職で上京し、東京に住んで年数を重ねる方が増えてきたんでしょうね。それに東京の方はあちこちのエリアを引っ越しするので、自分が以前住んでいた町の本が欲しい、みたいな需要もあるようです」
——東京の街を「ふるさと」として見る人たちが増えてきているんですね。これは新たな鉱脈! 東京は短い期間でどんどん変化していく街ですから、おもしろい写真集になるでしょうね。東京の100年シリーズ、刊行を楽しみにしています。
「歴史は本来、面白くてストーリーがあるもの」と語っていた佐々木さん。今回聞かせていただいたこれまでの体験は、「戊辰戦争を卒論に選んだ歴史好きの青年が、郷土史の記録につながる写真集を作るまで」という物語の主人公のようでした。佐々木さんが大切にし続けてきたのが、営業マンスピリット。お客さんが本当に求めているものは何か、とことん耳を傾けたからこそ、今の「いき出版」の写真集のスタイルが完成したのでしょう。
あらためて、「いき出版」の本をお持ちの方は、一枚一枚の写真を添えられた文章とともに見直してみてください。お持ちでない方は、ご自宅で古いアルバムを探してみるのもいいですね。古い写真の一枚一枚を見ているうちに、ふるさとへの思いが深くなり、いつしか心が熱くなっていく——。そんなひとときを、たまには楽しんでみてはいかがでしょうか。
自分のふるさとの写真集はあるのかな、と気になった方はぜひお近くの書店に問い合わせてみてください。
なお、写真集『長岡市の100年』は、なんと長岡市のふるさと納税の返礼品にもなっています。遠くに離れて長岡を思う方々にとっては、これ以上ないチョイス。ぜひチェックしてみてください。
長岡市ふるさと納税
・ふるさとチョイス
・楽天ふるさと納税
・ふるなび
・ANAのふるさと納税
text: 河内千春/photo: 八木あゆみ(な!ナガオカ編集部)
株式会社いき出版
住 所
〒940-2116
新潟県長岡市南七日町81-5
電話番号
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