「まちの魅力を語る」って何だろう? 学生たちが「借り物ではない、自分の言葉」を探し歩いた4日間
2021.12.20
「自分が住むまちの魅力は何ですか?」と問われたとき、あなたならどう答えるでしょうか。まちの魅力というものは観光資源やお店の多さで考えられがちですが、それらは特徴のひとつにすぎません。まちを楽しむ視点をもつことでもっと地元を好きになって、それを海外に出たときにも伝えられるようになってほしい――そんな思いから、2021年9~11月に公益財団法人長岡市国際交流協会が、市内の高校生や留学生たちを対象に「ながおか魅力発見講座」を開催しました。講義や現地視察を通じて、学生たちは何を感じ、「まちの魅力」をどう捉えるようになったのでしょうか。
2021年9月某日、長岡駅近くの大手通にあるコワーキングスペースを備えた「NaDeC BASE」を会場に開催された第一回目の「ながおか魅力発見講座」。この場に集まったのは、市内在住高校生8人と留学生3人で、まずはお互いの自己紹介からスタートしました。全員に共通するのは、「自分が住むまちに興味がある」ということ。しかし、まちの好きなところはどこかと聞かれたら、正直答えに詰まると感じている人もいるようです。自己紹介では、名前や学校、趣味のほかに、全員が「長岡の好きなところ」も発表しました。高校生たちから出た意見は、長岡花火、長岡の歴史、枝豆、駅前の雰囲気、自然など。国際交流イベントやお気に入りの和菓子店を挙げる人もいました。講座名にもある「まちの魅力」とは、実際に自分が訪れて楽しいと感じる場所? 観光資源として注目を浴びているスポット? さまざまな解釈がありますが、まずは視点を広げてみることがこの講座の目的です。
「な!ナガオカ」編集者視点で語る
まちの魅力を発見するポイント
この第一回では、「な!ナガオカ」編集部も参加させていただき、「まちの魅力」を見つけるヒントを伝えるべく、編集部メンバーがオンラインでのレクチャーを務めました。
「みなさんは、まちって何だと思いますか? ランドマークや構造物? 名所や観光スポット? それとも政治的・経済的単位、あるいは消費や遊びの場でしょうか。これらはすべて正解です。そう、まちは『ハコ』のようなものだといえます」(編集部)
「しかし、構造や機能のハード面だけでまちは語れません。そこには、『ソフト』の存在である『人』が不可欠となります。人のミクロな行動や思考が集まり、構造が集積して大きな単位となっていくんです。だから、まちについて考えるとき、大きな単位だけでなく、同時に『人』についても考えなければ、そこに住んで活動する人の具体的なイメージを欠いてしまい、まちが本当にどんな姿をしているかということを見逃してしまうんです」(編集部)まちを構成するものは、建物やイベントだけでなく、「人」も重大な要素となっている。これは当然のようにも思えますが、まちの魅力について考えるときに見落としてしまいがちなことでもあります。「地元が好き!」と胸を張る人は、案外その地に住む「人が好き」という意味合いで語っている場合も多いものです。つまり逆説的にいうと、この地に住む人を魅力的に感じなければ、たとえ利便性という面では満たされていても、心から自分のまちが好きとは感じにくいともいえます。
編集部メンバーも全員が地方出身ですが、子どもの頃は自分のまちに魅力を感じなかったそう。その理由を考えてみたところ、「こんな大人がいるんだ!」と感動するような出会いがなかったからだとか。子どもの頃は身近にいる大人の「公務員」「農家」といった社会的な立場は理解していてもそれぞれの人の個人的な思いや趣味といったディテールまで見る想像力が足りていなかったこと、またそもそも出会う職業のバリエーションも地方では少なかったこと、などがあります。「そうした人の中にも、例えばプラモデル300個を持っている人など、“おもしろい大人”はたくさんいたのかもしれません。でも、当時の自分の『人』の見方の範囲の中では出会えなかったんです。若い世代がまちを出ていく理由、それはきっとお店やイベントなどのにぎわいだけではありません。自分の住むまちで、将来大人になったときにどうなるかのイメージが湧かない、あるいは限られている。だから自分が輝ける可能性のある都会へ行く――この構図ができているんだと思います」(編集部)
つまり、まちの魅力やあるべき姿を考えるときは、建物(ハード)と人(ソフト)の両方が必要。「人の集合体としてのまち」を意識することが大切なのです。
まちを語る言葉は十人十色
借り物ではない自分の言葉を
「な!ナガオカ」はまちを語るメディアですが、実は自分たちからは『長岡は〇〇のまち』と決めつけないような発信を心がけています。なぜなら、「まちを語る言葉」は人によってまったく異なるものになるはずだから。同じ景色を見たとしても、感じ方は人それぞれ。つまり、まちに住む一人ひとりが自らの視点で魅力を見つけ、「借り物ではない言葉」で発信することが大切なのです。
「まちの姿は人の数だけある、正解はない」と言ってはみるものの、大人になってしまえばつい日々の目的に埋没してしまい、そんな考え方を身につけるのは誰にとっても容易なものではありません。ですが、まだ視線が柔軟で、考える時間のたくさんある高校生たちには、よい気付きになったようです。
質問タイムでは、「まちの魅力を探すには何から始めればいい?」「わかりにくいまちの魅力を同世代に伝える方法は?」「魅力あふれる人と出会うには?」など、高校生たちが積極的にまちについて知ろうという姿勢が見られました。まちの魅力を発掘するヒントは、自分たち自身にあるのかもしれない……高校生たちの目の色が変わったような気がしました。“おもしろい大人たち”との出会いから
視野を広げて楽しさを発掘する
前段の講義を踏まえて、最終までの間、高校生たちはまちに住む“おもしろい大人”に会いに行くことに。
第1回目の午後には、県内に8店舗を展開する「SUZUグループ」の代表・鈴木将さんから、地元の野菜を使用した料理への思いを伺いました。「地域の良さを発信したい」と考案された料理は、和洋エスニックとジャンルは多様で、カジュアルな雰囲気が特徴。留学生にとって、地域食材をグローバルな料理にして提供するスタイルは新鮮だったようです。
続いては、長岡市の老舗蔵元「朝日酒造」。こちらでは海外事業部の長本海義さんと広報課の小嶋基成さんに銘酒「久保田」ブランドの海外展開について聞きました。酒どころ長岡では身近な日本酒ですが、「SAKE」として世界中にファンがいること、海外での消費量も増えていることを知り、まちの名産に誇らしい気持ちが湧いたようでした。地元食材の商品開発を手がける「FARM8」の代表・樺沢敦さんからは、地域ブランディングを実践する際の思考について学びました。起業のきっかけ、県外からUターンした理由が語られる場面もあり、試行錯誤があって今があるといったお話を直接聞くことはなかなかできない体験です。
長岡市国際交流センターのセンター長・羽賀友信さんと共に、「大河津分水資料館」の見学や寺泊散策もしました。川の氾濫を防ぐ治水事業のことについて、初めて知った学生も多かったようです。私たちが安心して暮らせるように支えてくれる大人たちがいることは、改めて感謝しなければと気づけたようでした。大河津分水路については、こちらの記事もご覧ください。
“大水害時代”とどう向き合う? 国内最長「信濃川」の治水対策に迫ってみた|な!ナガオカ
老舗和菓子店「江口だんご」では、雪国ならではの太い梁のある古民家を利用したお店を見学。社長の江口太郎さんから学んだことは「当たりまえを見つめ直すこと」の大切さでした。お店の看板メニューであり郷土料理の「醤油赤飯」は、他地域から見ると一風変わった味付け。「赤飯に醤油を入れるのは当たりまえだと思っていた!」と自分の常識を疑うきっかけとなりました。 「陶芸教室 夢現工房」では代表の今千春さんに習って、実際に陶芸製作にチャレンジ。長岡は湿気が多い気候であることから陶芸は不向きといわれていましたが、思いを貫いて努力を続けたことで雪国の欠点を克服した今さん。高校生たちは、あきらめずに努力する姿勢に感銘を受けたようです。高校生たちが見つけた
世界に紹介したい長岡の魅力
そして最終日となる11月13日、第四回目となる「ながおか魅力発見講座」では8人の高校生たちが独自の視点で見つけたまちの魅力を発表しました。テーマは「私が世界に紹介したい長岡の魅力」。まちで活躍する大人たちと出会い、まちを観察する視点を持って過ごした数カ月間、彼ら彼女らはどんな発見をしたのでしょうか。
「長岡には『おいしい』のプロがいる」と発表したのは片野佳香さん。長岡の名産といえばお米だけと思われがちですが、実はそれだけではないことを伝えていきたいと語ります。今回講座で訪れた「江口だんご」では笹だんごなど伝統的製法で受け継がれた技に驚き、講座でいただいた「SUZUグループ」 のお弁当では柿の種を衣に使った天ぷら入りのおむすびに感動したそう。「長岡にはたくさんの食に妥協しないプロがいます。おいしいのはもちろん、そこにはまちの文化が詰まっているんです」と語りました。 「イスラム教の人でも食べられる『ハラル醤油』を長岡で作れば、世界へ魅力を発信できる」と独自のアイディアを発表したのは桑原夢さん。醤油は発酵の過程でアルコールが発生するため、イスラム教徒の人は食せないことは意外と知られていません。「私が小学生の頃、ホームステイとして受け入れたイスラム教の留学生が、醤油を使った料理をいっさい食べられなかったことに驚きました。文化が異なる人たちと同じ食卓を囲めるような未来にしたいんです」と自身の体験を語り、長岡の発酵・醸造のまち摂田屋の新たな可能性について提案しました。 長岡市民に「おやま」の愛称で親しまれる悠久山。そのすぐ近くに住んでいる磯谷真有さんは、今まで当たりまえと思っていた四季の変化を改めて見直すことで、「実は素敵な場所だったんだ!」と再認識しました。桜の季節は人々であふれ返る悠久山ですが、夏の菖蒲、秋の紅葉、冬の神社のおごそかな雰囲気のどれもが魅力的。小さなころから身近にあった風景は、視点を変えて観察することで、世界に自慢したい景色に変化したそうです。 自作のイラストを掲げて発表したのは石川杏湖さん。今回の講座では、地元愛あふれる大人たちに出会い、交流したことが印象的だったといいます。そして「伝えることの難しさ」を改めて感じたそう。まちの魅力はネットで検索してもわからない、だからこそ自らの視点で見出すことが必要。「まずは身近な人たちに自分の言葉で、まちの好きなところを地道に伝えていきたいです」と話しました。 「正直なところ、今まで『長岡には何もない!』と思っていました」と話したのは金澤智(さとる)さん。しかし、今回の講座に参加したことで、おもしろい人と出会うことがまちの印象を180度変えると気づいたそうです。長岡には他校の生徒や留学生とつながりやすい場があり、「人×場」のかけ算で楽しいことがどんどん生まれています。「僕は長岡の学生でラッキーです!」と自らの発表を締めくくりました。その他、高校生たちは、「当たりまえを見つめ直すと発見がある」「意識を変えたことで視点が変わった」と自らの気づきを発表していました。これらの発表のどれもが、自身のフィルターを通して感じた「自分の言葉」であり、誰かが考えた借り物の言葉ではありません。まちをおもしろく捉えるためには観察して考えて行動すること、その感覚がなんとなくつかめてきたようです。
地元の「当たりまえ」は普通じゃない
留学生たちの目に移るまちの姿とは
4日間に渡って開催された「ながおか魅力発見講座」には、多様な国籍の留学生も参加しました。地元で育った高校生たちとは異なる視点をもつ彼ら彼女らは、長岡というまちにどんな印象をもっているのでしょうか。
「長岡に住む人たちが『当たりまえ』と捉えるまちの姿は、自分にとっては驚くことばかりです。例えば、消雪パイプの融雪水で赤茶色になった道路、雪につぶされないように縦並びになった信号なんておもしろいと思いますね」 「長岡の米はおいしいと知っていたけど、その米が餅になったり、日本酒になったりと楽しみ方のバラエティーがあるのがいいですね。あと、このまちは優しい人が多いです。留学生が参加できるイベントがあるので、いろんな人と仲良くなれて楽しいですよ!」 「長岡に来て驚いたのは、どのお店のスタッフさんも対応が丁寧なこと。時間をきっちり守って規則正しく行動する人が多くて、私の生まれたスリランカと全然違うなって思います」まちの捉え方に正解はありません。人によって異なる視点の積み重ねで、まちの魅力はいくつも生まれていきます。テレビで紹介された観光スポットなど、すでに誰かがPRしたり、誰かが「いいね!」と言っているものではなく、自分の生活のリアリティの中でふと目にとまった景色にこそ、自分だけのおもしろみがあるもの。借り物ではない「自分の言葉」でまちを語れば、きっと自分のまちが大好きになっていくはずです。
Text&Photo:渡辺まりこ