今こそ平和の尊さを感じよう!長岡まつり前夜祭に行う「灯籠流し」とは?
静けさの中で伝えていきたい平和への願い
--いよいよ長岡まつりも近くなり、「灯籠流し」のご準備に奔走されていらっしゃることと思いますが、あらためて8月1日に行われる「灯籠流し」の歴史について教えて下さい。
髙見「長岡まつりの前夜祭で街中が活気づき、神輿や民踊流しで賑わう中、柿川では静かに『灯籠流し』が行われます。長岡市は、第二次世界大戦が終わる直前の昭和20年8月1日に空襲にあいました。午後10時30分より約1時間40分、アメリカのB29爆撃機は長岡市上空から大量の焼夷弾を投下し、市街地の約80%が消失、現在わかっているだけで1,486名の尊い命が失われました。
長岡まつりは、昭和21年に長岡空襲の戦災殉難者の慰霊と復興祈願から始まり、『灯籠流し』は昭和25年から、戦災殉難者の慰霊のために行われるようになりました。」
--戦後、間もない長岡で行われた「灯籠流し」は、どのような様子だったのでしょうか?
髙見「昭和25年から信濃川で、空襲によって亡くなった方の霊を慰めるために『灯籠流し』が行われていました。長岡だけでなく全国の戦災都市からも灯籠が送られて、今のような小さな灯籠ではなく大型の灯籠を流していたそうです。大型の灯籠を回収することが困難だったことや、昭和40年代になり、日本は高度経済成長期を迎えて、お祭りも賑やかに、より盛大にするのがよいという風潮から、灯籠流しは行わなくなりました。」
--途絶えてしまった「灯籠流し」を復活させたのは、長岡青年会議所の方々だったそうですね。
髙見「そうなのです。13年の時を経て、灯籠流しが中止になった事実を憂慮した長岡青年会議所は、当時の理事長である樋熊隆治さんが中心となって、1984年に『灯籠流し』を復活させました。
悲惨な史実を風化させたくないという思いと、町が焼かれ、尊い命が失われるような戦争を2度と繰り返してはならないという強い意志で復活させたと聞いています。
場所も信濃川ではなく、市民が参加しやすいように町中を流れる柿川で行うように変更しました。柿川とその周辺整備も、同じ頃に行われたと聞いております。それ以来、長岡青年会議所では先輩方の意志を引き継ぎ、粛々と回を重ねて、今年は33回目の『灯籠流し』を行う運びとなりました。
過去の先輩方の思いをひしひしと感じながら、『まち灯り委員会』の委員長を務めさせていただいています。」
--「灯籠流し」は誰でも参加できるのですか?
髙見「はい。申し込みも必要ありませんので、当日に来ていただければ『灯籠流し』に参加できます。ご遺族の方は高齢になられ、階段を下りるのも難しいような状態でも『灯籠流し』をして下さいます。ぜひ、空襲で亡くなられた方のご遺族と一緒に灯籠を流していただきたいです。長岡市民が参加することに意義があると思います。」
--灯籠も髙見さんたちがご準備をするのですね。
髙見「灯籠は空襲で亡くなられた方と同じ数を準備します。空襲では市街地のほとんどが焼け野原になり、市役所も消失して戸籍の台帳も失われました。空襲で亡くなった方の正確な数字は、未だに分かっていません。個人から寄せられる情報などを手がかりに、長岡市の戦災殉難者の数は戦後70年を過ぎても毎年、更新され続けています。」
--過去の史実を明らかにするという長岡市と市民の協働作業ですね。
ところで、参加する時には灯籠は購入するのですか?
髙見「はい。灯籠は1つ500円ですので、ご購入後にメッセージを書いて流していただきたいです。19時から灯籠を準備し、19時半からセレモニーが始まります。市長やご遺族の方のあいさつがあり、シンボル灯籠を流して、その後から一般の方の灯籠を流します。灯籠が流れていくのを見に来られる方も大勢いますので、参加は自由です。川をゆっくり小さな明かりが流れていく風景はとても美しいものです。」
出前授業、柿川清掃……
「灯籠流し」から広がる活動の輪
--今の子どもたちは、私たち大人も含めて平和であることが当たり前となって、過去の史実を実感として持てなくなっています。
髙見「昨年、戦後70年の節目を迎えて、これからは空襲を経験した方が少なくなることへの危機感があります。長岡青年会議所では、そうした事実を踏まえて、数年前より長岡市内の小・中学校で『平和学習』の出前授業を行っています。長岡空襲のことを長岡青年会議所のメンバーが、学校の授業の中で直接生徒たちに伝えています。子どもたちの熱い視線にこちらの身が引き締まる思いです。子どもたちの純粋な吸収力をもって、真面目に受け止めてもらえているという手ごたえがあります。」
--青年会議所の方々の並々ならぬ思いが伝わる授業なのでしょうね。
髙見「過去の事実を伝えると同時に、未来志向で平和の尊さを訴えていきます。次の世代を担う子どもたちに長岡の歴史を知り、平和について考える機会になってほしいと願っています。『平和学習』で話を聞き、『灯籠流し』や長岡まつりに参加して、感じたことについて考えを深めていきます。その世代がやがて長岡の未来を切り開いていくのだと信じています。」
--親や子、子から孫へというように脈々と受け継がれていくとよいですね。
髙見「はい。できるだけ多くの方と『灯籠流し』を共有したいと思っています。先日も多くの市民の方に参加頂いて、柿川と周辺の清掃を行いました。初めの頃は、青年会議所のメンバーだけで清掃活動を行ってきました。周辺の清掃と川底も全て、さらってきれいにするので大変な作業です。続けていく中で、徐々に協力の輪が広がり、今では広く市民の方から清掃ボランティアを募っています。きれいな川で安全に『灯籠流し』が出来るように、今年もボランティアの方々が汗を流してくださいました。そうしたみなさんの善意によって『灯籠流し』は支えられており、とても感謝しています。」
恒久平和を世界へ
--髙見さんたちは終始、裏方に徹しておられるのですね。
髙見「はい。灯籠流しが終わった後も、様々な片付けに追われています。ご存知の方が少ないのですが、前夜祭の1日は、空襲の開始時間である午後10時30分に、慰霊の花火『白菊』が打ち上がります。今年は、委員長として格別な思いで白菊を見上げることになると思います。」
--たくさんの市民をまきこんで行う「灯籠流し」だからこそ、市民も気軽に参加できるのかもしれません
髙見「長岡市は空襲という悲惨な経験をしたからこそ、恒久平和を世界へと発信していくことが出来るし、発信していかなければならないと思っています。長岡の子どもたちや灯籠流しに参加する人たちが、過去にあった悲劇を繰り返さないという気持ちを醸成し、身近なところから平和を考え、平和の尊さに思いを馳せていただきたいです。そのために準備に邁進し、無事に灯籠流しが出来るように力を尽くします。」
第33回柿川灯籠流し~永遠(とわ)に語り継ぐ恒久平和の灯り~
[日時]2016年8月1日(月) セレモニー19時~/灯籠流し19時30分~20時30分
[場所]長岡市旭町 柿川 追廻橋上流