長岡・栃尾に現れた「木の魚が泳ぐ」水族館。人の縁が命を吹き込む加治聖哉さんの廃材アート

長岡の水族館といえば、日本海に浮かぶ『寺泊水族博物館』を思い出す人もいるかもしれません。しかし、海とは真逆の山間部である栃尾『杜々の森』に2021年、水族館がオープンしたとの話が舞い込んできました。山の中に水族館……? そう、これはその名も『廃材水族館』。そこに水槽はありませんが、木でできたイワシの大群やカジキの姿が見えます。それらの海の生き物は、新潟県村上市出身で長岡造形大学で学んだアーティストの加治聖哉さんが、廃材を利用して制作したアート作品。それを森の中に設置し、水族館を作り上げました。

加治さんは、学生時代を長岡造形大学で過ごしたあと一度首都圏で働き、2019年7月から栃尾地域の地域おこし協力隊として着任しています。制作に利用している廃材は、学生時代から培った地域とのつながりで加治さんのもとに集まってきているもの。ここ長岡でこそ形になった加治さんのアートについて、そしてこの廃材水族館について、話を伺いました。

廃材水族館は杜々の森名水公園の『アトレとど』内で開館中。公園内の看板にちょこんと止まるフクロウも加治さんの手によるもの。

 

環境庁から全国名水百選に選定されている杜々の森の水。この水を汲みに公園にやって来る人も多数。

地域との関わりに
「自分の制作」を見出す

新潟県村上市出身の加治聖哉さん。長岡とのつながりは、大学生活を長岡造形大学で過ごしたことから始まりました。造形学部の美術・工芸学科で彫金を専攻し、シルバーアクセサリーやジュエリーを作っていた加治さんですが、他の授業でつかった木材の余りが捨てられているのを見て、せっかくだから何かに活用したいと、廃材を活用したものづくりを始めました。

「大工のおじいちゃんと、身の回りのものを使ってなんでも自分で作ってしまうクリエイター気質のおばあちゃんにべったりついて育ったこともあり、もったいない精神をしっかり受け継いでいたんでしょうね。余り物の廃材は、宝の山のように見えました。廃材って、いろんな形や色があって、ブロックで遊んでいるような感覚になるんです」

大学では彫金と廃材での作品制作や地域のアートプロジェクトに打ち込み、2018年に卒業。美術家の村上隆さんの会社『カイカイキキ』に就職しました。世界を相手に大人数のスタッフで大規模なプロジェクトを行うこともある村上さんの制作スタイルは、それまで自分が行ってきた彫金とは対極。そこで働く中で、さまざまなアートのかたちを体感していきます。そんな加治さんに、ある日、学生時代のつながりから栃尾地域の地域おこし協力隊への誘いが届きました。空き家をギャラリーにするというプロジェクトに興味をそそられた加治さんは、2019年に長岡へと戻り、それから現在まで丸2年がたちました。

「大学生の頃から、いろいろと栃尾とのつながりはあったんです。地域おこし協力隊に誘ってくれたのも、2016年から栃尾で『トチオノアカリ』というライトアップイベントを主催している方でした。在学中はボランティアやイベントスタッフなどの活動を計140回ほどやっていて、長岡のいろんな地域でつながりができましたね。今でもその縁はつながっていて、とてもありがたいと思っています。
廃材水族館のあるこの場所=杜々の森名水公園で行っていた『名水コシヒカリまつり』も手伝っていました。今はもうなくなってしまったのですが、このお祭りはすごくて。ジャンボいなり寿司大食い競争や新米おにぎり・農産物の販売、稚魚すくいなど地元の恵みを活かしたユニークな出店をやっていて、1万人ほどの来場があったんです。その盛り上がりを知っていたので、この場所でチャレンジしようと思いました。さすがに学内でもこれだけ地域に入り込んで活動しているタイプは少なかったので、教授たちには『授業にもちゃんと来い!』なんて言われることもありましたが(笑)、大人との関わりも増えますし、社会を学べるしで、地域と関わることはとても面白かったですね」

廃材水族館の片隅には、今は開催されていない『あぶらげまつり』の看板が。これも加治さんの作品の素材として活用されます。

展示場所も素材も…
縁がつながって生まれた作品たち

形としてはUターンとなるものの、人生のほとんどを新潟で過ごしている加治さん。長岡造形大学への進学志望も早い段階で決めていたそうです。

「美術大学や芸術大学は大都市圏に集中していますが、長岡造形大学の設備の充実具合はそれらの大学にひけを取りませんし、学ぶ環境としても日本でも指折りなんです。受験のタイミングで公立になったこともあり、実家も近いので、選ばない理由がありませんでした。ただ、もともと木工に興味があったものの、造形大には木工の専攻がなくて。彫刻のコースはあるんですが、僕は塊から掘るよりも組み上げる方が得意なので、それならと得意分野に近い彫金を選択しました」

彫金を学びながら、学内外の廃材をつかってものづくりに取り組む。どちらも素材の形を活用して新しいなにかを生み出す点で、加治さんにとっては一貫していました。大学祭などでの展示をきっかけに、毎年秋に開催されている『ヤングアート長岡』(現在『長岡芸術工事中』に名称変更)など、早い段階から展示する機会にも恵まれてきました。そして、長岡で築いてきたつながりは、廃材水族館の常設展示へつながっていきます。

「前々から、イワシの大群のような大物制作をやってみたかったんです。例えば廃校の体育館をまるっと水槽に見立てて、とか……でも、維持や管理の問題もついて回りますし、どのように形にするか考えていたタイミングで、杜々の森名水公園から『うちのスペースを使ってみないか』と話をいただけたんです。それが去年の話で、打ち合わせを重ねていって、2021年5月1日から常設としてオープンしました。実は、杜々の森名水公園の方も大学時代からの知り合いなんですけどね。つながりあっての今、です」

栃尾の織物工場で使われていた糸巻きの軸をメインにつくられたイワシ。その数、なんと1000尾! それぞれ表情が違うので、お気に入りの子を見つけてみては?

 

色鮮やかな吊り下げの糸も、栃尾の織物工場で使われている繊維を使用。糸巻き軸はもともとの色を活かす形で制作しています。

圧巻のイワシの大群は、よくよく見るとそれぞれ色や形が違って、周りを歩いたり、じっと眺めたり、様々な角度からいつまでも見ていられる魅力があります。魚体の真ん中にある軸は、栃尾の織物工場で使われていた糸巻き軸。学生時代に参加していた地域プロジェクトで知り合った仲良しの農家のお母さんから「近所の工場が閉じるみたいだから、布をもらいにこう」とお誘いがあり、新潟県内有数の織物産地である栃尾地域の『いい布をもらえるチャンス、ということで前のめりで』(加治さん)取りに行った際に、この軸に出会いました。工場内で段ボールで山積みになった様子に目を奪われたと、加治さんは振り返ります。

「軸の独特の形や色がもう、めっちゃいいなと思って。ちょうど魚の大群を作りたいと思って、体の軸になる素材を探していたところだったので、本当にタイミングがよかったです。運命的な出会いでしたね。新作のジンベエザメの本体に使っている黒い板も、田中工務店さんという栃尾の工務店からいただいています。田中工務店さんとも学生時代からつながりがあったんですが、地域おこし協力隊として栃尾に戻って空き家をギャラリーに改装する相談をしているときに、廃材から作品をつくっているという話をしたら『うちの廃材、持っていっていいからね』と言ってくれて、あれだけ集まりました。大半は工務店からで、あとは栃尾の木工作家さんから細かい材料をもらったり、酒造の越銘醸さんからも『倉庫を整理していたら出てきたから』と樽の栓を5袋分ほどもらいました」

会場内にはあちこちに素材となる廃材が積まれています。加治さんの取り組みを知っている人が増え、「こういうのもあるけど、いらない?」と連絡をくれるそうです。いま加治さんの手元にある素材は、殆ど栃尾地域内から集まったもの。こうした経緯を知ると、その作品からどこか地域の人たちの息吹を感じ、また見方が変わってきます。

集まった廃材はキャプションをつけて展示エリアの一角に。「作品になる前の廃材の姿も、作品を構築する一部だと思っています」

栃尾という土地に支えられて
心地よく制作に打ち込める

取材に伺ったのは、新作のジンベエザメお披露目の前日、まさに佳境のタイミングでした。「水族館の顔といえば、やっぱりジンベエザメだろ!」という思いで、全長9mもの大迫力のジンベエザメを、一ヶ月かけてほぼ一人でつくりあげてきた加治さん。廃材水族館は常設展示ですが、これから先さらに、どんどん海の仲間を増やしていく予定だそうです。

廃材水族館の会場であるアトレとど。中には物産販売所やレストランも。

話を聞けば聞くほど、加治さんと栃尾のつながりがなければできなかった作品たちばかりであり、栃尾でいまの活動をしているのが必然だと感じます。このまちに戻ってきた理由について、加治さんはこう話してくれました。

「そもそも人とのつながりがなかったら、いまのような形で作品をつくっていないと思います。また、海も山もある自然豊かなところで育ったので、そういった環境でないとやはり水が合わないといいますか。個人的には都会は肌に合わなかったことと、長岡には学生時代からの縁もたくさんあるし、戻ってきてなおさらよさを再認識できました。こっちには、お母さん的な存在の人もたくさんいますし(笑)。
今はまだすごく甘えちゃうんですけど、そういう関係が築けるのも地域の魅力ですよね。出身地の村上市も自然は豊かですが、あえて違いをあげると、栃尾には伝統文化やお祭りがしっかり根付いているからか、皆さんの芸術に対する理解が深いように感じます」

ただユニークなアイデアがあればいいというわけでなく、それを成立させる背景こそがアートの本質なのかもしれません。加治さんの作品も、加治さんがいればどこでも同じように作れるというものではなく、長岡の人たちとのつながりがあったからこそ今の形になっています。そして、こうした制作の形をすんなりと受け入れる土壌が地域の人たちにあるというのは、実はとても貴重なことなのではないでしょうか。

この先、長岡市内外での展示やイベントもいろいろと企画が進行中とのことで、加治さんの廃材アートを目にする機会も増えそうです。ぜひ、その作品が生まれた背景や、作品を通して見える長岡のまちの姿にも目を向けてみてください。

後日加治さんが送ってくださった、ジンベエザメの完成形の様子。取材からお披露目までの1日の間に、記事の序盤で紹介した「あぶらげまつり」の廃看板を丸にくり抜き、ジンベエザメの斑点に見立てて配置したそうです。9mもの大作で、廃材水族館のシンボルマーク的存在に。

 

ちなみに、廃材水族館のある杜々の森名水公園の池には鯉が沢山泳いでいます。めったに会えない、幻の巨大金魚もいるんだとか。

Information
廃材水族館
[住所]新潟県長岡市西中野俣3996番地
[電話]0258-58-3050(アトレとど)
[営業時間]9:00~17:00
[営業期間]4/29(木祝)~11/30(火) 最終日火曜営業
[定休日]火曜日 ※7/17(土)~8/31(火)は無休
※展示は常設となりますが、営業時間と営業期間は杜々の森名水公園の営業に準じます。杜々の森名水公園は冬季休業のため、2021年の営業は11月30日までを予定。

Text & Photo:八木あゆみ

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