市民活動に伴走し、「協働のまち」を支える。オープン10年を迎えた「ながおか市民協働センター」の意義【後編】

後編では、長岡をもっと楽しく暮らしやすくするために奮闘する人たちと、その活動を支援する市民協働センターのコーディネーター、熱い志を共有する3組のみなさんをご紹介します。

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市民活動に伴走し、「協働のまち」を支える。オープン10年を迎えた「ながおか市民協働センター」の意義【前編】

 

国際交流で「多文化のまち」を目指す
若者が主役の「市民活動団体WA!!」

2020年4月設立の「市民活動団体WA!!」。高校生と大学生が中心となり、楽しく異文化交流をしながら差別や偏見のない「多文化のまち長岡」の実現を目指す団体です。

きっかけとなったのは、2019年8月に東京と長岡で行われた高校生対象の国際交流プログラム「AILA (Advanced International Leadership Academy)」でした。様々な国の参加者とのディスカッションで文化の違いに刺激を受けた長岡市内の高校生が、国際交流の素晴らしさを同世代の人たちに知ってもらおうと、11月にハロウィンイベントを開催。子どもから大学生、社会人、留学生も、みんなで一緒に各国のお菓子を食べ、ゲームをして交流し、大いに盛り上がりました。この成功を機に「WA!!」が誕生します。

設立メンバーの1人で、現在は長岡を出て関東の大学に通う佐藤美優さんが、春休みに帰郷したタイミングで取材に応じてくれました。

「市民活動団体WA!!」設立メンバーの佐藤美優さん(右)と、設立前から支援するコーディネーターの須貝友紀さん。

「市民協働センターには、ハロウィンイベントのときからお世話になっています。ごく普通の高校生が『どこで開催しよう?アオーレがいいね!』と思いつき、国際交流協会に聞いたら『それなら協働センターに行ってみて』と言われてやって来たんです。まったくゼロからのスタートで、友紀さんの全力サポートのおかげで無事に開催できました」(佐藤さん)

ハロウィンイベントは中高生の国際交流の場にしようと計画したものの、幅広い年齢層の長岡市民が集ったことに佐藤さんは驚きました。「子連れのお母さんとか、社会人の方もたくさん。外国の方も欧米にアジア、留学生だけでなく仕事をしている人もいて、国際交流したい人が長岡にこんなにいるのかと。長岡って、こんなにグローバルなんだと気付きました」

アオーレ長岡で開催したハロウィンイベント。様々な国籍・年齢・職業の150人以上が集いました。

その後、やはり活動を継続しないと自分たちが思い描いていることができないと感じた佐藤さんは、「団体を作ります!どうすればいいですか?」と市民協働センターを訪ね、コーディネーターの須貝さんのサポートで団体を作りました。「若い世代の団体はそんなに多くないのですが、『WA!!』の影響を受けて設立された団体もあるんですよ」と須貝さん。

現在のメンバーは学校も学年も様々な高校生8人。佐藤さんのようなOBOGは26人いて、『WA!!』の活動を応援しています。ほかの団体と一緒に活動することも多く、「海岸でゴミ拾いをしながら国際交流したい」というアイデアを市民協働センターで相談したところ、寺泊で活動する「てらどまり若者会議〜波音(はね)〜」につないでもらってイベントが実現しました。

「波音」と開催したイベント。海岸清掃後に参加者とサンドアートを制作し、楽しみながらSDGsを考える日になりました。

[「波音」の活動についてはこちらから]
SDGsを切り口に地域のポテンシャルを発掘&発信する「てらどまり若者会議〜波音〜」とは?

長岡技術科学大学の留学生サークル「NUTISA」と共催で実施したウォーキングツアー。20人以上の参加者に長岡市を案内し、まちの魅力を伝えました。

 

国際交流センター「地球広場」20周年記念イベントで「WA!!」が活動報告をプレゼン。

 

2022年3月に市民ギャラリーで「ミャンマー展」を開催。

「WA!!」に寄り添ってきた須貝さんは、「後輩たちへの引き継ぎの仕方がとても上手で、創設時の想いがしっかり受け継がれていると感じます。『WA!!』がなかったら、長岡の国際交流はここまで育ってなかったのでは」と評価しています。

佐藤さんも、今後についてこう語ります。「創設メンバーですから『あとはよろしくね』ではなく、最後まで面倒みたいなと。がんばっている後輩たちに『こういうときはこうしてみたら』とアドバイスしたり、応援したり、『困ったら協働センターの友紀さんに相談してね』って伝えたり(笑)。私は必ず長岡に戻ってくるつもりなので、外国から来た人にとっても、日本の人にとっても、長岡が暮らしやすいまちになればと願っています」

●インフォメーション

市民活動団体WA!!
[e-mail]shimindantai.wa@gmail.com
[Instagram]https://www.instagram.com/wa_ngok.jp/

障害児の家族に出会いと学びの場を!
「ひだまりハウス」がまちの風景を変える

2018年10月設立の「ひだまりハウス」。知的障害のある我が子の育児を通して、同じ境遇の仲間と出会いたいという気持ちで小西美樹さんが立ち上げた団体です。始動の後押しをしたのが、市民協働ネットワーク長岡が主催する「夢の種プロジェクト」。長岡市をさらに活力ある地域にするため、柔軟で斬新な市民活動に支援金を贈り応援するもので、2018年に小西さんの企画が受賞。支援金を活用して1回目の茶話会を開催したところ、長岡市内外から11人が集いました。

「情報を共有して少しでも困りごとを減らし、共に楽しく過ごして笑顔が増えていく場所を作りたいと思いました。悩みごとを相談することで、自分ひとりじゃないんだと感じてもらえたら。現在22家族が参加していて、表情が明るくなったり、考え方がすっかり前向きになったり、この活動を通じて親友になった方もいます。障害の有無に関わらず、安心して子育てできる社会を目指しています」(小西さん)

「ひだまりハウス」代表の小西美樹さん(左)とコーディネーターの伊佐恵理さん。思い立ったら即行動!の小西さんは飛び込みで市民協働センターを訪ね、困ったことがあると「伊佐さーん」とやってくるのだとか。今では阿吽の呼吸のふたり。

翌年再び「夢の種プロジェクト」に「きょうだい児(障害や難病を抱える子どもの兄弟姉妹)」を応援する企画でチャレンジし、見事受賞しました。

「親はどうしても障害のある子に専念しがち。きょうだいにお世話を手伝ってもらったり、『いずれ面倒を見てあげてね』などと言ったりしていると、まだ幼いのに介護者になってしまいます。うちの上の子もそうで、『ママはいつも弟ばっかり。私のことは好きじゃないんでしょ』と不満が募り、寂しい思いをさせてしまいました」と小西さん。

その後リサーチを開始したところ、まだ新潟には「きょうだい児」のサポートが少ないとわかり、それなら自分がやらねばと発起。大阪のNPO法人にコンタクトを取り、2020年4月に「きょうだい児」の親子活動をスタートし、きょうだい同士がつながりを持てる「きょうだい会」を立ち上げました。

コロナ禍以前の茶話会の様子。

 

2021年秋に開催した「シブリングサポーター研修ワークショップin長岡」。会場には8人、Zoomで27人が参加しました。

「ひだまりハウス」の成長を見守り続けてきたコーディネーターの伊佐さんは、「小西さんがすごいのは、常にアンテナを張っているところ。支援や配慮が必要と伝える『ヘルプマーク』がまだ新潟県では普及していなかったときに、今後必ず必要になるからと行政に頼らず自ら啓発活動を始めてました」と笑います。

「伊佐さんが『それ必要ですよね!やりましょう!』って言ってくれたからですよ。私ひとりだったらやってないかも。煽られるとやる気になります(笑)」と小西さん。

「きょうだい児」について知ってもらおうと取り寄せた啓発ポスター。「ひだまりハウス」が長岡に新風を吹き込み、まちの風景が少しずつ変化していきます。

当初は対象を「精神遅滞及び自閉症児」としていましたが、コロナ禍で不登校になるなど、苦しい時間を過ごしていた発達障害児やグレーゾーンの子どもの家族も参加するようになりました。小西さんは「ひだまりハウス」公式LINEを設け、会員に「困ったことがあったら24時間いつでも連絡を」と伝えているとのこと。「子どもが眠った夜にいろいろ検索して悩んでいる人も多いですから。『不安でたまらない』という夜中のLINEには『とりあえず寝ましょ』と返します(笑)」

「これはいいかも」と思ったものは徹底的にリサーチして自ら取り入れ、「いい!」となったら持ち前の行動力で広く周知する。軽やかなフットワークで柔軟に活動する小西さんの周りに人が集まり、輪が広がっていきます。ひだまりのような温もりのある長岡にしていこうと、今後もアンテナを張ってニーズに耳を傾け、座談会や勉強会を計画中です。

●インフォメーション

ひだまりハウス
[e-mail]fu14tur_37@yahoo.co.jp
[Facebook]https://www.facebook.com/hidamari.nagaoka
[Instagram]https://www.instagram.com/hidamari.hausu_nagaoka/

多彩な地域資源を掘り起こす
「山本地区活性化プロジェクト」

市民協働センターと同じく2012年設立の「山本地区活性化プロジェクト」。JR長岡駅東口から車で10分ほどの山本地区は、明治時代から大正時代にかけて東山油田の開発で賑い、長岡の産業の中心地として繁栄した場所です。しかし、その活況は長く続かず、産油量の減少と共に衰退して人口も減り、特に若い世代の流出という課題を抱えてきました。山本コミュニティセンターの町づくり部会が、地域特性を活かした地域づくり活動としてプロジェクトをスタートし、現在20代から70代まで30人ほどのメンバーが活動しています。事務局長の下條昇さんに伺いました。

「プロジェクトを立ち上げて、まずはハードから始めようと住宅団地の造成をしたんです。若い人たちに住んでもらいたいということで35区画を分譲し、1年で完売したので35世帯が増えました。また、水害で地域が荒廃したとき、子どもたちが花を植えたプランターを町内に置いたことがきっかけで『花いっぱい運動』にも取り組んでいて、地域の小学校と中学校が全国のコンクールで大賞を受賞したんです。それから、学校周辺の杉が鬱蒼としていて良くないということで、間伐による環境改善も行いました」(下條さん)

10年にわたり山本コミュニティセンター長を務めた「山本地区活性化プロジェクト」事務局長の下條昇さん(左)とコーディネーターの髙橋秀一さん。

その後も活力ある山本地区を作ろうと話し合いを進めてきたものの、ハード的には十分になった中でどんな方向性で進めていくべきかという迷いが生じ、2018年に市民協働センターを訪ねたそうです。「この先は、ハードからソフトへ切り替えて、身の丈に合った活動をしていこうと。ビジョンや企画の作り方、資金調達の方法など、髙橋さんにアドバイスをいただき、4つのプロジェクト『歴史史跡』『空地空家利活用』『みやじさま』『ウォーキング』が始動しました」(下條さん)

コーディネーターの髙橋さんは、初めてプロジェクトの会議に出席したとき、メンバーの情熱に圧倒されたと言います。「やりたいことを挙げてもらったところ、アイデアがどんどん湧いてきて。15件くらいあったものを4つに絞りました。若者流出への危機感を持ち、若い人たちのために何ができるかと真剣に考えていて、みなさんの発想力や結集力がすごいんですよ。山本地区は地域資源もいろいろありますが、なにより人が財産ですね」(髙橋さん)

2020年の秋に県民限定のキャンプイベントを初開催。また、東山油田、たくさんの神社仏閣、トレッキングコースなど、地域の魅力を紹介するパンフレットを3000部作りました。

地区内の温泉施設が「一緒にやりましょう」と手を挙げてくれたり、かつてこの場所にあった油田のつながりで石油会社が石碑の移設作業をしてくれたり、このプロジェクトを始めたことで、新たなつながりが生まれたそうです。

キャンプイベント「地域deキャンプinやまもと」には市内外の親子12組42人が参加。イベント運営に携わったメンバーにとっても、地域を再発見する機会となりました。

地域でのキャンプイベントを行い、元小学校の空き地を利用してサツマイモ農園を作り、植え付けや芋掘りのイベントを実施。芋掘りには150人も参加したのだとか。

「この場所を訪れた人に楽しんでほしいという思いでいろいろ企画していますが、運営しているメンバーのみなさんや地元の人たちも一緒に楽しむことが大事ですね」(髙橋さん)

「やってて楽しくないとダメです。やはり達成感がないとね」(下條さん)

髙橋さんは夜間の会議にも出席し、山本地区の活動に伴走。「行く度に発見があり、関わりが増える度に興味が湧き、キャンプにも参加したし、仕事なのか何なのか(笑)。メンバーそれぞれ、今まで重ねた経験が自信となり、もう十分自立できるので、そろそろ引き際かなと思っています」と言う髙橋さんに、「これからもお願いしますね」と微笑む下條さん。

「野菜の土曜市を開いたり、新しいウォーキングやトレッキングのコースを作ったり、若いメンバーによる新企画も生まれています。地域の歴史年表を作りたいし、またキャンプも開催したいですね」と下條さんは意欲たっぷり。プロジェクトを通じて発掘した山本地区の魅力を、地域の外の人にも中の人にも広く伝えていきたいそうです。

●インフォメーション

山本地区活性化プロジェクト
[電話番号]0258-44-8021(山本コミュニティセンター)
[e-mail]yamam-j1@nct9.ne.jp
[Facebook]https://www.facebook.com/yamamotoareaproject/

NPO法人市民協働ネットワーク長岡のスタッフと、アオーレ長岡を中心に市民協働による活力ある街づくりを行うNPO法人ながおか未来創造ネットワークのスタッフが机を並べる市民協働センターの事務所。ここにも「協働」の風景があります。

自分の関心事を広く周知して共有できる仲間を増やしたい、自分の生活や人生に直結する課題を解決したい、自分が暮らす地域を盛り上げたい。そんな個人的ニーズから始まる多種多様な活動が交錯し、有機的につながることで、次第に社会的なものとなり、まちに生き生きした「協働」のムードが醸成されていきます。今後ますます市民協働センターが果たす役割は高まり、長岡はさらにおもしろく、暮らしやすくなっていくことでしょう。

 

●インフォメーション

ながおか市民協働センター

[住所]新潟県長岡市大手通1-4-10 アオーレ長岡西棟3階
[開館時間]8:00〜21:00(12月29日~1月3日は休館)
[電話番号]0258-39-2020 [Fax]0258-39-2900
[e-mail]contact@nagaokakyodo.net [URL]https://nkyod.org

 

10周年記念講演会
「ながおかの社会的処方箋~地域活動見本市~」

日時:2022年9月2日(金)夕方予定
場所:アオーレ長岡 ホールA(予定)
「地域とのつながり」を処方することで、身近な社会問題を解決する「社会的処方」。 新型コロナウイルス感染症の影響により「つながりがないこと=社会的孤立」というべき状況が増えている昨今、人とのつながりを通じて孤立を解消し、役割や生き甲斐を創出できる場所が地域や市民活動にあります。活動することで得られる「生きがい」や「しあわせ」とは何かを一緒に考えてみませんか?

 

Text: 松丸亜希子 / Photo: 池戸煕邦
(団体活動写真提供:市民活動団体WA!!、ひだまりハウス、山本地区活性化プロジェクト)

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