訪日客にも大人気! 男根をまつる栃尾の奇祭「ほだれ祭」レポート
まちが賑わい人々の気持ちが一体となる中、季節の風情を感じさせてくれる祭り。全国各地には数多の祭りがありますが、新潟県長岡市の栃尾地区で開かれる祭りはひと際珍しいことで有名です。それが別名「越後の奇祭」とも呼ばれる「ほだれ祭」。
トップにある写真から薄々お気づきの方もいると思われますが、崇めているのは紛れもなく男性のシンボル。これに初嫁がまたがり、男衆が担いで回るというからますます衝撃的です。しかし「エロ変態!」「クレイジー!」と捉えるなかれ。これは日本独自の民族信仰が色濃く反映した伝統行事なのです。
男根を祭るというインパクトゆえ噂が噂を呼び、全国各地から観光客やカメラマン、ひいてはもの珍しさに外国人たちも訪れるこの祭り。人口55人の小さな集落に、当日はなんと約1000人の観光客が押し寄せるそう。
そんな気になる要素満載のほだれ祭りに参加してきました。
ほだれ祭の「ほだれ」とは?
舞台は長岡市栃尾の山間部にある下来伝(しもらいでん)。一面に棚田が広がる美しい景観と豊かな農作物が魅力のこの地域は、雪深く不便な土地柄もあってか年々過疎化が進んでいます。
ほだれ祭が始まったのは1980年。「集落を活性化させたい」という当時の地元青年団の想いをきっかけに、江戸時代にあった祭りを原型にしてスタートしました。開催当初はご神体をリアカーに乗せて地区内を巡回していましたが、のちに現在の初嫁を乗せるというスタイルに進化。今年で38回目を迎え、ほだれ祭は集落に活気を生む一大イベントとなっています。
「『ほだれ』というのは稲穂が垂れる様子に由来しています。五穀豊穣を願って名付けたと聞いています」と教えてくれたのは、ほだれ祭実行委員長の佐藤隆志さん。コシヒカリ栽培が盛んなこの地域にとって、田植えが始まる春は大切なシーズンだといいます。確かに穂垂れする稲とご神体ほだれ様の形はどことなく似ている……かもしれません。
「男性のシンボルをかたどったご神体ですから、子宝や安産、縁結びにもご利益がありますよ。長年子供に恵まれなかった女性が、ほだれ祭に参加したことで急に授かったという嬉しい報告も届いています」
それにしてもなぜ男根型のご神体なのかと不思議ですが、実はヒトの生殖器型のご神体を崇める民俗信仰は全国各地にあります。神奈川県「かなまら祭り」、愛知県「豊年祭」など、いずれも生命を司る神秘的シンボルとして、願いが込められているのです。
また、日本最古の歴史書『古事記』には性的な表現がたびたび登場することから、かつての日本人にとって性は恥ずかしいものでなく、もっとオープンで大らかなものだったことが分かります。
つまり、ほだれ祭は性に対する好奇心ではなく、純粋な崇拝と感謝の気持ちが込められた、日本古来の風習を感じられるお祭りなんです。これが理解できたら、きっとほだれ様へ感謝の気持ちがこみ上げてくることでしょう。
晴天の中、ほだれ祭スタート!
時刻は10時。辺りにはほら貝と太鼓の音が鳴り響き、いよいよほだれ祭が始まります。地元の若衆と子どもたちが長い数珠をもって集落を練り歩く「大数珠くり」が出発しました。
その間、会場を散策することに。右手に見えるのがほだれ神社です。
高さ2.2m、重さ約600kgの圧倒的な存在感のほだれ様が鎮座しています。祠(ほこら)から取り出されるのは年に一度だけというから大変貴重な機会です。後ほど、初嫁さんがこのご神体にまたがるとのこと。
神社の周りにはいたるところに道祖神がズラリ。道祖神とは外界からの来る災いをさえぎる集落の守り神として祀られる神様で、集落のいたるところに祀られています。下来伝地区で特徴的なのは、二人あるいは三人が一緒になった石仏が多いこと。お母さんが子供を抱いていたり男女が抱き合っていたりと、仲睦まじく微笑ましいものが多いです。
そしてまもなく11時を迎える頃、行列が集落中を一周して帰って来ました。
続いて神社脇にある樹齢800年の巨大杉に大しめ縄を張っていきます。今年は過去最大300kgのしめ縄を作ったとのことで相当重そう。男衆20~30人がかりで木に巻き付けていきます。
主役の初嫁さん登場! みなさん結婚1年未満という新婚ホヤホヤ。宮司さんによる厄払いや子宝・安産祈願の神事が行われます。
初嫁さんによる鏡開き。酒樽の上蓋を木づちで威勢よく叩くと、会場内は拍手喝采に。樽内の日本酒は、お神酒としてサカキ(神事に使われる葉)と共に一般参加者へふるまわれました。
そろそろ12時を回る頃です。お腹が空いてきたので屋台コーナーへ。身体が温まる美味しい料理を堪能しましょう。
名物は「たぬき汁(モチ入り)」400円。地元の猟師が仕留めたタヌキを使った野趣あふれる一杯です。野菜もたっぷり入って大満足! この他にも栃尾名物油揚げやうどんなど、美味しいものがたくさん並んでいました。
初嫁を乗せて、ほだれ様いざ出陣!
ほどよくお腹が膨れたところで、いよいよメインイベント! 巨大なほだれ様を神輿に移して初嫁さんを乗せます。重さ600kgのほだれ様を移動するのは緊張の瞬間。落とさないように慎重にセットが完了すると観客から歓声が沸き起こりました。この一体感が清々しい!
初嫁さんがほだれ様に着席。ツルツルとしたほだれ様の上から滑り落ちないように、みなさん恐る恐る座ります。
ついにほだれ様、出発! 総重量1t以上の神輿を男衆が担ぎ、威勢のよい声が響き渡ります。観客の盛り上がりも最高潮。カメラマンたちはベストショットを求め、ほだれ様を追いかけて走りシャッターを切りまくります。一方、初嫁さんたちは余裕の表情でとても楽しそう。ニコニコした素敵な笑顔を観客に振りまきます。司会の方のプチ下ネタがこれまた面白く、会場を沸かせていました。
神輿の興奮が冷めやらぬまま、祭りはクライマックス「富くじ抽選会」へ。初嫁さんが抽選くじ付きの五円玉やお菓子を観客席にばら撒きます。特賞のほだれ大賞はコシヒカリ一俵という大盤振る舞い! 観客のみなさん、我を忘れ五円玉をゲットするのに必死です。
残念ながら抽選には外れてしまいましたが、ほだれ祭は想像以上に楽しく大満足な一日でした。子宝や安産を祈願する神事はしずしずと、しかし神輿や抽選会はみんなで盛り上がってド派手に。日本の誇るべき祭りの神髄を垣間見た気がしました。
初嫁さんと外国人観光客にインタビュー!
大興奮のほだれ祭りが無事終了。そこで気になるのは、参加した皆さんの感想です。初嫁さんと外国人観光客のみなさんにインタビューをしてきました。
「栃尾住民にとって、ほだれ祭は有名な一大行事です。結婚したらぜひとも初嫁として参加したいと思っていました」
「神輿で担がれるほだれ様は揺れましたが、乗ってみてすごく楽しかったです。いい記念になりました」
初嫁さんはお二人とも、自ら進んで祭りに参加したとのこと。結婚する節目として、ほだれ様に乗られたことを誇りに感じているようでした。
続いて外国人観光客の皆さんへインタビュー。
「日本の祭りが大好きで、遠方にも足を運んでいます。その中でもほだれ祭が好きでもう5回も来ているんです。迫力ある神輿が最高!」
「ベトナムに性の祭りはないので驚きました。今日は大しめ縄張りも体験して、祭りに参加できたのがよかったです」
「とにかく(ほだれ様が)BIGだったのにびっくり! こんなの見たことがないです。日本の祭りは変わっていますね」
日本のオープンすぎる性のフェスティバルに戸惑いつつも、楽しんでいる様子が印象的でした。日本人でも驚くような珍しいお祭りなので、海外出身者にとってはさらに衝撃的だったのでしょうね。
訪れる人をエキサイティングな気持ちにさせてくれるほだれ祭り。実は地元民だけでなくNPO法人国際学生ボランティア協会の皆さんもスタッフとして参加しています。今年は約30名が手伝いに駆けつけ、会場設営や販売をサポートしたそうです。まるで自分の故郷のように栃尾下来伝について愛おしく話す若者たちは、会場をさらに熱気付かせていました。
「はじめは祭りの内容に驚きましたが、地元の方が愛をもって取り組む様子を見て、いつしかこの祭りに私も携われることに誇りをもつようになりました。若者・よそ者だからできる視点で、これからも関わっていきたいですね」
ほだれ祭りはそのインパクトゆえ「奇祭」と一括りにされがちですが、そこには地域住民の想いがあり、日本の風習を体感したい学生たちの心にも響いているようです。祭り終了後、たぬき汁を囲んで談笑する地元住民と学生たちの姿を見かけ、祭りは絆を生むということも改めて感じました。
当日限定! 激レアほだれグッズ
最後に、ほだれ祭限定のお土産をご紹介します。巨大なご神体・ほだれ様は立派ですが、グッズはとてもキュート。なおかつ子宝や安産などご利益があるのですから、プレゼントにすれば喜ばれること間違いなしです。
子宝、安産、縁結びなどの効験あらたかなお守り。新婚さんや妊婦さんが購入する姿を度々見かけました。刺繍のイラストが入った「縁結び」「子供まもり」はデザインが素敵です。
男女のシンボルをかたどったキャンディー。「さずかり飴」とパッケージに印刷されてある通り、これを食べれば赤ちゃんを授かることができるかもしれません。
「さずかりセット」は「男の子」「女の子」が一緒に入って豪華。紅白椿で飾られ、めでたい感がさらにアップしています。三色のキャンディーがセットになった「ちびちゃん3兄弟」はシュールすぎて笑えます。
極めつけはこちら。職人さんが一本一本木を削って、ていねいに作られたミニご神体。すべすべなめらかな手触りの渾身作です。一家に一ほだい様、ぜひ神棚に飾っておきたいものですね。
ちなみにキャンディーは大人気のため、昼前にはすでに完売していました。確実にゲットしたい方は、早めの購入をお勧めします。
越後の奇祭、ほだい祭は毎年3月第2日曜日に開催されています。次回は2018年3月11日(日)です。結婚1年未満の初嫁さん、一生の記念にほだれ様に乗ってみるのはいかがでしょうか? 詳細はホームページをチェックしてみてください。
Text & Photos:Mariko Watanabe
ほだれ祭
[日時] 毎年3月第2日曜日 午前11:00~午後2:00頃 (但し集落内巡回大数珠くりは10時~)
[会場] 新潟県長岡市来伝(下来伝) ほだれ大神[問合せ] 栃尾観光協会 0258-51-1195 / 長岡市栃尾支所商工観光課 0258-52-5827
[HP] 春を呼ぶ越後の奇祭!! ほだれ祭 http://tochiokankou.jp/hodare/